表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

しめじ三郎 幻想奇談シリーズ

しめじ三郎 幻想奇談〜保険の達人〜(888文字お題小説)

作者: しめじ三郎

お借りしたお題は「保険天国。保障が服を来て歩く。」です。

 神田律子は新米ママ。愛娘の雪をベビーカーに乗せ、アーケード通りを歩いていた。

「そこのお嬢さん、お時間ありますか?」

 どこかから男の猫撫で声が聞こえた。だが、自分が「お嬢さん」ではないのは自覚している律子は、その声に反応する事なく、歩き続けた。すると、

「そこのベビーカーを押しているお嬢さん、ちょっといいですか?」

 ベビーカーと言われ、律子は立ち止まって周囲を見渡した。自分以外にベビーカーを押している人はいない。

「私?」

 そこでようやく律子は声のする方に向き直り、尋ねた。

「そうです。貴女です、お嬢さん」

 そう言って営業スマイルを全開にしたのは、ロマンスグレーの髪を七三にキッチリと分けたねずみ色のスーツを着た男だった。

「私はお嬢さんではありませんが?」

 律子は訝しそうな目で男を見る。すると男は営業スマイルのままで、

「お嬢さんにしか見えなかったもので。失礼しました、奥様でよろしいのですね?」

 誉められているのか微妙な気がした律子は半目で男を見た。男はそんな律子の反応を気にするでもなく、

「こちらへどうぞ」

 半ば強制的に彼女を一枚板のガラスでできたドアを開き、その奥へと導いた。

「何も買いませんよ」

 律子は新手の商売だと感じ、予防線を張った。ところが男は、

「何かを売りつけるのではありません。お話を聞いていただきたいのです」

 尚更怪しいと思った律子は後退あとずさりした。

「奥さん、保険に入っていないでしょう?」

 男がずばりと言い当てたので、律子はビクッとした。男は嬉しそうに頷き、

「当たっているみたいですね。独身時代はそれでもよかった。結婚してもまだまだ大丈夫。でも、子供が生まれたら、そうも言っていられない。そう思いませんか?」

 畳み掛けるように喋り続けた。律子は顔を引きつらせて、

「はあ、そうですね……」

 自分や夫の陽太に何かあった時、雪はどうなるのかと考えてしまった。

「そんな時こそ、私をお役立てください!」

 男はそう言って恭しくお辞儀をすると、ポンと煙を出して消えてしまった。

「え?」

 ハッと我に返った律子が手にしていたのは、

「保険天国。保障が服を来て歩く」

 そう書かれたパンフレットだった。

ということでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 妻を受取人にしている僕の生命保険…。 先日、届いた内容変更のお知らせを見て驚いた。妻の受取金額が大きくなっていた…。 律子さん、執筆お疲れ様でした。
[一言] こんばんは。その保険に入ってしまったらもっとホラーになりそうな……。ご両親は、雪ちゃんのためにもっと信頼できる保険を選択できますようにと思わず祈ってしまいました。 文字数合わせ、全く無理なく…
[一言] 俺も保険を解約しないように頑張ろう……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ