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第四話 弱点

12月2日までに2章3話まで全てを改訂しております。

改訂部分は活動報告にもあげております。

 アンジェリカは逃げようともせず、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら僕を見ていた。

 僕はお構いなしに、自分でもここまで思い切りよく出来るものかと関心するほど、力いっぱいアンジェリカの顔目掛けて右腕を振り切った。


「ざ~んねん」


 当たったと思った攻撃は、見事に空を切る。

 アンジェリカは僕の少し横で、反撃のチャンスを棒に振りながら楽しそうに笑っていた。


 ちょっと力みすぎたのかもしれない。

 女性とか関係ない、敵なら倒す、僕も戦える、そんな思いが駆け巡り、大振りになっていたのかもしれない。

 大きな動作の攻撃なんて、実践では全くといっていいほど役に立たないと、セシリアに散々注意されたのに……。

 

 気を取り直してアンジェリカを見据える。

 一足飛びで届く距離。

 相変わらず、アンジェリカは不気味に笑っている。


「そんな怖い顔で睨んじゃいやぁ~」


 腰に力を溜め、それを一気に解放しアンジェリカに迫る。

 今度は小さなモーションで、わき腹を狙う。

 僕の右こぶしがアンジェリカのわき腹に、吸い込まれるように向かっていき、服に触れるぎりぎりで。


「はい、またざ~んね~ん」


 あ、駄目だこれ。

 たった二度の攻撃で、僕は悟ってしまった。

 アンジェリカの強さを、実力の違いを。

 いや、もしかしたらクレハの言う通り、強くはないのかもしれない。

 攻撃力と防御力は。

 反撃しないのは通用しないからで、避けるのは耐えられないからかもしれない。

 だけど早さが……。

 僕の攻撃をぎりぎりまで引きつけて、そこから自分だけ数十倍の速さで回避したのだ、このアンジェリカは。

 まるでお互いの流れている時間が違うかのように。


「な~に~? もうお終い~?」


 圧倒的な速さの違いを見せられて、アンジェリカを倒すイメージが思い浮かばなくなってしまっていた。


「お終いなら私はあっちに行かせて貰うわね。紅竜の馬鹿力に蒼竜が負けそうだから~」


 じゃあね~と手を振ったアンジェリカは、驚くべき速さで蒼竜の背後にある背の高い木のてっぺんに、枝を踏み台にしながら飛び登って行った。

 ……くそっ!

 僕は呆けた心を立て直し、クレハに駆け寄る。

 クレハは蒼竜を押さえ込み、蒼竜は片膝を地面に着けた状態だった。


「悪いクレハ。僕じゃあいつを倒すのは無理だ」

「見ておったが、人形使いの速さは婿殿には荷が重いじゃろう。む!」


 突然、蒼竜の体が紫色に光り、徐々にクレハを押し始め体勢を戻し始める。

 アンジェリカに目をやると、蒼竜に向かって手の平を突き出していた。

 ほぼ間違いなく身体強化的なにかだろう。


「こ……の」


 クレハが手四つに持ち替え蒼竜を押し込もうとするが、拮抗していて動かない。


「馬鹿力……ねぇ~」


 アンジェリカも笑ってはいるが、余裕という訳でもなさそうだ。


「婿殿、首の後ろ……あれを抜くのじゃ!」


 横に回りこみ、それを確認する。

 蒼竜の首の後ろには、巨大なまち針のような物が突き刺さっていた。

 大きさは出ている部分だけで、僕の身長ほどありそうだ。

 確か蒼竜の弱点ってあそこだよな?

 あんな太い物を刺されて大丈夫なのか?


「あれは人形遣いが使う操り針。あれさえ抜けば術は解けるはずじゃ!」


 操るための針か、だから刺さっていても平気なのかもしれない。

 しかしあれを抜くとなると、あそこまでよじ登らないといけない。

 身体能力は上がっているし、道中の訓練でドラゴンフォースの使い方や自分の竜力量も大体把握出来たけど。


「……やるしかないか」


 覚悟を決める。

 発作さえ起きなければ竜力はまだ持つ。

 ドラゴンフォースの効果を脚力に集中させ、僕は地面を強く蹴った。


 クレハの尻尾を駆け上がり、その勢いで背中を飛び越え肩に着地。

 そのまま組み合った腕を伝い、蒼竜の肩に辿り着く。

 綱渡りな事をやってのけ、到着した時に軽く冷や汗。

 別に落ちても大丈夫だとは思うけど。

 アンジェリカは蒼竜の身体強化を解除する訳にもいかないのか、一切妨害をしてこない。


「これか……」


 蒼竜の首、一部だけ薄っすら青白くなっている鱗に、その針は刺さっていた。

 針と真逆に位置する部分に、毒々しいピンクの球体が付いている。

 本当にまんま、まち針だった。

 人間の頭程度あるその部分を抱え、全身に力を込める。

 もちろんドラゴンフォースも全開。

 体の中から何かが、急激に消費されていく感覚。


「くっ……」


 しかしまち針は一向に抜けない。

 抜けそうにもない、びくともしないんだ。


「うふふふふ」


 本当に嫌な笑い方だ。


「無駄よ~。それは絶対に抜けないわよぉ~」


 構わず力を込める。


「だってその針、刺さっているからそこにあるんだもの」

「どういう事だ……?」

「刺さっているという結果が先にあるから、そこに存在しているのよ」

「……」


 何かそんな設定どこかで聞いた事が……。


 それにしても厄介だ。

 刺さっているという結果があるから存在している。

 逆に言えば、存在しているならばそれは刺さっている状態でしか存在していない。

 なんだか謎かけみたいだけど……。


「その針ね、弱点持ちにしか効かないんだけど効果は絶大なのよぉ~。私でも外せないのぉ~。うふふふふ」


 勝ち誇るアンジェリカ。

 焦りと苛立ちで、僕は拳を強く握り締める。

 

 何かないのか……。

 このままだとクレハも危険だ。

 倒すのならば、まだどうにかなるかもしれないけど。

 蒼竜の生き残りを、蒼竜を絶滅させるなんて出来ない。


「どうすれば……」


 刺さっているという結果が先にあるとか反則だろ。

 弱点持ちしか効かないからって…………。


「弱点持ち?」


 僕はマユが言った言葉を思い出した。


『ちなみに蒼竜も同じ弱点があるらしいけど、無効化する手段があったそうよ』


「クレハ! 蒼竜の弱点を無効化する方法って何だ?!」


 アンジェリカに聞かれるのもお構いなしに僕は叫んだ。

 弱点を無効化さえすれば、弱点持ちにしか効かない針は効果を失うんじゃないか?

 既に刺さっているから関係ないかもしれないけど、もう他に思いつく手段はない。


「首当てじゃ……」

「え?」

「蒼竜は特殊な首当てを着けておった。自分で外す以外、生半可な事では外れぬ首当てをな。それを身につけ守っておったのじゃ」


 クレハは蒼竜と組み合ったまま、苦々しい顔をする。

 それじゃ完全に打つ手なしじゃないか。

 攻撃されないように守って無効化していただけかよ、というかそれって無効化って言うのか?

 既に攻撃されている状態じゃ、どうにもならないじゃないか!

 

「三十年前の戦いが終わった直後だったかしら。鉄壁の守りを誇る蒼竜が、弱点曝け出して倒れているのを見つけた時は震えたわ~」

「全く、大した火事場泥棒じゃな」

「あら失礼ね。針を刺した後、治療したのは私なのよ? 大怪我で動かなくて、超時間かかったのよぉ~」

「そこは感謝してもよいが、しかし無駄になりそうじゃ。婿殿、こっちへ」


 クレハの呼びかけに嫌な予感がしつつも、僕は蒼竜から飛び降りる。

 少し怖かったけど、思った通り無事着地出来た。


「婿殿、残念ながらもう手はないようじゃ。やるしかあるまい」


 足元に辿り着いた僕に、クレハが言った。


「何言ってるんだよっ! 同じ竜神族の、蒼竜の最後の生き残りなんだろ?!」

「泣いておる……」

「えっ」


 前を向いて呟くクレハの視線を辿る。

 クレハと組み合い拮抗している蒼竜。

 その目からは……。


「同じ竜神族、同じ竜姫じゃから分かる。邪神族に操られ、同胞やアトラスの民を手にかけるくらいなら、命を絶って欲しい。そうじゃろ? 蒼竜姫フローゼ」

「……」


 蒼竜姫は何も言わない、何も言えない。

 だけどその涙が、ポツポツと、頷くように地面に染みていく。


「あいつを先に倒せばいいじゃないか!」


 納得いかなくて、僕はアンジェラを指差す。


「人化すればあ奴の速度に追いつけるが、その場合フローゼはどうする? 人化して二人相手は流石にきついし、婿殿ではフローゼを抑えられまい?」


 情けなかった。

 クレハにそんなつもりはないのだろうけど、僕の力が足りないからだと言われたようなものだ。

 身体能力が上がって、スキルがある程度使いこなせるようになって、それでも何も出来ない。

 また(・・)護れないのか!


「強くなりたい……」


 心からそう思った。


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