男と女と秘密の部屋と謎のカード
IDを通し、扉を開ける。
音もなく静かに開いた扉をくぐり抜け部屋へと入る。
薄暗い部屋の正面に数台のモニターが設置されており、女性が何やらすごい勢いでキーを叩いている。
「精が出るな」
「うるさい、気が散る」
入室した男の労いの言葉は、あっさりと切り捨てられた。
男は軽く肩をすくめて、女の隣に腰を掛ける。
女の前には2台のキーボードが置かれ、それぞれの指が忙しなく動いている。
「で、会議はどうだったの?」
「会議の結果は・・・・・・『ADAM』の全勝だ。明日消去するらしい」
「急ね・・・・・・今日の明日なんて反対されなかったの?」
話しながらも女の目は複数のモニターの情報を絶え間なく捕らえ続ける。
「『ADAM』の決定に誰も反対はしないよ。 何せ『魔法使い』様が動き過ぎたからな。 」
「見つかったの!?アタシがここでこんなに努力してるってのに!!」
苛立ちのせいで、キーを叩く指の動きが一瞬止まる。
大きく息を吐くと、気を取り直したように再び打鍵の音が響く。
「いや、まだだ。特定はされていない。・・・・・・が、時間の問題だろう。ま、その辺りも『ADAM』が上手く処理するだろうが」
「 アンタの管轄なんだから、アンタが始末つけなさいよ。 アタシがここまでしてあげてんだから」
「そうしたいのは山々だが、魔法使いに『賢者の石』を使うには、うちだけじゃ予算的に厳しい。」
「予算は流石に協力は出来ないわね。こんな作業程度ならともかく」
「それは感謝してるよ、ホント。おかげでお姫様のお迎えの準備が出来るからね」
男の軽い溜め息に思わず女もつられる。
「・・・・・・キモっ」
「そういう言い方するなよ。戻って来た時には前よりも完璧になってるさ。」
「・・・・・・どーせ、アタシはそーゆー作業はヘタクソですよーだ」
拗ねたように口を尖らせる。こんなやり取りの間も両者の目は真剣にモニターを見続ける。
「あ、そうだ。コレ」
女は右手で机上に置かれたカードを手にすると、男へと適当に差し出した。
「『賢者の石』用のデータ。一応登録は済んでるけど・・・・・・彼次第ね」
「2枚あるが?」
男は2枚のカードを女の目の前でヒラヒラとさせる。
「邪魔しないで!見落としちゃうでしょ!?保険よ、保険。・・・・・・もう1枚は多分使わないとは思うけど」
女の瞳に哀しみが僅かに宿る。
「一応、アンタのIDの分で登録しといたから」
「ほっほー、それはそれは」
男がニヤニヤしながら、女の頬をつつく。
女のこめかみ辺りに青筋が浮かんだのは気のせいではなかろう。
「別々よ、別々!!一緒にするわけないじゃない!!アンタのは彼の分!!いーから、アンタは『賢者の石』の調整でもしなさーい!!」
「グッ・・・・・・」
右頬に『イイモノ』をもらった男はよろめきながら部屋を後にした。
数分後、深い溜め息ののち二人は同時に発していた。
「「アレがあんなのになるなんて・・・・・・ねぇ・・・・・・」」