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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第3部‐閃光は海を越えて‐
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2章『閃光は海を越えて』:9

「アスカくん、アストラルで模擬戦をするって本当ですか?」

 建物の中に入ってすぐに一葉が現れてそう言った。一緒にゲームをしていたはずのニコラスはそこにはいなかったが、恐らくフラッシュの方に行っているのだろうと飛鳥は適当に予想した。

 それよりも気になるのは、一葉の隣にいる虎鉄の存在だった。

「ええ、一応。……ってか、なんで虎鉄の爺さんと一緒にいるんですか?」

「ワシはこれでもメカニックじゃ。アストラルの駆動系のメンテナンスはワシが管理しとるんじゃぞ、ここにいても当然じゃろう。それにこの小娘、こっちの言葉が話せんというではないか。仕方がないからワシが付いていてやったんじゃ。全く、手のかかる奴じゃのう!」

「ツンデレかよこのジジイ……」

 テンプレのような虎鉄の態度に、毒気を抜かれた飛鳥は茫然とそう呟いた。虎鉄は年齢が年齢のためか、飛鳥の言葉の意味は理解できなかったようだ。対して傍らの一葉は虎鉄の態度に苦笑いを浮かべていた。

 こうして見ると、我儘なおじいさんとその孫のようにも見える構図だ。そして存外、虎鉄は面倒見がいい方なのかもしれない。

 虎鉄が飛鳥の方に一歩踏み込んでくる。飛鳥の胸ぐらいまでしかない身長で、やたら尊大に胸を張っていた。

「それより小僧、フラッシュのガキと勝負をするそうじゃな」

「あ、あぁ、そうだけど」

「ふむ。まぁワシが言うことではないかもしれんが、やるからには勝つんじゃぞ」

「もちろんだ。けど、なんでいきなりそんなこと言うんだ?」

 以前のこともあるし、飛鳥と虎鉄は決して折り合いがよい方ではない。それは何よりも虎鉄が飛鳥、というかアストラルのパイロットだった二人のことを一方的に嫌っている部分があったからだ。そんな虎鉄から激励の言葉を受けた、ということ。

 キョトンとした表情でそう尋ねると、虎鉄が不機嫌そうに視線を逸らした。

「……ワシも以前アストラルの武装を開発したことがあっての。まぁ機体との相性が悪いだ何だとかでお蔵入りじゃった。それは仕方がないとしてもじゃ、それならそれで負けられるのもつまらん話じゃからのう」

「なんか分かるような分からんような……」

 集団競技で補欠に放り込まれたような感じだろうか、と飛鳥は適当にそう推測する。自分が参加しないままチームが敗北したりすれば、それもまたやるせないと言ったことだろうか。

 いま一つ正しい理解をした自信はないものの、飛鳥は深く尋ねることはなく適当にこう続けた。

「まぁいいや、やるからには勝つよ。俺も、あいつには負けたくない」

「……ふん」

 小さく鼻を鳴らすと、虎鉄はどこかへと去って行ってしまった。しばらくその背を目で追っていた一葉が、飛鳥の方を振り向いてこう尋ねた。

「……アスカ君、何かあったんですか?」

「いろいろと。気にするほどのことじゃないっすよ。それより一葉さん、オペレーターをお願いしていいっすか? 遥さんは観戦するみたいだし…………俺も今回はちょっと、本気でやりたいんで」

「わ、わかりました。じゃあ、準備してきます」

 無意識に剣呑さすら含ませてしまっていた飛鳥の言葉を聞いて、一葉は詰まりながらもそう答えた。それ以上は何も言わずに小走りで去っていくその背中を見送って、飛鳥は静かに右手の甲をアストラルに差し向ける。

 アストラルのコアと右手の甲が光を放ち、自分の身体の重みが無くなる独特の感覚が飛鳥を包み込む。

 瞬き一回の後に、飛鳥の身体はアストラルのコックピットの中にいた。



「ライセンス認証」

 静かにそう言って、飛鳥はいつものようにシステムを起動させる。

 数分後、VRシステムに五感をゆだねた飛鳥の頭に声が響いた。

『ごめんなさい、遅れました』

 一葉からの通信だ。いつぞや遥がやっていたような、カメラを使った映像通信である。

「いや、いいっすよ。ところで、もう出発していいんでしたっけ?」

『まだ出撃までの準備はできないみたいですから、少し待ってもらわないといけません。調整は終わってますけど、島までの飛行ルートの確認などがまだできていないみたいなので』

「そっすか、それじゃあできるまで待っておくってことか。どれぐらいかかりそうですか?」

『10分は掛からないと思いますけど、でもそれぐらいはかかると思っておいた方が良いでしょう。それと、アストラルは直接飛行して島まで行くので、システムを飛行モードにしておいてくださいね』

「そっちはもう済ませてます、直接行くのは知ってたんで」

 飛鳥はまだアストラルでの継続飛行ができない。

 飛行に対する感覚は一葉との特訓でダイブ身についたものの、未だにジェネレーター出力にムラが見られるため、飛行自体があまり安定していないのだ。そのため、継続飛行をするためにはシステムを『飛行モード』に設定しておかなければならない。

 飛鳥自身その辺りの事情は一番よくわかっているため、アストラルを起動させてすぐにシステムを設定し直していた。

『それと今回の模擬戦は純粋な機体性能とパイロットの操縦技術の総合的な強さを見るとのことで、互いの機体情報を知った状態で行うみたいです。なのでフラッシュの機体特性や武装関連のデータをもらっていて、逆にこちらの情報も向こうに知られています。あくまでもある程度、ですが』

「機体情報を、か……。教えてもらえますか?」

『はい、わかりました』

 何かしらの大きな機器から通信を送っているのだろうか、一葉はそう言うと手元のキーボードのようなものを操作して、カメラ付きのモニターに少しだけ顔を近づけた。

『アルフレッドさんが操縦するのはアーク・フラッシュ。地対地戦闘に特化した機体で、地上での機動性はアストラルに匹敵するかそれ以上のものがあります』

「機動面で同等レベル、となると少しこっちがきついか……?」

『飛行能力が無いのが弱点ではあるのですが、それは今のアストラルでも同じですしね。地上戦闘に特化している分、機動性は同じでも装甲はあちらの方が少し上みたいです。といってもそれほどに差があるわけではありませんが。何にせよ機体重量はあちらの方が重いですから、格闘戦には少し注意をした方が良いかもしれません』

 一葉のその言葉を信用するなら、それはあまり削り合いのようなものをしても有利な状況にはならないということでもある。もともとアストラルはヒットアンドアウェイを得意とする機体ではあるが、機動性でほぼ同レベルとなるとそれも難しいかもしれない。

「武装面はどうなってるんですか?」

『武装は中近距離で高い性能を誇るハイブリッドアサルトライフル、ライトニングMk-2が一つ。これはアークサイズのアサルトライフルと考えればいいと思います。取り回しではアストラルのフォトンライフルに劣りますが、質量兵器なので威力が高く、連射速度もかなりのものです。

そして、背部の固定武装であるHPブロウアップカノンが一つ。こちらは高速の重光子弾を発射するキャノン砲のようなものです。威力はプラズマバズーカ程ではないですが、弾速が非常に早いので注意してください』

「当ると致命傷ってレベルではないんですよね?」

『ええ、ですが直撃して姿勢を崩している間に追撃される危険性もありますよ。格闘戦で使える武器はHPグラインドダガーが一つ、こちらも重光子兵器です。ダガーという名前から分かると思いますが、サイズの小さい刀剣武器です。出力はフォトンブレードの方が高いですが、特殊な方法で出力を大幅に上昇させることもできるみたいです』

 とはいえ刀剣武器が一つしかないということは近距離での手数も限られるということである。となれば、近接戦闘ではアストラルの方が比較的有利ということだろうか。

『あとは2連装地対地ジャミングロケットが二つ。これは攻撃用の武器ではなくセンサー妨害用の武器です。スモークも出るみたいなので、有視界でのロックオンにも支障がありますから注意してください』

「スモークか、確かに邪魔になりそうだな……。武器はそれで終わりですか?」

『いえ最後に一つ、ファルコンリッパーというものがあります。単体で飛行可能な重光子刃形成機で、ようは空飛ぶスライサーのようなものでしょうか。切断力はさほど高くはないですが、連続展開時間がかなり長いみたいなので近距離では気をつけなければならないかと』

「遠隔制御系の武器になるのか……」

 少しネックになりそうな要素に飛鳥が顔をしかめていると、一葉が若干不安そうに続けた。

『それと、フラッシュの能力も気になります』

「どんな能力なんですか?」

『能力は閃光。現時点で判明している限り、機体を光量子に瞬時に変換し任意方向へ亜光速で射出するというもののようで。戦闘中に使えるほとんどテレポートのようなものなので、かなり強力です』

「……そんなのありなんすか?」

 冗談のような話に、飛鳥は唖然としてしまう。戦闘中に瞬間移動など、あまりにもむちゃくちゃではないだろうか。その心情を察したのか、一葉も気の毒そうな視線を向けてきていた。

『ここに記されている以上、そういうものもあるんでしょう。ただ、最大移動距離が200m程度とか、連続発動ができないなどいくつかの制約があるみたいです。それにしたって十分に強力ですが』

 いくら制約があるとはいっても、瞬間移動能力は相当にぶっ飛んだものだろう。どういった使い方をしてくるかは飛鳥にはまだ分からないが、ある程度その能力を主軸に組み込んだ戦い方をしてくるだろうことは想像できた。

 いくつか不安要素はあるものの、戦うという事実に変化はない。そして、勝つという意志にも揺らぎは無かった。

『アスカくん、ルートの構築が完了したそうです。フラッシュは既に島に到着しているみたいなので、アストラルも準備でき次第出撃してもよいとのことです。……ルート、表示しました』

「了解、ちゃんと見えてる」

 アストラルのカメラと接続していた情報視界に、赤いラインが現れた。これが飛行ルートなのだろう。

『機体の拘束を解除。アストラル、自立を確認。ジェネレーター出力正常、各部異常なし。全武装のコネクションにも問題ありません。CPU処理能力も正常値を確認。出撃できます!』

 一葉の言葉にうなずくと、飛鳥はスッと前を見据えた。

「よし、行くぜ」

 ぐっ、とアストラルが姿勢を低くする。

 目の前の滑走路に重なるように伸びる赤いライン、その先に広がる青い海。

「星野飛鳥、アークアストラル! 出撃する!!」

 ハンガーのある建物そのものを激しく揺らしながら、アストラルが勢いよく飛び出してく。

 目指すは沖合の人工島。そこでは、アルフレッドが操るフラッシュが待っている。

 負けられない戦いが、待っているのだ。

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