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エピローグ

12月1日、現在ここまで改訂済み。

 春の陽気と言えば何だか過ごし易そうに聞こえるけど、徒歩で延々と旅路を進むとなれば、それはまた別の話。

 僕はじっとりと汗ばむシャツに不快感を覚えながら、ひらすら足を動かしている。

 時々吹く強い風が涼しさを届けてくれるけど、それも一時的な事で、段々とこの陽気が憎たらしくなってきてしまう。

 僕は逆恨みとも言える思いを抱きながら、クレハとセシリアの三人で、トラキア領を目指し大きな街道を進んでいた。


 僕達は邪獣族を倒した後すぐに出発せず、もう一日ローランドで過ごしてから旅路に就いた。

 夜大立ち回りして、すぐ出発というのは流石にきついから。

 セシリアも説明のため王城に行って、帰って来たのは朝方だったらしく、その辺も考慮しての延期だった。

 

 族長のアルドだけど、彼は遅れてやって来た騎士団に連行されていった。

 出来る限り邪神族の情報を引き出すらしい。

 重要な情報があった場合は、特別窓口を通じて僕たちにも知らせてくれるそうだ。

 情報を引き出した後のアルドがどうなるかは……知らないけどまぁ想像は付く。

 僕はそれに対して仕方がないと思うだけで、後ろめたい気持ちや哀れみを覚える事もなくて、この世界の価値観を受け入れつつあると実感していた。


 今回想像以上の活躍を見せたポニーナさんは、残念だけど当初の予定通り僕達に付いて来る事はなかった。

 多分ポニーナさんは付いて来たかったんじゃないかと、僕は思っている。

 そしてセシリアも、付いて来て欲しいと思う気持ちはあったはず。

 だけどセシリアはメイドを続けて欲しいという想いもあり、そしてポニーナさんはそれを感じ取っていたようで、お互いを尊重し合って何も言えなかった感じだ。

 二人の別れは意外とさっぱりしたもので「行ってらっしゃいませ」「行ってきます」と一言交わしただけだったのが印象的だ。


「婿殿、疲れたのならば妾の肩に乗ってもよいぞ?」


 街道の直ぐ横、舗装されていない部分を歩いていたクレハが僕を追憶から引き戻す。

 現在クレハはドラゴンの姿で行動している。

 竜化時の竜力消費を肩代わりする宝石がなくなったので、不測の事態に備えて宝石を入手するまでドラゴンの状態で過ごすそうだ。


 クレハの荷物は、セシリアのマジックバッグの中荷入っている。

 代わりにセシリアの下着が半分減っていた。

 最初クレハが量を減らせと言っても、セシリアは珍しく最後まで駄々をこねていた。

 僕がその話を遠巻きに聞いていると、突然ポニーナさんから会話に加わって欲しいとお願いされた。

 参加しずらい会話に「どうかしたの?」と白々しく加わったんだけど、僕の顔を見るなりセシリアは真っ赤な顔をして、クレハに了承を伝えていた。

 多分(ぼく)の前で、下着の事を主張するのは恥ずかしかったんだと思う、ポニーナさんの作戦勝ちだ。

 やっぱりポニーナさんも、流石にあの下着の量は多過ぎると思っていたみたい。


「妾だけ荷物がないのじゃ、遠慮せんでよいからの」


 頭上高くから声が降って来る。

 正直なところ、こんなに規格差があって旅なんて出来るか不安だったけど、今の所不自由はないし、逆にクレハがいるお陰で未だ一度も魔物に襲われていない。

 もちろんまだ王都からそれほど離れていないというのもあるけど、本人曰く「馬鹿な魔物以外襲って来ぬし、馬鹿な魔物は怖くない」だそうだ。


「あー……。情けないけど辛くなってきたらお願いしてもいいか? 長距離歩く事に慣れてなくて、今はまだいいんだけどいつかバテそうだ。まぁ何だか体の調子がいいから、もしかしたら大丈夫かもしれないけどな」


 と言うか、絶対身体能力上がってるって。

 試しに全力でダッシュしてみたら、滅茶苦茶早く走れたし。

「竜力が目覚めて身体能力が向上したのかもしれんの。しかし能力が上がって調子に乗りすぎ体を壊すなど、のん兵衛の武勇伝くらいよく聞く話じゃ。気をつけるのじゃぞ?」

「ありがと、気をつけるよ」


 珍しくまともな例えに、僕は素直に頷く。


「うむ、それがよい」

「なんだかやけに優しいというか、気が利くというか……」

「妾は元々こんな感じじゃぞ。強いし優しいし気が利く。どうじゃ? 妾と子作りしたくなったじゃろ?」

「あはは、少しな」


 冗談っぽく自分を誇張するクレハに、僕は笑ってしまって、同じく軽い感じで返す。


「ほほほほ、本当じゃな?!」

「ちょっ……落ち着け!」


 巨大な頭が急降下して来たと思ったら、僕の鼻先でぴたりと止まる。

 止まった勢いで突風がぶつかり、少しよろけてしまった。


「少し! 少し思っただけ! というかそれ以前の問題だろ!」

「それ以前とは何の事じゃ?」


 不思議そうに首を傾げるクレハ。


「僕はロリコンじゃないって占い師も言ってただろ! 人化した時の姿、完全に見た目幼女だよな? 幼女に手を出したら犯罪だぞ!」

「そんな話は初耳じゃぞ。セシリアは知っておったか?」


 直ぐ横を歩いていたセシリアは、急に話を振られ驚いた様子を見せながら頭を縦に振る。


「ジン君の言う通り、子供に手を出すのは犯罪です。ですが、実際の年齢が高ければ問題ないと……」


 そう言ってセシリアは申し訳なさそうな視線を送ってくる。

 クレハに嘘を付きたくないのは分かるけど、今は黙っていてくれてもいいのに……。


「ほれ、問題ないではないか」


 確かに問題はない。

 問題はないんだけど……。


「出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ、そんな体型をした人が僕は好みなんだ!」


 決して往来で叫ぶ内容ではないけど、勢いで無理矢理に誤魔化すのが僕には精一杯だった。


「ほう」


 クレハの竜眼がスーッと細くなって、何かよからぬ雰囲気を振り撒き始める。

 何をする気かと僕が様子を伺っていると、クレハはまるでブレスを吐く予備動作のように、体を後ろに反らし大きく息を吸い込んだ。


「これで文句ないじゃろ?」


 空気を大量に溜め込んで大胸筋は大きく膨れ上がり、逆に腹筋に辺りは窪んでいる。

 確かに出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいるけど……。

 アホらしくなって、僕はツッコミを入れる気も起きなかった。

 

 でもそれがいけなかった。

 突然、あの懐かしい感触が蘇る。

 轟音と共に迫ったクレハの拳に、僕は三度(みたび)握られてしまっていた。


「まさかこの姿が好みじゃったとは、妾も気付けなんだ。しかし男の希望を叶えてやるのも、女の矜持(きょうじ)というやつじゃ。どうやるのかは妾には分からぬが、後は婿殿がリードしてくれるんじゃろう?」


 ツッコミを入れる機会を完全に逸してしまった僕は、クレハの独り舞台をただ眺めているだけ。


「さぁ婿殿……」


 笑いを堪えるかのように。


「そこで……」


 指差す先、街道から外れた森。


「ククク……」


 そして耐え切れなくなったのか、完全に笑った。

 

「セ、セシリアー!」

 僕はクレハが何を言うか、そしてそれが冗談だと理解していたけど、なぜか怖くなって助けを求めた。


「あ、あはははー……」


 返って来たのは引きつった顔と乾いた笑い声。


「さぁ婿殿」


 クレハが再度笑いを堪えて口を開く。


「この姿の妾と子を成そうか」

「…………」


 ドラゴンに子供を作ろうと迫れた僕はどうしたらいいのかな?


「どうにも出来るかぁぁぁぁ!」


 


これで第一章終了となります。


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