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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第3部‐閃光は海を越えて‐
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4章『力の在り処』:1

 飛鳥とアルフレッドが激戦を繰り広げたその数日後。

「ふぅ、不毛な時間もこれで終わりというわけね」

 ぞろぞろと流れる人の群れを眺めながら、遥はうんざりした様子でそう呟いた。

 歩いているのはスーツの上から白衣を纏った人の群れ。男性だったり女性だったり、若い人だったり年寄りだったりと統一性はまるでない。皆一様に険しい表情をしているのが特徴ではあったが。

 なんというか余裕のなさそうな大人たちだなー、と飛鳥がぼんやりそちらを眺めていると、対面の遥がこう言った。

「彼らは『エタニティ』の人間よ。今日やっと到着したみたいで、これから研究情報の交換会があるのよ」

「交換会ねぇ。それって俺たちは何かやることがあるんすか?」

「無いと思うわ。興味があればその会場を覗くぐらいしてもいいでしょうけど、基本的には研究者とか技術者同士の会議だからね。会議というか、プレゼンテーションみたいなものだけど」

「プレゼンテーション? なんでそんなものを?」

「まずはエタニティの研究結果とそこから導き出した理論を全体に向けて発表してから、それが正しいかどうかの議論をしないといけないからよ。アークの根幹に関わる何かを掴んだということだから、その情報を全員で共有してから合同研究を本格的に開始するの。でないと意味が無いから」

 ふぅむ、と飛鳥は分かっているのか分かっていないのか曖昧に頷いて、もう一度歩いていく人々の背中を目で追った。やはりこれというインパクトのある人間はおらず、飛鳥にはあまり凄い集団には見えなかった。

「でも、今更アークの根幹にかかわる部分なんて遅くないですか? なんだかんだ研究開始から10年ぐらい経ってるんですよね。ウチの研究でも発見できてよさそうなもんですけど」

「東洞系列の研究機関も確かに技術力はあるのだけど、エネルギー分野においてはエタニティの方が上だから。一般的には核融合炉等の新エネルギー開発や、専門的にはアトエネルギー観測技術みたいものまで技術的にも多彩なのよ。他はともかく、アークのエネルギー開発においては全世界でもトップクラスなのは間違いないわ」

「……なるほど、そういうことですか」

 なにやらよくわからない言葉が出てきてしまったため、飛鳥はそうやって適当に相槌を打った。

 遥の話を聞く分にはそれなりに凄い技術を持った人たちなのだろうが、飛鳥にはどうにもしっくりこない。

 アルケインフォース社とやらの人間には会ったことが無いが、星印学園地下研究所の研究者にしてもMSCの研究者にしても、飛鳥から見れば楽しそうに研究している人間が多いように感じられる。それに対してそのエタニティとやらの人々は、どうにも余裕が無いように見えるのだ。

 一分野で世界最先端を持つというのならば、もう少し堂々としている方がそれらしいというものだろう。

「なぁんか切羽詰まってるんだよなぁ……」

「彼らは経営的に厳しい部分を抱えた企業の集合だから、アーク研究に対してもボクらよりずっとシビアな考え方をしてるのさ」

 背後から聞こえた声に飛鳥が振り返ると、そこにはスーツを着たジョージが立っていた。技術交換会とやらがあるからか、先日まで着ていたラフなTシャツとジーンズの組み合わせではない。

「あらジョージ、もう来ていたのね」

「開始まで時間があるとはいえ、ボクらも準備することはあるからな。それにアルケインフォース社の遅れてきていたメンバーとの挨拶も済ませておく必要もあったから、こんな時間になってしまったんだ」

「私たちが早く来すぎていただけとはいえ、彼らも暢気なものね。でもエタニティが予定日ぴったりというのは分かるとしても、アルケインフォースの人間がこのタイミングというのは解せないわね。彼らなら他の組織の研究風景なら血眼になって観察でもしてきそうなものだけど」

「これから一緒に合同研究をしようという相手に無用なプレッシャーをかけたくは無いだろう。警戒されて隠しながら研究を続けられたら色んな意味でたまったものじゃないからな。それに彼らは武器開発分野においては世界一を自負しているから、他組織の技術にはさして興味が無いのかもしれない」

 どうやらそれぞれの企業ごとに企んでいるものはあるようだ。こうして語る二人が属している東洞やMSCはどうなのだろう、と飛鳥は考えてみるものの、遥もジョージもそれについてはまるで言及しなかった。

 こちらに来る前の遥の説明では、アメリカのアーク研究機関はそれぞれが分野ごとに大きく特化しているらしい。

元となる企業を考えれば多少イメージできるもので、軍需産業の大手であるアルケインフォースはアーク技術を転用した兵器開発、エネルギー産業に関わる企業の集合であるエタニティはアークのエネルギー関連の研究開発を行っている。

これらと比較すれば、スポーツ用品メーカーであるMSCがアークのアクチュエータ関連技術を研究開発していることは、割と異色なのかもしれない。

 飛鳥達が研究に協力している星印学園地下研究所、その大本である東洞財閥アーク総合研究機関はアークというものそのものを研究していることを考えれば、こちらもそれなりに住み分けができているようだ。

 分野が被ったりせず専門的な部分でライバル関係にないからこそ、こうして合同研究などを行うことができるというものだろう。

 吸い込まれるように大勢の人間が入って行った建物を見上げながら、遥がふとこんなことを言った。

「そういえば、私も先に挨拶ぐらいはしておいた方がいいのかしら。会場に入ってからだとごちゃごちゃしそうだし、あなたみたいに先に済ませておくのが賢い選択のようね」

「ボクに関しては運び込まれたエタニティのアーク・ガイアを見たいというのもあったからなんだがな。アルケインフォースの人間にはそこでたまたま会っただけなんだ。挨拶も本当はあとで始まる前に会場ですませるつもりだったから。……っと、アルケインフォースと言えば彼女も来ていたぞ」

「彼女? ……ああ、フリッカね。相変わらず元気だったのでしょう?」

「元気どころの話じゃないぞ。全く、彼女の勢いにはまるで付いて行けないよ。悔しいが歳を自覚させられるね」

「大丈夫よ、たぶん私もついて行けないから。……でも、彼女がいるなら間違いなくこっちにも来るでしょうね。喚かれても困るし、最初から虎鉄を呼んでおいた方がいいかしら」

 遥はことさら面倒そうにそう言うと、スカートのポケットからケータイを引っ張り出して通話を始めた。話の流れで虎鉄にかけたであろうことは分かるが、その理由までは飛鳥には分からなかった。

 分からなかったが、隣には隼斗がいる。

「なんで?」

「主語述語目的語全部すっ飛ばしてよく質問通じると思ったよねアスカ……。アルケインフォースの技術者の一人に、星印学園地下研究所の虎鉄のことを心酔している人がいるんだよ。尊敬とかっていうレベルじゃなくてね、文字通り心酔してるんだ」

「質問通じてんじゃん。……しかし心酔ねぇ。あの爺さんそんな大した奴だっけ?」

「アークに真剣振らせようと本気で思って、鉄をも切れる剣を作る技術を、工業的に量産可能なレベルまで突き詰められるぐらいには大した人だよ。駆動系にもかなり専門的な知識や技術を持ってるし、バーニングもあの人にかなり強化されてるからね」

 その説明だけではどう聞いても凄腕の研究者のイメージしか浮かばないのだが、飛鳥の知る虎鉄はどこからどう見てもただの小さい爺さんだ。しっくりこない感覚に首をかしげて、飛鳥は尋ねてみる。

「あの爺さんってそんな凄い研究者だったんだな。……なんか違和感あるけど」

「研究者というより技術者だよ。机とパソコンに向かうより工作機械を操作する方に専門性を発揮する感じだね。確かに知識も凄いんだけど、数式を弄ってどうこうよりはその手で物を作り上げるタイプかな。職人気質だから付き合い辛いかもしれないけど、あれはあれでいい人だしね」

「いい人ねぇ、俺や一葉さんは相当嫌われてる感じがするけど」

「アストラルに関しては虎鉄もいろいろあったからなぁ……」

 曰くアストラル用に武器を設計したは良いが、機体に合わなさすぎて理論だけで製造を見送られたとか。それの逆恨み的なものだと本人には聞かされたが、飛鳥からすれば知ったこっちゃないというものである。

「でも、意外と面倒見のいい人なんだとは思いますよ?」

 そう言ったのは、飛鳥達の後ろで黙って話を聞いていた一葉だった。

 彼女も数日経って環境にも慣れてきたのか、初日や二日目などに見せていた疲れの色も今の表情からはうかがえない。こっちで同じ趣味のニコラスと意気投合したことや、地下研究所メンバー以外にも実は日本語が通じる相手が多かったことなどから随分気も楽になったようだ。

 もともと口数の多いタイプではないし人見知りも激しい方だが、この合同研究でそれらも多少は改善されていると本人が自慢げに語っていたことを飛鳥は思いだした。

 しかしそれはともかくとして、飛鳥と同じく虎鉄の理不尽な八つ当たりを受けている一葉からそんな言葉が聞かれたのは意外だった。

「あんな八つ当たりしてくるのに面倒見がいいとか言われても……」

「でもアスカくんが模擬戦闘をした日も、なんだかんだでアストラルの調整中もぶっきらぼうでしたけど話はしてくれてましたし」

「気を使ってそれかっていうと疑問なんだが……」

 とは言ってみるものの、あの日は英語の分からない一葉にわざわざついていてやったとも言っていたし、素直ではないだけで実は面倒見がいいということなのかもしれない。どちらにしても違和感はぬぐえないが。

 うーん、と飛鳥は首を傾げるものの、それ以上は何も言わなかった。あまり本人の居ないところで悪口まがいのことを言うものではない、と適当に倫理観に従った結果だった。

「そういえば一葉さん、今日はニコラスとは一緒にいないんすね」

「ええ、彼も今日の会議というものに参加するみたいですから、準備があるって言っていました。……というか、そんなに一緒にいるわけじゃないですよ?」

「そっすか? なんかしょっちゅう一緒に格ゲーやってたような気がするんすけど。まぁ気のせいか」

 アストラルの研究は飛鳥がバースト・ドライブを発動させたことによって、機体自体の研究をメインにするところに落ち着いてしまったため、飛鳥の出番はほとんどなかった。

 そのため彼は基地内を一人でうろついていることが多かったのだが、そうしていると何故か一緒にゲームをしている一葉とニコラスをよく見かけるのだ。

そのせいでしょっちゅう一緒にゲームをしていると思っていたわけだが、どうやらそういうわけではないらしい。

 アストラルの研究に関して遥の説明では、飛鳥とアストラルがバースト・ドライブを発動させたことで、いくつか機体自体に変化があったらしくその確認などが主だった。

思考クロックのブースト機能など目新しい技術も見つかった、と嬉々として語る遥はなかなか印象的だったのを飛鳥も覚えている。

 ちなみに彼は適合レベルがAになったことでジェネレーター出力がかなり安定するようになり、フライトモードでなくとも常に飛行をすることができるようになっていた。やはり一葉との訓練で飛行の技術的、感覚的な部分の基礎はでき上がっていたようだ。

 それもあって飛鳥はピュンピュン飛びまわったりできるのだと夢を見た分、その後の動作実験の時間の短さに辟易していたりするのだった。

 軽くため息をついた辺りで、ふとこんな声が聞こえた。

「お、集まってんなー」

 顔の横で片手を振りながら近づいて来たのは、スケートボードに乗ったアルフレッドだった。彼は飛鳥達のすぐ近くまで来ると、ボードから降りつつ器用に跳ねあげ片手でキャッチ。

「アル、来たのか」

「おう、今日はフラッシュも動かせないから退屈でな。お前もだろ、兄弟?」

「まぁな」

 一応呼び名はスケート練習場で約束を交わして以来、飛鳥からはアルでアルフレッドからは兄弟ということになっている。これまでも何度か隼斗たちの前で普通に会話をしているので物珍しい目では見られないが、恥ずかしいことには変わりなかった。

 アルフレッドは後ろを振り返りながら、思い出したようにこう言った。

「エタニティが来たってことはこれから技術交換会だっけ。……そういや、今日はアイツも来てんだよな」

「あいつ?」

 首をかしげる飛鳥に、アルフレッドは再びそちらを振り返ってこう言った。

「ああ、アイツ。アーク・ガイアのパイロット、コードGのライセンス所有者だよ」

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