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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第3部‐閃光は海を越えて‐
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2章『閃光は海を越えて』:8

 飛鳥がアストラルのハンガーに来た時、その建物の前で遥とジョージが談笑していた。その傍らには隼斗と、見たことのない青年が立っている。

 なにはともあれ話をしないといけないので、飛鳥は遥に声をかけた。

「遥さん」

「あら、ちょうどいいところに帰ってきたわね」

 振り向いてそう言った遥の隣には何故かジョージがいるが、彼は先ほどフラッシュのハンガーに行っていたはずだ。

「あれ、ジョージさん何でまたここにいるんですか? 確かフラッシュの方に行ったんじゃ……」

「なに、アルケインフォースの人間と話をしただけで、フラッシュは関係なかったよ。その話も単に事務的なものだったからすぐ終わったんだ。フラッシュの調整ではボクにやれることはないし、個人の興味としてアストラルの調整風景を見てみたかったのさ」

「はぁ、そういうことですか。……じゃあ、フラッシュの調整はまだ終わってないんですか?」

「どうだろう、ボクがこっちに来る時にはもう八割方終わっていたし、そろそろ終了するんじゃないかな。けれど、それがどうしたんだい?」

「いや……」

 これはジョージに言うことなのだろうか、と疑問に思ったからか飛鳥は言い渋った。適当にごまかして、彼は見慣れない青年の方に視線を向けた。

「というか、その人は……?」

 飛鳥が指さしたのは、屈強な体つきをした黒髪の青年。深緑のタンクトップと迷彩柄のカーゴパンツに、黒いブーツといった装いで、短めの黒髪はオールバックにされている。掘りの深い顔立ちから東洋人ではなさそうな印象がある。

 少し日に焼けた両腕はかなりの筋肉質で、その格好も相まってどこか軍人のような雰囲気さえあった。

 指を差された青年は、鋭い目つきのまま飛鳥の元へ一歩歩み寄った。軽く180cmは超えていそうな身長に飛鳥がたじろいでいると、青年は右の手を差し出してきた。

「アルケインフォース社所有のアーク・リンガーのパイロット、コードLのライセンス所有者、バーナード=フィリップスだ。よろしく頼む」

「アークの? ……俺は星野飛鳥。アークアストラルのパイロットだ、よろしく」

 飛鳥が差し出された右手を掴んで握手を交わすと、バーナードが小さく笑ったように感じられた。

 そういえばアークを持っている組織として、MSC以外にも二つの組織がこの合同研究に来るのということを飛鳥は思い出した。その片方がアルケインフォース社という軍需産業の企業だったはずだ。

 ジョージが思い出したようにこう言った。

「ボクがさっきフラッシュのハンガーに呼ばれた理由が彼なんだ。彼は今日この基地に来て、皆に挨拶をして回っていたんだ。ただ東洞側に対してのコネが無かったから、ボクが付き添っていたというわけだ。遥君達にも会っておこうということで、今はここにいる」

「ああ、そういうことだったんですか」

 なるほど合点がいった、と飛鳥は何度か頷いた。

 本来ならもう少しまともな自己紹介もするべきなのだろうが、飛鳥は今は他に目的がある。彼は視線を遥に向けるとこう尋ねた。

「ところで遥さん、アストラルは動きますか?」

「ええ、もうほとんど調整は終わっているわ。これから動作実験をしてもらうためにアスカ君を呼ぼうと思っていて、そこにちょうど君が来たってこと。それで、何かしたいことでもあるの?」

 その質問に、飛鳥は頷いて返した。

「はい、模擬戦闘を」

「模擬戦闘? バーニングは持ってきていないわよ?」

「いえ、フラッシュと」

「フラッシュ?」

 予想外の一言に、遥は驚いた声を上げた。それと同時に、どうして突然そんなことを言いだしたのかと怪訝な表情を浮かべる。それに反して、傍らのジョージは「へぇ」と興味深そうにうなずいていた。

「それ、アルフレッド君は知っているの?」

「さっきフレッドと話をした時に、勝負をしようと約束してきたんです。それで、できますか?」

「できなくはないでしょうけど、場所が……」

 困ったように顔をしかめた遥は、隣のジョージに視線で助けを求めた。それに気付いたジョージはうんうんと頷くと、笑みを浮かべてこう言った。

「それならおあつらえむきの場所がある。もともと簡易構造建築インスタントビルディングの性能実験のために複数の建築物を作った都市の再現区画だ。沖合にある人工島でね、近いうちに都市がアークの襲撃を受けた際の防衛シミュレーションをする予定だった場所でもあるんだが、そこを使わせてもらおう」

「それはいいの? アーク同士の市街地戦ということなら、建物にだってかなりの被害は出るわ」

「だからこその簡易構造建築さ。全部壊したって2日あれば元に戻る。速乾性コンクリートにローコスト化の改良ができたとかで、近々一部分を取り壊して作り直すということも言っていたし、別に大丈夫だろう。心配なら責任者にはボクから確認をとっておくよ」

「まぁ、あなたがそういうのなら大丈夫なのでしょう。……というわけでアスカ君、どうやらできるみたいよ」

 飛鳥は黙ってその場で礼をした。ジョージは余裕のある表情でパタパタと手を横に振る。

「そうかしこまらなくていい。どちらにせよデータ収集はするつもりだったんだ、こちらとしても好都合だ。理由はよくわからないが、アークは戦闘行動において最も高い性能を発揮するみたいだし、願ったりかなったりだよ。それに受けたということはフレッドも思うところがあるんだろう、ボクとしてはそれも気になるしね。さて、ちょっと聞いてみるよ」

「……そっすか」

 何か企んだ様子のジョージだったが、飛鳥はそれには必要以上に踏み込まない。今はそう言ったことに気を回している気分ではなかったのだ。そんな飛鳥の考えを知ってか知らずか、ジョージも手に持っていた無線端末を耳に寄せた。

 飛鳥が少しの間黙ってハンガー内のアストラルを見上げていると、遥がポケットからケータイを取り出した。端末を軽く振って耳元に寄せた遥は何度か頷くと、再びケータイをポケットにしまった。

「調整、終わったみたい。……それでジョージ、場所は使えそう?」

「……あぁ、あぁ、ありがとう。助かるよ。…………うん、特に問題は無いらしい。せっかくだし簡易構造建築の耐久試験も兼ねてやってみるんだとさ」

「その人工島って、場所はどこにあるの? 関連施設ならある程度近くにあるのよね?」

「ここからだいたい20キロぐらい離れた沖にある。移動方法は船、もしくは直接飛行になるね。今はアーク研究に使わせてもらっているけどここは基本的には軍の基地だから、テレポーターとかは無いからな」

「そういうことなら、アストラルは飛行して直接行ってしまった方がいいわね。フラッシュもそうなるのかしら」

「いや、フラッシュは飛行能力が無いから、既に船に乗り込んでいるみたいだ。準備が良いというか、思いつきの割に作業が早いな」

 ジョージは感心したように何度か頷くと、遥の方を見ながらハンガーのある建物を指さした。

「じゃあ僕らは観戦といこうか。人工島にはいくつかカメラも取り付けられていて、そこからの映像を見れる場所もある」

「あら、そうなの。分かったわ。……それじゃあアスカ君、あなたはアストラルに乗り込んでおいて」

「分かりました」

 飛鳥が頷いて立ち去ろうとすると、遥が首をかしげながら何やらぶつぶつと話し始める。

「でも、せっかくアストラルとフラッシュが模擬戦をするんだし、バーニングもデータをとっておきたいわよね。……機体は日本に置いたままだからシミュレーターになるけれど、せっかくだから隼斗とバーナード君で勝負してみたらどうかしら?」

「僕らがですか? まぁ構いませんが」

「俺も構わない。お手並み拝見といかせてもらおう」

「望むところさ」

 こちらはこちらでなんとなく男くさい感じの会話を交わしていた。隼斗とバーナードは既に挨拶ぐらいは交わしているのだろうが、それにしたって少々親しげだ。気になった飛鳥はとりあえず尋ねてみることにした。

「なんか仲良さそうだけど、お前ら初対面じゃないのか?」

「初対面ではないよ。以前同じように合同研究をした時にも一度だけ顔を合わせていたんだ」

「その時の研究の最後にVRシミュレーターが完成したからな、それの関係で久坂とは一度も勝負したことが無かったんだ。これも良い機会というわけだ」

 何やら楽しそうにしていたのはそういうことか、と飛鳥は納得する。

「というか飛鳥、君は早くアストラルに乗り込んでおいたほうが良いんじゃないか? 僕らはシミュレーターだからこの建物の中でできるけど、飛鳥は移動しなきゃならないんだろう? アルフレッドはもう行っているみたいだし」

「それもそうだな。つーわけで、俺はもう行くよ」

「……あぁ、星野飛鳥!」

 立ち去ろうとしたところで、飛鳥はバーナードに呼びとめられた。予想外の相手に若干驚きながら飛鳥が振り返ると、バーナード大人びた表情でこちらを見ていた。

「ん、なんだ?」

「……いや。きっとフレッドと何かあったんだろうが、あいつも悪気があったわけじゃないと思う。見てもいないから勝手な話だがな。……それと、勝負するなら本気でやってやれ。その方がお互いにいいだろう」

「あぁ、わかった……?」

 何故そんなことを言うのかと飛鳥が疑問の表情を浮かべていると、バーナードは恥ずかしそうに後頭部をガリガリと掻いた後「それだけだ」とそっけなく言って立ち去ってしまった。

 隼斗は苦笑しながら飛鳥の方をちらりと見て、そのまま小走りでバーナードを追って行った。

「……俺も行くか」

 呟いた飛鳥は、ハンガー内のアストラルの方へと歩みを進めて行った。

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