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第六話 蒼竜姫フローゼ

12月2日までに2章3話まで全てを改訂しております。

改訂部分は活動報告にもあげております。

「まずかったですか……?」


 あんぐりと口を開ける僕とクレハを見て、セシリアは不安になったようだ。

 視線が僕とクレハを行ったり来たりし、叱られている子犬のような目をしていた。

 失礼な言い方だけど、僕達(主にクレハ)の言動にいつも困ったように苦笑しているほうが、セシリアらしくて安心する。

 逃げるアンジェリカの前に突如躍り出て、閃光の一撃を浴びせた剣士の姿はもうここにはなかった。


「いや、ナイスタイミングじゃったぞ」


 それは間違いない。

 もう少しセシリアが遅かった場合、クレハが人化する事になっていた。

 そうすればアンジェリカを捕らえられた可能性は高い。

だけど確実ではない上に、一度竜化を解くと再度竜化するのに制限が付くので不測の事態に弱くなる。

 攻撃の要であるクレハの戦力ダウンは避けたいところなので、セシリアがアンジェリカを倒してくれて助かったのだけど……。

 見た感じアンジェリカはかなり重症のようで、意識もない状態だ。

 邪神族なので多分死なないとセシリアは言うけど、これ人間だったら間違いなく死んでいると思う。

 相手は邪神族、セシリアの行為が悪いとは言わないけど、普段の優しいセシリアとのギャップを感じずにはいられないのも確かだ。

 邪獣族長の時といい今回といい、セシリアは邪神族に対しては容赦がない。

 もっとも邪獣族長の時は僕を助けるためってのもあったんだろうけど。


「うん……ありがとうセシリア」

「いえ、丁度私が戻ってきた時、ソレが逃げ出そうとしていたので」


 安堵の息を吐いて、セシリアは少し口悪く説明した。

 やっぱり邪神族に対して、穏やかでない部分があるみたいだ。

 父親が邪神族との戦いで命を落としているんだ、仕方がないと言えば仕方がない。

 だからセシリアの気持ちは理解出来る。


「……」


 でもこっちは何なんだ……?

 さっきまで倒れていた蒼竜姫フローゼが、なぜか地面に正座して僕を睨んでいる。

 見ているんじゃなくて、間違いなく睨んでいるのだ、蒼い綺麗な瞳が。

 歳は僕より少し上くらいだろうか? 美しさと可愛さを絶妙のバランスで配合したような、クセのない顔立ち。

 軽鎧にショートパンツという装いだ。

 身長は正座していてよく分からないけど、多分セシリアと同じくらいだと思う。

 因みに胸は小さくないけど大きくもない。

 蒼いセミロングの髪が風に吹かれて顔にかかっても、それを気にする事なく僕を……やっぱり睨んでいる。

 我ながら賭けだったのは認めるけど、見事助けたんだ、睨まれる(いわ)れはないけど。


「あの……フローゼ?」

「!!」


 僕が名を呼ぶと、フローゼの体が大げさなほど跳ねる。

 というか、正座の状態で少し浮いたんだけど。

 なぜ睨まれるのか、なぜ驚かれるのか、僕には全く分からなかった。


「フローゼ、緊張し過ぎじゃ。婿殿が睨まれて困っておるぞ」


 これ緊張していたのか……。

 あ、よく見ると口元がピクピクと引きつっている。

 

「僕はジン。とりあえず立ってくれる?」


 近づいてフローゼに右手を差し出す。

 そういえばセシリアと会った時に、差し出された手をスルーしたっけ。

 逆の立場になって分かったけど、手を取って貰えなかったらこれかなり気まずいよな。

 フローゼは膝の上で揃えた両手を浮かせ──地面に着いた。


「も、申し訳ありませんでしたああぁぁ!!」


 土下座されてしまった……。

 気まずいどころじゃない。


「え、ちょっ」

「あろう事か邪神族に操られてしまうなんて……。迷惑をかけた末に助けられるなんて……蒼竜姫失格なのです!!」


 額を地面に付けての全力土下座だった。

 こっちの世界にも土下座あったんだな。


「あ、いや、まぁほらなんだ。フローゼは前大戦で傷つき倒れていたところを操られたんだし、仕方がないよ。ほら、顔を上げて」

「でも……」

「ほんとお願いします、顔を上げて下さい」


 むしろ僕が土下座したくなる。

 女性に突然土下座されるとか、何のこの罰ゲーム。

 クレハとセシリアしかいないからいいものの、これ街中とかでされたらたまったもんじゃないよ。


「優しい……」


 いや、優しさじゃないから。

 目を輝かせて見つめられても困るんですけど……。

 僕のお願いを聞き入れたフローゼは、しぶしぶ立ち上がり、足に付いた土を軽く払うと佇まいを正した。 


「改めまして、フロー……わたくしは蒼竜姫フローゼ。操られていたところを助けてく……頂き、更に命まで助けて貰って、ありがとうなの……でございます?」


 どうやらフローゼは敬語が苦手のようで、「一生懸命敬語にしたけど駄目でした」ってのを感じた。最後疑問系になってたし。

 彼女のお礼からは、クレハが倒すしかないと判断したように、フローゼ自身も死ぬ覚悟をしていた事が感じとれた。

 操られていたのを助けて貰った事と、命がある事を別に考えているようだし。


「そんな硬くならなくていいよ。普通に話していいから」

「は、はい」


 何でそんなに緊張しているんだ……?


「えっと……貴方は、その、一体何者なのですか? クレハは婿殿と呼んでいますし、凄いスキルを持っているみたいだし、そして極めつけは……それなのです」


 三十年前の大戦で傷つきそのまま操られていたのだから、現在竜神族が置かれた状況、それを打破するためにユグ婆が動いていたという事を、フローゼが知らないのも仕方がないか。


「その竜力……金色の竜力なのです!!」


 フローゼが指差す先は僕の心臓。

 自分では全く分からないけど、やっぱり竜神族には分かるみたいだ。


「詳しい事は後で話すが、婿殿は婿殿じゃ。お主が生きておったので、妾と翠竜姫とお主の婿殿という事になるがの」

「フロ……わたしくの?」


 噛んだ。

 言い慣れてないみたいだから、きっと普段自分の事を名前で呼んでいるんだろう。

 さっきから無理矢理変えているみたいだけど、全然隠せていない。


「い、いや、妾と翠竜姫とお主の三人の婿殿じゃからな?」

「旦那様……」

「聞いておらんし……」


 フローゼは天に祈るかのように手を前で組み、「運命なのですよ」とぶつぶつ呟いている。

 とても思い込みの激しいタイプみたいだな……。


「あー、婿殿……」


 申し訳なさそうに、クレハが顔を近づけてくる。

 最近はもう慣れたもので、竜化した時の表情も完璧に理解出来る。

 

「蒼竜は竜神族でも変っておっての、一生に一度だけ主を作る。人間で言うと騎士の誓いみたいなものかの?」


 蒼竜の女性は護りに長けているらしく、その力は主を持つ事によってより強く発揮されるそうだ。

 仕える対象は竜神族。

 主が女性ならば、騎士の誓いと同じく、一命を賭して守護する。

 これが男性ならば、それに伴侶という意味も加わる事になるらしい。

 その場合当然、子作りの関係で主は蒼竜の男性となる。

 しかしそうなった例は殆どないらしい。

 力の弱い蒼竜の男性は、どちらかというと庇護の対象であり、忠誠を誓い仕える対象とは違うそうだ。


「金の竜力を持つ婿殿は例外じゃからな。蒼竜の主としてなんら問題ない訳じゃ」


 自分の世界に入っていたフローゼは、何かに気付いたかのように目を大きく見開く。

 錆び付いたように、ぎこちなく顔をこちらに向ける。

 ゆっくりと、僕を見つめながら近づいて来るフローゼ。

 蒼い瞳は全く揺らぎもしない。 

 正直、少し怖い。

 いつの間にか僕は、数歩後ろに下がっていた。


「ジン様……フローゼはずっと見ていたのです。最後まで諦めず、フローゼを助けるために尽力してくださったのを、フローゼは見ていたのであります」


 いつの間にか、フローゼは僕の目の前まで来ていた。

 というか、僕の胸に手を沿え、上目使いで見つめて来ていた。

 言動とかちょっとあれだけど、美女。

 そんなフローゼに迫られて、僕は固まってしまっていた。


「フローゼは、フローゼはジン様の蒼竜になりたいのであります。ジン様にお仕えしたいのであります。……もちろん、ジン様の子を成したいので……あります」


 照れながら「いやんいやん」と首を振るフローゼ。

 クレハに助けを求めると「諦めるのじゃ」と、フローゼと同様に首を振られた。


 ドラゴンに子供を作ろうとまた迫られた僕は、もう色々諦めたのだった。


出来れば毎週末に一話投稿したいとは思っております。

ただ、来週から新しい職場になりどうなるかは分かりません。

エタらず最後まで書き上げるのが目標ですので、気長にお待ち頂ければ嬉しいです。


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