プロローグ
地球歴二五八二年九月二十五日―
『隕石激突‼人類史上最大の被害―』
『世界各国未曾有の大災害発生!死者十二億人。行方不明者八億人―』
『隕石衝突防げず…。人類滅亡の危機か?』
しわがれた老骨の手が古びた記事のコピーされた本のページをめくる。
『人類に希望の兆し』
『各国手を取り合い復興開始』
『復興支援物資の盗難被害相次ぎ発生』
『首都で軍と市民の衝突。合わせて十二名の死者。負傷者五十三名』
『他国領土侵入!軍がこれに応戦!』
『イハラム、オフターニアにて内乱勃発!』
『異質?奇形児現れる。病院にて検査』
『新たに奇形児が見つかる。スーベニア国から調査団が派遣。能力者と名付けられる』
老骨の手の持ち主がその記事に乗せられた文字をなぞり告げると再びページをめくった。
『水を操る子供。人命救助を行う』
『国王。土を操る子供を復興植林展へと招待』
『皇太子、能力者を殺害!罪に問われず?』『能力者弾圧組織立ち上がる』『能力者根絶運動開始』『デモが各地で相次ぎ発生!』『新たな戦争兵器開発!レジェンドグロウと名付けられる―』
いくつもいくつもページをめくりめくり続けるとぴたりと止まる。
『ダリウス国王。能力者根絶を宣言!』
老いたその瞳に陰りを現すとゆっくりとページをめくる。
『能力者対人間。革命戦争開始!』
『能力者が街を襲撃!死傷者多数』
『ラウス皇太子殿下誘拐未遂及び皇后暗殺』
『革命戦争終結か?首謀者、マクスウェル=バッハシュタインの死亡確認』
はあと息を息が聞こえる。そして、その文字を隠すようにページをめくる。
『高級住宅街殺人事件。王家所有別荘にて、王家の関係者を殺害。容疑者である十八歳士官候補生拘束』
『高級住宅街殺人事件。新たに首謀者を拘束。関係人物との親しい間柄であったと判明』
『ダリウス国王逝去―』
『山村の村襲撃事件。死亡者行方不明者多数。生存ゼロか?』
『各諸国同様の事件発生。国際会議が開かれ―』
「失礼いたします」
若者の声が響くと、そのしわがれた手はそのページで止まった。
「元帥。スーベニア郊外の採取場の村が身元不明の者達に襲撃されたとの情報が入りました。すぐに向かいます」
「分かった。私も行く。タルタロスは?」
「はい。いつでも出航可能です」
「分かった。急ごうか。また、残りの後始末へとまわされない様にしなければいけない」
「はい」
その返事と共にぱたりと本が閉じられた。
「アル。あれ。ほら」
十代を過ぎたであろう茶髪の少年が金髪の少年と煙の上がる山を指さす。
「火事……かな?」
「さあ?」
「さあって……」
「こっちにゃ関係ねえからいいよ。それに、どうせすぐわかるだろ?速報とか流れれば」
「まあ……」
「それより早くしないとまた爺からどやされるぞ」
「分かった。あ、待ってグレイ。待ってよ」
金髪の少年が茶髪の少年を、ひび割れたコンクリートの地面とビルに囲まれながら追いかけるが、気にするようにその煙へと視線をちらつかせた。しかし徐々に距離を置き離れていく少年を見て慌てて追いかけていった。
ごおおおと辺り一面を、燃え盛る炎が音を立て、黒い煙を吐いていた。その炎に、多くの木造で出来た建物や、周辺にそびえたつ森が飲み込まれていた。そこはもともと村だったのだろう。周辺に高いビルや行きかう車もなく、道はならされた地面だった。
その村を飲み込んでいる炎は森や家だけではなく、人をも燃やしていた。銃で撃たれ穴だらけになっている者、えぐれた地面の中に肉片となり四散した者、燃えている家に押しつぶされた者と、多くの人間が無残な姿でその最期を遂げ、子供や赤子であろうと、燃え盛る炎の中にその身を焼かれていた。
それを、一人の少女が地面にへたり込み、涙を流しながら呆然と見ていた。
少女は十代を少しすぎたであろう、長い黒髪をしていたが、炎の光に照らされオレンジ色に染まっていた。少女の顔や体は、煤や自分の血で汚れ、ぼろぼろの服を身にまとい、首にはガラスのペンダントを下げていた。ペンダントは炎の光を受け、赤やオレンジ色に光り、炎によってできた熱風でゆらゆらと揺れていた。少女はゆっくりと頭を動かし、燃え盛る家々を見渡した。そして、凍りついた。
―どうして、なんで。皆。なんで。どうして、どうしてっ―。
少女は肩を上下に動かししゃくりをあげると、頭をゆっくりとうつむかせていく。そして、涙を地面へとぼたぼたと落としながら、血と土で汚れた手で、顔を、頭をぐしゃぐしゃとかき乱しその場に崩れ落ちた。
「いや、いやいやいやあああああああああぁぁ……―」
二七九五年三月八日―。
スーベニア郊外。鉱山フェルナンド村襲撃事件発生。死者行方不明者四十七名。生存者一名――。