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第五話 意思

12月2日までに2章3話まで全てを改訂しております。

改訂部分は活動報告にもあげております。

「婿殿は強くなっておる。それは間違いないぞ」


 クレハはそう言うけど、僕は気を使われているようで余計に情けなくなってしまう。

 例え強くなっていても今の僕は無力だ。

 護りたい、助けたいと思っても、力がついていかない。

 少し強くなったくらいでは追いつけない、人外の領域を垣間見た。

 クレハと対等に接して錯覚していたけど、人間と竜神族ではこんなにも力の差があったんだ。

 僕が蒼竜を押さえるだけの力を持っていれば、クレハはアンジェラを倒せるかもしれないのに……。

 何で僕は竜力を持っているのに人間なんだ!


「人……間?」


 僕は脳に電気が走るような衝撃を受けた。

 もしかしたら……。

 急いでクレハの背を駆け上り、左肩飛び乗る。

 僕の問いかけに、クレハは希望通りの答えを返してくれた。


「流石婿殿。まさかそのような事を思いつくとは、ククク」


 蒼竜と手四つに組み、若干苦しそうではあるが、それでも軽快に笑う。

 本当に頼もしいな、お前は。


「やる価値はあるだろ?」

「うむ。しかしこの拮抗した状態ではちと厳しいぞ婿殿よ」

「クレハ、利き腕はどっちだ?」

「右じゃが?」


 突拍子もない質問だけど、クレハは即答。


「じゃあ自分のタイミングで左腕を離せ」

「そのような事をすれば、フローゼの右腕を解き放つ事になるぞ? 強化されておるフローゼの一撃は無視出来ん」

「それは大丈夫だ。左腕は任せるけどな」


 本当に大丈夫か? という目を向けられ、僕は黙って頷く。

 決して僕の力量を信じていない訳じゃなく、身を案じてくれているのが伝わる眼差し。


 だから大丈夫。


 例えどんな攻撃でも。


「婿殿がやれると言うなら、妾は従うまでじゃ」


 止めてみせる!

 

「いくぞ婿殿!」


 クレハの左腕が蒼竜の右手から離れる。

 蒼竜の動きが一瞬止まった。

 だがすぐに、自由になった右腕を振りかぶる。

 そして繰り出される爪の薙ぎ払い。

 狙いは肩に乗った僕。

 そしてそのまま、先にあるクレハの即頭部。


「欲張りだな」


 言葉と裏腹に、内心ほくそ笑む。

 僕一人を狙って直線的に攻撃されたら、少し危なかったかもしれない。

 クレハとを同時に狙う薙ぎ払いだったので、直線よりも到達まで距離がある。

 その分見えるんだ。

 攻撃の軌道が。

 僕にもぎりぎり。


「ここだっ!」


 風を切り、轟音を響かせ迫る鉤爪。

 だがそれは僕に届く事はない。

 速度だけを重視し、力を込めずに左腕を突き出す。

 僕の小さな拳と、蒼竜の大きな手の平がぶつかった。

 パン!と乾いた音が破裂する。

 拳に衝撃はない。

 僕の眼前、クレハの左肩横で、鉤爪は急停止していた。


「クレハ!」

「任せるのじゃ!」


 紅い左手が蒼い右手首を掴む。

 蒼の左手首は、一瞬の隙を突いて既に掴まれていた。

 そのまま一気に、クレハは蒼い両手を胸の位置に引き合わせる。

 合掌しているかのように、蒼い手の平は()った。


「フローゼ!! 人化だ!!」


 僕は喉が張り裂けんばかりの大声で、蒼い竜の名を呼ぶ。

 涙を流す澄んだ蒼い瞳が、確かに僕を見た。 

 蒼竜の手の平の隙間から、眩い光が迸る。

 同時に何かが割れた音がした。

 僕は無視して目を瞑る。

 まぶたに映る光が消えたのを確認した後、そっと目を開けた。

 光の奔流が通り過ぎた後、そこには蒼い髪の女性が倒れていた。

 顔を伏している女性の、白い首に視線を集める。

 セミロングの蒼髪が二股に分かれ、白い綺麗なうなじが露になっていた。


「よし」


 思わずガッツポーズ。

 吸い寄せられるようなうなじだけど、それはただのうなじ。

 一部色が違うなんて事はない。

 完全に弱点は消えている。

 きっと僕は今、とてもいやらしい、見る者が見ればとても不快な笑みを浮かべているだろう。

 まるで誰かのお株を奪ったような。


「な、なんで……」


 いつの間にか地面に降り立っていたアンジェリカ。

 余裕の表情、不快な笑み、耳につく笑い声、そんなものはもうどこにもない。

 驚愕に顔を歪め、現実を否定するかのように首を横に振る女がそこにはいた。


「簡単な事さ。もっとも、上手くいくかはやってみないと分からなかったけどな」


 発想は単純。

 人化したクレハは、ドラゴンの面影が一切なくなる。

 なので、蒼竜もそうなるんじゃないかと思った。

 弱点である青白い鱗もなくなると。


 問題は操られている蒼流を、どうやって人化させるか。

 強制的に人化させるなんて都合がいい方法、あるはずがない。

 クレハが人化した時は、手の平を合わせただけだったけど、それだけで人化してしまうのなら、不便でしょうがないだろう。

 きっとトリガー的な何かがあると予想出来た。

 ただその何かが……動作なのか意思なのかが重要だった。

 手の平を合わせるという動作に加え、呪文等を必要する場合、操られている蒼流に人化は不可能だ。

 しかし意思だけでいいのであれば、こちらで手の平を合わせてやればいい。

 涙を流している姿から僕は、蒼竜の意識は健在だと判断していたから。

 そこで僕はクレハに直接聞いてみた訳だけど、答えは蒼竜の人化を可能とするものだった。

 そこから人化まではそんなに難しい事じゃない。

 やり方だって色々あったと思う。

 そして見事に蒼竜の人化を果たした訳だが、実はその人化の結果が一番の問題点だったのだ。


 人化して弱点が消えたからといって、一度刺された針が解除されるか。


 こんなのやってみないと分からないし、考えても仕方がない。

 色々考えてお膳立てして、最終的に針が解除されるかされないかの二択。

 決して歩のいい賭けじゃなかったんだけど、どうやら僕は勝てたようだ。


「もう勝敗は決したんじゃないか? 大人しくするなら手荒な事はしないけど」


 蒼竜を救う事は出来たが、もう一つ問題は残っていた。


 ゆっくりとアンジェリカに近づく。

 出来ればこのまま拘束したい。

 逃げられた場合、クレハが人化しないと追いつけないからだ。

 もうアンジェリカに手がないのならばいいが、何か奥の手があった場合を考えると、クレハが人化するのは避けたい。

 内心焦りながらも、必死に冷静を装い、また一歩アンジェリカへと歩を進める。


「冗談~。確かに私の負けだけど~、また出直せばいいだけだしぃ~」


 所詮僕のポーカーフェイスなんてその程度。

 僕の焦りを見破ったのか、アンジェリカは表情を引き締め後ずさる。


 ……だからと言って逃がす訳にはいかない。

 ここで逃がすと、また蒼竜のような犠牲者が出てしまう。

 それはクレハも同じ考えだったようで、いつでも人化出来るように手の平同士の距離を縮める。


「んじゃまたね──」


 僕はクレハを見る。

 クレハも僕を見た。

 それで意思は通じたようで、クレハの手が動く。

 しかしその視線の間を、何かが凄い速度で横切った。


「う……そっ……」


 目で追った先には、アンジェラに銀の剣を振り切った純白の剣士がいた。


「別にコレ、倒しても構わなかったのですよね?」


 セシリア……その台詞(死亡フラグ)、使い方間違っているんだけど……。


あと数話で二章前半が終わるのですが、想像よりだいぶ短くなってしまってます。

どうしよ……。

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