エピローグ Ark-Memory_Nightmare_1
俺が最初に感じたのは、熱さだった。
手をついた地面が、酷く熱を持っていることに気付いた。
視界は暗い。両腕に力を込めて重たい身体を持ちあげても、やはり視界は暗いままだった。
眼は閉じていない。ただ周囲が暗いだけだ。
それが暗黒ではないことは、荒れ果てた地面の様子が微かに見えることで分かる。
やがて目が慣れてくると、大地と空の境が見えるようになった。
見上げた空はおぼろげな雲が浮かび、その隙間から青黒くぼんやりとした光を放っている。
見下ろす大地は荒れ果てたざらつきに満ちていて、錆びた鉄のように赤茶けていた。
ここは、どこだ?
「ここは、どこだ?」
見渡したところで、果てしなく続く地獄のような景色しか見えない。
何があった?
「何があった?」
何があれば、こんなにも恐ろしい景色が生まれるというのだろう。
世界が死んでいると、比喩なくそう感じられるような景色だった。
「皆は……?」
あれ、皆って誰だ?
これは俺じゃない。俺の言葉じゃない。
そうだ、俺じゃないはずだ。この夢の俺は俺じゃない。
そう認識した瞬間、フラッシュバックのようにいくつもの景色が飛びこんでくる。
砂漠、夜の星、青い地上の星、光、文明の欠片。
けれどここには何もない。微かに感じられた文明の息吹が、この世界からはまるで感じられない。
どうなってんだ……?
「どうなっている……?」
口をついて出た言葉は、俺の意志とは少し違う。
ならこれは何だ。
ただの夢か? 本当にそうか?
「おい、どういうことなんだ……」
そうだ、これは記憶だ。俺ではない誰かの記憶だ。その幻想だ。だからこれは俺の声じゃない。
「……戦いは終わったはずだろ?」
答える奴なんていやしないのに、こいつは何を言っているんだろう。
視界が回る。周囲を見渡しているんだろう。
そうして、俺の感覚がこの記憶の主から完全に外れたことに気付いた。
空を見ている。
見渡して、そして一つの文明があった。
血のように赤い月を背にして立つ――――
アスト、ラル……?
「アスト、ラル……?」
その時初めて、世界の臭いを感じた。
――ああ、これが死の臭いか。
方舟は、そうしてまた悪夢を見せる。
あるいはこれは、とある男の絶望の記憶だった。




