表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第4部‐彼方の瞳‐
97/259

3章『彼方の瞳』:2

「なんか嫌な予感がす――」

 言いながら思いきり身をひねった直後、アストラルの装甲を掠めるように紫の閃光が突き抜けた。


「――――――ッ!?!?!?!?!?!?」


 あまりにも速過ぎる弾速に、飛鳥の喉が干上がる。

 映像の中のホライゾンが銃を構えたのを認識してから、1秒も経っていないはずだ。にもかかわらず、この10万メートルの距離を超えて紫の光弾が飛来したということ。

 そもそも今の攻撃は重光子弾のはずだが、あまりの弾速に直線的なレーザー描写の様にしか見えなかった。

「どんだけふざけた弾速してやがんだ!!」

 ほどんど悲鳴のように喚く飛鳥だったが、今の攻撃で重要なのはそれだけではない。

『それ以上に、避けていなければ直撃していたはずです! 100キロメートルも離れていたのにこの精度は異常ですよ!!』

 ホライゾンとアストラルの距離は直線でも100キロ離れているのだ。それほど距離が離れれば、銃口が0.1ミリずれただけで全く見当違いの方向に光弾は飛んで行ってしまう。

 それに加え、実弾ほどではないにしろ重光子弾も大気などの周囲環境の影響を受ける。それらを含めて今の攻撃を直撃コースに放つなど、異常としか表現できない。

 そもそもアストラルは未だ、視覚ではホライゾンを捕捉出来てすらいないのだ。

『アスカくん、気をつけて! 次が来るかもしれません!』

「分かってます!」

 答えて、飛鳥はアストラルの軌道を一気に下方向に向ける。

 目でとらえられる弾速とは思えないが、雲を突き破って狙撃された以上、下手に視界を遮るものが無い方が安全だと判断したからだ。

 水面近くに降下している最中にも、2発もの光弾が襲い掛かる。いずれも降下しながらタイミング良く機体をひねったりしなければ間違いなく直撃していたような攻撃だった。

 海面に激突する寸前でビームブースターを噴射し、機体の軌道を直角に曲げる。超音速が起こす衝撃波が海面を抉り派手にスプラッシュを上げる。

 コックピットの中で、歯を食いしばった飛鳥が叫ぶように言った。

「これで交戦許可は下りたってことなんだよな!? だったら展開してる艦艇は全部下がらせろ!!」

『しかし単機で交戦するのは……』

「クソの役にもたたねぇミサイル程度で仕事した気になるつもりか? アイツの狙いは俺なんだろ、だったら引きつけておくからさっさと引っ込めよ!」

『ですが足を止めるぐらいならば――――』

「流れ弾の面倒まで見きれねぇっつってんだろうが、すっこんでろッ!!!!」

『……わかりました、艦艇は全て下がらせます』

 激昂した飛鳥の怒鳴り声を受けて、小守は小さな声でそう答えた。

 視界に映ったマップの上で、アマテラス搭載のミサイル艦艇達を示すドットがホライゾンから高速で離れていくのが見えた。

「チッ、遥さんの言った通りだ。やっぱり戦闘になるんじゃねぇか」

 小守との通信をカットして、忌々しげに呟いた飛鳥。

 飛鳥とて、展開する艦艇が本気で沈められるとは思っていない。ホライゾンがそれを目的にしていたなら、既にそうしているはずだからだ。

だが言葉通り、相手の力も分からないのに流れ弾が当たらないように管理するなどできるわけがないとも思っている。

 そしてもっと根本的なところで、飛鳥は彼らのことを信用していなかった。

 戦力的に邪魔にはなっても役には立たないということもあるが、そもそも小守達が味方とも限らないのだ。アーク研究はあくまでも東洞という企業が行っているもので、国は直接には関係が無い。

 まずあり得ないとは飛鳥も思うが、背中から撃たれる可能性だって絶対にないとは言えなかった。

『アスカくん、一人で大丈夫なのですか?』

「今回ばっかりは一人の方がって奴です。敵ははっきりさせておきたいし――――っと!?」

 3発で一旦止んでいたホライゾンからの狙撃が、飛鳥の言葉の終わり際に再び襲ってきた。

 ほとんど直感で右に軌道を逸らすことで、直撃ぎりぎりで攻撃を回避するアストラル。だがその直後、回避したアストラルのその場所に超高速の光弾が襲い掛かった。

「ふっざ――――――」

 とっさに頭部をかばうように差し出された右の掌に紫の光が直撃する。まともに食らえばマニピュレータが破壊されてもおかしくない威力だ。

 だが、

「――――けんなッ!!」

 かざした右の掌が、光弾が激突する瞬間に激しい光を放った。

 新武装のハンドストライクから放射された爆発的なエネルギーが、圧倒的な威力を秘めた光弾をほんの一瞬だけ押しとどめる。

 瞬き一回よりも短い時間。それでもなんとか稼いだ一瞬の余裕で、アストラルはすれ違うように光弾を回避する。

 自分のとっさの判断で攻撃を防いだことで、飛鳥は思わず得意げな表情を浮かべ過ぎ去る光弾を目で追ってしまう。

 その瞬間だった。

「がッ!?!?」

 アストラルの肩の装甲にホライゾンの狙撃が直撃した。

 装甲にまっすぐ突き刺さる、あまりにも正確すぎる一撃だった。

 アストラルは肩を跳ね上げるように動かし、受けた衝撃を強引に受け流す。

 肩に走る鋭い痛みはVRでの痛覚接続によってつくられた疑似的なものだ。痛みがあるというのは飛鳥としてもあまり好ましくないが、頭で考えるより先に本能が機体を激しく動かして、直撃のダメージを軽減させていたのだ。役には立っている。

 だが姿勢制御など一切考えない無茶な動きは、着弾の衝撃も相まってアストラルから空中での自由を丸ごと奪ってしまう。

 激しく錐揉み回転したアストラルは、川面に投げつけられた石の如く何度も何度も水面に激突する。そのたびに鈍い痛みが全身を駆け廻った。

「こんにゃろ……!」

 その中でもアストラルは回転の勢いを水面との衝突によって打ち消し、なんとか二桁回数バウンドする前に機体の動きを取り戻した。

 大幅に減速してしまった機体の速度を取り戻すため、ビームブースターも含めて推進装置の全てを最大出力で噴射する。

 3秒とかからずトップスピードに到達したアストラルのコックピット内部で、飛鳥はきつく歯を食いしばっていた。

「今のタイミング……回避方法が読まれてたのか!?」

 タイミングから考えて、ギリギリで攻撃を凌いだその瞬間にはもう機体に命中していた。アストラル、というか飛鳥がどういった方法で攻撃に対処するのかが分かっていなければ、今の攻撃があれほどの精度で放たれるわけがない。

 偶然だとすれば嫌すぎるが、そもそもアストラルとホライゾンの相対距離からして、普通の狙撃自体が尋常ではない精度を要求する状態なのだ。その上で回避方向に正確に攻撃を受けるなど、偶然で済ませていい確率ではない。

(けど今の攻撃が狙ったものだとすれば、俺がどう攻撃に対応するかが完全に読まれてたことになる……。そんなのありえないだろ!)

 あるいは、ホライゾン側はアストラルの機体の仕様を何らかの方法で知っていたのかもしれない。しかし仮にそうだとしても、今の攻撃の対応に使ったハンドストライクは機体に実装してからまだ1週間と経っていないのだ。情報が漏れるにしても流石に早過ぎる。

『アスカくん、大丈夫ですか!?』

「大丈夫ではあるけど、そう何度も凌げるもんじゃないぞこれは……」

 切羽詰まった様子の一葉と、あるいはそれ以上に余裕がない雰囲気を漂わせる飛鳥。

 今の攻撃も最大限衝撃は受け流したが、ダメージは決して小さくないと考えていた。感じた痛みもそうだが、左肩のアクチュエーターの動きにはまだ問題はないものの、ほんの少しだけレスポンスが悪くなっているような感覚がある。

『けれどハンドストライクで防いだ判断は正解でしたね』

「とっさだったから自分でもよく分からないけど、新装備の性能っていうのに救われたかな。……でもだからこそ分からない、何でアイツはあんな完璧に当ててこれるんだ」

『やはり、こちらの動きが予測されている……?』

「実戦でのハンドストライクの使用は初めてなんすよ、向こうがそれを把握してるわけがない。それでも俺の回避を見てからじゃ、いくらなんでもタイミングが合わない!」

『確かに、今の攻撃はアスカくんの回避方向に置くように放たれていました。やはり……』

「もしかして、とは思うけど……。ええい、とにかくこの状況はマズい! こっちから機体を動かして、敵の狙撃を撹乱します!!」

 役に立つかは分からないが、直線的にホライゾンに向かうよりは多少はマシになるだろう。

 そう考えて機体を上に向けようとしたその瞬間、頭をかすめるように紫の閃光が空を切り裂いた。

「―――――ッ!?!?」

 飛鳥の喉がひきつる。

 前に視線を向ける余裕すらないまま、生存本能が身体を動かそうとする動きがダイレクトに機体に反映される。とっさにかざした左の掌に紫の光弾が直撃する。

 吸い込まれるようにまっすぐ激突したが故に受け流すことさえままならない莫大な圧力を受けて、通常時の最大出力でハンドストライクを照射していたはずの左手が大きく弾かれた。

 手首を引きちぎるほどの壮絶な衝撃は、疑似的な痛みだけで視界を白くはじけさせるほどだが、そんなことに意識を向ける余裕さえ今の飛鳥にはなかった。

(ま、ず……!?)

 思うよりも早く。

 光弾が襲い掛かる。

「ッッがあああああああ!!!!」

 左腕が弾き飛ばされた勢いで崩した姿勢をも利用し、アストラルは弾丸と頭部の間に右腕を差し込んだ。

 腕の装甲に直撃した光弾が一気に弾け、そのエネルギーを一瞬にして熱エネルギーと力学エネルギーに変換させる。

 それはまるで、爆弾が直撃したかのような威力だった。

「うっぐぅっ……!」

 攻撃を防いだ腕が逆に吹っ飛ばされ、本来防御したかった頭部に激突する。アストラルは真後ろにひっくり返るようにしてその衝撃をいなし、なんとか最悪のダメージだけは回避した。

 腕に鈍い痛みが走るが、着弾位置はアクチュエーターにダメージが伝わり辛い腕の装甲だ。だがそもそも盾として使えるほどの強度はなく、現にアストラルの白い装甲には深いヒビのようなものが入り、その内側の黒い部分をのぞかせていた。

 ハンドストライクによるダメージ軽減も出来なかった一撃。衝撃をいなしたとはいえ直撃した腕部へのダメージは尋常ではない。エネルギー伝達に少なからず影響が出ていることが、軽く動かした指先から伝わってきていた。

 姿勢を大きく崩したが、追撃の狙撃が来ない限りはそれ以上のダメージは受けない。

 先ほどからずっと、3発以上の連続攻撃は来なかった。ホライゾンは常に、3発ごとに長いインターバルを伴って攻撃を放ってきているのだ。

『アスカくん』

「まだなんとか……。でもこれ以上の幸運は続かねぇぞ」

 忌々しげに呟く飛鳥。

 そう。とっさの判断でなんとか攻撃を防ぐことはできているが、ダメージを逃がすという行為をできるほどの余裕はもはやなくなっている。

 攻撃を防げたこと自体、タイミングを合わせて頭部だけを守ろうとした結果に過ぎない。これでホライゾンが対策をして頭部以外に攻撃を加えてくるようなら、今度こそ一切の防御は出来そうもない。

「くっ、こりゃやっぱり思考が読まれてるとでも考えたほうがよさそうだ!」

『だとすると、機体の能力によるものだと思われます』

「そうなると対策なんざしようもないか。せめて狙撃さえなんとかできればいいんだが……」

『私見ですが』

「頼みます」

『恐らく、ホライゾンの狙撃銃はアストラルの主な武装のエネルギー供給方式とは異なり、バレットストック方式を採用していると思われます』

「なるほど、それで3発ごとにインターバルが……」

 重光子兵器等、エネルギータイプの武装には大きく分けて二つのエネルギー供給方式がある。

 一つはダイレクトフィル方式。発射時に機体から必要な分のエネルギーを必要なだけ供給し、攻撃を放つ方式だ。こちらは発射時に一瞬の溜めが必要になるため連射性は少し落ちるが、いつでも攻撃を放てるという特徴がある。アストラルの武装はほとんどがこれだ。

 もう一つはバレットストック方式。あらかじめエナジーコンデンサーなどに一定量のエネルギーをストックしておき、必要に応じてそれを開放する方式だ。一旦エネルギーをためると言うアクションが挟まるため、ダイレクトフィルに比べて出力に対する充填速度が遅くなるが、その分溜めたエネルギーがある限りは連射を続けることができる。今のホライゾンの武装、そしてアストラルのビームブースターがこの方式なのである。

『恐らくホライゾンの狙撃武器のリロードは15秒程度。すぐに次の攻撃がきます』

「でもだとしたら、あと2セットは攻撃を受けることになっちまう。そんなのもたないぞ」

『しかし……。っ! そうですアスカくん、オーバークロックを使いましょう! あれなら!』

「そうか! こっちの動きが読まれてるなら、こっちは弾丸を見てから避ければいいだけの話なんだ!!」

 何とも力技な解決法だが、敵が思考を読むらしきふざけたことをしてきている以上、こちらも強引に行かなければ対応しきれない。

 そうと決まれば後は早い。

「一葉さん、敵との相対距離は?」

『約4万メートルです!』

「最大2セットでちょうど捌き切れるか。だったらさっさと使ってやる。いきなりだけどフルタイムで稼働させるぞ、故障はすんなよ!?」

 機体の高度を少し上げて、アストラルは音速の3倍ものスピードで飛行したまま片手の指先を額に沿える。

「オーバークロック――――ッッ!!」

 言葉と共に、新システム『オーバークロック』が発動する。

 シミュレーターの時と同様、視界が明るさを落し、世界が見えない圧力に押しつぶされるかのように低速化する。褪せた景色の中で、やけに動きの遅い海面の様子が見えた。

 腕を動かし、視界に映す。

(よし、思考と認識の加速に問題はない。体感の動作レスポンスはかなり悪くなってるけど、それでもちょっと身体が重いって程度だ)

 実に現実時間から10倍ものスピードに加速された認識時間の中で、飛鳥はそれだけの思考を瞬時に巡らせる。実時間にして、1秒にも満たない一瞬のことだった。

 飛鳥のこめかみにピリッという痺れのようなものが走る。

(っ、頭痛はあるか……。でも思ったよりは酷くない、行ける!)

 程度は低いが鋭い痛みが走る頭から、強く歯を食いしばることで意識を逸らす。

 そうして見据えた前方の景色で、紫の光が瞬くのが見えた。

(来る――――)

 10倍の認識速度の中でも、その光弾はかなりの速度で襲い掛かってくる。

 だが今度こそ飛鳥はその攻撃を見切っていた。

 右肩に突き刺さるように直進する光弾を、身をひねることで回避。続けて胸の中心に襲い掛かる追撃も、機体の軌道を逸らすことで難なく回避する。3発目の攻撃も同じように、攻撃予測を見てから回避することさえ余裕だった。

 オーバークロック中は武器が使用できないという制限があるが、接近だけが目的ならばそんな制限は気にならない。ビームブースターも推進モードだけなら使用ができるのだ。

(余裕余裕、これならいける!)

 ホライゾンの狙撃の時間である15秒間も10倍に加速されてしまうのがネックだが、それでも2分少々の体感時間に過ぎない。

 そして飛鳥の体感で160秒ほどが経ったとき、さらに遠方からの狙撃が放たれた。

 だがそれを見切ることはオーバークロックを発動したアストラルにはたやすいことだ。

 放たれた3発の狙撃を、弾丸を見てから悠々と全て回避する。


 ――目標ロック

 ――相対距離約9000メートル

 ――接敵まで、カウント9


「いっくぜぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 オーバークロックを解除するとともに、背中のビームブースターを最大出力で噴射する。

 彩度を増した世界の中、アストラルは海面を引き裂くように駆け抜ける。

 1秒に1キロメートルを進むほどのスピードを維持したまま、視界の中心に収めたホライゾンの元へ。


 白い暴風が突撃した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ