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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第3部‐閃光は海を越えて‐
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1章『真夏の訪れ』:4

 そして、2日後の火曜の放課後である。

 午前中授業が終了してすぐ、飛鳥は喉の渇きを感じて食堂の近くにある自販機に缶ジュースを買いに行っていた。

 午後に何の用もなければ直接帰宅してしまえばいいのだが、この後は久々に研究所へ行くことになっている。昨日はどうにも準備があったらしく、飛鳥はそちらへは行けなかったのだ。

 ジュースを買った飛鳥はその足で校舎の三階に上り、自分の教室へと戻っていた。授業終了直後に教室を飛び出していったため、カバンなどの荷物はまだ自分の机の横なのだ。

 スライドドアを開けて中に入ると、隼斗の机のところに伊達と美倉が集まっているのが見えた。当然ながら隼斗本人も椅子に座っていた。談笑中のようだ。

「何の話してるんだ?」

「おぉ、アスカ。お前どこ行ってたんだよ」

 そう尋ねたのは伊達だった。彼は陸上部に所属していてずっと屋外で走り回っているからか、肌は日に焼けて浅黒くなっていた。それでも印象が変わらないもはもともと活動的な雰囲気を纏っていたからだろう。

 飛鳥は右手に持っていた缶を顔の高さに上げると、それを軽く振った。プルタブを開けて一口飲む。

「喉乾いたから買いに行ってたんだ。今は教室に荷物置きっぱなしだったから取りに戻ってきたってトコ。んで、何の話してたのさ?」

「テスト結果」

「じゃあな」

「オイ待て」

 流れるように立ち去ろうとした飛鳥の肩が、伊達の大きな手にがっしりと掴まれた。掴まれた方を振り払おうと思いきり身体を倒して前に進もうとするが、全くと言っていいほど動かない。

「ふんぬぬぬぬぬぬぬ!!!!」

「ふっはは、足腰が弱い!」

 片手で飛鳥の肩をギリギリと握りしめながら、伊達はとんでもない形相を浮かべていた。本能的な恐怖を感じた飛鳥がその場でじたばたとするが、やはり伊達の身体はまるで動かない。

「だぁぁ、離せー! その話はしたくないんじゃー!!」

「いいじゃねぇか、俺と一緒に敗北者の苦渋を味わおうぜ。さあ傷のなめ合いをしようじゃないか」

「なんで自分から死地に飛び込まなくちゃなんないんだよ! つか隼斗と美倉の前とか公開処刑だろ! 自殺行為だろ! 俺のメンタルはそんなに強くないんだぞ!!」

「黙れ、さっきまでこの二人に試験結果を悪気のない半笑いで尋ねられ続けた俺の痛みを思い知れ。大丈夫だって、二人ならやれる」

「何をだよぉー!!」

 教室中に轟く叫びもむなしく怨霊伊達の手によって、飛鳥は成績優秀者二人の待つ死刑台へと連れ去られてしまった。

 金曜にテストが終わったあと土曜日曜と休みだったが、その後は月曜火曜とテスト返却が行われる。成績に関してはテストの採点ミスも考慮して8月中旬の登校日に通知されるのだが、現時点で一応仮の成績も知らされていた。

 ちなみに仮成績の時点で成績が極端に悪いと補習を受けさせられる。とはいえ大抵は夏休みの宿題に追加課題が添えられるだけで済むことが多い。そして追加課題を与えられるのもよほどの場合なので、飛鳥はその点に関しては一切気にしていなかった。

 問題なのは今だ。

 5月の実力試験の時に遊びでやってしまったテスト点見比べ会のようなもの。話の流れで恒例行事ということになってしまったため、今回もこうして自分の点数を晒さなければならない。

 実は前回絶望に打ちひしがれていた伊達も元々は乗り気でなかったのだが、今回飛鳥の結果が酷かったということを知るや一転して参戦派に回ってしまったのだ。

 というわけで飛鳥本人以外はみな賛成派というまさしく四面楚歌な状況に、飛鳥は全身からどす黒いオーラを放っていた。

 椅子に座った隼斗は若干頬を引きつらせている。

「あの、アスカ?」

「あ゛!?」

「おぉう……」

 あまりの密度に可視化されたようにも感じられるほどの苛立ちを蓄えた鋭い眼光に射抜かれて、隼斗は思わず口をつぐんでしまう。

 血走った眼でギロリとそちらを睨みつけていた飛鳥の後頭部を、伊達が軽くはたいた。

「何やってんだお前は。久坂にガン垂れてどうすんだ」

「これから自慢話を聞かされようとしているのにどうやって友好的な態度を取れというんだ」

 眉間にしわを寄せたまま低い声で応える飛鳥だったが、隼斗と違って伊達は気にした様子はない。若干小馬鹿にしたように肩をすくめた。

「自慢話聞かされるわけじゃねぇだろ。ほらほら、晒した晒した。テスト後の定番だろ? 実力試験の時もやったじゃねぇか」

「あの時はもう二度とやらないとか言ってたのお前だろうに……」

「いやぁ、今回はアスカも調子悪そうだから? せっかくだし?」

「本格的に俺を馬鹿にしたいようだな!」

「もう、二人ともいつまで漫才やってるの?」

 ゴネる飛鳥と煽る伊達のせいで話が進まないのを見かねたのか、伊達の隣にたたずんでいた美倉が少し起こった様子でそう言った。

 伊達を睨みつけながらグルグルと喉を鳴らしていた飛鳥も、ここらが潮時かとため息をつく。

「ええい、美倉まで……。あーはい分かりました! さらせばいいんだろさらせば」

 やけくそっぽく言いながら飛鳥は胸ポケットに手を突っ込んだ。それに合わせて、四人がおもむろに細長い紙を取り出した。

 飛鳥はニヤニヤと笑う伊達の足に踵を押しつけながら、恒例となった掛け声をかける。

「せーのっ!」

 バンッ!! と勢いよく取り出した白い紙を机に叩きつけた4人。

 飛鳥はやけっぱちの全力で掌を全力で振り下ろし、伊達はニヤニヤと性格の悪そうな笑みを浮かべながら大きな掌を叩きつけた。あとはなんということもなさそうに隼斗はポンと紙を置き、美倉は4人の中で一番静かにそれを差し出していた。

 紙切れに重ねていた掌を、誰からともなくどけていく。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………あれ?」

 残る三人は無言だったものの、伊達だけがとある結果を見て首をかしげていた。

「おい、なんでアスカのが俺のより結果上なんだよ。これなんかの間違いか……?」

「どこも間違いじゃないし、つーか普通だし」

「そんな……バカな……」

 青ざめた顔で震える伊達を呆れの表情で眺めると、飛鳥はつまらなそうに首を横に振った。

 飛鳥とて結果が予想より良かった、などということはない。もしそうなら最初からこれほどいやがったりはしなかっただろう。

 飛鳥自身の点数は実力試験の時よりもガクッと落ちており、平均すると10点近くも下がっている。ただもともと伊達と飛鳥の間には15点以上の差があったため、この程度の点数では追いつかれるわけではない。

 結局アテの外れた伊達は開始早々に心が折れてしまったわけだ。

 ご愁傷さま、とでも言ってやろうかと飛鳥は思ったが、どうにも伊達は既に心ここにあらずだ。話しかけても聞こえやしないだろう。

「しっかし、相変わらずお前らは点数いいよな」

 隼斗と美倉の結果をチラリと見て、飛鳥は肩を落とした。

「僕は平均94ぐらいだったかな、前回とあまり差は無いね」

「私は90にちょっと届かないぐらいかな、前回よりは上がってたけど。……それにしても、やっぱり久坂君はすごいね。学年トップなだけはあるよ」

「生徒会は生徒の模範、っていうぐらいだし、こういうところはしっかりしてないとね。それに、こっちは先輩から傾向を聞いたりもしてたし。美倉さんは自力でしょ? そっちの方が凄いと思うな」

「といっても、傾向がわかってたってその5点は埋まらないけどね」

 悪戯っぽく舌を出した美倉に、飛鳥は軽くイラッとしていた。こういう行為、美倉は悪気があってやっているのではないのだが、余裕のある人ゆえの態度に見えてしまい今の飛鳥には多少なりとも腹立たしいものがある。

 美倉の結果の紙をばれないようにそっと取り上げて、飛鳥はその詳細を確認してみた。

 全体的におおむね良好といったところか。物理や数学関連の点数は低く、それに反して国語や社会系の点数が高いという典型的な文系タイプだった。

「って、星野君なに勝手に人の見てるの!?」

「勝手にってか見せ合う行事……じゃないけどそういうもんなんだろ? じゃないと何のために紙きれ晒してるのか分からんし」

「じゃあ私も星野君の見る!」

 そう言って許可も得ずに飛鳥の手元にあった結果の紙をかっさらった美倉は、それに目を通した途端に眉を寄せた。

「……あう、物理負けてる」

「そりゃ俺は理系だし、物理は前回も90以上あったからな。それでも前より落ちてんだぞ? 特に暗記系教科の下がり方がやばい。かれこれ平均60弱だ」

 飛鳥が完全にくじけていないのは、物理やら数学やらがある程度の点数を確保していたからというところが大きいだろう。他教科が極端に足を引っ張っているのは結果が返ってくる前から分かっていたことだし、得意教科が得意なままでいてくれたのは僥倖といえる。

 とはいえサボり常習の飛鳥に一部分でも負けてしまったのは、勤勉な美倉にとっては不服らしい。

「何かこう、納得がいかない……」

「まるっきり文系の美倉に理系教科で負けてたら俺は本格的にひきこもるっつの。だいたい、数学Ⅰとかほとんど差ないだろ。むしろ俺の方が納得いかないぞ」

「納得も何もアスカは勉強してなかったよね」

「いらんことは言わんでいい!!」

 ボソリと余計なことを言った隼斗を一括して、飛鳥は腕を組んで大きく鼻で息を吐いた。

 そのついでにチラリと隼斗の点数の詳細も確認してみたが、見なければよかったと直後に後悔した。

 全て二桁なのは当然として、十の位の数字が全て9というのは一体どういうことなのか。隼斗がオールマイティに勉強ができるのは実力試験のときから知っていたが、改めて確認させられると悔しいを通り越して馬鹿馬鹿しくなってくる。

「お前は相変わらずか」

「さりげなく確認してるじゃないか。もっとも、会長はもっと高いんだろうけど」

「遥さんなぁ……。予想でいいけど、平均何点だと思う?」

「逆に聞くけど三桁以外あり得ると思う?」

「思わないけどありえないだろ……」

 見事に隼斗と予想が同じになって、飛鳥は泣きそうな声で呟きつつ天を仰いだ。

 結果は確認していないが、飛鳥には全ての点数で100が並ぶ結果のイメージしか浮かばない。それは隼斗も同様なのだろうが、いかんせん理不尽さすら感じるほどの結果だ。

 美倉が眺めていた飛鳥の結果の紙を黙って差し出してくるのを受け取ると、飛鳥はそれをくしゃくしゃにしながらズボンのポケットに押し込んだ。

 そのあたりでやっと意識が戻ったのか、伊達がふとそちらを振りむいた。

 そしておもむろにこんなことを口走った。

「決めた、テストなんてなかった!」

「いやあったよ。がしかしおおむね同意だ」

「二人とも……」

「まぁアスカと伊達はこんなもんだよね」

 反省なんて知るかとばかりにがっしりと肩を組んだ男二人をジト目で見ながら、美倉が若干引き気味に呟いていた。隼斗はいつも通りの笑顔だ。

 どうも伊達は今回こそ飛鳥に勝てると思っていて負けたという事実と、単純に点数の悪さから目を逸らすために、テストがあったという事実自体をなかったことにしようとしているらしい。それほど酷いわけではないが、飛鳥も悪ノリしていた。

 伊達は飛鳥の首に腕を回したまま、逆側の握りこぶしを上に突き上げる。

「ともかく、こんなブルーな気分とレッドなテスト結果なんて忘れて、俺は夏の大会に向けて今日からは陸上一本で行く! 勉強なんて知るか!」

「まぁ補習ないんならそれでいいんじゃないか? つっても、追加課題ぐらいはありそうだが。……そうか、大会か。陸上の1年生大会の、地区予選だっけ?」

「おうよ!」

 高校のスポーツのなかでは大きな大会になるであろうモノと言えばインターハイだが、これの地区予選は5月辺りで全国大会は8月となる。

 地区大会はもとより全国大会にしてもそうだが、もともと相当な記録を持っていないと1年生なんかはまず参加することはできないだろう。つまり、高校入学してから記録を伸ばしていても大抵この時点では間に合わないのだ。そんな生徒が活躍する場として設けられたのが、1年生大会というわけだ。

 もともとは地区ごとに独自に行っていたモノのようだがさまざまな地域で開催されていることを考慮してか、最近になって全国大会にまで繋がるようになったのだ。

 星印学園陸上部は3年生が居ないこともあってインターハイの地区予選には出たものの先へはつながらなかったらしい。それでもかなり良い結果を残せたのは、設備面での良さがあるからだろう。

 ちなみに、1年生大会はインターハイの翌週に地区予選、その後10月に県大会で11月か12月のどちらかに全国大会があるらしい。というのが、飛鳥が伊達から受けていたうろ覚えの解説だった。

「で、伊達はそれに出るわけか。全国大会は狙ってるのか?」

「そりゃ出る以上はな。俺個人に限って言えば、高校生記録も狙えるレベルのタイムは持ってるし」

「え、伊達君そんなに早いの?」

「美倉知らなかったのか、こいつウチの陸上部で短距離一番早いんだぞ。つっても、高校記録狙えるレベルってのは初めて聞いたけど」

 やけに胸を張る伊達の背を叩きながら飛鳥が答えると、美倉は露骨に驚いた様子で口元に手を寄せていた。

「一度見たことはあるから早いのは知っていたんだけど、そこまでとは思わなかったから……。伊達君凄いんだね」

「まぁな! 俺は走るのだけは誰にも負けない自信がある!!」

「走るのだけな。……しかしまぁ、意外と馬鹿にはできないもんだよな」

 飛鳥も改めて感心したように頷いていた。

 美倉は得意げな顔をした伊達を見なおしたように眺めていて、伊達はそんな視線が嬉しいのかさらに胸を張っている。

 何にせよ、人より突出した何かを持っているというのはいいことだ、と飛鳥は適当に考えていた。

「それでさそれでさ、8月の頭に地区大会あるんだけど見に来るか? 当たり前っちゃ当たり前だけど、一般の観戦もありだからさ」

「あー、それなぁ……。わり、行けそうにない。いろいろと用事があってな、隼斗もだけど」

「うんそうなんだよ。済まないね、伊達」

 8月には少しではない用がある。飛鳥も伊達の応援にはいきたいが、これを外すことはできない。

「うーん、そっか……。まぁ用事なら仕方ねぇか」

 そう言う割には全然仕方ないと思っていない様子の伊達。

 結構な記録を持っている割に伊達はあまりストイックに取り組む方ではなくて、どちらかというと和気あいあいとスポーツに取り組むことが好きなのだ。個人競技ながら連帯感とか、たがいに高め合って行くとかいう考え方を重視していて、それ故に周りの応援などが大きな力になるタイプでもある。あとは単純にモチベーションが上がるという点か。

 そんなわけで飛鳥と隼斗が応援に来られないということを知って、伊達は少しばかり落ち込み気味だった。

 シュンとした伊達を見かねた飛鳥が、励まそうとしてこう声をかけた。

「んな落ち込むなって、俺等が応援に行けなくてもお前なら勝てるってば。……そうだ、だったら美倉に応援行ってもらえよ。なぁ美倉、お前どうせ暇だろ?」

「予定はないけど、そういう言い方されるとちょっと腹が立つんだけど。……でも、私でいいの?」

「いいんじゃないか? つか、美倉が行くんなら本格的に高校生記録も見えてくるな」

「……どうして私なら?」

 首をかしげる美倉だったが、飛鳥はパタパタと手を振って誤魔化した。

「細かいことは気にすんな。それで、応援行ってやってくれるか?」

「私でいいなら行くよ。伊達君、それでいい?」

「マジで!? いいよいいよもちろんだ! うおっしゃー、気合入ってきた―!! そうと決まればさっそく練習行ってくる! 美倉はあとでまたメールするよ!! じゃーなー!!!!」

「わっ!?」

 突然の突風に美倉が飛び上がった時には、既に伊達の姿は教室にはなかった。

 風を切る効果音でも聞こえてきそうなほどの急加速で教室を飛び出して行った伊達。言葉の後半は教室の外から聞こえてきたほどだ。

「びっくりした……」

「なんつーか分かりやすい奴だよな」

「それに気づかないのもある意味すごいよね」

「何の話?」

「なんでもない」

 首をかしげる美倉を見ていると、どうにも伊達が報われないと感じてしまう。直接的ではないにしろあれほど露骨なものもないにもかかわらず、どうして美倉はまるで気付く様子がないのか。学園の七不思議に登録していいんじゃないかとくだらないことを考えながら、飛鳥は自分の席へ向かって鞄を取った。

「じゃ、俺たちも行こうぜ、隼斗」

 声を掛けられた隼斗も、自分の鞄を取って立ちあがった。

「そうだね。それじゃあまたね、美倉さん」

「あ、うん。……あの、ちょっといい?」

 一度頷いておいて、引き留めるように恐る恐る尋ねてくる美倉。

 飛鳥は最初無視して行こうとしたが、隼斗が振りかえってしまったのを見て立ち止まった。

「二人とも夏休みは同じ用事なの? それに、今日もみたいだし……」

「ああ、それね」

 訝しげに尋ねる様子に何かを思い至ったのか、隼斗がポンと手を打った。

「……飛鳥が夏休みに海外にいる両親のもとに行くらしくて、せっかくだから海外旅行でもどうだって飛鳥に誘われたんだよ。だからホームステイってわけでもないけど、僕も一緒させてもらうことになったんだ。今日は飛鳥の家で予定の打ち合わせかな」

 よくもまぁ一瞬でそれだけのことが思いつくものだと飛鳥は感心していた。

 隼斗が言ったことは当然嘘で、本当は夏休みが始まってすぐアーク研究の関係でアメリカへ渡らなければならないからだ。とはいえそれを美倉にいうわけにもいかないため、隼斗はとっさに思い浮かんだであろう嘘をついていたのだ。

 少し釈然としないものの一応の納得はいったのか、美倉は曖昧に頷いた。

「そう……そっか。ごめんね、変なこと聞いて。それじゃあまたね、次は夏休み後かな?」

「残念明日は終業式がある。……ま、その後は特に会う用がなければそうなるだろうな。じゃ、またな」

「またね、美倉さん」

「うん、バイバイ」

 まだ何か言いたげな美倉から視線を外して、飛鳥は教室から出た。隼斗もそれについていく。二人は無言のまま、日の差し込まない廊下を歩いていく。

 その足元を、冷たい風が駆け抜けた。

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