小さな恋人達
2014.4.23 名瀬 並葉様より頂いた、ユキのイラストを挿入いたしました(^^)
可愛い! 可愛く書いて頂けて本人も喜んでいるでしょう。これから出番が少なくn(削除)
本当にありがとうございました!
名瀬様情報はこちらです。
なろうマイページ http://mypage.syosetu.com/310194/
みてみん http://8694.mitemin.net/
魔王様の短編が、物悲しくて私は好きでした。かっこいい。
翌日。
蒸し暑い夏の午後、机に向かっていたアサギはスマートフォンの着信に気づいた。
『アサギちゃん、こんにちは! 明日、用事ある?』
ユキである。弾んだ声を聞いて、アサギは自然と嬉しくなった。友達が楽しい時は、自分も楽しい。哀しければ、自分も哀しい。
キィィ、カトン。
ユキの声に交じって、妙な音が鳴った気がした。首を傾げたものの、返答する。
「何もないよ? どうしたの?」
『ケンイチとね、遊びに行くことにしたの。アサギちゃんもミノル君を誘って、一緒に四人でお出かけしない? 映画見に行こうよ、感動するアニメ。春頃から話題で、公開を待ってた作品、もうすぐ終わるの』
納得したアサギは、大きく頷いて瞳を輝かせる。勇者になる前、ユキと観に行きたいと話していた映画だ。
「あぁ、あれ! うん、行こう! 連絡してみるね」
『きっと、ミノル君も来てくれるよ』
きゃいきゃいと数分色めき立っていたが、通話は終了した。
アサギは大きく息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出す。首を竦め、頬を染める。調子を整えると、大急ぎでミノルに電話をかけた。
逸る胸を押さえ、唇を軽く噛む。やはり、電話をかけるのは緊張する。かけなれている親しい友人に、ではない。教えて貰った、ミノル個人の携帯電話を鳴らすのだ。指が自然と震えた。
出て貰えなかったら、どうしよう、と妙な不安が付きまとう。
『もっしもしー』
「あ、ミノル君ですか。アサギです」
ミノルの電話だが、確認してしまった。おまけに、普段は呼び捨てなのに、焦った為“君”づけで呼んでしまう。
『お、おぉう! ど、どうした?』
ゲームをしながら電話に出たので、着信相手を見ていなかった。トモハルだと思って出たので、聴こえてきたアサギの声にミノルの声も途端裏返る。
ぎこちなく、二人の会話が始まる。
「あの、えーっと、明日ですけど」
『ぉう』
「ユキとケンイチが、一緒に映画を観に行くそうで。それで、私達も一緒にどうかな、って誘ってくれて。よ、よかったら一緒に。あ、映画は最近流行りのアニメので」
『あーあー、あれね、あれあれ! 俺も観たいと思っていたんだよな、行こうぜ!』
「ほ、ホントですか!? よ、よかった……。じ、時間はまた連絡するね」
『ぉう!』
震える二人の声は、始終続いた。会話は、呆気ないが終了する。
ほっと溜息を吐き、歓喜に打ち震えながらアサギはユキに電話をかけ直す。
「ユキ! 一緒に行くよ!」
『本当? よかった~、じゃあね、集合場所と時間はね……』
興奮していたので、大袈裟に頷いたアサギはメモをとる。間違いがないか再確認をしてから電話を切ると、再びミノルにかけ直した。
二度目の会話は、二人共多少の落ち着きを取り戻していた。
「……だそうです」
『わかったよ、じゃ、明日な』
「はい、また明日に」
終話したものの、胸の鼓動は早鐘の様。アサギは茫然としたまま、強張っている身体を解すように床に寝転がった。先程まで聞こえていた携帯電話を胸に抱き、ギュッと瞳を閉じる。
手は、まだ震えていた。
「よかった……来てくれるって。これは、デート、っていうのかな。……かな」
小さく悲鳴を上げると、顔を両手で覆い隠し床を転がる。
数分そうしていたのだが、我に返って急に立ち上がるとクローゼットを勢いよく開き、服を選び始めた。
「な、何を着ようかな。えーっと、えーっと」
自分の衣服を思い出し、気に入ったものを探し出す。何度か出し入れしていたが、結局、赤いチェックのワンピースにした。無難で可愛い。腰をリボンで縛るタイプのもので、ふわふわとしたシルエットが気に入っていた。
「ええと、ええと、持ち物」
シンプルなカゴバッグに、財布やらハンカチやらを入れていく。
掲げて眺めてみたが寂しかったので、バッグに大きなウサギのマスコットをつけてみた。すると、一気に可愛らしくなった。ネックレスに、イヤリング、シュシュを選んで見直していく。
「うん、これで行こう」
並べた明日の衣装を見つめ、アサギはようやく肩の荷を下ろすと微笑んだ。疲れたが、楽しかった。産まれて初めてのデートだ、気合も入る。全力で百メートル疾走した後の様に、未だに呼吸は乱れたまま。
昨日のプールは楽しかった、ミノルの眩しい笑顔を見ていられたので満足だった。しかし、欲を言えば少しだけ会話をしたかった。うきわに捕まって流れるプールに身を任せながら、他愛のない話をする。なんと贅沢な時間だろう。
アサギは苦笑し、頬を抓った。もし、勇者になっていなければ。一緒にプールへ行く機会など、なかっただろうに。
その頃、ミノルは悲鳴を上げながらベッドに転がっていた。
声を聴いたら、昨日の水着姿のアサギが鮮明に甦ってきた。刺激的で、眩し過ぎる可愛い人。華奢な手足に、同年代にしては大きな胸が脳裏から離れない。
「臍……臍が……あー、眠れねぇ!」
頭を振って、どうにか煩悩から逃れようとした。しかし、どうしても思い出してしまう。相当刺激が強かったらしい。
「あれは、駄目だ! あれだから、世間にロリコンが増えるんだよ! どんだけ無防備なんだ、めっちゃおっさん達に見られてたっ!」
喚くミノルの声は、隣の家にいるトモハルにも微かに届いた。
勉強していたトモハルは、不審に思いミノルの部屋を覗き込む。頭が破裂しそうな程に悶絶している姿を、一部始終見てしまった。大体何を考えているのか予測がついたので、頭をかきながら苦笑し、切なく溜息を吐く。
「いいなぁ、好きな子と一緒にいられて」
ぼそ、っと呟きベッドに腰掛ける。勉強する気がそがれてしまった、力なく横たわる。
好きな子など、トモハルにはいない。けれども、ひどく羨ましくて仕方がない。心から祝福はしているが、手放しで喜べない自分がいた。
「あぁ、そうか。俺は逢ってすらいないから」
何気なく呟き、寝転がったまま空を見上げた。吸い寄せられそうなほど青い空に、真白な月が頼りなく浮かんでいる。太陽の光に負けて、今にも消えてしまいそうなそれだが、頑なに輝いている様に思えた。
「昼間の、月は。……物悲しいね」
その時、惑星クレオでマビルが同じ様に月を見ていたことなど、トモハルは知らない。
やがて陽が落ち、月影さやかな夜がやって来る。
お読みいただきありがとうございました。
五月中には第三章へ移行します。
だらだら進みます、お暇がありましたら、またお立ち寄りくださいませ。




