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第八話 役目

短いです。

 最近じわりじわりと暑くなってきている。

 まだ少し酒が残っているかもと、僕はいっぱしの大人みたいな事を考えながら顔を洗っていた。

 懐で温めたような生ぬるい水は、意識を完全に覚醒させるには至らない。まぁそれでも多少スッキリはした。

 昨晩は飲んで食べてと結構遅い時間まで騒いだ訳だが、なぜか僕は早起きしていた。

 早起きと言ってもそれは夜更かしをした翌朝という条件の下であり、トラキアに住む人達の大半は既に起きて働いている時間なのだけど。


 首にかけたタオルで顔を拭きながら、うろ覚えながらも食堂へと向かう。

 ここはトラキアで一・二を争う高級宿。本来なら首にタオルをかけて歩き回っていい所じゃない。どこの温泉宿だって感じだ。

 だけど……、誰一人としてそれを見咎める人はいない。誰ともすれ違わないし、見かけさえしない。

 客がいないのは、決して値段が高いからなんて庶民的な理由でもなければ、たまたますれ違わなかっただけなんて偶然でもない。

 得体の知れない何かが()るという風評被害でも……いや、あながちそれは間違いではないかも。

 僕達の面子に竜神族という超VIPが二名いるので、国が、トラキア王が人払いをしたのだ。

 片方は操られていたとはいえこの国を騒がせていた原因の蒼竜姫(フローゼ)なのですよ、もう片方は人間の頼みを聞かないのが信条だったはずが欲に負けた紅竜(クレハ)なんじゃよ。

 二人とも、まだ余裕で夢の中だ。さすがVIPは違う。


 木製の艶のある廊下を進んで行くと、豪奢な扉に突き当たる。

 重厚そうな扉は、しかし簡単に道を譲ってくれた。のれんに腕押しなくらい簡単に開いた。誤用なのは分かっている。

 扉の先は、高級そうなテーブルや椅子が並ぶこの宿の食堂。食堂というより晩餐会にでも使われそうな場所だ。ここまで豪華に作らなくてもいいんじゃないかと、ちょっと引いてしまうくらい。

 数あるテーブルの内の一つ、なぜか一番中央のテーブルにセシリアはいた。隅のテーブルのほうが何かと便利だろうに……。

 残る二人はトラキア王と宰相。国のトップがいくら高級宿だからと言って、護衛も付けずに食堂で話しているのはどうかと思う。まぁ内容はそれなりに重要な事なのだけど。

 トラキア国内で起こった一連の騒動、その落とし所について今話し合われているのだ。

 三人は一斉にこちらへ視線を向ける。セシリアが立ち上がろうとするのを手で制し、話を続けるように促す。

 王と宰相は僕に軽く頭を下げセシリアに向き直った。

 セシリアも僕の意を汲んでくれて、視線を二人に戻した。


「クレハ様もフローゼ様も、特に希望はないそうなので、トラキア側で好きに決めていいそうです」

「いや、好きにと言われても……まさか真実を公表する訳にもいかんだろうし」

 

 セシリアの発言に対し、眉間に皺をよせ困り顔なのがトラキア国王。この人いつも困り顔だな。


「真実を公表するのも構わないそうです。それによって蒼竜が非難されようとも。むしろ好きにしていいというのは、人間側に対しての配慮なのです」

 

 竜神族というアトラスの民にとって神に近い存在が、今回邪神族に操られ人間に害をなしたという事実は、人間にとって衝撃的な情報だ。

 無用な混乱を招きたくない国王にとって、誤魔化したい事実なのだ。

 それをクレハ達は「誤魔化したいなら好きにしてよいぞ」と言っているのだ。


「ここはお言葉に甘えて、こちらで情報操作したほうが得策かと思いますじゃ」

「ですね」

「それしかないか……」


 なぜかトラキア王だけしぶしぶといった感じ。まぁ見た目から頑固そうで融通が気かないタイプっぽいし。


 何はともあれ結局今回のブルードラゴン騒動は、邪神族に操られてブルードラゴンが暴れていただけという事になった。

 本当は、邪神族に操られた蒼竜フローゼが操って暴れさせていたブルードラゴンなんだけど。

 ブルードラゴンはいくら竜族と言えど、モンスターのカテゴリに入るので、別に評判がどうなっても構わないのだそうだ。

 捕らえたアンジェラだが、厳重な警戒の上で治療を施し現在情報を聞き出している最中らしい。


 トラキア王と宰相は、セシリアに今回の報酬と言って金貨の入った袋と、大きめな宝石が一つ入った袋を置いていった。

 宝石はきっと竜化時に使用するやつだろう。一つしかないって事はクレハ用かな? フローゼの場合弱点があるから竜化しないほうがいいのかもしれないし。


「お疲れ様、雑用押し付けたみたいで悪いね」

「いえ、これが私の役目ですし。戦いでは……私が一番役に立ちそうにないですし」

「いや、そんな事ないだろう? アンジェラを捕まえたのはセシリアだし」

「結果はそうですけど……クレハ様でも結局捕まえられたと思いますし」


 どうやらセシリアは、操られていたフローゼの一撃でしばらく離脱し、戻って来た時は既に終わりかけだったのを気にしているらしい。


 セシリアの思いつめたような暗い表情は、結局その日一日晴れる事はなかった。


本当はもう一話今年投稿する予定でしたが、これで今年は最後にしたいと思います。

転職して色々環境が変りまして、心境の変化もあり少し間を空けようかと。


それでは皆様、よいお年を!

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