3章『バースト・ドライブ』:1
都会のど真ん中と変わらないような景色の中、黒いアスファルトの大地にアストラルは静かに降り立った。
『よう、アスカ。遅かったじゃねーの』
目的の島に着いた飛鳥を待っていたのは、アルフレッドのそんな言葉だった。言葉の端から余裕が漂うその口調に、飛鳥は苛立ちを通り越してあきれさえ感じていた。
「別に、出撃の前にいろいろ準備が必要だったんだってさ。俺がどうこうじゃない」
『だろうな。まーオレも着いて2,3分しか経ってないから気にしてねーけど』
お互いに軽口をたたき合いながら、真正面から睨み合う。遥やジョージが観戦するということで今はそちらからの連絡を待っている状態だが、もしそういった状況でなければ既に刃を交えていたかもしれないほどの緊張感が漂っていた。
アーク特有ともいえる雰囲気。機械的ではなく人間的な感情の切れ端に似たものが、空気感として両者の間で火花を散らしている。そこではまるで見えない力が働いているかのように、生温い潮風が歪に渦巻いていた。
アストラルが対峙するのはコードF、アーク・フラッシュ。
機体の形状はアストラルと似た流線型で、白と青を基調としたカラーリングをしていた。要所に入れられた黄色いラインと、ライトグリーンの発光体の光が目立つ。コアの形は逆三角形で、胸の部分がアストラルなどに比べて少し大きくせり出している。
全体的にアストラルと似た印象のフォルムで大きさもほぼ同じだが、華奢さは感じられない。その理由はそのかなり大きな脚部にあるだろう。
ただの足ではなく、ローラースケートのようにローラーが取り付けられていた。
一葉の説明ではフラッシュは地上戦で強いというし、脚部のローラーは機動面を支えるものなのだろうことは容易に想像できた。
装甲もアストラルよりは厚いだろうか。極端に差はないだろうが、外見からも姿勢制御用のスラスターの数がアストラルよりもかなり少ないことが分かる。武装面でも見た目に大きいのは唯一背部のブロウアップカノンだけであり、その上でアストラルより重量が大きいとなると、それは装甲に重量が回されていると考えるのが妥当だろう。
全体的な雰囲気からどこかF-1カーを彷彿とさせる、洗練されたデザインの機体だった。
飛鳥が無言でフラッシュの外見から可能な限りの情報を集めていると、フラッシュのコックピットから楽しそうな声で通信が送られてきた。
『じろじろ見やがって、もう戦略でも立て始めてるのか?』
「そうだよ、なんか文句あるか?」
『いや全然、ただえらくマジだなって思ってよ。オレとしては嬉しい限りだがな』
「勝つって言ったろ。手は抜かねぇ」
『いいねー、そういうのは最高だッ……』
冷静に闘志をたぎらせる飛鳥に対し、アルフレッドは熱くなっているのが口調にも現れている。
『は~い、二人とも。準備はできてる?』
いよいよ一触即発となった二人の間に割って入ったのは、基地内の通信施設から送られてきた遥の声だった。
必要以上に間延びしているように感じられた遥の声。意図してか否か、その声を聞いた飛鳥の張り詰めていた緊張の糸がほんの少しだけゆるんだ。本来持っておくべき気持ちの余裕のようなものを感じて、飛鳥は深く息を吐いた。
一度片腕を自由にして、コックピット内のコンソールを操作する。
「…………システム変更完了。はい、大丈夫です」
『オレも問題ないぜ』
『よし、それならいいわね』
二人が揃ってそう答える。映像のない音だけの通信ではあるが、飛鳥には満足げにうなずく遥の顔が見えるようだった。
『今回はその人工島の上で戦ってもらうのだけど、もともと作り直す予定もあったみたいだから街並みを壊しちゃいけないということはないわ』
そう言われて、飛鳥は辺りを見渡して見る。
周囲に広がるのはやはり大都会のど真ん中のような灰色の街。
景色をコピーして貼り付けまくったような動きのない風景ではあるが、それを除けば特に違和感はない。似たような建物ばかりが並ぶのも、画一化された都市をイメージさせるものでしかなかった。
『つまり思う存分暴れてもらっていいということなのだけど、その上でいくつかルールがあるわ。まず、むやみに島の外部に向かって攻撃をしないこと。そして戦闘は上空を含めた島の上に限定するわ。外部に被害を出すわけにはいかないから』
「了解です」
忠告を受けた飛鳥がそう返す。アルフレッドは何も言わなかったが。彼も理解はしていることだろう。
『戦闘はアストラルかフラッシュのどちらかが継戦不能となるまでよ。基本的にはどちらかのアークが撃破によって機能を停止するまでと思ってもらえればいいわ。……細かいルールは以上よ。この模擬戦は島中にあるカメラから映像をこちらへ送るのだけど、それに関してはあまり気にしないように』
カメラから映像が行っているなら、と飛鳥は黙って頷いて見せる。遥がそれに関して特に言及してこない以上、正しく伝わったことだろう。
『それじゃあ最後にもう一度だけ聞くけど、二人とも準備は良いわね?』
「はい!」
『ああ!』
飛鳥とアルフレッドの二人が、遥の問いに勢いよく答えた。二人とも気合は十分だと、それだけで読み取れるような声だった。
『それでは……』
言葉に合わせ、アストラルの眼前のフラッシュが姿勢を低くする。アストラルも同様に、膝をかがめて力を蓄える。
『始め!!』
合図と同時、二機が迷いなく飛び出した。
「はっ!」『サァ!』
重なる二つの掛け声、そして光の刃。アストラルのフォトンブレードとフラッシュのグラインドダガー、双方が左手に持つ武器から生み出された重光子の刃が火花を散らす。
交錯は一瞬だった。
両者の中間で舞った火花が消えぬうちに、既に数十メートルの距離を離している。
「―――――ッ!!」
フォトンブレードを装備していなかった右手でフォトンライフルを抜き取り、振り返ることもなく脇の下から銃口を差し向け発射する。
インパクトモード、高速の光弾。
『うおっと、あぶねぇ!』
振り返ったばかりのフラッシュは機体をのけぞらせて光弾を強引に回避する。反撃は無理と判断したのか、そのまま一端退いていく。アストラルも機体を振りかえらせて、大きく後ろに飛び退いた。
(あれほど無理に回避する……、フォトンライフルでもある程度のダメージにはなるのか)
一瞬のやり取りから、飛鳥はそれだけの情報を取得する。
バーニング、エンペラーと大型のアークばかりと戦ってきた分フォトンライフルが機能しづらかったが、どうやらフラッシュはそうではないようだ。
となれば、中距離の手数に不安は無い。オペレートをしている一葉もそう判断したようで、外部には漏れない通信方式でこう告げてきた。
『向こうもこちらの武装を把握しています。その上で今の回避、ある程度有効と判断できます』
「分かってる、だったら!」
左腕のフォトンブレードを戻し、そちらもフォトンライフルを手に取る。両手に構えフラッシュの胸元に向けて連射する。
光弾が着弾する直前に横を向いたフラッシュが急加速し、手近にあった建物の陰に飛び込んだ。
追うように放たれた重光子の弾丸だったが、それもコンクリートの建物を貫くほどではない。
どうやら簡易構造建築とやらは、アーク同士の戦闘における地形として十分な強度を持ち合わせているようだ。
即座に主とする視界を情報視界へと変更し、建物の裏にいるフラッシュの挙動を確認し用途する飛鳥。
だが緑を基調とした情報視界へと見えているものが変わった時、既にそこにフラッシュはいなかった。
『アスカくん、上です!!』
すぐさま見上げたアストラルの真上から、逆手に刃を発生させたグラインドダガーを持ったフラッシュが飛びかかる。
『もらいだ!』
機体の落下のスピードを乗せ、肩口を切り落とす軌道で白い光刃が振るわれた。
「あるわけねぇだろ!」
脊髄反射のスピードで、アストラルのビームブースターが前方斜め下に向けられる。
間髪いれずに噴射された光が生み出す推力によって、アストラルは大きく弧を描いて後退する。
直後に振るわれたグラインドダガーの光刃は、ただ空を切り裂くだけにとどまった。
空中で姿勢をうまく保ちながら、アストラルは両のフォトンライフルをフラッシュめがけて同時に打ちこむ。フラッシュは身をひねると、とてつもない加速で横へ移動して回避した。
確かにアストラルに匹敵するほどのスピードはある。改めてそう認識した飛鳥は、さらに警戒を強めていく。
地上を滑らせているとは思えないほどの急旋回でフラッシュが切り返し、再度アストラルへと突撃した。
左手に持っていたグラインドダガーは手首部分にあるホルスターに収納されている。しかしその代わりに、右肩の背中側に固定されていたハイブリッドアサルトライフルを構える。
フラッシュは音速寸前の強烈な速度で地上を駆けながら、手に持ったアサルトライフルから弾丸をばら撒いた。
黒い弾丸が一直線に並んで襲い掛かる。飛び退くアストラルの脇腹に、数発の弾丸が突き刺ささった。
「くっ!?」
想像以上に弾速が早い。
弾丸の軌道をある程度見切れていること自体が異常ではあるが、そもそも飛鳥はアークに五感の認識力を強化されている。
問題は、見えていても回避しきれないということだ。
連射速度はそこまでではないが、武器のサイズは小さいのに一発あたりの威力がバーニングのガトリングに匹敵するほどもある。直撃はまずい。
アストラルが引きに徹したのに乗じて、フラッシュはその速度を加速させる。
機体が音の壁を突き破った瞬間、周囲に乱立するビルの窓ガラスが一斉に砕け散った。路面に飛び散ろうとするガラスの破片さえも巻き込んで、煌めく気流を纏ったフラッシュがアストラルに肉薄する。
遠近感が狂うような瞬間的な加速はビームブースターで加速したときの感覚に似ているが、受動的であるという点が大きく異なる。異様な感覚に、飛鳥はその身を硬直させてしまう。
『もらいだアスカ!』
急速接近しつつアサルトライフルの弾丸を叩きこんでいくフラッシュ。脇に抱えるような構えにもかかわらず凄まじい射撃の精度。銃自体の照準で狙いを付けるのではなく、アークの照準システムを利用しているのだ。
飛鳥は今の双方の動きから、考えなしの回避は追撃を受けるだけだとすぐさま判断する。
「だったらこうだ!! うおぉおおぉぉぉおおお!!」
機体の被弾も無視してアストラルはビームブースターを後方に噴射、回避の姿勢から一気に攻めに転じた。
当然その両手には、フォトンブレードが構えられている。
機体をドリルのように回転させながら、すれ違いざまにフォトンブレードを振りまわす。フラッシュが持つのはあくまでも射撃武器、防御には使えない。そしてこの瞬間的な反撃、回避ができるものではない。
だが――――
『そいつは見えてんだよ』
フラッシュはその場で横に弧を描くように動き、青白い光刃を紙一重で回避する。
「なにっ!?」
反撃を確信していた飛鳥は、驚きのあまり追撃すらままならない。
アストラルが離脱のため、今の速度を生かしたまま一旦距離を離そうとフラッシュに背を向けた瞬間、その背中に強烈な衝撃が加えられた。
思いもよらぬ一撃に、アストラルは低空飛行の姿勢を大きく崩される。そのまま立て直すことすら叶わず、地面に機体を叩きつけた。
「ぐああぁぁぁぁああああ!!」
全身を満遍なくバットで殴るような無茶な衝撃にコックピットの飛鳥が悲鳴を上げている間にも、アストラルはその各部を何度もアスファルトに叩きつけていた。
『アスカくん、追撃が!』
「っ、分かってる!」
即座に両腕で機体をはね上げたアストラルの居た場所を、高速の重光子弾が撃ち抜く。
回避ではなく体勢を整えるための動作だったが、それをしなければ間違いなく直撃していた。
両手両足でアクロバティックに距離を離しつつ、遠方のフラッシュの様子をうかがう。フラッシュは両足をしっかりと地面につけたまま、左肩から大きな砲の先をこちらへ向けていた。
追撃が来る――――そう判断した飛鳥が反射的にアストラルの機体を強引にひねった瞬間、胸をかすめるように淡い緑の光弾が超高速で突き抜けた。
『へぇ、こいつを避けるか』
「HPブロウアップカノン……、弾速が早すぎる」
ガリガリと地面を削りながら、後進するスピードを打ち消していく。不意の攻撃に備えてビームブースターは使わずにいたが、それ以上の追撃は無い。
「それほど連射はできないか、狙いをつけるのに時間がかかるのか……」
『武装特性的に恐らくは後者でしょう。それと威力自体はそこまで高くはありません。弾速が早すぎる以上守勢に回るのは危険です』
「了解、ならこっちから攻めるまで! 行くぜ!!」
地面を踏みつけ、砲を構えるフラッシュの元へ突撃する。メインブースターの噴射も相まって、フラッシュにも劣らない強烈な加速を生みだした。
砲の形を鑑みるに、近距離で取り回せるようなものではないはずだ。
地上スレスレを飛行するように駆け抜ける。飛鳥はまだ空中を飛行することはできないが、地上付近を駆けることならできた。
『そう来るかい? だったらこっちも!』
フラッシュは肩越しに差し向けていた砲を上に向け直しつつ、右手に持っていたアサルトライフルを右の背に戻す。左手首のホルダーから射出されたグラインドダガーを素早くつかみ、順手に刃を発生させた。
『あの武器、ダガーのグリップのどちらからでも刃が出せるようです。注意しておくべきです』
「ああ、だがどのみち手数はこっちが上だ!」
数百メートルと離れていた距離を一瞬で詰め、一気に格闘戦へと持ち込んだ。前進のスピードを乗せ、右のフォトンブレードを勢いよく突き出す。
その刺突の一撃は、ダガーをもつ手首を返すような動作で軽くいなされてしまう。だが飛鳥は速度を緩めず、左のフォトンブレードで流れるように斬りかかる。
(こっちは両手、向こうは片手。手数の有利は明らかなんだ!)
『そう上手くいくかい!?』
激しく地面を削る音が聞こえたかと思うと、フラッシュの機体が後方に加速した。足についたローラーを使い、機体を後ろ方向へ進ませているのだ。
勢いよくふるわれたフォトンブレードだったが、その切っ先はやはり空を切るにとどまる。
「逃がすかよ!」
崩しかけた姿勢を戻し、再度肉薄しようと地面を踏み締めるアストラルの眼前。
フラッシュが身体の前で腕をクロスさせて自身の両肩をガシッと掴んだ。
いや、掴んだのは肩ではない。肩の装甲に取り付けられていた、碇のような形をした薄い2枚の装置だ。
『そこだ! 行け、ファルコンリッパー!!』
フラッシュは機体を弓なりに大きく逸らすと、全身のバネを使って装置を手裏剣のように投げつける。
「――――ッ!」
足を止めたアストラルを狙い高速で飛来する2枚の装置から、三日月形の白い重光子刃が発生する。
空中にでたらめな軌跡を描きながら、2つの機械の鷹が高速で迫りくる。
至近距離に近づいた瞬間、ファルコンリッパーは両脇から挟み込むようにアストラルへと襲い掛かった。
「当るもんかっての!」
飛来する二つの刃を、アストラルは両手のフォトンブレードで受け止めた。グラインドダガーとぶつけ合わせた時のような火花が、二つの光刃の間で連続で発生する。
『刃の性質は恐らくグラインドダガーと同じ、刃の形の重光子が流動することでチェーンソーのように削り取る形になっています』
「関節にピンポイントに貰うのはマズイか、でも斬撃は軽い!」
刃を受け止めていた両のフォトンブレードを大きく広げ、二つのファルコンリッパーを同時に弾き飛ばす。
だがその瞬間、アストラルはその正面を、フラッシュからの攻撃を防ぐ手段を失っていた。
『おいおい隙だらけだぜぇ!』
フレッシュはスピードを一切緩めぬまま、アストラルの胸元に強烈なショルダータックルを叩きこんだ。
「ぐはっ!!」
速度を直接交換するような勢いでアストラルが後方へ凄まじい速度で吹っ飛んだ。
装甲越しにもかなりのダメージが通ってしまうが、同じく機体をぶつけたはずのフラッシュはそれほど大きなダメージを負った印象もない。やはり機体の強度ではフラッシュの方が上らしい。
アストラルは吹っ飛ぶ機体を強引に立て直し、フォトンブレードを油断なく構え直す。
「くっ、無茶苦茶な攻撃を」
『機体重量はあちらが上ですから、受けたくない攻撃ではありますが……』
「けどカウンターのチャンスでもある、次は見切る」
アストラルの正面から、2つのファルコンリッパーを引き連れたフラッシュが接近してくる。アストラルも迎え撃つように地面を蹴り、一息に肉薄した。
首元を狙い振るわれた逆手持ちのダガーを、右のフォトンブレードで受けとめる。
直後、片方のファルコンリッパーが左側から回り込むように斬りかかる。
それを左のフォトンブレードで弾き飛ばした瞬間、今度は右側からまたしてもファルコンリッパーが襲い掛かる。
アストラルは全身を大きくひねり、ダガーをうまくいなすとともに襲い掛かるファルコンリッパーを弾き飛ばした。
腕を振り抜いた勢いで機体がフワリと浮いた瞬間、向きを変えていた背中のビームブースターを噴射。生みだされた力は機体を独楽のように回転させた。
「うらぁっ!!」
ダガーをいなされたせいでバランスを崩していたフラッシュの土手っ腹に、アストラルの鋭い蹴りが突き刺さった。
いかにアストラルと重量に差があろうと、それはバーニングほどではない。回転を利用した強烈な回し蹴りを受けたフラッシュの機体が、大きく後方へ打ちだされる。
吹っ飛びながらも姿勢が崩れることは防いだフラッシュは、100mほど離れた位置で機体の速度を殺しきった。
ケーブルで繋がれていたファルコンリッパーもフラッシュの肩の装甲部分に自ら戻っていく。射出してからの時間から考えるに、連続展開時間の限界というわけではないだろう。
『へぇ、なかなかやるじゃんアスカ』
反撃の一撃は決して軽いものではないはずなのに、笑みを浮かべているのがそれだけで分かるほどにアルフレッドの言葉には余裕が感じられた。
「そう一方的にやれるとは思うなよ。こっちだってそれなりに動けるんだからな」
『みたいだな。……だけどオレは止まらねぇぜ』
再度肩のファルコンリッパーを射出し、左手にダガーを携握りしめたフラッシュが再び接近していく。アストラルも油断なくフォトンブレードを構え、迎え撃つように駆けだした。
フラッシュの突進速度は先ほどよりも遅い、だがだからこそファルコンリッパーが先行して飛来する。
飛鳥が両のフォトンブレードで弾き飛ばそうと判断したとき、一葉が慌てた様子でこう言った。
『ファルコンリッパーでは大きなダメージにはなりません! フラッシュに注意してください!!』
「ッ! それもそうかっ」
ファルコンリッパーを弾くために振りまわそうとした両腕を顔の前でクロスさせ、前方からの奇襲に備える。その構えのまま、前進するフラッシュに向かって一気に加速する。
ファルコンリッパーの刃が装甲に浅い傷をつけるが、構わず駆け抜ける。フラッシュまであと一歩となった瞬間、フォトンブレードを思いきり振り抜いた。
「そう何度も!!」
『くっ、オォォオオオオオオ!!』
フラッシュはグラインドダガーで右のフォトンブレードを受けとめようとするが、身体ごと振りまわすような一撃を受け止めたために、一瞬機体の動きが止まってしまう。
その瞬間を飛鳥は見逃さなかった。
頭部に狙いを定め、鋭い攻撃を放つ。
「そこだぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
超高速の刺突の一撃をフラッシュは首を振って強引に回避する。
だがそこは飛鳥の予測の範囲内。アストラルはグラインドダガーとぶつけ合っていたフォトンブレードを引き、無防備な肩口に向けて振り下ろす。
『ぐっ!』
回避しきれない一撃に、フラッシュがその姿勢を崩した。その瞬間、アストラルが両のフォトンブレードを嵐のように振りまわした。
空中に残される青の軌跡が、まるで面のように空間を埋め尽くす。それほどの斬撃が一瞬のうちに放たれた。
フラッシュもグラインドダガーでその斬撃を受けとめようとするが、手数が明らかに違う。捌き切れない一部の攻撃が、フラッシュの装甲に決して浅くない傷をつけていく。
『んなろ、ナメんな!』
コンマ数秒ごとに放たれる攻撃の隙間を縫って、フラッシュはグラインドダガーを突き出した。
それこそ一瞬しかない猶予でありながら、放たれた一撃は正確に首元へと狙いを付けている。
飛鳥はアルフレッドの判断力に舌を巻きながらも、冷静に身体をひねって回避。フラッシュが機体を前に倒す勢いを逆に利用し、カウンター気味に蹴りを叩きこんだ。
「セイッ!!」
鈍い音と共に、フラッシュが後方へと大きく吹っ飛ぶ。しかしフラッシュは吹っ飛びながらも姿勢をうまく制御し、低空で宙返りをして両足で着地した。
追撃を加えようとアストラルが右のフォトンブレードを引き絞りながらグッと地面を踏み締めたとき、遠方のフラッシュがグラインドダガーで刺突の構えをとった。
リーチの短い武器なのにカウンターでも狙っているのか、と飛鳥が怪訝に思った時、
『そこだ、食い付けファルコンリッパー!』
アルフレッドがそう言った途端、引いていたアストラルの右腕にファルコンリッパーが飛びかかる。ファルコンリッパーが高速で腕の周りを回ると、尾の部分のケーブルがその腕を強引に拘束した。
「なにっ!?」
『さぁ来いアストラル!!』
グッッッ! と見た目以上に強力な力で引っ張られ、アストラルが姿勢を崩したまま前方へと引き寄せられる。
右腕を拘束されたまま向かうのは、必殺の一撃を構えるフラッシュ。
(こんな使い方まで――――こいつはマズい!?)
フラッシュがグラインドダガーを突き出そうとした瞬間、放たれた青い閃光が強大な推力でもってアストラルの軌道を強引に変えた。
突き出されたグラインドダガーを跨ぐように、アストラルはフラッシュそのものをも飛び越える。
「はっ!!」
気合一閃。フラッシュの真上でさかさまになりながら、右腕を拘束していたケーブルを左のフォトンブレードで断ち切った。
「エネルギーケーブルを切っちまえば、こんなもんはただのおもちゃだ!」
『……そうか、そりゃ残念だ』
得意げに語る飛鳥だが、アルフレッドの口調から余裕が消えることはない。怪訝に思った直後、ガシャンと小さな音を立てて、右腕に絡みついていたケーブルをファルコンリッパー自身が切り離した。
『そいつはただのワイヤーだぜ』
「ちぃっ!」
舌打ちをしつつも、飛鳥は冷静にアストラルとフラッシュの距離を離す。空中を回転しながら、立ち止まったままのフラッシュから大きく距離を離す。
空中で姿勢を正している最中、呟くようなアルフレッドの言葉が聞こえてくる。
『正直ここまでやるとは思わなかったよ。やっぱ手ェ抜くのはナンセンスだよな』
ヒラリと宙返りをして足を下に向けたアストラルに対峙するように、フラッシュが振り返る。
『だからオレも出し惜しみは無しだ』
ぐぐっ、とフラッシュが姿勢を沈め、遠ざかるアストラルをその黄色い相貌でまっすぐ見据えた。
『次はこいつを使ってやるぜ』
「ごちゃごちゃぬかして、余裕ぶってんじゃねぇぞ!!」
ダンッ、と勢いよくアスファルトの大地に両足を着けたアストラルは、即座に腰のプラズマバズーカ二門を構える。砲口はまっすぐフラッシュを捉えていた。
「吹っ飛べよ、フラッシュ!!」
爆弾さながらの轟音をまき散らして、二つのプラズマバズーカから同時に青い雷弾が放たれる。
弾速はフラッシュのブロウアップカノンにも劣らない。アストラル並みの加速性であっても、見てから回避するのはほぼ不可能だ。
だからその一撃は――――
『フラッシュダイブ!!』
直撃の、はずだった。
フォン、という小さな音。
放たれた一撃は、どういうわけか遥か遠方の島の果てまでまっすぐ突き進んでしまう。
当るはずだったフラッシュが、何故かアストラルの前にいない。
突如辺りを埋め尽くした不気味な静寂が、腹の底に重くのしかかる。
(何だ!?!? 一体どこに――――)
飛鳥が周囲に意識を向けようとして、
『こっちだよ』
「なん――――――」
真横からの声。飛鳥がそちらに意識を向けた瞬間、アストラルの胸元にフラッシュの強烈な回し蹴りが叩きこまれた。
「ぐわぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」
突然の状況にまるで理解が追いつかず、受け身の一つも取れはしない。飛鳥が混乱に思考を奪われたまま、アストラルは何度も何度も地面にたたきつけられ数百メートルもの距離を転がった。
「い、今のは…………」
『恐らく、あれがフラッシュダイブでしょう。亜光速で機体を射出する瞬間移動技……』
尋常ではない。
何かしらの前準備すらなくただ名を宣言しただけで、一瞬にしてアストラルの真横に現れたのだ。
両腕で必死に機体を起こすアストラルを、フラッシュは余裕の姿勢を取りながら眺めている。追撃を加えようと思えばそうすることもできたのに、だ。
『なに、今攻撃するのはアンフェアだろう。オレは手持ちのカードをしっかり見せたうえでやりたいからな』
アストラルが立ちあがるのを待って、フラッシュは右手を左の手首に寄せた。親指と人差し指でつまんだのは、ケーブルの繋がった何かのコネクタ。
フラッシュはそのコネクタを、左手に持ったグラインドダガーの小指側にある、対となるコネクタに突き刺した。
先ほどは逆手にも刃を出していたことから、逆手側は重光子刃の発生部分とエネルギー供給用コネクタを兼ねていることが分かる。
コネクタとの接続が確認された瞬間、グラインドダガーの刃が数倍にも延長される。
先ほどまではその名の通りダガーのような大きさだったのに、今では細身の剣と同じレベルだ。見た目はさながらエストックのような状態になっている。
アルフレッドはフラッシュを操り、左手を横に薙ぎながら言う。
『グラインドダガー・フルロード。こいつの最大出力だ、これでリーチの差はないぜ』
「くっ…………」
有利だった部分の一つを潰され、苦々しげにフラッシュを睨みつける飛鳥。アルフレッドは変わらず余裕の様子のまま、軽い口調でこう告げた。
『さぁ、やっと本番だ。オレもアクセルかけて行くぜ?』
この戦いは、まだ始まったばかりだ。




