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第三話 人形使い

12月2日、改訂作業完了しました。

改訂前との大きな差異を活動報告に記載しておきます。

 トラキア王と街道で会ったその日の内に、僕達はトラキア王都へ辿り着いた。

 到着したのは夜だったけど、王都は大盛り上がりだった。

 何故かと言われたら、竜神族だから、クレハだからと言うしかない。

 やっぱりここでも大歓迎されたクレハは、人の波に誘導されながら大きな広場に辿り着き、そこで国民に包囲されてしまった。

 まるで人気アーティストのライブみたいで、ちょっと引いてしまう光景。

 このまま放置していていいのかと心配になったが、騎士団の人達が立ち入り禁止のロープを張り出したので多分大丈夫だと思う。

 人気アーティストから危険物に転落した瞬間だった。


 僕とセシリアはいつもの如く、クレハを放置して宿屋に泊まった。

 トラキア王が用意してくれた宿で、もちろん王都一番の高級宿。

 今回は変なアクシデントもなく、全く全然これっぽっちも残念じゃない夜を過ごした。

 そして翌朝、僕は一人で冒険者ギルドに来ていた。


 トラキアの冒険者ギルドは、ローランドと外観が全く同じで、入ってみたら中まで同じだった。

 そして中で起っている騒動も似た感じで、下手したら職員まで同じなんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

 そんな訳ないけど。

 あの言葉もちゃんと同じ場所にあって、僕は少しの間刻まれた文字に見入っていた。

 ロッ○ーのテーマを聞いた時のような高揚感を覚えつつ、僕は特別窓口に向かい、そしてやっぱりローランド冒険者ギルドと全く同じ、窓の無い薄暗い部屋に通された。

 


「あらジンさん、生きていたのね。もう死んだのかと思ったわ」


 久々のマユとの会話は、そんな毒の乗った台詞で始まった。


「僕はこの通り無事だよ。道中何も起らず、無事昨夜トラキア王都に着いたところ」

「最初の目的地に到着して余裕が出来たから、暇だし相手してやるか、といった感じで声を掛けてきた訳ね。そう、マユは所詮都合のいい女」


 激おこです。


「もしかして、道中の村や町で連絡取らなかった事怒ってるとか?」


 そんなはずはないと思うけど……だってトラキアまで危険はないってマユも言ってたし、実際そうだった。

 特に危険がなければ、トラキアで連絡すればいいはずだし。


「別に。日陰の生き方は慣れているから怒ってないわ。所詮私は三番目。私の代わりは他にもいるもの」

「いやいや! 一番目も二番目も三番目もないから!それにマユの代わりはいないし!」

「プロポーズお受けします」

「してないし!」

「それで、今日の用件は何?」

「……」


 なんだろうこの弄ばれた感……。


「い、いや、トラキア王からクレハが依頼を受けてさ、北で暴れているブルードラゴンを退治する事になって。それを一応報告しとこうかと思ってね」

「そう……」


 目の前の、映像でしかないマユは、何かを考える素振りを見せる。


「ブルードラゴンってやっぱり強いの?」


 クレハは余裕だと言っていたけど、それはあくまでも紅竜から見ての話。

 一般人……よりは強くなったはずだけど、僕にとってどれくらいの脅威になるのか、やっぱりそこは知っておきたい。


「少なくともジンさんのほうが強いわ」

「え?」

 何言っちゃってるんですかこの人?

 ブルードラゴンより僕の方が強い?

 

「いやいや、そんな訳ないだろ」

「本当の事。ジンさんがブルードラゴンの弱点を知っている事が前提だけれど」

「弱点?」

「首の後ろ、丁度第三頸椎部分が弱点。頑丈なブルードラゴンもここだけは弱いの」

「誰だって弱い気がするけどな……」

「ブルードラゴンは特にね。スキルで攻撃を無効化しながらそこを狙えばジンさんでも勝てるわ」


 いつの間にかドラゴンを倒す力を持っていたのか……。


「ちなみに蒼竜も同じ弱点があるらしいけど、無効化する手段があったそうよ」


 弱点を克服する術を持っていても、蒼竜は絶滅したのか。

 今後も邪神族には注意しないといけないな。


「とりあえず僕でも何とか戦えるのならよかった」

「……油断はしないほうがいいわ」


 急に。


「私」


 マユの口調が強くなった。


「ジンさんが戦いから帰って来たら結婚するんだ」

「勝手に人の死亡フラグ立てるなよ! そして帰って来ても結婚しないから!」

「そうね。まだ式場予約してないわね」

「そこじゃなくて!」


 立てた自覚がないフラグは立ってます。


 ◇◇◇


「これが紅竜とドラゴンの差じゃよ」


 倒れたブルードラゴンが三体。

 誇らしげに胸を張っている紅竜が一体。

 何もせずに事が終わり、呆気に取られている人間が二人。


「う、うん……」


 その内一人は僕だけど。


 マユと会った後、僕達はトラキア王都を発ち北の森林を目指した。

 途中野宿を挟み、翌日の昼ごろ辿り着いた森の入り口で、待ってましたとばかりに襲撃を受けのだ。

 突如現れたブルードラゴン三体に、驚きのあまり一瞬硬直してしまった僕と、庇うように前に出たセシリア。

 そして襲撃を察知していたかのように、各ドラゴンを一発ずつ殴って速攻倒してしまったクレハ。

 襲撃から五秒ほどの出来事だった。


「瞬殺とは流石に驚いたなぁ……」


 だから僕が、若干呆れ気味に呟くのも仕方がない。


「あの、クレハ様。ブルードラゴンは殺した訳じゃないですよね?」

「うむ。とりあえず気絶させただけじゃ。どうやら自分の意思で動いていた訳ではないようじゃからの」


 何だか不穏な言葉をクレハが口にし。


「自分の意思じゃないってどういう事?」

「普通知能のあるドラゴンは、竜神族には絶対攻撃を仕掛けて来ぬ。それが問答無用で襲い掛かって来たのじゃ、何らかの原因があると見て間違いないじゃろう。と言うか、大体の目星はついておる」


 やけにあっさり事が片付いたなと、思っていた僕は。


「邪神族が絡んでおるな」

「やっぱりばれるわよねぇ~」


 世の中そう上手く行かないと学習する事になった。


「貴様は……」


 木々の密集した森の中から、一つの影が現れる。


「どうもぉ~アンジェリカでぇ~す」


 場違いに手を振りながら、アンジェリカと名乗った女性が、日の当たる場所まで進み出て来た。

 紫の髪と紫の瞳を持つその女性は、均整の取れたプロポーションを黒いライダースーツのような装いに身を包んでいる。

 目鼻立ちのはっきりした彼女は、間違いなく美女なのだけど、口元を異様に歪め、吐き気がするような笑顔を浮かべていた。

 幼い口調と大人びた容姿、そして不気味な笑顔。

 僕は初対面の女性に対し、激しい嫌悪感を覚えていた。


「やはりか、人形使い」

「さっすが紅竜。察しが良くて助かるわぁ~」


 クレハの低いトーンとは対照的に、アンジェリカは場にそぐわない明るく陽気な口調。


「じゃあ説明する手間が省けたから」


 右手をスッと上げ、指を鳴らす。


「もう死んでもいいよ~」


 次の瞬間、轟音と共に激しく地面が揺れた。

 あまりの衝撃に、僕は情けなくも尻餅をついてしまう。

 隣に立っていたセシリアは、バランスを崩す事もなく鞘から剣を抜き放つ。

 クレハはまだ動かない。

 いや、驚きで動けなかったのかもしれない。


「お主は……」


 空から降って来たのはブルードラゴンを一回り大きくしたような、クレハと同じ体格を持つ蒼い竜。

 ゲームだと『色違いかよ!』と非難されるような、クレハとそっくりな外見をした竜は、どこか虚ろな目で僕達を見ていた。


「蒼竜姫フローゼじゃな」


 呆気に取られる僕達は、咄嗟の反応が遅れる。

 その致命的なミスの被害者はセシリアだった。


「くっ!」


 蒼竜の振るう豪腕がセシリアを薙いだ。

 僕の眼前すれすれを通ったその腕は、セシリアの側面を強襲する。

 辛うじて間に剣を挟んだセシリアだったが、それに効果があったのかは分からない。

 呻き声と共に吹き飛ばされ、深い森の中へ消えていった。


「セシリア!」

「目を逸らすでない婿殿!」


 慌てて後を追おうとした僕を、クレハが吼えるように押し留めた。

 敵から目を背けるなと言っているんだろうけど、でもセシリアが……。


「セシリアならばあの程度では死にはせん。死ななければ回復魔法で持ちこたえるじゃろう。じゃから今は目の前の敵を優先せい!」


 クレハの声は普段の余裕を感じさせる音色ではなく、どこか焦っている印象を受けた。

 さっきクレハは目の前のドラゴンを、蒼竜姫って言ってたよな?

 あー、何だか物凄く嫌な予感がしてきた。


「……ドラゴンフォース」


 返事の代わりにドラゴンフォースを使用する。

 金色の光が僕を包み込む。

 それを見てアンジェリカは、珍しい物を見つけたかのように大きく目を見開く。


「何それ~?! すご~い! 金色に光ってる~」


 この反応からして、僕の情報は邪神族に伝わってないみたいだ。


「僕はどうすればいい?」

「あ奴を倒して蒼竜を正気に戻すか、二人で蒼竜を倒すかじゃ」


 やっぱり蒼竜は操られているんだ……。

 クレハと同格の竜姫、それが敵に回るなんて……。

 だけど操られているのなら、蒼竜を倒すという選択はないな。

 クレハだってきっとそうなんだろう。


「そうなるとクレハが蒼竜を押さえている内に、僕があいつを倒すって事?」

「そうじゃ、それしかないじゃろう」


 僕だって道中、何もしてなかった訳じゃない。

 セシリアに格闘術を師事していたんだ。

 相手が女性だからなんて、甘い考えは持っていない。

 二度も邪神族に殺されかけているんだ、自分を護るために相手が何であれ襲って来る者に容赦する気はない。


「人形使い自身は強くないと聞いておる。無理そうならば他を考えるとして、やれそうならやるのじゃ」

「分かった!」


 僕の返事を合図に、二体の竜は力比べの如く、自身の両手で相手の両肩を掴む。

 若干クレハの方が優勢に見える姿を横目に、僕はアンジェリカに向かって駆け出す。


 僕は初めて、女性に対し右腕を振りかぶった。


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