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心機一転

「お前、馬鹿か!?」


 私の髪の毛切る宣言にアルフレッドが声を荒げる。


「ちょうど髪の毛が鬱陶しいなって思ってたところだったし」

「シエラ……貴女正気? 貴女がどれだけ髪の毛にお金をかけてきたか……」


 私を罵倒していたはずのコットンまで止めるようなことを言ってくる。


「正気だよ。髪の毛変わったら人って印象変わるでしょう? 顔も見たくない! っていう気持ちが、印象が変われば少しは変わるかもしれないし」

「だけど、いいのかい、シエラ。髪の毛は女性にとって……」

「わかってる、ありがとうカミーユ」


 気遣いの言葉をくれるカミーユにお礼を言う。


「別に生涯独身でいるつもりはないよ? でも、私だけが幸せに暮らすなんてしちゃいけないことだと思うから。それに、髪の毛なんてすぐに伸びるって!」


 日本ではショートカットの女性なんて普通にいたから、抵抗はない。前世の私だってミディアムヘアーが常だった。


 結婚のことを思うと少し心は痛むけれど、シエラのしてしまったことの責任を取りたい。


「止めても無駄だよ、アルフレッド。貸してくれなかったら家に帰って自分で切るだけだからね?」

「……」


 アルフレッドは無言で私を見つめてくる。アルフレッドも私が髪の毛を切ったら嫌だなって思ってくれるのだろうか。もし、アルフレッドが髪の毛の長い女性が好きだったら……


 そう考えると少しだけ胸が痛むのはなぜだろう。


「……わかったよ」


 根負けしたアルフレッドが奥からハサミを持ってきてくれた。


「奥に風呂場がある。そこで切ればいい」

「ありがとう」


 ハサミを受け取って奥へ行く。何も言っていないのにコットンもいつの間にかついてきていた。


「?」

「……シエラが女を捨てるところを見たいだけよ」


 そう言ったコットンは私が見えるところに立って動くつもりはないらしい。私も特に見られて困ることもないので、


「わかった」


 と、言ってハサミを構える。長い髪を……このくらいだろうか。肩の上辺りにハサミを当てて……


「えいっ!」


 ジャキッと小気味のいい音がして髪の毛がハラハラと風呂場に落ちる。


「本当に切るのね……」


 見ていられないとばかりに辛そうに顔を歪めるコットンが鏡越しに見える。私は逆側の髪の毛にもハサミを入れる。一度切ってしまえばもう躊躇いはなかった。


 さて、後ろの髪も切ってしまおう。上手く見えないけれど、これくらい……?


「ちょっとシエラ!」


 私が力を込めようとする寸前、コットンから声がかかった。


「貴女、これ以上短くする気!?」

「あ、もうちょっと下だった?」

「それじゃあ長すぎ……ああもう!」


 コットンがずんずんと私に近づいてきた。


「貸して! 見ていられないわ!」

「やってくれるの?」

「仕方なく、よ! このままじゃ短いだけじゃなくて、長さも揃わない最悪の髪になるから!」


 私からハサミを取り上げたコットンは私の後ろに立った。


「じゃあお願いします」


 コットンは一瞬苦しそうな顔をしたが、ジャキジャキとハサミを入れてくれた。そうして30分後、私は綺麗なミディアムショートヘアーになったのだった。




「どう!? アルフレッド!」


 お風呂場から帰還した私をアルフレッドは一瞬苦い顔で見た。しかし、しばらく見つめると、


「まあ……思ったより悪くはないな」


 と、言ってくれた。


「でしょう!? やっぱり私、このくらいの長さが落ち着くな〜!」


 切ってみればあっさりしたもので、すぐにこの髪型が気に入ってしまった。なかなか似合っていると思うよ、シエラ!


「いいと思うよ、シエラ」


 私を待っていてくれたカミーユも笑顔を見せてくれる。


「ありがとう! この髪の毛ね、コットンが切ってくれたんだよ!」

「コットンが?」

「し、仕方なく、です! この子、あまりにも変な風に切りそうになっていたから……」

「えへへ、不器用なんだよね」


 前世の不器用さもちゃんと引き継いでしまったようです。


「ありがとう、コットン! 助かったよ!」

「別に貴女のためじゃ……」


 ふいっと顔を逸らすコットンだったが、少し顔が赤くなっていた。


「よし! これで、明日謝りに行く!」

「……行くなら、学校へ行くのが一番早いと思う」


 そう教えてくれたのはコットンだ。


「夕方には学校が終わるから、そのタイミングで行くといいわ。最高学年のクラスは1クラスしかないから……」

「ありがとう、コットン!」


 はじめは教えることに渋っていたコットンだったが、こうして教えてくれた。本当にありがたいことだ。私は感極まって手を握る。


「ちょっ……やめてよ気色悪い!」

「だって本当にありがたくて! コットンにも今度何かお礼するね!」

「いらないわよ!」


 オズ楽器店にコットンの悲鳴が響いて、私達三人はつい笑ってしまうのだった。

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