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天下七刀  作者: 微睡 虚
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最終章 それぞれの人生

 宗助達が刀集めの旅を終えてから八年後、かつて闘った剣客達はそれぞれの人生を送っていた。

「鬼は外―!」

「うわぁ~そんないっぱい豆投げんな!」

 鬼の面を被った少年に少女が豆を投げていた。

 そんな子供達を一人の男が諌めた。

「節分とはいえ、あまりはしゃぎ過ぎるなよ」

「「はい父上!」」

「ふふふ、いいじゃない。貴方も昔みたいに鬼の面を被って参加したら?」

 赤子をあやしながら、女性が言った。

「そうか? まぁ君は末っ子の世話で忙しいし、あの子らと遊んでやるか」

 立ち上がる左近に、淡雪が般若の面を渡した。

「昔を思い出すな」

 左近は般若の面を被って子供達の豆まきに参加した。そんな様子を微笑みながら淡雪が見ていた。



 武蔵の国では、たくましく育った少年に赤虎が剣術の手解きをしていた。

「父上、螺旋虎王流の奥義を教えてください!」

 少年は父親のように真っ赤な髪の細いが筋肉質な体だった。

「お前にはまだ早い。もっと腕を磨け」

「うー、姉上からもお願いして下さい」

「まだ早いんなら、貴方が腕を磨くしかないでしょ~」

 弟の願いを母の手伝いをしていた姉が断った。

「レオ、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。お父さんはちゃんと教えてくれます」

「まぁ、母上がそういうなら……」

 少年は渋々納得しているようだった。

「兄上は、せっかちすぎるのです―」

 金髪の少女がレオを指差して言った。



 京都の寺では、一人のお坊さんが大岩に座って黙想していた。

「わー」「待て待てー」

 二人の幼児がその大岩の周りを回り始めた。

 お坊さんは、子供達の駆け回る声で黙想に集中できないようだった。

「こらこら、お父様の邪魔をしてはいけませんよ」

「小春か、どうした?」

「源信様、お昼におにぎりをお持ちしたのですが」

「いただこうか」

 岩から降りた坊さんが、膝に幼児を二人乗せておにぎりを頬張りだした。



 蝦夷地では、若い夫婦一家がアイヌの里から少し離れた所で暮らしていた。

「カンナ、アヤメ、アイヌの祭りがもうすぐなんだが、参加するか?」

 白髪が目立ち始めたアイヌの長が夫婦の家に訪れていた。

「勿論参加します。子供達四人と一緒に」

 カンナカムイが言った。彼はもう二十代のはずだが、髪がさらに伸びており女性と間違われることは未だに多かった。

 横に座っていたアヤメが子供達を呼ぶ。彼女の容姿はほとんど変わっていなかった。

(さくら)紅葉(もみじ)牡丹(ぼたん)稲葉(いなば)、お客様に挨拶なさい」

「「は~い」」

 年長者の髪を結んだ子とその子より背が低い髪をそのまま伸ばした子と、顔がほとんど同じ双子、計四人の子が居間に来た。

 その子達を見た里長が首を傾げた。

「ん? 全員女の子だったか?」

「いいえ。二男二女ですよ?」

「男の子が混ざってるように見えないが……」

「まぁ私とカンナ、どちらに似てもそうなるでしょうねぇ……」

 話していると、年長の兄弟が狩りの話をし出した。

「聞いて―、ボクの紅花流で兎を仕留めたんだよ―」

「まだまだね。私なんて憑気聖獣拳で鹿を仕留めたんだから」

「こらこら二人ともまだ修業中でしょ。後でお父さんとお母さんが修業見てあげるから」

「「は~い」」

 上の兄弟は二人は不貞腐れたように言った。

「喧嘩しないで、もうすぐ祭りなんだってさ!」

 カンナカムイが我が子に朗報を告げる。

「「わーい!お祭り―!」」

 双子がハイタッチで喜んでいた。

 そのまま居間で祭りの話をして盛り上がっていた。



 また出雲の国では―

「姫様、婿様がお呼びでしたが……」

「白蓮が~? 放っておきなさい。その方が面白いわ」

「きっちり聞こえているでござるよ。日和」

 いきなり日和姫の背後に白蓮が現れた。

「はぁ~、何よ? 私は政で忙しいのよ?」

「よく言うでござるよ。文官達に任せっきりではないか」

「いいのよ。私は出雲の姫、そこに存在しているだけで出雲国のためになっているのだから!」

 屋敷の中から四人の子供達が走ってきた。

「母上―」「母様―」「母君」「母者―」

 四人の子供が日和の近くにかけてきた。

「あら、もう勉強は終わったの?」

 日和の問いに一番年上の子が答えた。

「はい。午後は母上と遊びとうございます」

「よしよし。頑張った子たちにはご褒美をあげちゃうわ」

「わ~い!」

「拙者にもその優しさの一割でも分けて欲しいでござる!」

 白蓮が日和姫に抗議していた。



 そして、とある村では満月の夜に月見をしている家族があった。

「父ちゃん、まんじゅう食べたい」

「もう少し待て」

「うちも食べたい」「あたしもー」「私もー」

 一人の子が言いだしたことに三人の子が同意した。

 顔が似た彼女達は三つ子のようだ。

「こらこら、父上が困っているだろ?」

「そうよ。我慢しなさい」

 年上と見える男の子と女の子が下の兄弟達を諌めた。

 そこへ乳飲み子二人を抱えた銀髪の女性が現れた。

「お待たせ。赤子が乳を欲しがってな」

「いやすまんな。俺から乳が出るなら変わってやるんだが」

「気持ち悪いことを言うなよ、宗助」

「へーへー。それより、さっさと始めようぜ。子供らがまんじゅう食べて―んだとよ」

 一家は月見をしながら、まんじゅうを食べた。食べ終わると、三つ子と男の子が騒ぎ出した。上の長男と長女は双子の赤子の面倒を見てくれているようだ。

 二人きりの時間が出来た宗助と時雨は縁側で美しい満月を見つめる。

 夜風に当てられたススキが揺れている。

 夜闇に響く鈴虫の声も心地良かった。

「主とこんな風になれるとは思わなかった。それも満月の夜に月見など……」

「……ああ俺もだ」

 宗助は時雨の肩を抱いた。


 無影時雨、今川宗助が過去にもっとも憎んだ女。

 そして現在はもっとも愛する女だった。


「今宵はゆっくり寝れそうか?」

「ああ。お前と結ばれたあの夜から、……俺はもうゆっくり眠れているよ」

 二人はそっと唇を重ねた。

子供達の声がよく響く満月の夜、宗助と時雨は、今ある幸せを噛みしめたのだった。



 江戸時代。最強と呼ばれる八人の剣客が存在した。彼らの内七人は、幻と言われる天下七刀を所持しており、その強さは常軌を逸していた。天下七刀を所持していない一人も、その七人に並ぶ強さであった。

 幕府は天下七刀を手に入れるため、また強すぎる邪魔者を処理するために、刺客を八人の元へ送ったが、ことごとく撃退されてしまった。強い八人が倒幕派に雇われることを恐れた幕府は、天下七刀と彼ら八人の存在を歴史から揉み消した。そして幕府側が彼らを襲う事は二度となかった。


 月日は流れ、明治維新から二次大戦までの混乱の中で、天下七刀と彼ら八人の子孫はどこかに紛れてしまった。しかし彼らは確かに存在したのだ。もしかしたら現代でも名を変えて貴方達のすぐそばに暮らしているのかもしれない。





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