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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第3部‐閃光は海を越えて‐
72/259

3章『バースト・ドライブ』:3

 覚えた違和感をもとに、飛鳥は考える。

(あいつがフラッシュダイブを使い始めてから、ファルコンリッパーの使用がやけに減った。それに今回は飛ぶ前にわざわざファルコンリッパーを回収して……。つまり、奴はファルコンリッパーを展開したままは飛ぶことができないってことか!)

 一瞬フェイクの可能性も疑ったが、あの状況下では意味がない。完全に思考を読まれているならともかく、攻めに転じていた飛鳥の思考をコントロールするなど現実的には考えられない。

 それ以外にも、いくつか気になる点はあった、

「一葉さん、ファルコンリッパーとフラッシュダイブは併用できないと思うんだけど、どうだろ?」

『私もそれで間違いないと思います。……それと移動ができるのは直線のみで、間に物体が存在した場合も移動できないはず。そして発動は視界に収めた地点のみでしょう。さっきはフラッシュダイブ発動前に一度こちらに振り返っていました。見ずに移動できるなら、わざわざ振り返る必要はないはずです』

「やっぱりか。……そして、発動前の慣性も残らない」

『ブロウアップカノンからの奇襲ですね。確かにアストラルの横ではフラッシュの移動は止まっていました。もし慣性が残っていたなら、もっと大きなダメージを受けていたはずですから。あとは、発動までのインターバルと』

「ああ、そうだな」

 一葉の指摘に飛鳥は頷いて返すと、フォトンブレードを一旦上腕部に戻した。

 ただ攻撃を受けていたわけではない。一手一手、勝利へ近づくためのやり取りを重ねていたのだ。

 フラッシュダイブのインターバルはそれなりに長いのだろう。アストラルはだらりと両手を下げて不敵に立つも、フラッシュが奇襲を駆けてくることは無かった。

『なんだ、もう諦めたのか? だったら一瞬で終わらせてやんぜ』

「なわけないだろ、タネはいくつか割れたぞ。……今度こそ言う、そう上手くいくかよ」

『へぇ、言うじゃん。……オーライ、だったら見せてもらおうか!!』

 フラッシュは両肩のファルコンリッパーを掴むと、それを前方へ投げ飛ばした。だがその直後、

「そう来るだろうな分かってんだよ! 消し飛べぇ!!」

 フラッシュが肩を掴むと同時にアストラルが放ったプラズマバズーカの雷弾が、飛び立ったばかりの機械の鷹を一瞬にして消し炭に変える。絶大な熱が飛び散る破片をも飲み込み、光の尾が過ぎ去ったあとには灼熱の空気が残されるのみ。

 機体を掠める雷弾に一瞬身を強張らせたフラッシュは、ファルコンリッパーを投げ飛ばした体勢のまま視線だけをギロリとアストラルに向けた。

『っ、やるじゃん、アスカ』

 武器を二つまとめて破壊されてなお、さらに笑みを深めるアルフレッド。それは状況の不利そのものを楽しむような、明らかに冷静さを欠いた感情の発露だった。

 フラッシュダイブの射程距離に入ってしまえば、ファルコンリッパーを展開していることはむしろ邪魔になる。そして、フラッシュはついさっきフラッシュダイブを使用したところだ。

 飛鳥はそこまで理解していた。

「……来いよ」

 支えていたプラズマバズーカから手を離し、挑発するように手招きをする。それを見たアルフレッドは、コックピットの中でさらにさらに笑みを強めていく。

 フラッシュは駆けだすと同時、まだ使っていないほうのジャミングロケットのランチャーを片手でつかんだ。

 だがそれも発射の直後、アストラルの肩越しに顔を出したビームブースターによって撃ち抜かれる。

「こいつは砲撃にも使えるんだ。プラズマバズーカの連射性は問題じゃない」

『けど近接戦ならこっちの方が!』

 両足のローラーを使い高速で地上を走りながら、ブロウアップカノンをアストラルに向けて発射する。超高速の光弾をアストラルが真横に回避した瞬間、フラッシュが緑の閃光を放った。

「それはもう読めてんだよ!」

 現れたばかりのフラッシュの頭部に、アストラルの飛び蹴りが鋭く突き刺さる。

「お前は俺の後ろには来ない、来れない! だったら出てくる場所は大体予測できるんだよ!」

 フラッシュダイブが直前の慣性を残さない以上、奇襲をかけるためにはその場から攻撃の届く場所に現れなければならない。それに加えて、フラッシュはアストラルの機体を跨ぐように現われることはできない。そうなればおのずと現れる場所は限られてしまう。

 そしてアストラルはブロウアップカノンを回避するとき、機体をひねりながら横へ飛びのいていた。それはちょうど真横のビルに背を這わせるような形になり、道路側の全体を視界に収めることができていた。

 結果フラッシュが意味のあるフラッシュダイブの使い方をすれば、おのずと飛鳥の視界に現れてしまうようになっていたのだ。

 あとは視界にフラッシュが現れるのを待って、現れたところに先行して攻撃を打ち込めばいいだけのこと。

 アストラルの全重量を丸ごと撃ちこまれたフラッシュは、大きく上半身をのけぞらせる。だが強烈な一撃を受けてなお、その足が地面から離れることはない。

『ぐっ、なぁぁ、ハアアアアァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 蹴られた勢いを脚部で抑え込むと、強引に上半身を起こす。左手のグラインドダガーを強く握りしめ、空中のアストラルに思いきり振り抜いた。

 白と青の輝く刃が、まるで嵐のようにぶつかり合う。激突のたびにまき散らされる衝撃波がそこにある大気を吹き飛ばし、吹き散らす。いつしかその空間は、大気ではなく2種の斬撃に埋め尽くされていた。

 目にもとまらぬ刃の交差が両者の間で交わされる。数分前と同じような状況だが、数分前と決定的に違うものもある。飛鳥はそれを明確に感じ取っていた。

(こっちの攻撃が、ほんの少しずつフラッシュに近付いてる。さっきとは違う、俺の攻撃が捌ききれていないんだ)

 ヒートアップする二機の切り合い。その中で、飛鳥は高速で思考を巡らせていく。

(でもそれは俺の攻撃に変化があるからじゃない。フラッシュ側のフォトンブレードの受け止め方がおかしいからだ。無理に刃を受け流そうとして、そのせいで反撃がワンテンポ遅れてる。…………そうか、それなら!)

 攻撃、そして防御。それらを超高速で入れ替えながら、とてつもない物量の戦いが繰り広げられている。

それが一瞬破綻したとき、互いの装甲に一直線に浅い傷が入る。その瞬間に両者ともに後方へ飛びのいた。

 アストラルが地面に着地した瞬間に合わせて、またしてもフラッシュの機体が弾ける光に呑まれた。

 状況を整えていないため、現れる先は予測がつかない。だからアストラルはフォトンブレードを構えたまま、機体ごと回転させて周囲を薙ぎ払う。

 ギキィィィイン!! と金属質な音を響かせて、アストラルの右のフォトンブレードとフラッシュのグラインドダガーがぶつかり合った。

 つばぜり合いのようになりながら、アストラルとフラッシュは至近距離で睨み合う。ここにきて、飛鳥とアルフレッド、アストラルとフラッシュの力が拮抗した。

『オレもマックス出してんだがな……ここまで食いついてくるかよ。嬉しいぜ、アスカ!』

「まだまだ余裕そうだが、何言ってやがんだよ。……それに、今有利なのは俺の方だぞ」

『1本対2本だからか? オレはそれでも追い付いていけるがな』

「強がるなよ、自分で分かってんだろ!」

 言って、前触れもなく左のフォトンブレードを突き出した。紙一重で後方へ下がるフラッシュに、ビームブースターを噴射したアストラルはすぐさま斬りかかった。

 刃同士が激しくぶつかり合う。だがその一瞬、グラインドダガーの刀身が揺らいだ。

『チィッ!!』

 グラインドダガーを握る左の手に右手を重ね、フラッシュは全力でフォトンブレードを弾く。仰け反るアストラルの腹部を狙って、光刃を高速で突き出した。

 アストラルは回避をするのでなく、あえてフォトンブレードで受け流す。

その拍子にグラインドダガーが脇腹の装甲を深く削り取るが、飛鳥の狙いは果たせていた。フォトンブレードを白い光刃に押しつけ、全力で押し返そうとする。

 強力な力でぶつけ合わされた2種の光刃だったが、やはり白の光刃が一瞬ノイズのようにぶれた。それを見たフラッシュが一瞬力を抜いたのを見切って、アストラルはグラインドダガーの刃を弾き飛ばした。

 ガラ空きとなったフラッシュの土手っ腹に鋭い蹴りを叩きこむと、フォトンライフルを追撃で一発だけ撃ちこむ。

『くっそ……』

 アルフレッドは苦々しげにそう言った。

見れば、フラッシュが握るグラインドダガーの刀身がどんどん短くなっていく。数秒と経たずして、その光が消えた。

過負荷オーバーロードだな」

 息絶えた白の光刃を見届けた飛鳥は、ニヤリと口の端を釣り上げてそう言い放った。

「その刀身を長大化させるフルロードってのは、武器自体にそれなりの負荷がかかるんだろ。だからずっと使用し続けることはできない。できるなら、お前は最初から使用し続けていたはずだ。でもお前はそうしなかった。……それだけならこんなにも早く限界は迎えなかっただろうけど、フォトンブレードと何度も刃を交わしたんだ。フォトンブレードはその武器よりも単純に出力は上、何度もぶつけ合えばそれだけ武器に負荷がかかる。お前のグラインドダガーはもう限界だ。……みさらせ、こいつが俺の本気だよ」

 フォトンブレードの刃を突きつけ、飛鳥は高らかにそう宣言した。

 近距離での戦闘なら、武器を持つアストラルの方が、手足しか使えないフラッシュに対して圧倒的に有利だ。フラッシュダイブを絡めた奇襲は確かに有効だろうが、それだって発動ごとにインターバルがある。

「形勢逆転だな、フレッド。……いや、俺の勝ちだ」

 フラッシュの残る武装はブロウアップカノンとハイブリッドアサルトライフルのみ。近距離での攻撃力はもはや皆無と言っていい。だからその勝利宣言は、ある種当然のようなものだった。

 しかしアルフレッドは、それを認識してなお笑う。自暴自棄なものではなく、心底楽しくて仕方がないとでも言うかのように。

『はっはっはっはっは!! 流石だよアスカ、まさかこうくるとは思わなかった。本当ならもっと早くに決着をつけるつもりだったんだがな。お前が俺のスピードに追い付くから、ギリギリのラインから先へ行けなかった。確かにこりゃピンチだ。あぁ、やべーよ……。こいつは勝てねー、勝てねーな。…………全力にならなきゃよ』

「…………っ」

 おかしい、そう飛鳥は感じていた。

 勝てるはずなのに、何かそうとは思えないプレッシャーがある。状況は完全に有利なはずなのに、自分の勝利を妄信しきれない何かを感じる。

『いいぜ、この壁は高い。全力を向ける価値がある! だが足りねー、今のフラッシュじゃ足りねーよなぁ』

「何言ってんだ……?」

 漂う不穏な気配。生物的本能が危機を訴えかけているような、焦燥感にも似た感覚。

アルフレッドの狂ったような口調に明確な狂気を感じられないことが、それに拍車をかけていた。

 フラッシュが両の腕を顔の前でクロスさせ、拳を強く握りしめる。

『だからフラッシュ、もっと上がれ! もっともっと上がれ!! 今より先の世界へ、今より先のスピードへ、一緒に行こうぜフラッシュ!!』

 ゴッッッッ――――――――!!!! 

 暴風が、フラッシュを中心に巻き起こった。ただの風とは思えない強烈な力に、アストラルが大きく後ろへ弾き飛ばされる。

かなりの距離を吹き飛んだアストラルは宙返りをして、両足で踏ん張るように着地した。

「な、なんだこれ。なんかの武器か!?」

『提供された情報に該当する武器はありません。ですが、センサー類が異常なエネルギー反応を示しています! これは、アストラルのアストラルチャージを発動したときに似ている……?』

「巨大なエネルギーの放出か、一体何が……」

 困惑する飛鳥の視界が、突如情報視界に切り替えられる。その真正面、フラッシュから警告の表記が出ていた。直後にシステムメッセージが現れた。

【対象のエネルギー出力の大幅な向上を確認。

 当該機体、ライセンス所有者の適合レベル向上と推測。

 推定適合レベル、BからAへ】

「あ、アラート!? 適合レベル向上って、それにAだって!?」

『これは危険な状況です、アスカくん気をつけて!!』

 適合レベルは一段階向上するごとにジェネレーター出力が大幅に上昇するか、何らかのシステムが解放される。アストラルも適合レベルがBとなった時、アストラルチャージが解放された。

 ならばフラッシュも、何かのシステムが解放されるのか。いずれにせよ、適合レベルAというのは飛鳥にとっても未知の領域だ。何が起こってもおかしくはない。

 警戒を強める飛鳥の耳に、アルフレッドの言葉が届く。

『アスカ、お前はオレを全力にさせてくれる。全力と思っていたその先を見させてくれる。……だからよ、見せてやるぜ! オレとフラッシュの、ありったけって奴をさ!!』

 フラッシュから放たれるプレッシャーはもはや尋常なものではない。全方位に放たれる圧力は足元のアスファルトにひびを入れるほどだった。

 ジワリ、とフラッシュの周囲の風景が歪む。放たれる膨大な熱量が周囲の空気を膨張させ、その先の景色を陽炎のように揺らめかせているのだ。

 アルフレッドが、ありったけの力を込めて叫ぶ――――

『まだまだ上がるぜ! こいつが俺の全力だ!! システム発動! バースト・ドライブッッッッ!!!!!!!!』

【code-F 3minutes BURST!!】

 システムメッセージが脳裏をよぎった直後、フラッシュを中心に光の爆発が巻き起こった。

 視界の全てを焼き尽くすほどの、あまりにも巨大な閃光。

「バースト・ドライブ、だと……!?」

『適合レベルAでの解放システムです、警戒を―――』

 そう一葉が言い切る前に、既にフラッシュは眼前へと迫っていた。

 そしてそれを飛鳥が認識したときには、その拳がアストラルの腹部へと深々と打ちこまれていた。

「がっ――――――!?」

 それまでとは決定的に違う、破壊的な衝撃。

 蹴り飛ばされた時以上のとてつもない力をうけ、アストラルが凄まじい速度で後方へと吹っ飛んだ。

 地面に打ちつけられ、そのたびにアスファルトの表面を抉り取りながら、アストラルは優に数百メートルの距離を一直線に突き進んでいった。

 アスファルトの上を滑ってなんとかその動きを停止させたアストラルの視線が、辛うじて遠方のフラッシュを捉える。だがそれを見たとき、それが本当にフラッシュなのか飛鳥には一瞬分からなかった。

 機体の全身が緑の光の粒子に包まれている。いや、機体そのものが光の粒子になってしまったかのようだ。

曖昧な輪郭が強い緑の光を放ち、一部の粒子が機体の周囲に断続的に放出される。

『これが、オレとフラッシュの新しい力。フォトニックフルドライブだ!』

 アルフレッドは力強くそう言った。

 直後、フラッシュの姿が消える。

 その時にはもうアストラルの目の前にいた。

「くっ!?!?」

 壮絶な力の切れ端を感じて心臓をわし掴みにされたような感覚に陥りながらも、飛鳥はアストラルのフォトンブレードを素早く振り抜く。

 だが頭部を切り裂かれたはずのフラッシュは、緑の粒子へと弾けて消え――

――そしてその時には、既にアストラルの横にフラッシュの形があった。

(な……に……ッ!?)

 思考がまとまるよりも前に、フラッシュの拳が脇腹に打ちこまれた。高速で吹き飛ぶアストラルだが、それだけでは終わらない。

 空中に浮いたままのアストラルの元へ、フラッシュがまたしても瞬間移動で現れた。

(そんな、今のはフォトンブレードが当って――――)

 思う前に、次の一撃。

 さらなる追撃を受けて吹き飛ぶアストラルのもとへ、またもフラッシュが現れ、蹴りを打ち込む。

 その先も、その先も、その先も――――

 攻撃とフラッシュダイブを連続で繰り返すフラッシュから10発以上もの乱打を受け、ついにはノーバウンドで数百メートルの距離を吹っ飛んでビルの壁へと激突した。

「ぐっ、は…………!?」

 受けたダメージはそのほんの一部だけを飛鳥に伝える。だがそれは仮想的な衝撃だけで、飛鳥の呼吸を十分に奪ってしまえるだけの壮絶なダメージだった。

『アスカくん! 大丈夫ですか!?』

 一葉の叫びも、飛鳥にはまともに届かない。耳鳴りがして、脳に直接伝わるはずの音でさえまともに聞き取れなかった。ぼんやりとした視界の中で、ゆっくりと歩み寄るフラッシュの姿が見えた。

 だがあまりにも大きなダメージを受けたためか、這いつくばったままの機体はまるで動こうとしない。けたたましいダメージアラートが飛鳥の脳を埋め尽くしていた。

「なんだよ、これ……」

 性能差などというレベルではない。乗用車と戦車で喧嘩をするような、まるで勝機の見えない圧倒的な力がジリジリと歩み寄ってくる。

(フラッシュダイブのインターバルが消えてやがる……。こんなの、どうやって勝てって……)

 どれだけ歯を食いしばっても、誤魔化しきれないダメージを負ったアストラルは動かない。いや、たとえ動いたとしても、迫り来るのは絶望にも等しい力の権化。

 その力の理屈は分からない。だがわかったとして、それは彼の勝利にほんの少しの可能性でももたらすのだろうか。その程度でどうにかなるような力なのだろうか。

 戦術、戦略、それらすべてを真正面から踏みつぶすほどの力。

『これが、バースト・ドライブ……』

 一葉の唖然とした言葉も飛鳥には届かない。アストラルは両腕を地面に押し付け、なんとか上半身を起こそうとしていた。

(また負けるのか……。あの時みたいに……ッ)

 思い出すのは、5月のエンペラーとの戦い。

 破壊される寸前にバーニングの助けによって辛うじて撃破されずに済んだが、それがなければアストラルはエンペラーに撃破されていただろう。

 力不足を感じて、強くなりたいと思ったはずだ。次は勝つと決めたはずだ。今度こそ自分の手で勝利と掴むと決めたはずだ。

 そのための努力を重ねたはずだ。

(でも、アイツはそんな次元じゃない。勝てる勝てないなんて世界の力じゃ……)

 限界寸前のダメージを負ったアストラルは、もはや立ち上がることすらままならない。各部の関節が嫌な軋みを上げ、悲鳴のように辺りへ響く。スカイブルーの発光体も今は弱々しい光を放っていた。

 勝てる理屈は無かった。だけど、それで納得もできなかった。

 脳裏によぎるのは、アルフレッドから受けた言葉。

《お前の全力が、俺の全力には到底及ばなかったってことだ》

(――――――っ!)

 アルフレッドは全力といった。そして戦いの中でそれまで以上の全力を見せて、今飛鳥を圧倒している。

 力が拮抗した瞬間も、飛鳥の操るアストラルがアルフレッドのフラッシュを上回った瞬間もあった。だが今アルフレッドの全力を前に、飛鳥は手も足も出ていない。

 これでは本当に、ただ飛鳥の全力がアルフレッドのそれに及ばなかったということではないか。

(そんなんでいいわけあるか……。これを負けたら、俺はそこで終わっちまうだろうが!!)

 ぐぐぐっ、とアストラルが上半身を持ち上げる。だが足を地面についたところで、それ以上先へ続かない。

 その時、通信を繋いだアルフレッドの言葉が聞こえた。

『どーしたよ、アスカ。……オレは全力だぞ。オレの出せるありったけの、それ以上の全力を見せたぞ。なのにお前は何やってんだよ。そんなところで這いつくばってねーで、お前の本気を見せてくれよ』

「ぐっ、おぉぉおおおおおおぉぉおおぉおおお!!」

 うなり声を上げて、両足に力を入れる。まるで自分の身体のように震えが走る足に活を入れ、膝立ちになった。

勝ちたいと、飛鳥はそれだけを思っていた。

(俺の本気は、俺の限界は、絶対にそんなもんじゃない!! だから変われ! 今の俺には無理なら、勝てる俺に今変われ!!)

 少し離れたところで立ち止まったフラッシュを、ただまっすぐ見据える。

 アルフレッドは、最後にこう言った。

『オレに勝つって言っただろ! お前の本気はそんなもんかよッ!!』

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 コックピットの中に、獣のような絶叫が響いた。

 両足を地面についたアストラルが、ふらつきながらも立ち上がる。消えかかっていたスカイブルーの光が、その輝きを増していく。

「やってやるぜ……」

 両足でまっすぐに立ったアストラルから、超常的な力の奔流が巻き起こる。

『これは、このジェネレーター出力は……!?』

 情報視界の中では、ジェネレーター出力のメーターが既に100%のラインを踏み越えていた。一葉は困惑した声を上げるが、飛鳥に不安は無い。

 言葉通り、アルフレッドはその全力を示してくれた。

 ならば次は、飛鳥が本気を見せる番だ。

「勝つんだ、絶対。だからアストラル! 俺の本気に答えてくれ!!」

【パイロット適合レベル向上を確認。

 適合レベル A

 バースト・ドライブ システムアンロック】

 システムメッセージが流れる。それは飛鳥の本気に答える力。アルフレッドと同じ領域に立つ力。

「迷いはない。システム発動! バースト・ドライブッッッッ!!!!!!!!!!」

【code-A 3minutes BURST!!】

 莫大な熱が周囲の光景を陽炎のように揺らめかせ、絶大な力が地面にクレーターさえ生みだし、膨大な光がオーラの如くまき散らされる。

 ジェネレーターの出力が、さらに爆発的に跳ね上がる。

【ジェネレーター出力、制御限界を突破。

 内部エネルギーによる機体の損壊防止のため、各種リミッターを解除。

 エマージェンシーモード 強制発動】

 周囲に満ちる熱が、大気が、光が、アストラルを中心に全て吹き飛んだ。

 コアと発光体のスカイブルーの光が、血のような赤へと色を変える。装甲を覆っていた塗装が剥がれ落ち、カーボンの装甲がむき出しとなる。純白だったアストラルが禍々しい漆黒と赤い光に包まれていた。

「これがアストラルの……。エマージェンシーモード……」

 装甲からあふれ出したエネルギーが、青白い光となりオーラのように周囲へ舞う。

『アスカく……通し…………ノイ、ズ……き…………』

 バースト・ドライブの弊害か、一葉からの言葉が正しく届かなくなっているようだ。だから飛鳥は「大丈夫だ」とだけ言って、通信を切った。

 ここから先は、彼の戦いなのだから。

『お前も来たか、ここに! さあ、もう一度オレと戦おうぜ! ありったけのその先をぶつけ合おうぜ!!』

「……ああ」

 両手で握るフォトンブレードが、腕を下げるだけで地面を削るほどの大きさへと一気に長大化した。刀身から青白い光の球が発生し、宙へと浮かんでは消える。

 その重圧を増す漆黒のアストラルは、鮮やかな緑の光に包まれるフラッシュをまっすぐに見据え――――

「お前の全力を超えてやる! 本気で行くぞ!!」


 言葉と共に、近くのビルが木っ端微塵に消し飛んだ。

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