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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第2部‐暴君、出現‐
46/259

4章『誰がための力』:5

「どうしてアークの特訓でゲームセンターに来ることになるんだろうか」

「それはまぁ、私ですから」

「どういうことなんですか……」

 飛鳥からすればいまいちキャラを掴み切れていないにもかかわらず、さも当然のようにそんなことを言われれば閉口するしかない。

 

 行き先が決まったところで、美倉に連絡をすませて二人は学園から出た。部室の鍵は美倉も持っているとのことで、特に彼女が戻ってくるのを待つこともなかった。

 学園を出てからはその足で、一葉に連れられるまま、飛鳥は駅前のゲームセンターに来ていた。

 そこそこに店も大きく、人気の筺体も一通り揃っているということで人は多い。時間は午後4時前といったところで店内にいるのは主に学生たちだった。

 飛鳥達と同じように制服の人が多く、星印学園のモノと思しき制服も散見された。とはいえ大部分は私服で、暇な大学生が集まっているのだろうと飛鳥は勝手に想像していた。どちらにせよ、社会人が集まるには少々時間が早いのだ。

「一葉さん、ここよく来るんですか?」

「はい、私こう見えてゲーム得意なんですよ。さ、行きましょう」

 素朴な疑問に特に迷う様子もなく答えた一葉は、飛鳥を先導する形で店内へと入って行く。飛鳥も慌ててその背を追った。

 店の自動ドアをくぐった途端、耳が痛いほどのやかましい音の重圧にブチ当たった。飛鳥もここはよく利用するが、この感覚には未だに慣れない。毎度Uターンしたくなってしまうのだ。

 一瞬顔をしかめて、しかしすぐに慣れて店内を見渡した飛鳥。視界に映るのは各種ゲーム筺体の群れ。一見何が何やらわからないが、飛鳥はゲームの配置はある程度覚えていた。

 伊達が部活が無いとかで暇なときは、飛鳥も一緒に放課後このゲームセンターで時間をつぶしたりしている。入学からかれこれ2カ月、常連というほどではないものの割としょっちゅう来る客でもあった。

 彼らがプレイしているのは主に対戦格闘ゲーム。飛鳥はもともとレースゲームの方が得意なのだが、伊達の影響ではじめてみてハマったという感じだ。伊達ほどではないものの飛鳥も結構腕が立つ方で、この店では7連勝の自己ベストを持っていたりもする。

 そして前を行く一葉の目が捉えているのは、その飛鳥がよくプレイする対戦格闘ゲームの台だった。

「一葉さんもあのゲームやるんですか?」

「そうですよ。まぁ対戦ゲームは大体やりますけど、よくやるのはあのゲームです」

 それは割とありきたりな2Dの対戦格闘ゲームで、絵にしか見えない3Dモデルを使っているというのが特徴だった。その他はシステム的に特徴的なものはないが、3Dアクションがほとんどとなった最近では絵のようなキャラが対戦をしているというだけで珍しいとされるほどなのだ。

 ゲーム性もややこしいシステムがさほど多くない普通のもので、昔からあるゲームと似たような感じだからか大人のプレイヤーも多いのが特徴だった。

「あらら、席埋まっちゃってますね……。まぁどいてもらえばいいですよね」

「どいてもらうって、また物騒な」

「何言ってるんですか、普通に対戦で勝つだけですよ? 今の時間なら適当にやっても負けませんし」

 胸を張って語る一葉はかなり自信ありげな様子だ。

 確かに今のこの店、全体的なプレイヤーのレベルは低い。それは主にこの時間でプレイしているのが気楽に遊んでいるだけの学生たちがほとんどだからだ。逆に夜になると店にいるのは大体大人たちになって、そうなると平均的なレベルは大幅に上がる。

 飛鳥が7連勝を決めたのは放課後遊びに来た時なので、全体レベルが低い時だった。

 とまぁ飛鳥のことはともかくとして、時間による店のレベルを知っているということは一葉もそれなりには精通していると思われる。

 そんな飛鳥の考察をよそに、一葉はちゃっちゃと既に席に着いている人の後ろに並んだ。他にも並んでいる人はいたが、開いた場所に入ろうとしていたのかどこの列か曖昧な場所にいたため、まっすぐ特定の台の後ろについてしまった一葉に順番を譲る形となった。

 飛鳥は列には入らずその一葉の横に並ぶようにして、プレイ中の人の画面を覗き込んだ。

 ゲーム自体は3ポイント先取で、現在2対2の接戦である。飛鳥が見る限り実力は拮抗しており、どちらが勝ってもおかしくはない。こちら側、一葉が並んでいる方が勝てばその人が負けるまで待たなければならない。どっちつかずな列の位置取りは本来マナー違反なので、このリスクは本来負うべきものではある。

 開始時から軽い攻撃とガードの様子見ばかりで、20秒ほど経っているがお互い削りダメージが数ドット、といったところだ。ほとんどダメージは無いと言っていい。

 一葉の並んでいる列、つまり手前側のプレイヤーが使っているのは、どでかい刀を振りまわす小柄の少年キャラクター。攻撃全般のリーチが長く出も早いと攻撃面に強いが、耐久値が作中全キャラ最低と守りに入ると弱いキャラだ。

 対して対面のプレイヤーが使っているのは、タキシードを着込んだ長身の青年キャラクター。投げ技の威力が高く掴みのリーチが長いとガード崩しの性能が高い。その反面コンボダメージが低いという特徴がある。

 当然、キャラ特性的にも少年キャラが常に攻勢を維持している。長い武器をうまく使い、その刀を突きだす技をリーチの限界で連発するという戦術をとっている。やたらめったらリーチが長い分攻撃後の隙も大きい技だが、反撃をしようにも青年キャラのリーチに入るころには少年キャラも攻撃後の硬直からは回復してしまっている。そして青年キャラがガードをし続けても、削りのせいでタイムアップ時に敗北してしまう。

 持続する有利な状況に、手前側のプレイヤーがほくそ笑むのが見えた。

 しかしその直後、青年キャラが動いた。

 突き出される刀を絶妙なタイミングで飛び越え、空中でトランプを投げる技を放った。反応した少年キャラが飛び上がった青年キャラに向けて斜め上に刀を突きだすが、上空で後ろに下がっていた青年キャラにはぎりぎりで届かない。

 刀を突きだし隙だらけの少年キャラに、トランプのカードが突き刺さる。それ自体の威力は低いが、攻撃を受けたひるみ中にその懐へと青年キャラが飛び込んでいた。

 ジャブからひざ蹴り、蹴り上げとコンボを繋ぎ、トランプを投げてひるみを維持した直後に少年キャラの元へと飛び込む。空中で胸倉をつかみながら投げ飛ばすと、さらにそこへトランプを投げて追撃する。

 低威力のコンボだが少年キャラの耐久値が低いため結構なダメージになっている。

 そしてダウンした少年キャラの懐へさらに潜り込む青年キャラ。

 起き上った少年キャラが無敵時間を利用して反撃しようとするが、青年キャラが後方へステップしながら放ったトランプにまたも当ってしまう。

 そこから先は一方的な展開だった。

 対面のプレイヤーが操る青年キャラは、飛び込んで投げ飛ばし、叩きつけられてバウンドした相手に打撃コンボからの投げ技、そしてトランプ追撃を繰り返す。

 完全にパターンに入ってしまった時点で、ほぼ勝負は見えていた。

 投げ技自体がガードを崩す性質上、手前側のプレイヤーが冷静に待ちのスタンスを維持できなかったのもそれに拍車をかけていた。

 あとは20秒ほどで、青年キャラが少年キャラの耐久を削りきって勝利してしまった。

 一見ハメで勝ったようにも見えてしまうが、実際には対面のプレイヤーが攻撃の読み合いに勝ち続けていたからに他ならない。パッと見では同程度の実力のようだったが、実際には対面のプレイヤーの方が一枚も二枚も上手だったようだ。

 顔をしかめて台をバンと叩きながら席を立った手前側のプレイヤーは、台の上の財布を掴んでそのままどこかへ行ってしまった。

「マナーが悪いですねぇ」

 なんてことを言いながら、一葉がその席に着いた。

 手に持っていた黒いカバンからピンクの子供っぽい財布を取り出し、その中から引っ張り出した百円をコイン投入口に放り込む。

 すると今度はポケットから赤い小さなケータイを取り出すと、それをおもむろに台の上に置いた。直後に画面に一葉の登録情報が表示された。

 このゲームは自分のVNATをネットに登録しておくことで、勝率や連勝数などを記録することができる。飛鳥は利用していないが、大抵の人は利用しているらしく、伊達なんかもその一人だった。

 キャラクター選択画面で、一葉は迷わず巨大な鎌をもった死神風の少女キャラを選択する。

 このキャラは攻撃の出が悪くリーチも長くないのだが、どの攻撃からでも(入力が難しいものの)高威力のコンボを繰り出すことができる。また、敵の背後に瞬間移動する技を持つのも特徴的だ。

 画面が切り替わり、二人のキャラがポーズと共にステージ上に現れた。

 体力ゲージ、必殺技ゲージが現れると、カウントダウンが始まる。その終わりに、画面中央に試合開始を告げる文字が表示された。

 直後、背後に飛び退いた一葉のあやつる死神少女。直前までそのキャラがいた場所に、長い足による蹴りが放たれた。追撃は難しいがそこそこ威力の高い攻撃で、もし直撃すれば開始時点で体力に差がつけられてしまうところだった。

 だがそれを冷静に回避した一葉は、ボタンから離した右手で眼鏡をクイと持ち上げる。

「アスカ君、対面の台に回ってもらえますか?」

「え、何でですか?」

「すぐに終わりますから」

 言った直後、一葉のキャラが瞬間移動で少年キャラの背後に現れた。そして出現と同時に鎌を半円状に振りまわす。

 ガードの追いつかなかった青年キャラが切り上げられると、そこから死神少女の怒涛のコンボが始まった。

 空中での連続攻撃から着地して直後に斬り上げ、鎌を投げてひっかけると死神キャラがそこに飛び込んで大きく振りまわして投げ飛ばした。そして何より恐ろしいのは、それでコンボが終わらないのだ。

 空中の死神少女が吹っ飛ぶ青年キャラの背後に瞬間移動、接地の寸前に切り上げ攻撃で再度持ち上げる。足元に潜り込むようにして左右の位置を入れ変えると、またも空中コンボを連続で決め、最後に大きく吹っ飛ばした。

 勢いよく画面端に叩きつけられる青年キャラ。壁に打ち付けられた青年キャラがまたも地面に落ちる直前に、滑り込むようにして突撃した死神少女の鎌が引っかかり、再び打ち上げられる。

 空中にとどめられた少年キャラは死神少女の鎌の連撃を受け、挙句の果てには必殺技の一撃まで受けて一度のコンボで7割もの耐久を持っていかれてしまった。

「すげぇ……」

 これには飛鳥も驚きを隠せなかった。

 一葉の行動予測もさることながら、その入力速度と精度が尋常ではない。背後への瞬間移動は強力な技だが、コマンドはレバーを上から時計回りに一周と八分の一回転させて下入力特殊技ボタンというちょっとめんどうなものだ。

 これを投げ飛ばした敵が接地する前に発動し、かつその後の攻撃が問題なくヒットするというのはかなりの難易度である。

 それをやすやすとこなす一葉は、間違いなくかなりの上級者だ。

 飛鳥は黙ってそこから離れ、対面の台の背後へと回る。

 勝負にならないことは、その時点で明らかだった。

 対面へ回った時には既に2ラウンド目、そしてそれもすぐに決着がつき、あれよあれよという間に3ポイントを一葉がとって試合終了となった。

 結局一葉が受けたダメージは3ラウンド目途中のガード削りのダメージだけで、あとはノーダメージストレート勝ちというとんでもない結果だった。

 これには少年キャラを操作していたプレイヤーもあんぐりと口をあけていた。結局後ろに飛鳥が並んでいたからかそれ以外の理由か「星印の死神とか聞いてねぇよ……」とかいう謎の言葉と共に立ち去って行った。

 哀愁漂うその背中を見送った飛鳥は、

「さて、んじゃ俺もやってみますか」

 そう呟くと、飛鳥は財布から取り出した百円をコイン投入口に放り込んだ。

 戦闘開始までの手順は先ほどの一葉と同じ。ケータイを台の上に置くというプロセスが挟まらないだけだ。

 指をパキパキと鳴らし、気合を入れる。

 しかし正直な話、飛鳥は勝てるとは思っていなかった。

 さっきまでその席でプレイしていたプレイヤー、飛鳥の目から見ても決して弱いというわけではない。強い攻撃に頼りすぎな部分もあるため上級者とは呼べないかもしれないが、それでも飛鳥相手ならばそれなりにいい試合はしただろう。

 それがコテンパンにやられていたのだ。

「小手調べとかはあり得ないよな、こいつ使うか」

 最初から本気、ということで飛鳥はお気に入りのキャラを迷わず選択した。選んだのは顔の大半まで隠れた黒い忍装束のキャラクター。顔は髪の毛と目の部分しか見えないが、辛うじて胸のふくらみで女性キャラだとわかるデザインだった。

 このキャラの特徴はとにかく素早いことだ。基本の武器は両手のクナイで、リーチが短く威力が低いがとにかく出が早く攻撃前後の隙が少ない。またコンボも威力こそ出ないが入力も単純だと記憶力のない飛鳥にはよく合っているキャラなのだ。そんな感じで事故を起こしづらく、また事故を起こしても堅実に立て直すことができるキャラでもある。

 そんなこんなで試合開始。

 飛鳥の操る忍者は開幕からいきなり死神少女の懐に飛び込んだ。そして息もつかせぬ連続攻撃を入れていく。だがこれといった工夫もない連撃、普通にガードされて凌がれてしまう。

 その点は飛鳥も見越していたのか、隙の少ない攻撃をひたすら入れ続けて反撃にはいつでもガードができるようにしていた。

 やがてガードのノックバックで二人の間が離れた。

 もともとリーチの短い攻撃、少し距離が離れただけで攻撃が繋がらなくなってしまう。飛鳥は敵のガードを維持させようと、すぐさま忍者を前方にステップさせる。

 しかしその直後、それを見越していたかのように背後に死神少女が瞬間移動で現れた。相変わらずの入力速度で、間髪いれずに振るわれる大鎌。

 だが飛鳥は直前にレバーを反対に入れて強攻撃を放っていた。

 死神少女の攻撃は強力だが、やはり技の出が遅い。あらかじめ攻撃を入力しておけば、カウンター気味に威力の高い一撃を打ち込むことも可能だ。

 一瞬早く、忍者の突き出したクナイが突き刺さった。ひるんだ死神少女に向けて飛びかかる忍者。空中で5発もの攻撃を連続で叩きこみ、最後は後ろ回し蹴りで吹っ飛ばした。

 追撃するべく、吹っ飛んで行く死神少女を素早く追いかける忍者。だが位置取りが悪かったのか、スライディングキックが当たる直前に死神少女が壁際でダウンしてしまった。

 追撃に失敗し、せいぜい3割程度の耐久しか削れなかった飛鳥。しかし状況の有利は変わらないのだ。

 相手が壁際にいる以上、貼りついてしまえば忍者のリーチの短さは気にならない。そして忍者の攻撃はどれもこれも至近距離での刺しあいには強い。

 死神少女の起き上がりを狙い、攻撃を放つ。ガードしかできない死神少女に対し、飛鳥は連撃の合間に強力なコマンド技を混ぜ込んでガードの上からガリガリと耐久を削っていく。

(このまま押し切ってやるッ……)

 ニヤリと笑みを浮かべた直後、連撃の最中にも関わらず死神少女が背後に現れた。

「なっ!?」

 とっさの事態に反応が遅れた。

 いや、それ以前に飛鳥の操る忍者はキャラの持ち技の中でも比較的隙の大きな技を放っていたのだ。気付いていても間に合わない。

 忍者の背中が大鎌に切り裂かれ、打ち上げられた。

 画面端でかつ攻撃へのカウンターだ、その後のコンボには強力なものが待っている。

 もはや何もできないうちにズバズバと切りまくられる忍者。単純なループなどではない複雑なコンボで画面端に何度もたたきつけられながら、実に10秒近くコンボを続けられてしまう。低耐久ではないのにもかかわらず既に残り耐久は1割程度だ。

「くっそ……」

 歯を食いしばり、なんとか打開策を模索する。だが、有用な手段は思いつかない。

 忍者が起き上がり、なんとか手段を整えるべく守りに入る。しかし一葉はそんな飛鳥の思考を読んでいたかのように、ガード入力をしたばかりの忍者を死神少女が捕まえた。

 鎌によるジャイアントスイングで投げ飛ばされた忍者は、その残りの耐久1割を綺麗に失ったのだった。

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