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転移の巻物


 エルナたちが野営地としていた場所では、先ほどのウォードという初老の紳士が従者のライルを背負っていた。他にミリーという茶髪のロングヘアーで魔法使いっぽいローブに身を包んだ女性と、グリスという短く刈り込んだ金髪でマッチョな兵士っぽい男の2人が荷物を片して待機していた。

 大河たちは自己紹介もそこそこに、転移の用意をする。



触媒(カタリスト)には私の髪を使います。グリス、ナイフを」


「こちらに」



 見事に装飾されたナイフが兵士らしき男からエルナに手渡され、エルナがその美しい金の髪を1束切る。その所作がなんだか神々しく感じられる、大河は何となく聖なる儀式みたいだなと思った。

 それについてルーニーが解説をしてくれる。



「大量のマナを必要とする魔術の起動は、ああやって肉体の一部を供物にすることがあるんだ。髪や爪、もっと強力なのは血だね」



 そういえば、と大河はルーニーとの仮契約を思い出す。あの時は大河の血を使ったということか。



巻物(スクロール)にした魔術は通常誰にでも使えるんだけど、あれはエルナの一族にしか使えないみたいだね。 髪は『鍵』でもある訳だ。制限を強くすることで普通では賄えない出力を確保しているみたい」



 ルーニーの解説を聞いて、エルナがニコリと顔を向ける。



「その通りです、ルーニー様。見ただけで解るのですね」


「まあ、ボクくらいになれば当然さ!」


「そのまま鼻伸びると折れるぞー」



 鼻高々といった様子で得意げなルーニーに大河がいちゃもんをつける。



「それでは、転移の巻物(スクロール)を起動しますので、みんな、少し距離を詰めて」



 エルナはそう言うとその美しい翡翠の眼を閉じ、何やらと呟きながら巻物(スクロール)を開いた。眩い光が巻物(スクロール)から発され、今度は青白い光の魔法陣が大河たち一行を包み込み、その光の中の人影は文字通り瞬く間に姿を消した。



◇◇◇◇



 光に包まれ思わず眼を閉じた大河が恐る恐る眼を開くと、木造りの建物の一部屋だった。暖炉には燃え残りの火があり、部屋の中は少し暖かい。足元の魔法陣は消えかけている。



「なるほど、先にこの部屋に出口の陣を敷いておいたんだね。それにしてもさっきの転移はなかなか見事だね。座標同士を一旦別の空間で挟むのか。しばらく見ない間にヒトの魔術の進歩も凄そうだ」


「ふふ、我が師が私たちの一族限定で編み上げた巻物(スクロール)です。大精霊様に褒めていただけたと知ったら師も喜びますわ」



 エルナが面映ゆい表情でルーニーに答える。



「お嬢様、ライルをベッドに寝かせます。ミリーは教会に。グリスは薬師、解毒術師を探せ、急ぐんだ」



 ウォードが指示を飛ばすとミリーとグリスはぺこりと目礼し、部屋を後にした。



「私は宿の主人に戻ったことを告げ、お湯を用意致します。タイガ様、ルーニー様、本来お客人としてもてなすべき所を申し訳ございません」


「あ、いえ、俺らは無理言ってついてきた立場なので。何か手伝えることはありますか?

 できることなら何でもします、な、ルーニー」


「ん?今なんでもって」



 大河はルーニーの首の皮の辺りをつまみ、もちあげる。



「ふざけてる場合じゃないの」


「ごめんなさい」


「うむ」


「お二人は旅の疲れもあるでしょう、食事まで少し休まれては?

 宿の主人に言えば身を清める湯も用意できるかと。部屋はウォードが用意してくれると思います」



 エルナが暖炉に薪をくべ、火を調節しながら言った。



(風呂に入りたい所だけど、やっぱ一般的ではないのかな)



 ライルの様子が気になるのは事実だが、それほど付き合いが深くなく、さらには一応客人扱いとなっている大河たちがウロウロしてても邪魔かと考え、人手が必要な場合はすぐに声をかけてくれと伝え、大河は新たに取った部屋で身体を拭くことにした。



◇◇◇◇



「……ライル君、大丈夫かな」



 久々のベッドに飛び込んで寝たい所だったが、身体がかなり汚れていたので大河は湯で洗うのを優先した。

 湯はやはり貴重なのだろうか、大きめの桶が――丁寧にも恐らくルーニーの分まで用意してくれたものが、部屋の前に置かれていた。暖炉と簡単な洋服掛けのようなもの以外は、調度品の様なものはあまり見当たらないが綺麗に整えられたベッドとシーツは、清貧という言葉が相応しいように感じた。部屋ごとに暖炉が備えられていたが、まだ使う予定のなかったこの部屋に火はくべられていない。



「聞けば魔族の魔法で受けた傷らしいから。解毒魔法はよく戦で使われる毒なんかはかなりの度合いで解析されてるみたいだけど、実際の治療は相当に難しいようだよ。ボクはよく知らないけど。」



 ぺろぺろと自分で毛づくろいをしながらルーニーが答えた。

 ルーニー曰くこの世界において解毒は『解毒術師』として解毒専門の治療術師がいるほど、細分化・高度化されているらしい。

 どうやら漫画やゲームのように解毒用の魔法をひとつかけるだけでどうにかなるものではなく、

その成分を解析して毒に合わせた魔術をかけていくというのだから驚きだ。解毒の魔術だけでもかなりの種類の魔術が存在するらしい。

 苦しそうに汗を流すライルの姿は、大河が地球ではテレビや何かでしか見たことのない類のものだった。



「俺にできることはないのかな」


「ゴメン、ボクは毒がほぼ効かないからそういうのは詳しくないんだ。言い伝えとかそういうので毒に効くとされる植物や薬なんかの知識くらいならなくはないけど、どんな毒に何が効くかはわからない」


「そっか、いや、そうだよ、な……」



 そうしているうちに、ミリーたちが呼びに行った解毒術師たちが着いたようだ。

大河はウォードから借りた服に着替え、エルナたちの様子を見に行くことにした。



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