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第十三話 冒険者ギルド

「それはバナウライバ様ですね。必ず当たると有名な占い師様です」


 東通りを観光した次の日の昼前、僕達三人は冒険者ギルドに向かうため、中央広場を目指して広い石畳の道を歩いていた。

 王都を離れるのは決まった事だけど、直ぐに旅立つ訳じゃなく、セシリアの都合で出発まであと三日ほどかかるらしい。


「滅多に占ってくれないそうですけど。何か占って貰ったのですか?」


 セシリアは鎧を返却して、今はアオザイに似た白い服を着ている。

 真っ白なロングワンピース風だけど上半身は体にフィットしていて、女性らしい豊かなラインを余す事なく周囲に伝えている。

 体にフィットしているのは腰のライン迄で、そこから下は(くるぶし)辺りまで伸びる長いスカート状になっていて、左右は腰から大胆なスリットが流れている。

 もちろんそのままだと、非常に扇情的な格好になってしまうので、ちゃんと下には黒のロングスカートも履いている。

 服装の見た目、腰に差した銀の剣と、後頭部で一つに結ばれた髪型から、異国情緒を漂わせた美人剣士といった感じだ。

 一見軽装で旅に不向きそうだけど、強力な魔物の素材を用いて作られているらしく、防御力の面から見ても金銭面から見ても、並みの鎧より遥かに高いらしい。


「いや……ただ見かけただけだよ」


 セシリアに占い師の話を聞いて、僕は動揺してしまった。

 インチキ占い師じゃなくて、相当有名な占い師らしい。

 その占い師に不吉な事を言われた僕とクレハ。

 まぁクレハは、自分自身の事は全く気にしてなくて、僕がロリコンじゃないという事が衝撃だったみたいだけど……。

 一体どういう思考回路をしているんだか。


「深く考えてもどうにもならないしな……」


 セシリアに聞こえないよう小さく呟き、僕は今向かっている冒険者ギルドでの目的を再確認する。

 

 冒険者ギルドへ行く目的は二つあった。

 一つ目は身分証を作る事。

 身分証は国や大きな街に入る場合に必ず必要となる物で、持っていないと相当不便らしい。

 ローランド王家から身分証を作って貰おうとクレハが動いてくれたみたいだけど、王家の身分証は色々不便な事もあると言われたそうだ。

 多分王家の身分証だと国交がない国や敵対している国には通じないからじゃないかな?

 その点冒険者ギルドは、世界中にあるそうなのでどこでも通用するらしい。

 因みに冒険者ギルドが発行する身分証は、冒険者証というそうだ。

 そう言えば、クレハが王家に打診したのは無駄じゃなかったようで、何でも僕はギルドから特別扱いしてもらえるらしい。

 特別窓口という所で自分専任のギルド担当者が付くそうだ。

 出かけにクレハから、王家の紋章が入った封筒を受け取った。

 でも旅に出る僕に専任が付くって……一緒に旅に付いて来るのかな?

 どういう経緯で特別窓口が使えるようになったのかクレハに聞くと『あんな顔していても王は王、全く狸じゃ』と文句を言うばかりで真相を語ろうとしない。

一体どんなやり取りがあったのだろう?

 隣国トラキアにお使いを頼まれたと言っていたから、きっとそれが関係しているんだとは思うけど、まぁクレハが無理言った訳じゃなさそうだし別にいいかなと思う。


 二つ目の目的はこの世界の基礎的な知識を得る事。

 冒険者ギルドには初心者講習という制度があるらしく、それを受けるとある程度の知識や常識が身につくそうだ。

 セシリアに教えて貰えばいいのではと思ったんだけど、常識過ぎる事を教えるのは意外と難しいとの事。

 当たり前過ぎて、教えなければいけない項目に挙げるのが難しいらしい。

 その点冒険者ギルドの初心者講習は若い人で十歳から受けるらしく、それに合わせて親切丁寧に細かい事まで教えてくれるそうなので、冒険者証取得のついでに僕が受講する流れになった。


 中央広場から西にしばらく歩いたところに、冒険者ギルドはあった。

 酒場のような外見を想像していたんだけど、想像とは違い綺麗に清掃されていて、少し堅いイメージのするレンガ造りの学校の校舎くらいありそうな大きな建物だ。

 入り口の扉は僕の予想と違い、西部劇のスイングドアではなく観音開きの扉だった。

 スイングドアを開けるのを楽しみにしていたのに残念。


 ギルドの中に足を踏み入れると、賑やかな声が僕の耳に届いて来た。

 広い室内に、多数の種族が入り乱れている。

 ある者は窓口で受付嬢と何やら揉めていたり、ある者は大きな掲示板の前でそこに貼ってある紙を睨むように見ている。

 厳つい鎧を着込んだ大男もいれば、頭に獣耳を生やした可愛らしい少女もいる。

 

 ギルドの中は窓口が整然と並んでいて、その一つ一つに番号と何の窓口か書いてある。

 窓口に居る係りの人が「六番の整理券でお待ちの方~」と言っているのを聞いて僕はげんなり。 

 なんか元の世界の銀行や役所を彷彿とさせる光景だった。

 もっとこう荒々しい感じとか、異世界情緒溢れる感じを期待していたのだけど……。


「あそこの窓口でギルド加入が出来ます。受付の人の言う通りにしていれば簡単ですから。冒険者ギルド登録の証が、そのまま身分証になるので……あ、登録にお金が掛かるので渡しておきますね」


 僕の不満など露知らず、セシリアはギルド加入受付と書いてある一番の窓口を指差した。

 そして笑顔で銀貨を一枚差し出されてしまう。

 初めてじゃないけど、やっぱりセシリアにお金を貰うのは抵抗がある。

 手を出したり引っ込めたりしていた僕を見かねてか、セシリアはそっと手を掴み「はい」と手の平に銀貨を一枚落とした。

 ない袖はどうやっても振れないので、僕は礼を言って銀貨を握り締めるしかなかった。


「私とクレハ様は端のソファーで待っていますね」


 段々とセシリアが、僕の保護者なんじゃないかと思えてきてならない。



 冒険者ギルド加入受付窓口担当は、犬耳の可愛らしい獣人の若い女性で、制服と思しき緑のジャケットとスカートを自然に着こなしている。


「加入申し込みの方ですね。それではこちらに必要事項を記入して下さい。あと加入には銀貨一枚必要になりますので宜しくお願いします」


 渡された記入用紙には出身地やら得意武器等の欄があったけど、事前にセシリアと打ち合わせていたため、僕は戸惑う事なく記入する事が出来た。

 

「はい、それではこちらの魔道具に右手を置いて下さい。少しチクッとするかもしれませんが、これから冒険者になるのですから我慢我慢」


 窓口嬢が差し出した直径二十センチ程度の、手の平を模った線が書いてある、薄い円形の板の上に右手を置く。

 どういう仕組みかは分からないけど、人差し指の先端にチクリと痛みが走った。

 痛みに驚いて手を引っ込め指を見たけど、どこにも傷跡はなかった。


「はい完了です。それでは冒険者証が出来ましたらお呼びしますのでギルド内でお待ち下さい」

「あ、あの! こんなもの持ってるんですけどっ!」


 ローランド王家の紋章が入った白い封筒、僕がそれを勢い良く差し出すと、窓口嬢は耳をピーンと立てて目を見開く。


「あの……それってもしかして……」

「なんか特別窓口ってやつの利用権らしいです」

「なっ! ……ちょ、ちょっと待っていてくださいねええええええ」


 窓口嬢は僕から封筒をふんだくると、語尾を引きずりながら奥へと消えていった。僕はそれを、封筒を差し出したままの体勢で見ていた。


 五分後。

 窓口嬢は息も切れ切れ戻って来た。


「はぁすいま……せん。ふぅ……お待たせ致しました。確認した所間違いないので、特別窓口をご利用頂けます。この後ご予定はございますか?」

「えっと、初心者講習を受ける予定なのですが」

「初心者講習!? 特別窓口利用権持っているのに? あ、でも今冒険者証作ったから初心者でいいのか。え? でもなんで?」


 犬耳のお姉さん言葉遣いが普通になっているけど……。

 僕の表情を読んだのか、彼女はこほんと咳払いをし「失礼しました」と佇まいを直した。


「それでは初心者講習が終わりましたら、十三番の窓口までお越し下さい。冒険者証は実技講習時に担当からお渡しします。」


 引きつった笑みを浮かべる窓口嬢に「分かりました」と伝え、僕はその場を後にした。

 背後から何やらコソコソ話す気配がしたけど、何を言っているのか良く聞き取れなかった。



 やる事も終わったので、僕はセシリア達が待つソファーに向かおうとしたんだけど、すぐに足を止める事になった。


「おう兄ちゃん、新人だよな?」


 声を掛けてきたのは、背丈二メートルはあろうかと思う大柄で筋肉質で髭面の男だ。

 これはまさか、いわゆるテンプレイベントというやつなのか……。

 確かに異世界らしいけど、こういうのは別にどうでもいいんだけどなぁ……。


「そう堅くなるなよ、只の挨拶だ。俺はここを中心に活動しているアンドレだ。因みにランクは8だ、よろしくな」


 ごっつい右手を差し出してくる。

 とりあえず友好的な態度にホッとし、恐る恐る握手を交わす。

 握手と見せかけて握り潰す、という事はなく僕の右手は無事。

 ところでランク8って一体どの程度なんだろう? AとかSとかだったらなんとなく分かるんだけど……。


「僕はジンです。仰るとおり新人です。てっきり話しに聞く新人イジメかと思ってびっくりしましたよ」

「新人イジメ? そんな事をする馬鹿は少なくともローランドにはいねぇよ。冒険者ってのは幾ら人数が居ても足りないくらいだ。新人イジメて潰したら将来の戦力が育たないだろうが。結果苦労するのは現役の僕達なんだからな」


 結構ドライな考えだけどもっともだ。

 

「今日登録したばかりなら丁度良い。これから初心者講習があるからお前受けとけ。まずは知識だけでもきっちり学んでおかないと命が幾つあっても足りねぇぞ。因みに俺が今日の教官だからばっちり教えてやるよ」


 がははと、アンドレさんは豪快に笑う。

 初対面だと若干腰が引ける容貌に、話してみると面倒見の良さが言葉の節々に感じ取れる所が、なんともミスマッチ。


「勿論そのつもりです。自慢じゃないですが僕は相当無知なので、変な質問しても笑わないで下さいよ教官殿」

「おう、何でも聞けや!」


 笑顔で吼えながら去って行くアンドレさんの背を見続けていると、別の新人らしき人に握手を求め始めていた。

 何だろこの心温まる冒険者ギルドは。

 正に『事実は小説よりも奇なり』だ。


 ◇◇◇


「もうすぐ座学講習が始まるけど……講習三時間ぶっ続けってきついな……」

「そうですか? 普通だと思いますけど」

「妾はそもそも講習なんぞ受けんからの」


 セシリア達の元に戻った僕は、講習時間の長さにげんなりしていた。

 高校の授業が一回五十分だったし。

 異世界の人達は集中力がすごいんだろうか?

 講習が大事なのは分かっているからもちろん受けるけど……インフルエンザ予防接種を大事だと分かっていて、痛いから受けたくない気持ちに似ている。


「その後昼休憩を挟んで実技を見てくれるらしいけど、僕には見てもらう実技なんてないから、見学と魔法適正検査だけかな」

「婿殿の世界では戦う術は学ばんのか?」

「本格的に学ぶ人はいるけど、一般人は大抵学ばない。僕なんて学校の授業で少し(かじ)っただけで、素人と変わりないよ」

「ジン君の世界は平和だったのですね」

「……まぁ平和だと言えば平和だったかな」


 一概に平和とは言い切れない訳だけど……詳しく説明すると膨大な時間が掛かりそうだったので、平和の一言で片付けておく事にした。


 二人は僕が座学を受けている間、旅に必要な物を買いに行くらしい。

 仰々(ぎょうぎょう)しい準備など必要ないと、大雑把な性格を披露したのはクレハ。

 セシリアは(ジン君)がいるのだしきちんと準備しておくべきですと主張してくれて、僕は一安心。

 やっぱりセシリアという常識人がいてくれるのは助かる。

 クレハと二人で旅に出たら、きっと僕だけが野垂れ死にしてたんじゃないかと思うくらい。

 

 そんな訳で僕は座学を受け、セシリアは買い物、クレハは待つだけでは暇なのでセシリアに付いて行く事になった。


「昼休憩には戻って来きます。食事も買って来ますね」


 セシリアはにこやかに笑い、クレハを連れてギルドを出て行った。


 僕は二人の背を見送って、座学の会場に向かうために階段を昇りギルド二階の部屋に向かう。

 座学会場は少し広めの空間に長机と椅子を並べただけの部屋で、それらの指し示す正面に、申し訳程度の古びた教卓が置いてあった。

 

 既に会場には僕を含め十六名の男女がいて、中にはまだ小学生程度の子供もいる。

 冒険者には十歳からなれるので、これが当たり前の光景なんだと思う。

 子供の冒険者は薬草採取や王都内での雑用などと、危険度が低い依頼を主に受けるみたい。

 天才と言われる極一部の才能がある子供もいて、その子らは大人の冒険者と一緒にギルドの依頼をこなすらしい。

僕が空いている席に腰を下ろしてしばらくすると、アンドレさんが会場に入って来て古びた教卓に両手を置いた。

 隆々とした筋肉の上半身は、教卓の横幅よりも広く非常にアンバランスな印象を受ける。

 アンドレさんは僕達の頭数を数え、揃っている事を確認して口を開いた。


「本日の初心者講習を担当するランク8のアンドレだ。お前達には冒険者としての基礎知識をしっかり叩き込んでやる疑問に思った事はいつでも手を挙げて質問するように」



 アンドレさんの講義は三時間という長丁場だったけど、僕は意外にも集中力を切らす事はなかった。

 それはアンドレさんの講義が上手かったというのもあるけど、やっぱり異世界の知識に触れるというのは新鮮だったからだ。

 

 中でも僕が気になったのは魔法に関する事。

 魔法には五つの属性があって、火・水・土風・光・闇となっている。

 魔法の素質がある人は大抵が二つの属性を扱えるらしい。

 光と闇だけはどちらかしか扱えないとの事。

 それにしても土属性と風属性が(まと)めて一属性って、ちょっと扱いが酷い気がする。

 魔法の素質についてだけど、十歳以上になればギルドで調べてくれるらしい。

 なんで十歳以上なのかと質問したら、魔力が成熟するのが約十歳との事。

 十歳より前に調べても信頼性が薄く、下手に練習すると暴走させる危険性があるため、十歳までは素質や魔法を教えないそうだ。


 今日は午後の実技講習前に、素質を知らない者は調べてくれるそうなので僕は今から楽しみにしている。

 セシリアの剣技を見た後では、流石に剣の腕を磨こうとは思えない。

 だってあんな動き無理だし……。

 そこで僕は異世界の代名詞、魔法を使おうと企んでいるのだ。

 

 そういえば冒険者ギルドランクがどんな仕組みなのかが分かった。

 ギルドランクは2からAまでのランクがあって、ギルドに一定の貢献をするとランクが上がって行く。

 ランクは2が初心者、そこから3、4という感じで、トランプの数字のように順々に上がって行く。

 ランク6になれば一人前と認められて、7がベテラン、8が一流という感じ。

 ランク8とランク9の間には大きな溝があって、何かしら大きな功績を上げないとランク9にはなれない。

 そしてランク10になると、二つ名が貰えるらしい。

 ランク10、ランクJと続いて、QとKは男女によって割り当てられ同ランク扱い。勿論Qが女性でKが男性だ。

 Aは一応設定されているだけのランクで、未だに誰も到達した事はないらしい。

 アンドレさんは8なので一流という事になるんだよね……見た目はやられ役っぽいけど、実は凄い人なんだ。

 そういえばクレハとセシリアのランクはどうなっているんだろう?

 冒険者証のために加入したと言っていたからランク2なのかな?

 何だかペーパードライバーみたいだな。


◇◇◇


 三時間の講義を終えて一階に戻ってくると、セシリアとクレハがソファーに座り僕を待っていた。


「お疲れ様ですジン君。講習はどうでした?」

「うん、勉強になったよ。本当は中級と上級も受けたいところだけど、開催日が早くて四日後だから諦めるしかないな」

「初級さえ受けていれば、あとは私が教えますから大丈夫ですよ」

「じゃあこれから暇を見て教えて貰おうかなセシリア先生」

「それよりもじゃ婿殿」


 和やかに会話をしていると、割り込むようにクレハが口を挟んできた。

 クレハの口調はいつもと違って覇気がなく、姿勢もソファーから滑り落ちそうな、力のない格好をして座っている。


「妾は腹が減ってかなわん。早く昼食にしよう」


 お腹に両手を当て、眉尻は下がり、口もだらしなく半開き、竜神族の風格を完全に捨て去った竜姫。

 力の抜けた声で訴えるクレハを見て、僕とセシリアは目を合わせ笑い合う。

 この様子だけ見ていると、紅竜姫なんて全く思えなくて、ただの幼女に見えて笑ってしまった。

 


 僕達は休憩所に移動して、セシリアの買ってきたサンドイッチを食べていた。

 この世界にもサンドイッチは普通に存在している。

 具の種類や味など、驚く事に元の世界と大して変わらない。

 ただこちらの世界のサンドイッチは、パンの耳を残した状態が当たり前らしくて、元々少し硬めのパンを耳ごと噛み切るのには少し顎の力がいる。

 マヨネーズやマスタードも存在していて、マヨネーズを広めてお金儲けすればセシリアにお金を返せるのでは、という淡い期待は脆くも潰えた。

 でも良く考えたら、僕マヨネーズの作り方詳しく知らない……。卵と油をかき混ぜるんだったっけ?


 腹を空かせてダウンしていたクレハは、セシリアの三倍の量を軽く平らげていた。

 僕がその事に対し指摘すると『妾は竜神族じゃ。そもそも人間と作りが違う。これでも妾は食が細いと心配されていたほどじゃぞ』なんて言っていたけど、真偽の程は定かではない。

 というか僕は絶対に嘘だと思っている。



 昼休憩が終わると、次はいよいよ実技の時間だ。

 だけど実技はどうでもいいんだ、僕見学だし。

 大事なのは魔法適正検査。

 これで適正のある魔法属性が判明したら、それを練習しようと思っている。

 だけど実践的な魔法が使えるのは、人間全体の三割程度らしいので少し不安だ。

 因み生活魔法という、あると便利程度の魔法は九割の人が使える。


「初心者実技講習を開始する前に、魔法適性検査を行いまーす。希望者は十二番窓口に来て下さーい」


 係りのお姉さんが声を張り上げて呼んでいたので、僕は早足で十二番窓口に向かい、既に出来ていた列の最後尾に並ぶ。 

 前には五人並んでいて、その全員が十歳程度で最後尾の僕だけ頭一つ以上飛び出ているという、何とも恥ずかしい状況だった。

 実際に周囲から、不思議そうな目で見られている。

 適正検査は十歳で受けるのが常識みたいだからそれも仕方ないのかな……。

 

 検査を受けている前の子達を見ていると、どうやらハンドボール程度の大きさの水晶球に手をかざして、現れる光の強さで魔力量、光の色で適正を判別するらしい。

 前に並んだ五人の中一人、耳の尖がったエルフの女の子が手をかざすと、水晶球が淡く光り緑色に点滅した。

 これで適正ありとなるみたいで、その女の子は飛び上がって喜んでいる。

 他の四人は残念ながら適正なし。

 だけどその表情は仕方ないといった感じで、さほど落ち込んでいる様子じゃなかった。

 どうやら魔力剣が使える程度の魔力量は確認出来たみたいで、逆にホッとしているように見える。


 いよいよ僕の順番が回ってきたので、手に湿り気を覚えながら水晶球にそっと手をかざす。

 カッコイイから出来れば光属性の適正があって欲しいと、邪な念を送りながら。


「……」


 おや?

 どうも水晶球の調子が悪いみたいだ。

 僕は水晶球をいたわるように、そのつるつるした表面をなでなで。


「……」


 撫で回そうが軽く叩こうが、幾ら待っても水晶球に変化は現れない。

 これってもしかして……。


「やっぱり無理じゃったか」


 どこから沸いて出たのか、クレハは僕の背中に飛び乗り肩に顎を乗せ、水晶球を覗き込みながら当たり前のように呟いた。


「婿殿は竜力があるのじゃから、多分魔法は使えんと思っておった」

「それなら先に言えよ! 期待したじゃないか……」

「いや、一応婿殿は人間じゃからもしかして、という事もあったのでな」


 僕の夢と希望返せ。いや、待て、それならば……。


「なぁクレハ、じゃあ僕は竜術なら使えるって事?」

「まぁ間違いなく使えるじゃろうな」

「え? マジ?」

「マジじゃ」


 自信有り気に頷くクレハを見て、自然と顔がにやけてしまう。

 子作りチート(笑)しかないのではと不安だったので嬉しいというのはもちろんあったけど、これで少なくとも戦う術が手に入るという事に安心した。

 異世界に来て戦う術がないとか心細いからな。


「ただし竜力が覚醒せねば竜術は使えん」

「そうか、今僕の竜力は眠っているんだもんな」

「無理に覚醒させるのは容易いが、今は覚醒させるのは危ないからの。とりあえず自然と覚醒するまで待つのじゃ」


 竜力が覚醒すると発作も始まるからな。

 これは竜術を使うのはもう少し先になりそうだ。


「あと妾が婿殿に教えられる竜術は少ない。本格的に学びたいなら翠竜の里に行くしかないの」


 翠竜の里か。名前からしてどうせ行く事になりそうだな。

 魔法は無理だったけど、それに匹敵する竜術が使えるようになるみたいだし、とりあえず良かった。

 僕は竜術が使えるようになった自分を想像し(どんなものか知らないので適当な想像だけど)期待に胸を膨らませながら、実技講習会場であるギルドの裏手へ向かったのだった。


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