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第二話 新たな依頼

12月2日、現時点ここまで改訂済み。

 いつもと変らず晴れた空の下、僕達はトラキア王都に向かっていた。

 僕とセシリアは街道を、クレハは街道の横を歩く。

 街道の両脇が森だったりすると、クレハはお構いなしに木々をなぎ倒して進む。

さながら怪獣映画を観ているかのようだ。

 自然破壊だと言ってやったんだが、何が悪いのかと、不思議な顔をされた。

この世界は緑に溢れていて、少し木をなぎ倒した程度何とも思わないらしい。

 自然破壊という言葉すら説明が必要だったくらい。


「今回も余った食料とか、いらない物を寄付してきたのか?」

「うむ。流石に貰った物を、その町で売る訳にもいかんからの」


 クレハへの大量の貢物は、毎回寄付という形で処分される。

 町にある教会は大抵孤児院も兼ねているので、そこに寄付すれば物凄く感謝されるのだ。

 貰った物を懐に入れず寄付するとは流石竜神族と、クレハの名声は更に増している。

 少し詐欺臭い気もするけど、誰も損してないのでこれでいいんだろう。

 僕はこれを【クレハ名声永久機関】と名づけた。


「ん? 何やら厄介ごとが近づいて来ておるようじゃぞ」


 僕が手をひさしのようにかざして街道の先に目を向けると、遠くに大量の土煙があがっているのが見えた。

 土煙の量だけじゃ詳しく判断出来ないけど、あれだけの土煙があがるなら百人はくだらない数じゃないかな?

 それが僕達の方に向かって進んで来ている。


「まさかトラキアが、ローランドに戦争を仕掛け始めたって事はないよね?」

「違うと思いますよ、数が少なすぎます。それにクレハ様がトラキアへ向かっている事は、あちらも察知しているはずです。街道で対面する事は避けると思います」

「それはクレハが戦争を止めるかもと思って?」

「いえ……何と説明したらいいのか……。敢えて言うなら、親の前で喧嘩をするのはバツが悪い、と言ったところでしょうか。上手く説明出来ませんが……」

「いや、今ので分かったよ。流石セシリア、クレハより例えが上手い」

「わ、妾だって聞かれたら、同じ事を答えたかもしれんじゃりょ?!」


 噛んだ。


「まぁ答えはもう少ししたら分かるんだろうけどな」


 馬の足音だろう地響きと、巻き上がる土煙が徐々に近づいているのを僕は、多分クレハが何とかするだろうという軽い気持ちで眺めていた。


◇◇◇


「揃いも揃って、何故妾に頼み事をするのじゃ、この愚王共は」

「申し訳ございません」


 辛辣な言葉を浴びせるクレハに対し、膝を付いた状態で頭を下げるトラキア王。

 土煙と地響きの正体は、この国の王と護衛の一団だった。

 体格の良い白髪交じりの爺さんがトラキア王で、そこを頂点に三角形を描いて、約二百名の護衛全員が膝を付いている。

 街道からはみ出た所で膝を付いている人もいて、伸び放題の草に埋もれて少し可哀相だ。


 トラキア王がわざわざクレハを出迎えに現れた理由だけど、簡単に言えば誤解を解くためと手助けを求めて。

 軍を動かしていたのは、トラキア北に現れたブルードラゴンに対抗するためで、戦争を仕掛けるつもりなんて全くないらしい。

 それじゃあ素直にそう伝えればいいのではと思ったが、国と国とじゃそう簡単にはいかないらしい。

 これまた簡単に言うと、自国で軍を動かす事態が起っているのが知れると、その隙を見て攻めて来る国があるかもしれないと、そんな心配をするのが国としては当たり前なんだそうだ。


「ドラゴンが絡んでおるならば妾も無関係ではない」

「恐れ入ります」

「じゃがレッドドラゴンならいざ知らず、ブルードラゴンなのじゃから、関係あるとも言えまい」

「申し訳ございません」


 さっきから王様は、こんな感じで謝ってばかり。

 見た目からして王者の風格ありまくりなんだけど、そんな人が額に汗を浮かべながらクレハに頭下げるなんて……。

 クレハの立場を僕はもう理解していたつもりだったけど……まだまだみたいだ。


「今まで討伐隊を六度派遣しておりますが、全て失敗に終わっておりまして……。村も四つ潰されております。徐々に南下して来ており、次は大きな街が被害に遭うと予想されまして……」

「自分達で何とか出来るじゃろう? 確かにブルードラゴンはやっかいじゃろうが、一国が勝てぬ相手ではなかろう。そもそも六度も討伐に失敗するとは、お主もとうとう耄碌したか?」

「それが……妙に頭が切れるようで、二度目以降待ち伏せや夜討ち朝駆けで虚を突かれております。そして六度目は一体だと思われていたブルードラゴンが更に二体、討伐隊を挟み込むように現れまして……」


 以前クレハから聞いた話だと、竜神族と竜族との関係は、元の世界で例えると人間と猿って感じらしい。

 竜神族から見たドラゴンは、格下で力も知能も劣るけど、自分達に近しき存在といった感じらしい。

 クレハをドラゴンと呼ぶと、少し不満そうな表情をするのは、僕が猿と呼ばれたら頭にくる感じなんだと思う。

 因みにドラゴンが祖先なのかと聞いたら「竜神族は元々竜神族じゃ!」と怒られたので、その辺りは不明。


「ブルードラゴンはレッドドラゴンと似て、あまり頭は良くない。策を用いるとは考え難いのぉ」

「無論私達も次は全力を持って事に当たるつもりではありますが、今までの被害を考えますと出来るだけ犠牲を抑えたいのです。その点クレハ様であれば、ブルードラゴンが数体相手であろうとも問題ないと思いまして」

「まぁ、妾ならばブルードラゴン数体なんぞ片手でも倒せるがの。ただ、倒せるのと倒してやるのでは別の話じゃ。そもそも妾が手を貸してやる理由がないであろう?」


 僕はクレハの言葉に違和感を覚えていた。

 いつものクレハなら、きっと面倒だから断ると即答しているはず。

 だけど今は持って回った言い方をして、明言を避けている気がする。


「真に仰る通りでございます。もちろんそれ相応のお礼は致します」

「それ相応のぉ。どうするかのぉ」


 あ、これあくどいやつだ……。

 クレハにしては珍しい、と言うか意外な手段。

 僕が簡単に気付くくらいだから、交渉と呼べるものじゃないのだろうけど、相手からの提案という形で報酬を得ようとしている。


「私どもに出来る事でしたら……」


 トラキア王がそんな稚拙な交渉に気付かないはずない。

 分かっていてクレハの交渉に乗った感じがする。

 トラキア王の言葉にクレハは「そうか、そこまで言われたらのぉ」と、自分の交渉が上手く行った満足感からか喜びの声色を隠し切れずに、それでも仕方ないという体を取る。


「まぁブルードラゴンは竜族なのじゃから、竜神族である妾が責任を持って対処しなければならぬやもしれん」


 やれやれ、と額に手を当てるクレハ。

 口元は笑っている。


「それで、お礼は何が宜しいでしょうか?」


 クレハの頭も尻も隠さない交渉術に、トラキア王は苦笑いを浮かべつつも、気付かない振りを続ける。


「どうしても妾に手を貸せと言うのならば、竜玉石くらい用意して欲しいものじゃな」


 竜玉石というのは、竜化時竜力消費なし率百パーセントの特別製魔道具で、セシリア邸の戦いで使ったやつの事だ。

 聞いた話によると、特別な鉱石に大量の魔力を注ぎ込み、最後に竜力でコーティングした、見た目宝石らしい。

 ここで重要なのは大量の魔力が必要だってとこ。

 魔力を持たない竜神族には作成する事が出来ず、かと言って無視出来ない便利さ。

 なので竜神族に対し、猫にマタタビ的な存在みたいだ。


「現在商業都市ヴァロンから取り寄せているところです。事が解決する頃には届くと思いますので、それで宜しいでしょうか?」

「うむ。ならば引き受けてやろう」


 自分の交渉が上手くいってご満悦なクレハ。

 でもさ、絶対トラキア王は元々竜玉石を対価に、ブルードラゴン討伐を頼む気だったっての、クレハ気付いてないよね?

 既に竜玉石を取り寄せてるって、どう考えてもそうだとしか思えない。

 何も知らずにドヤ顔で僕を見てるけど……。


 それから王は詳しい内容を僕とセシリアに伝え、来た時のように土煙を上げながら戻って行った。

 クレハに伝えないあたり、トラキア王の有能さを感じてしまう……。

 セシリアに視線を向けると、僕の考えを読んだのか「あははー」と、苦笑いを浮かべていた。



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