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第二十二話 戦いの後

短いです。

 僕は力が入らずへたり込んでいた。

 どうやったのかは覚えてないけど、ドラゴンフォースの力を一撃に変換したせいで完全にガス欠状態だ。

 それだけじゃない、忘れていた腕と背中の痛みが戻ってきている。

 

「とりあえず……玄関に戻ろうか……」


 何時までも裏庭にいてもしょうがないので、僕は笑う膝を押さえ込んで何とか立ち上がり、後ろから聞こえてくるアルドの悲鳴を無視してよろよろと玄関へ向かう。


「ジン君! 回復を!」


 そんな姿を見たからなのか、セシリアが僕を呼び止める。

 振り返った僕の目には、自身の右腕を左腕で押さえたセシリアの姿が映った。

 アルドに掴まれた時に痛めてしまったんだろう。


「セシリアの後でいいよ」

 

 セシリアは「え、でも……」と不満そうだったけど、無視するように踵を返し足を進めた。



「なんで?」


 玄関が見える所までなんとか戻って来た僕は、目の前の異様な風景に首を傾げる。

 折れた植木と抉れた芝生、微かに感じる煙と血の臭いは確かにここが戦場だったと教えてくれていた。

 屋敷の壁には亀裂が入っている所もあるし、ガラスは殆ど割れているけど、戦いの規模を考えると奇跡に近い軽微さだと思う。

 だけど……。

 そこには死体一つ、血一滴すらなかった。


「おかえりなさいませ、ジン様」


 玄関前まで辿り着くと、ポニーナさんがいつものように出迎えてくれた。


「あの……黒獣達の……黒獣達はどこに行ったんですか?」

「お帰りになられました。地獄へ」

「あ、そうですか……」


 いつもより柔らかい笑顔を向けてくれた気がするんだけど、今はそれが滅茶苦茶怖い……。


「忘れ物は私の固有スキルで全部処分致しました」


 それって死体の事デスヨネ。


「ポニーナの固有スキルは便利ですから」


 追い付いて来たセシリアはもう腕を押さえてなくて、僕の肩をそっと導きながら玄関前に二人して腰を下ろした。

 セシリアは僕の後ろに回って、恐る恐るといった感じで背中に手を当てた。

 背中にセシリアの手が触れてしばらくすると、柔らかな温かさが広がる。

 回復魔法の効果で、背中の痛みが徐々に引いていく。

 その一部始終を見ていたポニーナさんは、回復魔法が効き始めたのを見計らったように口を開いた。


「私の固有スキルは【家政婦の御手(みて)】と申します。色々条件や制限はございますが、私が不必要と思った物を別空間に出し入れ出来るのです」


 見たいのか見て欲しいのか、どっちか分からないスキル名だな……。


「ポニーナはその固有スキルが発現した時、『自分の天職はメイドしかありません!』と言って冒険者を辞めたそうですよ」


「セ、セシリア様! その話は御内密にと……」


 珍しく慌てるポニーナさんにセシリアは「ついうっかり」と、お茶目な顔をして見せた。


「もうそろそろ騎士団か警備隊が来てもいいはずじゃがのぉ。セシリアの魔法で気付かれ難くなっていたとはいえ、目には映るんじゃから誰か気付いておろうに……」


 右手にアルドを握り締め、巨体で屋敷や庭を破壊しないように気をつけながら、クレハもまた玄関に戻って来た。


「クレハがいるから大丈夫だと思われて、後回しにされたんじゃないの?」

「あの狸ならやりかねん」


 きっと王様の指示より先に、騎士団と警備隊は動いているんだろうけど。


「セシリアありがとう、もう背中は大丈夫みたい」

「そうですか? 痛みが出たら言って下さいね。それじゃあ次は腕を治療しますね」


 横に回ったセシリアは、僕の腕を手に取り治療を始める。


「そう言えば回復魔法って魔法名? って口に出さないんだね」

「初級回復魔法には名前がないのですよ。こう、治れーって感じで力を込めるだけなのです。人を治療したいという気持ちが大事らしくて、初級が出来ない人は回復魔法を使えないそうです」

「って事は悪人には使えないんだね」


 僕達は目を合わせて小さく笑いあう。


「あの……セシリア様。お話中申し訳ございませんが、魔力の残量は大丈夫でございましょうか?」

「魔力? そうですね……今日はかなり消費しましたし、残り三割と言ったところでしょうか」

「セシリア様! 一旦治療はお止め下さい!」


 突然焦り出すポニーナさんに、僕とセシリアは驚いて肩が跳ねる。


 それとほぼ同時に、玄関の脇で何かが大きな音を立てて爆発した。

 全員の視線が集中した先にあったのは、大き目のショルダーバッグ。

 口は開いていて中身の入ってないそれは、ぐったりと体を小さくしていた。

 隣でセシリアが小さく「ひっ!」と悲鳴を上げた気がするけど今はそれどころじゃない。

 僕の目はそのショルダーバッグの遥か上──空から降ってくる色取り取りの……下着に釘付けになっていた。

 それは月明かりに照らされて、キラキラと輝きまるで宝物のよう……いや宝物のようだった。


「まさかこれほどの量を旅に持って行く気じゃったとは……。セシリアの下着好きを甘く見ておった……」


 よく見るとあれはマジックバッグだ。

 マジックバッグは契約者から魔力を補充していて、契約者の魔力が三割を切ると安全のため補充を停止し、内包している物を外に投げ出すらしい。


「ポニーナ! 今すぐスキルで回収して!」

「申し訳ございません。主が大事にしている物を不必要と判断する事は出来ませんので……」

「はうぅ……」


 がっくりと肩を落とすセシリアが気の毒になって、僕は何とかフォローしようとセシリアの肩を叩く。

 ビクンと体を震わして、恐る恐る顔を上げて僕と目を合わせるセシリア。


「セシリうぁぷ!」


 その時突然、僕の顔を何者かが覆い尽くすように塞いだ。

 慌ててそれを引き剥がし、正体を確かめると……。

 僕の手に握られていたのは、清楚な純白のショーツ。

 但しそのサイドは大胆にも紐だけという……いわゆる紐パンでした。


「……セシリアって意外と大胆なんだね」

 僕はつい思った事を口走ってしまう。

 セシリアは目を白黒させ、顔色を青から赤へと変えながら大きく息を吸い込んだ。


「きゃああああああああああああ!」


 戦いの終わった庭に、セシリアの悲鳴が響き渡った。


「妾、前にもこのような光景見たような気が……」


 うん、僕も……。


セシリアさんは下着要員ですキリッ

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