特に何もない日曜日
今日は日曜でお休みですが夢見が悪かったせいで以世は二度寝する気分にはなれませんでした。特にやることはありませんが外はいいお天気です。時間も早いですし、どうしましょう。
「漫喫に!」
挙手をする六波羅を完全に無視して以世は台所へ向かいます。まだ早いですし、朝のお勤めは朝ごはんのあとでいいでしょう。台所では祖母が朝ご飯を作ってくれていました。
「あら早いのね、お出かけ?」
そういうわけではないのですが、今日は早起きなのです。
「そうなの。せっかくいい天気なんですから、どこかへいってらっしゃいな」
そうすることにしましょう。図書館にでも行きましょうか。今日のお味噌汁は小松菜と大根おろしとすり生姜が入っています。
割と以世の家ではよくあるパターンのお味噌汁です。結構おいしいんですよ。
ご飯の匂いに釣られたのか起きてきた壱世も一緒に三人はあつあつの朝ご飯をおいしくいただきました。以世は祖母の作る甘さ控えめの玉子焼きが大好きです。おかずは他にもししゃもやおひたしがありました。うまいもぐもぐ。
壱世はどうやら友達と出かけるようです。手早く準備をするといそいそと出かけていってしまいました。以世はリビングを横切って出掛けていく壱世を見送りながらチャンネルを天気予報から朝ドラに変えます。レンさまどうなったのでしょうか…。
「男か」
確かにレンさまは結婚してしまいましたが…。
「以世、壱世の話だ」
壱世は女子ですけれど。
以世がそういうと六波羅は微妙な顔をしてからやれやれと首を横に振ります。
「…奴の血族ともあろうものが彼女いない歴=年齢な口か…」
よよよ余計なお世話です!! 六波羅には関係ないではありませんか!
以世が慌てて言いますと六波羅は愉快そうな口元を袖で隠して声を落としました。
「壱世に彼氏がいても関係ないか?」
えっと以世は驚いてテレビから六波羅に視線を移します。
あの壱世が他人に拘る…? なんだか想像できません。
「その想像できない様が拝めるかもしれぬぞ」
レンさまのその後も気になりますが、以世は妙な不安に駆り立てられて財布をとって慌てて家を飛び出しました。玄関先には壱世の自転車が置かれたままです。駅前に行くならいつも自転車なのに!
走ってバス停にむかうと、丁度壱世の乗り込んだバスの戸が閉まるのが見えました。そのバス待ったー! 走り寄ると、優しいバスの運転手さんは扉を開けて以世がくるのを待っていてくれました。以世はバスに乗り込むと、弾む息に乗せて運転手さんにお礼を言います。
車内はそこそこ席が埋まっていますが、壱世は全力で以世に対して赤の他人ですという態度をとってそっぽをむいていました。以世も別にお前なんかに用はないし、急用ができただけだしと言った顔で離れた席に座ります。
…以世はなにしにきたんでしたっけ。
「壱世の相手を見に行くのだろう?」
そう、そうでした。でも、壱世が彼氏を作ろうが彼女を作ろうが以世には口出しする権利なんてないですし…。
「へんな女に騙されておるのかもしれぬぞ」
何故そこで変な女になるんですか…。
そういえば、壱世もそんなこといってましたね。
彼氏かぁ…。以世は小さく息をつきました。妹離れのいい機会かもしれません…。以世はしょんぼりしました。
…そういえば、寝起きと朝の騒動で色々と忘れていますね。朝のお勤め、そして…。
六波羅?
「なんだ?」
両親のことについて、まだきいていませんが。
「…」
六波羅は「ちっ、思い出したか」とでもいいたげな感じに眉根を寄せます。別に忘れてたわけではないのですけれど。
「駅に着くぞ、以世」
むむ、また誤魔化そうとしているような気がします!
ちゃりんとお金を払ってバスを降りて、訝しげにこちらを見ながら去っていく壱世の背中を見送りました。もしかして壱世の彼氏云々も聞かれたくないことを誤魔化すための口から出任せだったんじゃないですか? さあ、洗いざらい話してもらいたいもんですが。さあさあ。
「だがな以世…奴も公衆の面前で以世を泣かせにかかるわけにもいかぬのだ」
…確かに内容によっては泣くかもしれません。
「話すならば家でだ」
ですがわざわざバスにお金払ってまで駅前に来てしまったわけですし、うーーん。
「そこで悩むのが以世よな」
以世にとってお金は特別なものです。
両親は死んでしまってもういませんが、このお金は生きている祖母が働いたり山を売ったり貯金を崩したりして苦労してやりくりしている大事なお金です。無駄に使ったりはできません。
「…ふむ、だが金額が…いや。では余計にすぐ帰るわけにはいかぬな」
でもやることがない…。お金のかかることはできません。どうしようどうしようとベンチに座って悩みます。
「図書館に行こうかと朝言って…」
六波羅の言葉の終わりは呆けたような妙な響きをしていました。そのまま黙り込んだ六波羅は人の行きかう駅の前を眺めていました。そんな六波羅を見上げて、以世は声をかけてみます。どうしたんだ?
六波羅ははっと我に返りました。何かあったのですか?
「いや…いや、知り合いによく似た者がいた」
六波羅は目を細めて嬉しそうに言いました。
「…本当によく似ていた」
長く吐く息に混ぜた六波羅のつぶやきは以世の好奇心を十二分にくすぐりました。昔の友達に似ていたのですか?
「友…? いや、友と言えば友であろうが、あれとの関係はどう表現したらよいだろうな…」
六波羅はぼんやりと虚空の彼方をみつめながら、やがてこういいました。
「いうならば…そう…せふれ?」
聞かなきゃよかったと以世は心から思いました。
「互いに相性がよかったからな」
そうですか…。
「あれは酷く我が儘でな、よく様々な難題をふっかけられたものだ。大体の注文をこなしてやったが…」
六波羅は寂しそうな、懐かしそうな、少し痛そうな、でもすごく満足そうな顔で微笑みます。
「思えば奴はぱしらされてばかりだったな」
いつも余裕ぶっこいてふざけた態度の六波羅がこんな顔を…。
以世はその友達の話をするのが嬉しくてたまらないらしい六波羅を見て質問をしたくてたまらなくなりました。それって女の人ですか?
「ああ、子を孕むことはできぬと言っていたが、間違いなく女人よ。まあ下半身を見るまでどっちかわからぬ程度には中性的だったがな」
突っ込みするのはやめておきましょう。綺麗な人だったのですか?
「ああ、美しかったぞ。そして自由だった」
うん、なんか話を聞く限りかなり自由人っぽいですが。
「ああ、その通りだ。だがあれは足が不自由でな、奴が担いでやらぬと外にはでられなんだ」
なんか泣かせにかかる本みたいですね。
「まあ、あれに想い人ができてからお役御免になったわけだが」
六波羅は肩をすくめます。
「恋をしたのだな、あれは。恥ずかしながら奴は長く世に留まってはいるが、未だに恋やら愛やらよくわからなんだ」
以世は遠く記憶の彼方に意識をとばしているような六波羅の表情を見て、ぽつりとこぼしました。
六波羅はその人のことが好きだったのですか?
「ファッ!?」
いつになく間抜けな声を上げて六波羅は以世を見返しました。なに言い出してんだこの子は! という顔でした。
凄く大切な人だったんでしょう、その人。
「大切…? というか、悪友というか、共犯者というか…」
そう六波羅はまるで言い訳するように言葉を探していました。
「好きには好きだが好きとか嫌いとかそういう問題には…考えたことが…なかったな…」
六波羅は複雑な表情で考え込んでしまいました。すけこましが動揺しています。ちょっと面白いです。
「…そうさな、もしかしたら、愛していたのかもしれぬな」
六波羅は軽く息をつき参りましたと言うように言います。
「しかし、あれには恋い焦がれる相手がいるからな。それも、並大抵の愛ではない。奴には歯が立たぬ。…あれが奴を愛することなどありえないことだ。想像すらできぬよ」
六波羅は苦笑しながら言いました。その人はとても情熱的な人だったんですね。
「ああ、恐ろしいほど」
六波羅にそこまで言わせるなんて、すごい人だったんですね。恐ろしや、昔の人でよかった。
「…しかし、愛か。奴の愛では誰かをつなぎ止めることもできぬだろうな」
そのつぶやきをかろうじて聞き取って、以世は首を傾げました。
すけこましだからですか? 以世がそういうと六波羅はそうかもなと肩をすくめてみせました。
「さて、雑談はこれぐらいにしてそろそろどこかに移動しようではないか」
そうですね。今何時でしょう。以世が腕時計を見ると六時半でした。
んっ?! 家を出るときは九時前後だったはずですが…よく見ると秒針が止まっています。電池切れのようです。電池交換…千円くらい…。お札に羽が生えて飛んでいきます。でもまあ、ケータイあるから時計は…いい、です、かね?
「では時計屋を探すか」
仕方がありませんね。大きなため息をついて以世はよいしょとベンチから立ち上がって歩き出します。
少し歩くと、さっきまでいた所から六波羅の焦った声が聞こえてきました。
「ちょ、以世! 以世! 落としているぞ! 以世…」
なんだよもう…うるさかったので無視していましたが、いきなり声が聞こえなくなったので振り返ってやります。ですが六波羅の姿は見あたりませんでした。
六波羅? どこいったんだあいつ。辺りを見回しても、坊主もどきはどこにも見当たりません。また慈善病院のときみたいに探検にでも行ったのでしょうか…。以世がきょろきょろしていますと、さっき以世と六波羅がいたところに見覚えのある後ろ姿があるのに気がつきました。主計じゃないですか?
思えば主計と六大呪家関係以外で学校の外で会うのは初めてです。
おーい主計ー。以世が主計を呼んで駆け寄ると主計は以世を振り返りました。なんだかやたら難しい顔をしているようですかどうしたんでしょう。
「………………以世」
主計は困っているみたいでした。なにかあったのですか?
「………いや」
主計は以世から目をそらして右拳を握り締めました。
「なんでもない」
とてもなんでもない雰囲気ではないのですが…。
「以世はどうしたんだ? こんな所で」
用事もないのに家を出てきてしまってふらふらしているのです…。
「なんだそれ」
主計はおかしそうに笑います。
外で会うのは珍しいですが、主計はどこかにいく予定だったのですか?
「ただふらふらしてただけ。暇なんだ」
主計はなんとなく忙しそうなイメージでしたが、暇なこともあるんですね。
「基本は暇さ。やることもないし、できることも少ない」
そうなんですか?
「身分証明書がないからな」
そういえば主計には戸籍が…。
「図書館で貸し出しカードを作ることもできない。結構不便なものさ」
偽造とか作れたらいいんですが。いいことじゃないですけど、偽造ものが出回る気持ちがわかった気がします。
「一の家は俺にそこまでの金はかけないさ」
主計はポケットから腕時計を出します。
「こんな時間か」
腕につけないんですか?
「付ける習慣を付けてうっかり付けっぱなしにして狩りにでたらベルトが千切れるからな。時計のベルトは意外と値が張る。基本文無しだからな、危ない橋は渡らないんだ」
なるほど。でも主計はあんなに狩りで働いているのにお小遣い貰えないんですね…。
一の家はお金持ちそうなのに。以世はなにやら納得いきません。主馬は豪快に金使ってそうなのに、この差ときたら!
「仕方ないさ、俺はイレギュラーだからな」
その言葉を聞いて、以世は祖母の話を思い出しました。まさか主計はお妾さんの…?
「その方がことが簡単でよかったんだけどな」
むむむ、なんだか思ったより一の家はややこしいみたいです。
「以世、これから暇か?」
暇です。すごく暇です。
「辺りをうろつくだけだけど、つき合ってくれるか?」
以世は喜んで頷きました。なんだか仲良くなった野良猫さんに縄張りの見回りに誘われた時のような気分です。
「俺は野良猫か」
そういえば以世も時計の電池が切れてしまったんでした。
「行くか? 時計屋」
行こうと思っていたのですが、やはりお金がないのでいきません。ケータイありますしね!
「そうか?」
以世と主計は何をするでもなく駅前をふらふら歩いて回ります。面白い物があるわけでもないのですが、なんでもないことを話し歩くのは楽しいものです。
図書館にきてこっそり主計の借りたい本を以世が借りて又貸し行為をしているとき、以世はふと気がつきました。六波羅いませんね?
「…そうだな」
どこいったんでしょうね。呼んでみます?
「寝てるかもしれないから放っておいたほうがいいさ」
それもそうですね、静かでいいですし。
「…」
いきなり以世のケータイが鳴り始めました。やばば、マナーモードにするのを忘れていたようです。
以世は慌ててケータイを取り出して気がつきました。家紋の根付けがない! どこかで落としたのでしょうか。だから六波羅いなかったのでは?!
ケータイはすぐに鳴り止みました。メルマガだったみたいです。以世はマナーモードにしてから辺りをきょろきょろし始めました。今日はやたらと主計とうろうろしましたからどこで落としたのかさっぱりわかりません。いや、六波羅が慌ててたのは主計と会ったときくらいですからあそこにあるかもしれません。
主計、戻ってもいいですか?
「…かまわないけれど、六波羅様のこと結構うざがってなかったか?」
六波羅はいようがいまいが…いや、そりゃまあいるとうざいですが少しは面白いですけどね? まあそんなことはどうでもいいのです、うん。でもあの根付けは祖父がくれた大事なものですから。
六波羅はついでです、ついで! 以世がそういうと、主計は以世の後ろを歩きながらしばらく何か考えていました。
「以世?」
図書館を出まして、駅へ向かう途中です。割と人もまばらな場所でした。主計はためらいがちに口を開きました。
なんでしょう? 早く駅前に戻りたい以世はもどかしそうに主計を振り向きます。
「以世は六波羅様が好きか?」
うざいですが嫌いじゃないです。
けろっとすぱっと答える以世に対して、主計はそうかと俯きました。
「…以世、六波羅様は…六波羅様は、お前が思ってるような人じゃない」
主計? いきなりどうしたのでしょうか。
「あの人は恐ろしい人だ。一緒にいるのは、以世のためにならない。…絶対に」
なんか変ですよ、主計。
以世が苦笑して言いますと、 主計は唐突に以世の腕を掴んで真剣な目でつづけます。主計の掴む力が強く、以世は痛みで呻きました。
「できるなら、家族でこの町をでたほうがいい。早く六大呪家と縁を切らないと…」
「切らないと、どうなるというのだ? 『主計』」
二人がはっと顔をあげると、主計の背後に六波羅が現れていました。
主計は慌てて以世の腕を放そうとします。
「主計、手を放す前に隠し持っているそれを以世に返さぬか」
隠している? 主計が? なにを? 以世は何がなんだかわかりません。主計は渋い顔で首を振りました。
「…なんのことやら」
「らしくないな主計、潔いことがお前の売りではなかったのか?」
主計は黙り込んで六波羅を睨みつけていました。
「返さねば奴が消えるより先に代わりとしてそのイチモツを切り取るぞ」
冗談めかしていう六波羅に以世は呆れてしまいます。元気そうなので心配損をしたと思ったのです。ですが、主計は六波羅を睨んだまま微動だにしませんでした。
「なんだ、五の家の自称当主に何か言われたか?」
「邪推をなさらないでいただきたい」
「やましいことが何もないなら問題はなかろう」
それでも主計はしばらく動きませんでした。
「それが受信機のようなものだと言うことを忘れるなよ主計」
六波羅がそういうと、主計は何か考えていたようですがゆっくりとした動作でポケットへ手を伸ばしました。腕時計の入っているポケットです。
「以世、手を」
主計に言われるままに手を差し出すと、主計の右手からきらりと光る何かが落とされました。それは以世の落とした家紋の根付けでした。主計、これ…。言いかけた以世の言葉を六波羅の大きなため息が遮ります
「やれやれ、やはり当主の側でないとな」
六波羅は主計にばちこーんとウインクして見せると言いました。
「主計、お前が拾っておらなんだら今頃以世は泣いておっただろうな。礼を言うぞ」
六波羅がいないくらいで別に泣きませんけど?
「以吉の形見がなくなるのはよいと?」
それはよくありませんが泣いたりはしません。
「うむ、男が泣いていいのは親が死んだときと財布をなくしたときだけよな」
なんですかそのピンポイントな泣きどころ…。以世が六波羅と話している間、主計は苦い顔で六波羅のことを見ていました。
「主計、眉間に皺がよっているぞ」
「…寄りもします」
「苦労が耐えぬな」
「ええ、本当に」
「あまり気にするな、はげるぞ」
「お心遣い痛み入ります」
苦い顔の主計に声をかけようとした以世でしたが、またしても六波羅の上げた声に邪魔されてしまいます。
「以世、迎えがきたようだぞ」
迎え? なんのことかと思っていましたら、いきなり主計が掴んだままの以世の腕を誰か別の人に掴まれました。
「ちょっとアンタなにしてんのよ」
以世の腕を掴み、ギリギリ締め上げているのは壱世でした。出かけたんじゃなかったのでしょうか。
「私が何処にいようと私の勝手じゃない!」
かみつくように言われました。壱世ご立腹です!
「主計、これが以世の未来の嫁だ」
「妹さんと結婚できるなんて初めて聞きましたが」
主計は小声です。
「何ぶつぶつ言ってんのよ。大体以世の腕無理矢理つかんで何するつもりだったわけ?」
するりと主計の腕が離れると、壱世は毛を逆立てながら以世と主計の間に立ちふさがります。
壱世、なんか勘違いしてるみたいだけどこいつは俺の友達の…という以世の言葉は壱世の一睨みで引っ込んでしまいました。
「以世が最近なんかおかしいのはあんたのせいでしょ!」
びしぃっと主計にむかって指をさした壱世を相手に、主計はどうしたらいいかわからない様子でした。
「壱世の言うことはあながち間違ってはいないな」
六波羅うるさいです。
「…」
主計そこは否定していいんですよ! 大体全部悪いのは六波羅なんですから。
壱世は見えないし割と現実的だから、きっと六波羅のこととか信じてくれませんし。
「正しくはある」
そう言って主計はそのまま考え込んでしまいました。
主計! 主計しっかりしてください! というか壱世、時々食卓で話するじゃないですか! 彼は主計です、主計! お昼ご飯の主計!
「…あの変な苗字のカズエさん? あの人…女子じゃなかったの?」
男です。そりゃあちょっと可愛い名前ですけど。
「名前が可愛いのは俺のせいじゃない」
自覚があるようです。
それはさておき今まで以世は食卓にて主計に関して変な話をしたでしょうか、いやしていません!
「たっ、確かに今までの話を統合するといい人みたいに思えるけど…」
壱世は主計の名前でひどく考えさせられているようです。
「以世、いつも食卓でどんな話を…」
色々です! 以世の返事に主計は「色々…?」と首を傾げてしまいますがそんなことは気にしません。
「くっ…変な奴に一本釣りされるくらいなら学校のカズエさんをけしかけてつきあわせようと思っていたのにこれじゃ無理じゃない!」
その前に多分主計は壱世くらいには捕まらないと思うからはなから無理だと思う。
「そういうことをいってるんじゃないと思うぞ以世」
「男同士くらい構わんのではないか?」
脈絡のない六波羅の一言に以世はため息をつきました。六波羅がいると話がややこしくなる気がします。でもまあ、とりあえず特になんでもないから気にしなくていいんですよ壱世。
「…」
不満そうです。
「…俺はもう帰った方がよさそうだな」
「逃げる気!?」
「いたほうがいいならいるが…」
「さっさと帰れ!」
どっちですか。
壱世の威嚇で見送られながら、主計は帰って行きました。…で、今日はデートなんじゃなかったんですか?
「デート? デートなんて、その、できるわけないし」
壱世はぷいとそっぽを向いてしまいました。おや、なんだか気になる反応ですね。いるんだ、彼氏。
「彼氏じゃないし…まだ」
へーえ。ぜひとも見てみたいものですね。
「いや、今は…無理」
そうなのですか?
壱世はそれきり以世が彼氏について質問すると完璧な無視を決め込まれてしまいました。
…それにしても壱世はちょっと以世を心配しすぎな気がしますね。
「ぶらこんというやつだな」
そうなんでしょうか。でもまあ、今日のことを考えるとお互い様なのかもしれませんね。今まで強く生きようと互いを励ましあってきたわけですし…いえ、以世が壱世にしっかりしろと殴られていただけでしょうか。
で、今日のお出かけはよかったんですか?
そう以世がきくと、壱世はやっと答えてくれました。
「いいのよ、友達のデートの追跡する予定なだけだったから」
へー、そんなことを…楽しそうですが、趣味が悪いですね。
「ま、うち女子校だから、誰かに彼氏ができるとみんな面白がるのよね。悪ノリの集大成よ。正直興味なかったし、ちょうどよかったわ」
その割には朝そわそわしてましたけどね。
「そんな日もあるわよ! 文句あるの?」
ないない、なーいーでーすー。壱世のツンケンは今に始まったことではありませんが、彼氏ができたなら相手は大変そうですね。
「人の心配より自分の心配しなさいよね。以世は顔がモブみたいに普通なんだから」
うっせ。
二人は珍しく揃って家に帰りました。祖母からはとても驚かれました。そういえば、二人で揃ってどこかいくのはひさしぶりでしたね。今日のがどこか行ったとカウントできるかどうか微妙な所ですけど。
帰るまでに壱世からはやたらと以世の最近の人間関係を根ほり葉ほり聞かれました。
もちろん六大呪家については秘密ですが、やっぱり最近の壱世はいつなく心配症な気がしますねぇ。
朝のお勤めをすっぽかしてしまったことは祖母には内緒にして、以世は六波羅様の部屋に籠もりました。
さあ、話してもらいましょうか。
祭壇の前に敷いた座布団に正座をした以世を相手に、六波羅は祭壇のど真ん中に座って答えました。
「ふむ、何を話す?」
両親の死に関してのことに決まっています!
今まで散々先延ばしにしてきたのですから、今度こそ洗いざらい吐いてもらいますよ!
「うむ」
六波羅はやはりなとでもいいたげな顔で俯くと、しばらく黙っていました
「そこまでいうならな…何から、話すか」
最初から全部です。何もかもです。
「…そうさなあ、長いように思えたが、いざ話すと意外とさらりと終わるかもしれぬな」
せかす以世をなだめながら、六波羅はぽつりぽつりと話し始めました。