奇妙な夢と奪われた私の大切なモノ
誰かと並んで歩いている。知ってるはずなのに、誰だかわからない。頭の中にかかった靄が邪魔をする。
ここはどこだろう。知ってるはずなのに、わからない。
写真や映像で見たとかではなく、実際に歩いたことのある場所のような気がするけれど、思い出すことが出来ない。
再び、並んだ誰かを見る。同じ高校の制服を着た男の子。
何故だか胸が熱くなる気がする。でも、わからない。
知らない。『思い出す』事が出来ない。
男の子はどんどん先へ進む。同じくらいの歩幅で歩いているはずだが、追いつけない。むしろ、どんどん引き離されていく。
焦燥感に必死で追いつこうとする。
いつの間にか私は走っている。
全力で走っているはずなのに、歩いている男の子に追いつけない。
「***!!」
走りながら、思わず叫ぶ。けれど、自分の発した声が理解出来ない。私は今、何て叫んだか。
その声が届いたのか、遥か先を歩く男の子の足が止まる。
しかし、どうしてだか距離が縮まらない。
「***!!」
再び叫ぶ。きっと男の子の名前なのだろう、と想像する。
そこで『あぁこれは夢だ』と自覚した。
足を止めた男の子がゆっくりと振り返る。
いつの間にか二人の距離が僅か数メートルまで縮まっていた。
はっきりと見える男の子の表情。とても哀しそうな笑顔・・・・・・どうしてだろう。胸が締めつけられる。
「***********!?」
「*******」
私の発した言葉にまるで幼子の様に左右に首を振り、拒絶の意を示す。
「**!?********!?」
「・・・・・・もう一度会いたいのなら、手紙を探して。昨日の僕が遺した手紙を」
はっきりと聞こえた、男の子の言葉。何かを決断したような重く絞り出すような声。
同時に男の子が差し伸べた手を取ろうとした瞬間・・・・・・
激しい痛みが全身を襲う。
どうやら、ベッドから落ちたらしい。
寝相はそんなに悪い方ではない(はず)。
・・・・・・あれ?何だろう。何かがおかしい。
違和感の正体を探ろうとする。
昨日・・・・・・放課後、先生から用事を頼まれて・・・・・・『どこにも寄らずに帰宅して』・・・・・・うーん、いつも通りかぁ
とりあえず、シャッキリする為に顔を洗おう。
部屋を出て、下の洗面所へと向かう。
キッチンを通り抜けようとした時、僅かに漂う・・・・・・
「・・・・・・ドーナツ?」
今日は朝からドーナツなんだろうか?
・・・・・・ドーナツ・・・・・・ドーナツ・・・・・・何でドーナツ?
「おはよう、美澪奈」
「おはよう、お姉ちゃん」
母と妹の美羽が同時に反応する。
「おはよう。何で朝からドーナツ?」
私の質問に母が怪訝そうに答える。
「昨日、美澪奈が持って帰ったんじゃない。朝食べるって」
「え?私、ドーナツなんて買ってないよ?」
昨日は寄り道なんかしてない。母が何か勘違いしてるのだろうか?
「すぐに食べたいって言っても、『朝食べる』って言ってくれなかったじゃん」
美羽が拗ねたように言う。
「そんなこと言ったっけ?」
「寝ぼけてるの?いいから、顔を洗ってらっしゃい」
首を捻る私を母は呆れた様に見ていた。