空気化した彼と私を撫でる掌の感触
何だろう、あきちゃんがものすごく何か言いたげにチラチラ見てる。
やっぱり、この封筒のこと気になるのかなぁ。
教室の自分の席に着くと、あきちゃんが小声で話してくる。
「で、本当は誰よ?夢の中の王子様は」
イケメンから王子様に変わってる。あきちゃんの中でどんな風に解釈されてるんだか。
「王子様って・・・・・・・・・・・・空渡君だよ、夢に出て来たの」
「ふ~ん、空渡君ねぇ。どこの高校?」
あきちゃんの返答に思わず固まる。
彼が魔法を掛けたの、私だけじゃないの!?
「あ・・・・・・あきちゃん、クラス委員って誰だっけ?」
「誰って、カネゴンとトーコでしょ?何言ってんの?」
カネゴンは金子隼人君。クラス委員を決める時に投票で空渡君に負けた。
トーコは夏木冬子ちゃん。あきちゃんの天敵な人。
「あ、そうだね。うっかりうっかり」
この間、あきちゃんに教わったテヘペロ?のポーズをしてみる。こんなんだっけ?
「あーもーカワイイなぁ、みれなんは!!」
あきちゃんにギュッと抱きつかれながらも考える。
どうやら、みんなも空渡君の事を『忘れている』らしい。
みんなに掛けていったのか、あの一回で全員分なのかは分かんないけど、空渡君の魔法の効果なんだろう。
でも、彼はそんなことをして何がしたいんだろう?
いなくならなきゃいけない理由・・・・・・なんだろう?
誰かに狙われてる?・・・・・・魔法で対処出来そう。
ファンタジーな世界へ・・・・・・って、魔法使える時点でここも十分ファンタジーだよ。
あきちゃんの手がヘンな動きを始めたので、とりあえず引き離す。
「あら、残念・・・・・・って、教室だもんね」
「ウィンクされても・・・・・・教室じゃなくても同じ対応するよ」
冗談なんだか本気なんだか・・・・・・。本気だとかなり困るんだけど。
封筒の中身が気になるけど、ここで開けると・・・・・・。
でもさっき、落ちた封筒をあきちゃんは気にしなかったよね?もしかして?
堂々と机の上に封筒を置いてみる。
あきちゃんは気付かない。見えてないような感じだ。
しばらく置いたままにしても誰も何も言わない。
まるで封筒が存在してないみたいに。
やっぱり、これにも空渡君の魔法がかかってる。
そんなにみんなに見られたらダメな内容なのかなぁ。
なんか、ドキドキしてくる。
昨日の事が思い出されて余計にドキドキする。
・・・・・・あの時、続いてたらどうなってたんだろう・・・・・・
「何、百面相してんの?」
頭に手がポンと載せられる。
やっぱり、男子の手は違うんだな・・・・・・。
それとも、空渡君が『特別』なんだろうか?
載せられた手がゆっくり頭を撫でる。
心地の良い感触に思わず目を閉じ・・・・・・。
「みれな~ん、寝ちゃダメだよ~」
撫でていた手が軽いチョップをする。
「ふみぃ・・・・・・」
「ほら、先生来ちゃうって。」
時計を見ると、後十数秒でチャイムが鳴る。
慌てて封筒を机にしまうと、姿勢を正した。