プールで遊ぶ勇者達
市民プールは、予想通り混雑していた。夏休みが終わるので、駆け込みで遊びに来ている人々が多いのだろう。ここは通年営業しており、冬季は屋内のみで夏季は屋外の流れるプールでも遊ぶ事が出来た。雨天でも安心で、安くて楽しめる人気スポット。
「じゃあな、あとで!」
アサギとユキと別れ、男勇者達は我先にと更衣室へ向かう。そして、衣服を脱ぎ捨て水着に着替えると、体操もせずに一気に飛び込んだ。
係員に注意されて謝罪し、苦笑しつつ流れるプールに身を任せる。
妙にそわそわしているミノルとケンイチを、にやにやと笑いながら見つめたトモハルとダイキは、さらに流されていった。アサギとユキが水着姿で来るのだから、緊張もするだろう。体育の授業で水着姿は見ているが、今日はそれとはまた違う。
「でも、アサギは異世界で水着っぽい服を着てたよね」
「あー……そういえば、着てた。ゲームの女の子みたいな、少しエロいやつ」
トモハルとダイキはそんな会話をしつつ、持参した浮き輪に捕まる。
「のどかだなぁ」
「あっちでも海水浴したかった」
「そうか、ダイキは船に乗ったもんな」
「ああ。楽しかったよ、魔物に襲われたけど」
ダイキは思い出して苦笑し、水に潜った。
アサギとユキは、皆を待たせていることに焦っていた。しかし、女性の着替えは時間がかかる。着用してくるには、暑い。ようやく空いた更衣室に二人で入ると、急いで着替えた。
ユキはアサギを一瞥し、大きく瞳を見開いた。
……胸が、大きい!
平均より大きい胸なのは、知っていた。しかし、こうして実物を見ると以前よりも育っている気がする。思わず自分の胸を見て、舌打ちする。比較するのは、無謀だった。
アサギは着替え終えると、ゴムで髪を結上げる。水に触れないように、高い位置で縛った。
再程抱いた劣等感を隠しつつ、ユキもポニーテールにしてからピンクのシュシュをつける。今日の水着は、お気に入りのブランドのものだ。雑誌に掲載されていたものを、母に頼んで無理やり買ってもらった。とても可愛らしい、パレオつきのワンピースである。全体は薄いピンクで、パレオにロゴが入っていた。シュシュも同じブランドだ、似たような柄をわざわざ買った。
一方、アサギはセパレーツである。ビキニではないが、くびれた腰に程好い胸、すらりと伸びる手足が申し分ない。縁取りが黄色で緑色のその水着は、健康的だった。胸元には、小さなリボンが付属されている。
かぶらなくてよかったと、ユキは内心ほっとした。これなら、並んでも比較されずに注目を浴びるだろう。
二人は手を繋ぎプールへと向かう。裸足で歩くと、熱されたプールサイドが熱い。笑いがこみ上げてきて、きゃあきゃあ言いながら走らない程度に急いだ。眩しい陽射しに、手を翳して遮りながら勇者達を捜す。丁度、流されて一周してきたトモハルと視線が交差した。
すぐに大きく手を振り、二人を呼んだトモハルは歓声を上げる。
後方では、ミノルとケンイチが裏返った声を出した。脳に衝撃が走った、スクール水着を好む男もいるが、彼らはそうではない。
アサギのくびれた腰と、形の良いへそに釘付けになったミノルは赤面し、慌てて後ろを向く。水に入っているのに、身体が熱い。自分の周囲だけ湯になっているのではないかと思うくらいに、熱い。
「あれは。あれは……」
とても良く似合っているのだが、刺激が強過ぎた。
水に入ってきたアサギとユキに、トモハルがさり気無く声をかける。
「二人とも良く似合ってるね、可愛いや」
それは彼氏の台詞だろう!? とミノルとケンイチが目くじら立てたが、トモハルはけろっとしている。率直な意見なので、仕方がない。堂々と凝視している友人が、羨ましい。
……異世界でアサギが来ていた服のほうが、色っぽかったなぁ。
トモハルは、平然としてそんなことを考えていた。
口篭り、上手く言葉が出てこない自分達の彼氏に、ユキは軽く苦笑した。何か言って欲しかったが、赤面し俯いているケンイチが可愛らしかったので良しとする。
アサギは控え目にミノルに近寄ると、躊躇いがちに話しかけた。
「水、気持ちがいいね」
「お、おぅ……スライダー行こうぜ、スライダー! プールの醍醐味だろ!」
ろくに目も合わせず、慌ててダイキの腕を引っ張るとプールから上がる。
ダイキが遠慮がちにアサギを振り返ると、隣のトモハルが呆れて肩を竦めていた。
耳まで真っ赤になっているミノルに溜息を吐き、仕方なくトモハルはアサギの手をとる。
「行こうか、みんなで」
「うん、スライダー面白いものね」
苦手だ、というユキを強引に連れて、六人は何度もスライダーで遊んだ。混んでいるので、待ち時間中には談笑出来る。滑る頃には身体が乾いており、速く着水したい気持ちでいっぱいだ。
ただ、スライダーはやりすぎると水着が摩擦で薄くなり、穴が開くという恐怖がある。なるべくアサギを視ないようにと、一人でスライダーに並び、連続で滑っていたミノルの水着は帰る頃に穴が開いてしまうことになる。
他の勇者達は、がむしゃらにスライダーで遊ぶミノルを眺めつつ、まったりプールに浮かんでいた。
アサギは、無邪気に愉快に遊ぶミノルが見れただけで満足だった。
……よかった、楽しそう。
勢いで告白をしたものの、果たして現在付き合っているのかアサギには解っていなかった。けれども、傍に居られれば十分だった。そもそも、嫌悪されていたのだから、幾ら共に危機を乗り越えた仲だとしても、急に接近するわけがないと思っていた。
だから、これで良いのだ。
勇者らは腹が減ると、売店のジャンクフードを食べた。異世界より味は劣るが、楽だ。
そうしてまた泳ぎ、疲れたら子供用プールで座り込み談話する。それを繰り返して、ようやく勇者達は地球に戻ってきたことを実感した。
「やっぱ地球は楽だよな、何をするにしても。便利だ」
「食べ物は、あっちのほうが美味しかったけどね。空気も」
「また、行きたいなぁ。自由に行き来出来たらいいのに」
浮き輪に捕まり、同時に皆が溜息を吐く。辛い事もあったが、過ぎてしまえば良い思い出になる。勇者になってよかった、と彼らは思った。“世界を救い、仲間達は皆無事だった”からだ。これでもし、誰かが欠けていたらこうは思わなかっただろう。常に後悔し、罪の意識に囚われる。
アサギだけが、浮かない顔で広がる青空を見つめていた。親しかった魔族の仲間達を亡くしてしまった、その事実は消すことが出来ない。
「でもさ、どうなるんだろ。破壊の姫君」
「また召喚されるんじゃね? ピンチになったら」
何気なくそう言ったミノルに、皆が笑った。微かに、期待を篭めて。また、あの世界に行けることを願って。
彼らには、楽しい記憶しかなかった。ケンイチはバリィを目の前で亡くした、ダイキはロザリンドが海へ落下する瞬間を見た、それでも。勇者達には、光り輝く世界だった。
勇者という、誇らしい自分達。魔法を操り、剣を振り、魔物を倒す。終わりよければ、全て良しの世界。
「また、みんなで行きたいね!」
そこに、何が待つとも知らず。幼い勇者達は、そう願った。“また、行きたい”と。
願いは叶えられる。
ただ、願わねばよかったと思うことになる。その事実を、彼らはまだ知らない。
同じ小学生の友達同士が偶然勇者に選定され、導かれた先で勝利を手にした。そのように都合の良い世界が、本当にあると思うのかい?
お読みくださり有り難う御座います。
予定ではGW中に完結です。
また、お時間があればお立ち寄りくださいませ。