うなじに、爪痕
隣にいられるだけで十分、だなんて思えない。
もう二度と。
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「あ、由菜」
帰り道、信号で立ち止まった由菜に声をかける。
「健太じゃん」
そう言いながら彼女は、軽く手を挙げて返した。
信号が変わり、二人で歩き出す。当たり前のように、二人ならんで。
「昼間は、ちょっとあったかいね」
そう言って、由菜は太陽に手をかざした。
由菜の手は、カーディガンに隠れて指先だけが覗いていた。
言われてみれば、空気が冷たくても、日が当たると暖かい。
登校するときは朝練習のために早朝だし、下校も普段は日が暮れてからなので気づかなかった。
「テスト、どうだった?」
そう声をかけると、彼女は露骨に顔をしかめた。
「できるわけないじゃん」
今日は、冬休みがあけて初めの模試。
この結果は、二年に進級する際のクラス分けに大きく関わると、担任が言っていた。
そうやって変に脅してくるところが、進学校の嫌なところだ。
「まあ、今日は由菜の苦手な理系科目だったもんな」
一応フォローはしたが、そういう意味じゃないと分かっている。
由菜はもともと頭がいいし、明日は得意の文系科目だが、きっと明日も「できるわけない」だろう。
もちろん、その訳も分かっている。幼馴染だから。
「遼くん、元気?」
うつむいたまま言った。
これが、由菜の本音。