2章『識者は黙し、意図は見えず』:5
『一つ目は、オーバークロックよ』
手元の資料に目を通しながら、遥はまずそう言った。
「オーバークロック?」
オーバークロックと言えばコンピューター用語か何かだったはずだ、と飛鳥は自分のあやふやな知識から検索してみる。
「確かパソコン用語で、CPUの処理速度を上げる改造がそんな名前でしたっけ?」
『正しくはCPUのクロック周波数を定格より高くして高速に動作させるものだけど、こっちでは少し違うわ』
あまり視界に表示させた資料は気にしなくてもいいのか、遥は概要ではあるがシステムの説明はほとんどしてくれるようだ。
『もともとアークにスペックシートなんてものはないから、実は何度か動作実験を重ねて出た実測値の平均を取って、そこからある程度のマージンを確保した値をスペックとしているのよ。だけど先日の戦闘でのバースト・ドライブ中の動作状態を確認したところ、それまでの私たちのスペック設定を大幅に上回るパフォーマンスを発揮していたの。当然バースト・ドライブ中は大規模なエネルギーによって、機体の性能が強引に引き上げられている部分もあるのだけどね』
となると、その新システムとやらはバースト・ドライブ中でしか使用できないものなのだろうか。そう考えた飛鳥だったが、それはどうやら違うようだ。
『まぁあくまでもバースト・ドライブ時は根本的な出力自体が上がっているから、機体そのもののパフォーマンスアップの余地があったってわけじゃない。けれど、システム側からかけられているリミッターに関してはまた別の話なの』
「……あっ。つまり何かしらの方法でリミッターを解除してやれば、バースト・ドライブを介さなくても機体のパフォーマンス向上ができるってことですか?」
『そういうこと。……そしてその一つが、パイロットに対する思考、及び認識力の強化システムだったの』
答えに辿り着いた飛鳥に、遥は頷いて見せた。
『恐らくはパイロットに負担を掛けないように、思考及び認識強化はある程度システムの強度を抑えられていたのでしょうけど、バースト・ドライブ時にはここの制限値が大幅に引き上げられていたの』
「そうだったんですか? 自分では気付かなかったんですけど……」
『当事者はそうかもしれないけど、周りから見ればデータなんて確認するまでもなく一目瞭然だったわ。両機のバースト・ドライブ中なんて凄いスピードの戦闘だったから、あれが通常の処理強化だったならパイロット自身が追いつけていなかったはず。でもアスカ君もアルフレッド君も、その領域の戦闘に対応していた』
そういうものなのだろうか、と曖昧ながら頷く飛鳥に対して、遥はピンと人差し指を立てた。
『ただ通常時の頭部集中演算ユニットの処理能力自体は、私たちが設定したスペックで概ね間違いないの。でも搭乗者に対する脳の処理強化にかけられていたリミッターは解除できる。……つまり機体の演算処理能力さえ補助してやれば、バースト・ドライブ無しでのさらなる思考、認識強化を行うことができるというわけ』
「それが新システムのオーバークロックってことですか?」
『ええ、そうよ』
遥はまた手元のコンソールを操作すると、飛鳥の視界に映っていた資料の表示を変化させた。そこに映っていたのはアストラルの頭部……だが、何やら見慣れないものが付いている。
ただ飛鳥には、それは菱形の赤い物体としか表現のしようがなかった。
「これは……?」
『それはクロック・クラッカと言って、外付けの演算補助装置よ。バーニングに搭載されているのと大体同じ、超小型の量子コンピューターなの。バーニングではこれをバースト・ショット発動時における火器管制システムの演算補助に使っているのだけど、アストラルではこれを思考・認識強化システムの補助に使うわ』
「それを使うと、具体的にどうなるんですか?」
『ズバリ、あなたの時間が加速するわ』
「時間が、加速……?」
何やらSFを突っ切ってオカルトじみた言葉が聞こえ、飛鳥の頭の中がはてなマークで一杯になる。うまく想像できないと言った様子の飛鳥に、肩を震わせた遥が続ける。
『これだけじゃうまくイメージできないかしら。まぁ感覚的には周りの時間が遅くなるのと同じなのだけど……いいわ、百聞は一見にしかずよね。試してみましょう』
『あの、遥。実験プランの順番で進めるなら、キネティックブースターの説明を先にした方がいいのでは?』
『……あら、それもそうね』
遥は少し迷った様子を見せてから頷くと、手に持った資料をパラパラとめくる。数枚疑似的な紙を数枚送ったあと、手元のコンソールを操作した。
同時に、クロック・クラッカの概要を映していたウィンドウの表示が切り替わり、タイプリーフの装甲を覆っている箱のようなものを映し出した。
「これも、何か新しい装置なんですか?」
『これはキネティック・エナジー・ブースター、略してキネティックブースターよ』
「あんまり略せてませんね」
『KEBなんて言っても味気ないでしょ?』
どうでもいいことに食いついた飛鳥だったが、片手を振るった遥にひらりとかわされる。
『概要に関しては書かれている通り、任意の物体が持つ運動エネルギーを増幅させる装置よ』
『これもエタニティがもたらしたアーク波の情報を利用したものでしたっけ?』
『それをもとに、ね。エネルギー源が分かったから、構造の理論も構築されたの』
飛鳥の知る限り、アーク波というのは元々この世界にあったもので、その他あらゆるエネルギーに対して非常に高効率で変換できる一種のエネルギー体なのだそうだ。全てのアークの動力源でもあり、世界中に満ちているという性質からほぼ永久機関たりうるアークジェネレーターの根幹を支えているものだ。
エネルギー変換に対しては様々なルールがあり、それがアークのライセンスやら適合レベルやらに関係しているようだが……。
適当に話を聞き流しているだけで『臨界エネルギー』やら『活性化』やら『固有波形特性』やら『エネルギーの平衡維持性』やらなにやらと、もういっそ清々しいほどの専門用語のオンパレードで飛鳥に理解できる範疇ではなかった。
結局嬉々として説明をする遥にギブアップの宣言をして、先に記述した通りの簡単な説明にとどめてもらったのだ。それでも飛鳥としてはやや辛い部分はあったが。
とはいえまぁ、端的にいえばどんなエネルギーだって直接生み出せる燃料のようなものだと考えてもいいだろう。駆動系その他に使われる電力も、フォトンライフルやフォトンブレードに使われている重光子の生成もアーク波の変換によって行なわれている。
『アーク波の超高効率な変換は、どのようなエネルギーに対しても適用できるというのが基礎的なルールよ。……だから熱や電気だけでなく、純粋な運動エネルギーの生成をも行えるのではないかという仮説がたてられたの』
結局のところ熱や電気も粒子運動の一種と言えるのだけどね、と遥は補足してから続ける。
『とはいえそんなサイコキネシスみたいな現象が本当に起こせるのかどうかは分からない。ただ、アークにはもともと接近する物体の運動エネルギーを減衰させる力学的バリアフィールドのようなものが展開されているのは、以前からの研究で明らかだったの』
「あれ、そんなもんあったんですか?」
『ええ、いくらアークのフレームがアーク波変換を利用したショックアブソーバーによって高い剛性を持っているとは言っても、それを覆う装甲はカーボンだったり軽量な金属だったりで、そう極端な強さはないの。それでもちょっとした機関砲程度じゃ傷も付かないことだってあるし、やっぱりトリックはあるのよね』
『そのアークのフィールドは互いに干渉して無効化し合う性質があるから、格闘戦ではダメージになりやすいんでしたっけ?』
『そこはまだちょっと検証が足りないから明言はできないけど、恐らくそうよ。あとアークから放たれる攻撃にも、その力学フィールドが乗るのではないか、という話も聞いたわね。こちらもいろいろと調査がいりそう』
曰く、そのようにフィールド干渉があるので、アークにダメージを与えるには爆薬なんかが割と効果的らしい。……が、実際には熱エネルギー等に対しても減衰がかかっている可能性があるとかないとか。彼女の言う通り、ここは本当に研究不足な領域のようだ。
そこまで語って、遥は『話がそれてしまったわね』と首を振った。
『ともかく、そのキネティックブースターは、アークのバリアが行っている、近づく物に逆方向の運動エネルギーを与えるという受動的な効果に対して、任意の対象に運動量を加算するという能動的な効果を生む装置なの。つまりは―――』
『こういうことです』
言葉を引き継いだ一葉―――タイプリーフが、その場でくるりと一回転し、それと同時にアストラルに向けて何かを投げつけた。
直後―――
フォン、という音が聞こえた気がした。
「えっ……」
頬を何かが掠める感覚こそあったが、だが視界には何も映らなかった。
(いや、捉えられなかった……のか……!?)
アークに乗る飛鳥の思考、及び認識能力は強化されている。それはこのシミュレーターでも同様だ。しかしタイプリーフが投擲した恐らくはクナイ型手榴弾は、飛鳥の視界にはその残像さえ映らなかった。
狙撃砲レベル、いや下手をするとそれ以上の弾速だ。
『今のは投擲したグレネードに対して運動エネルギーを加算して、その弾速を速めました』
「速めたって、今のはいくらなんでも……」
『あくまで加算するのは運動エネルギーですので、対象が軽ければ軽いほど速度の増加は大きくなります。あとこれは装置の理論もできていないものなので、現象である速度増加だけを再現しているんですよ』
「あ、じゃあ実際に作ったらそんな風にはならないってことですか?」
『恐らくそうなるわ』
飛鳥の問いに首肯して、話を引き継いだ遥が続ける。
『例えば発動インターバルが大きかったり、ここまで極端な増加は起こらなかったりとか。そもそも単一の物体に対する運動エネルギー加算量はアークにもともとあるモノと比べても高出力だもの、このままではちょっと現実味が無いわね』
「なるほど……」
話はわかった、と飛鳥は頷く。しかしそうなると、現状実現不可能なこの装置の説明をしたのはどういうことなのか、と飛鳥が疑問に思ったところで、視界に映っていたキネティックブースターの表示が消えた。
『さて、ここまでは前座。そして、今のは速度増加もほぼ最高設定だったのだけど、アスカ君、見えたかしら?』
「いや……投げたのを見るので一杯で、飛んできたクナイは見えませんでした」
『でしょうね。それが通常の認識力強化の限界。――そして、ここからが本番』
「オーバークロック、ですか?」
『ええ、使ってみましょう』
遥の言葉に合わせて、タイプリーフが腰の収納ケースから新たなクナイ型グレネードを引っ張り出した。
来る、と感じた飛鳥は腰を低く落とし身構える。
『オーバークロックの発動方法は、額のクロック・クラッカに片手の指先を近づけて「オーバークロック」と宣言するの。どちらかだけでもダメだから気をつけてね』
『タイミングは私が宣言します。今度は本気で狙いますから、気を抜かないでくださいね、アスカくん』
「わかりました」
飛鳥の返事を待って、タイプリーフはぐっと全身を大きくひねる。やや大げさなモーションと共に、タイプリーフがその場で一回転した時、
『今です、アスカくん!』
「了解!!」
額に手を寄せた飛鳥の言葉と、タイプリーフの手からクナイが放たれるのはほぼ同時だった。
「オーバークロック!!」
宣言の直後、ズンッと世界全体に圧力がかかったかのように――――時間の流れが鈍化した。
(…………これは!?)
一瞬発生した視界のノイズが晴れたとき、それまでよりもどこか色あせた世界が広がっている。
そしてそこでは、たった今放たれたばかりのクナイとアクロバティックなモーションで宙を舞うタイプリーフの姿があった。
だがそのすべてが異様なほどに低速化している。放たれたクナイは視界の中心に収めることすら難しくはないし、宙を舞うタイプリーフの動きは遅いなんてものではなかったのだ。
「これが……オーバークロック…………」
言いながら、飛鳥は正面から迫ってきていたクナイを首を振ってかわす。
自分の動作だけ据え置きというわけではないらしく、飛鳥のイメージに対してアストラルの動作は遅い。ただタイプリーフの動きの遅さを考えれば、普通よりもやや早いようだ。
余裕綽々でクナイを回避して身をかがめていると、タイプリーフが地面に着地した直後に、ほの暗かった視界が彩度を取り戻した。
『うん、やっぱり回避は余裕みたいね』
「これ……予想をぶっ飛ばすレベルでスゲーんすけど……」
『ふふ、でしょう?』
茫然とした様子で呟くように答えた飛鳥に、遥は得意げに笑ってみせた。
その様子を見て、もしかしたらこのシステムを考えたのは遥だったのではないかと飛鳥は予想した。
『とはいえこれもシミュレーターで再現するときはアスカ君の時間を速めているのではなくて、アスカ君以外の全ての時間を遅くさせることで再現しているの。だから実際とは違ってアスカ君自身に負荷はほぼ無い』
「……つまり逆に言うと、実際の装置では俺自身にも負荷が発生するってことですよね」
『そうね、量子コンピューターによる思考強化と考えると、私がダミーライセンスを使ってアークを強制起動している時の負荷に近いかもしれないわね。まぁ、起動中やあとにちょっとした頭痛に襲われる程度でしょう』
遥はちょっとしたと言っているが、実際は結構強烈な痛みらしいと隼斗から聞き及んでいる。エンペラー戦で遥からの支援を飛鳥が頑なに拒んだのはそれもあるのだ。
彼女の説明にちょっとビビった様子の飛鳥だったが、遥はクスリと笑う。
『そんなに心配しなくても、アークの機能を強化するだけだから、そんなに大きな影響は出ないわよ。……で、実際の仕様だけど、最大持続時間はパイロット保護の観点から現実時間で30秒。体感時間で言えば300秒が限界ね』
となると認識時間の加速倍率は10倍らしい。どおりでクナイも余裕で見切れるものだと飛鳥は感心する。
『ただしバースト・ドライブ同様、一度発動を解除したら全システムを一度落さないと再発動はできないわ。まぁバースト・ドライブと違って100時間ほどの長いクールタイムはなくて、また任意に解除できるの。ただ、このシステム発動時は武装にエネルギーが回せなくなるらしいのよ。これはシステムの先行導入時にアストラルが勝手にプログラムを変更した結果みたいね』
『言うなれば回避専用のシステムでしょうか、少し使いどころが難しいですね』
『機体性能の劣化は発生しないから、必要な時に使ってもいいでしょう? 最終的には思考ブーストにリンクさせて適宜発動させるようなシステムにしたいところね』
「そっちは便利そうっすね」
とりあえず、この辺りでオーバークロックの実験は終わりだ。データの取得としては十分だったのか、遥は妙にほくほく顔だった。
『さて、もう一つのシステムがこれ』
そう言って遥が表示させたのは、アストラルの両のマニピュレータだった。
これがなんだ、と思った飛鳥だったが、よく見ると掌の中心に見たこともない六角形の穴のようなものが空いていた。穴と言うより、くぼんだ形の装置と言った方が正しいだろうか。
『それは臨界エネルギー高圧照射装置――武装名はハンドストライク。機体内に蓄積されている臨界状態のアーク波を圧縮してそのまま照射する装置よ。もともとその装置のあった場所には、フォトンブレードやフォトンライフルのエネルギーを送るための非接触式エネルギー放出装置が組み込まれていたの。それを高出力化して、武器無しでの外部放出を可能にしたのがその装置よ』
どうやらこれもオーバークロック同様、実際の制限値がそれまで確認出来ていた出力値より高いことが判明したことが開発の原因となったシステムらしい。
バースト・ドライブでは機体だけでなく武装の耐久力も上がるのだが、それを差っ引いても腕部のエネルギー照射装置の耐久には余裕があったのだそうだ。だから限界まで出力を引き上げてみた、ということである。
『単なる高出力化でもあるから、それに合わせて実はフォトンライフルの出力構成も変更してあるの。以前はヒートモードとインパクトモードの2種だったけど、使用率の低かったヒートモードを廃止して、フルロードモードを採用したわ。こちらは既に実物の製作が始まっているから、完成したら実験をしましょう』
「はい、分かりました。……で、これって結局どういう機能なんですか?」
飛鳥はそういって自分の、というよりアストラルの掌を見る。そこでは新たな武器であるハンドストライクが、まるで銃口のように鈍く煌めいていた。
『端的に言えば、エネルギーの爆発を起こす装置のようなものよ。放出された臨界エネルギーは機体から出た瞬間に熱や光、運動エネルギーへと一瞬で変化する。それは手元で一気に拡散するから、一種の超短射程エネルギー砲のように扱えるというわけ』
「エネルギーの爆発……ですか」
『こちらも百聞は一見に如かずよ、試してみましょう。……掌のハンドストライクに意識を集中して。指先に力を入れて、フォトンライフルを発射するときのようにエネルギーを放つことをイメージするの』
言われるままに、飛鳥は掌を見つめたままそこに意識を集中していく。武器を握っている時と同じように、指先に強い力を込めたその瞬間――
ドバァッ! と、掌から溢れ出すほどの強い光が放たれた。
「うわっ――――」
光だけではなく熱や運動エネルギーも出ていると言われた通り、ただ眩しいのではなくひりつくような熱と不可視の圧力も感じられる。
『出力はアスカ君の意志にある程度リニアに反応するわ。ただこれはアストラルにあらかじめあったシステムに依存しているから、調整はたぶん無理ね』
言われるままに、指先の力を弱めるイメージで出力をちょっと緩めてみる。それに呼応するように、掌の光が少し弱まる。逆に力を入れ直して見れば、光や熱がその力を増した。
これなら、と飛鳥は考え「はッ!」という掛け声とともに力を込めた掌を足元の砂浜に叩きつける。
ズドンッという音が響き、まるで地震のような衝撃波が地面を伝う。爆裂した大量の砂が粉塵となって舞いあがり、一瞬にして飛鳥の視界を埋め尽くした。
「おー、こりゃ結構な威力っすねー」
『ちょっと、そういうことするなら一言何か言いなさい』
「すいません、ちょっとやってみたかったんで」
飛鳥のおどけたように後頭部を掻くその様子からは、まるで反省した様子は見られなかった。
遥はため息を一つつくと、肩をすくめて話を続ける。
『ただし、68%以上の出力からは出力時間に制限がつくわ。ついでにそこからは発動後にある程度装置を休ませる時間が必要になるの。だから通常ではその境界である68%以上の出力はされないように、リミッターを掛けているわ』
「えっ、でも攻撃手段なんですよね? 威力下げてまで長時間の出力をさせる必要って……」
『ちょっとした攻撃に対する防御手段にはなるんですよ。たぶん増幅させていないタイプリーフのクナイ投擲ぐらいなら弾き返せるはずですし』
一葉がそう補足してくれたが、これを盾とするにはいくらなんでも範囲が狭過ぎやしないだろうか。飛鳥が不安げに掌を見つめていると、遥がくすっと小さく笑った。
『せっかちねぇ。大丈夫、リミッターを解除する方法はあるから。……ただしそれこそ装置に負荷をかける領域で半端な出力を出す必要性はないから、リミッター解除を行ったら短時間の間、最大出力で照射することになるわ』
「なるほど……。でも、結局近距離だったらフォトンブレードの方が手数も多くなるし、あんまり意味無いんじゃ……」
『最大出力なら、瞬間的な威力はプラズマバズーカと同等レベルという理論値は出ているのよ。あと、攻撃の性質上さまざまな種類のエネルギーを一気に叩きつけることになるから、アークのバリアを含めたエネルギーフィールドの類を大きく乱す効果があるんじゃないか、というのが私の個人的見解ではあるわ』
バリアを乱す、というのが飛鳥にはいまいちイメージし辛いが、単純に近距離高威力の武器だと考えればそこそこ使いどころはありそうだ。
一応の納得がいった飛鳥は、掌を眺めながら軽く頷く。
「じゃあ、それがアークのバリアにどういう影響を及ぼすかもここで実験するんですか?」
『ええ、参考程度だけど、そちらのデータも取るつもりよ』
遥は首肯する。
当たり前だが、実際に試してみたらシミュレーターとは異なる現象が起こるということはままある。量子コンピューターを用いた高度な再現技術とはいえ、物理法則全てを完全に網羅しているレベルではないのだ。
『そしてこちらもリミッター解除は音声認証を鍵にしているのだけど、発動時の言葉をこちらで設定していないのよ。せっかくだからアスカ君、自分で考えてみない?』
「俺が、っすか?」
戸惑うような飛鳥の問いに、遥は笑顔で頷く。
リミッターを解除した一撃を放つ瞬間の掛け声、となるとどこか必殺技っぽい感じだ。つまり技名を考えるようなものなので、飛鳥はわくわくした感情を覚えながらも、気恥ずかしさにさいなまれていた。
さてなにがいいだろう、と掌を見つめながら考える。
手の中で瞬いた、煌めく青白い光、ひりつく熱、押し潰されるような圧力。
ややあって、飛鳥は口を開いた。
「そうですね――――」




