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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第2部‐暴君、出現‐
32/259

2章『交わる時』:3

「2分15秒かぁ、思ったより時間かかったぜ……。よっと」

 シミュレーターのヘルメットを外しながら、飛鳥はシートから飛び降りた。

 少し汗ばんだ額をぬぐい深呼吸しつつ、妙にバクバクとうるさい心臓が落ち着きを取り戻すのを待つ。


 戦闘自体は確かに勝つのは飛鳥にとっても容易だった。

 比較的威力の高いプラズマキャノンも一気に近づいてしまえば封殺出来たし、それ以外の武器は手数こそ多いものの、バーニングと違いそれぞれ一つが脅威となるような威力ではない。ある程度強引に押し切ってもさほど大きなダメージは受けなかったのだ。

「しっかし、序盤にパターンつかめなかったのはタイムロスに繋がったよな。それにフォトンスプレッドガンがウザ過ぎだろ……。便利そうだし、あれアストラルに積めないかなぁ」

 戦闘を振り返りそんな益体もないことを考えながら、ぼんやりと呟く飛鳥。

 一度プラズマ兵器同士の撃ち合いもしてみたのだが、やはり精度と速射性の問題でプロトタイプに軍配が上がる形となった(実際は飛鳥の射撃技術の低さが原因なのだが、彼はどうにも武装の性質のせいにしている)。

 そこから中距離に持ちこむまでの判断は早かったものの、そこから先が面倒だったというのが飛鳥の感想だった。

 中距離ではアサルトライフルとサブマシンガンの絶え間ない掃射でまともに近づくことができず、被弾覚悟のゴリ押しでなんとか距離を詰めたと思ったら、近距離迎撃のスプレッドガンが妙に高威力なうえ範囲も広いとまっすぐ突撃することができなかったのだ。

 動きの遅いバーニングと違い迎撃択を後出しで選択してくるというのも、飛鳥お得意のフェイントがうまく機能しなかった原因であり、それもタイムロスに繋がっている。その辺りが長引いてしまった一番の要因だろう。

 最終的にはスプレッドガンをアストラルがフォトンライフルで撃ち抜いて破壊し、ビームソード一本対フォトンブレード2本の対決に持ち込み手数で勝ったという結果だった。

 言うなれば泥臭い勝ち方で、機体そのものの性能差を考慮すればあまり褒められた結果ではなかったのだ。

 飛鳥がやけに汗をかいているのも、別にシミュレーター内の空調が壊れていたとかではなく、後半必死になりすぎて頭に血が上っていたからだった。これについては焦りも原因に含まれているのだろう、タイムアタックゆえの弊害と言える。

 うーむ、と飛鳥が結果についていろいろ考察を巡らせていると、休憩室の方向からタオルを持った遥がやって来た。

「おつかれさま、アスカ君。タイムアタックは初めてだったけど、どうだった? それと、はいタオル」

「どもっす。……いや、思ったよりうまくいきませんでしたよ。もうちょっと軽くできると思ってたんだけど、パターンつかむまでが長かったっていうか」

 タオルで汗をぬぐいつつ、飛鳥はそう答えた。遥はクスリと笑って、

「敵の行動パターンは自分が冷静であればある程よく見えてくるようになるわよ。今回はタイムアタックってことで焦りもあったと思うし、多少は仕方がないかもしれないわね」

「そっすね。まぁシミュレーター含めてアストラルに乗った回数も両手で数えられるぐらいですし、最初からうまくは行かないですよね」

 あまりネガティブに考えたくない飛鳥は、尋ねるような言い方で逆に自己完結していた。

 ともあれ言い訳がましくなっていること自体は理解しているのか、飛鳥は早々に話を切り替えた。

「ところで遥さん。あのプロトタイプのフォトンスプレッドガンが凄く便利そうだったんですけど、あれ実際に作ることってできるんですか? できたらアストラルに積んでみたいなぁって思うんすけど」

 飛鳥の唐突な質問に、遥は一瞬キョトンとした表情を浮かべて首を横に振った。

「いいえ。プロトタイプに搭載している武器はほとんどが現代技術で再現可能なものだけれど、重光子兵器に関しては理論上このような機能と性能になるだろうって予想でデータが作られてるの。だから実際に製造することはまだ無理なのよ」

「なんだ、それなら仕方ないか……」

 ここで話題に上がっている重光子兵器の重光子とは、読んで字のごとく重い光だ。モノとしては、光子と重力子が組み合わさったものと考えればよい。

 アークに使用される特殊な技術の一つで、現代技術ではまだ再現のできないものでもある。

 重光子とは要するに普通の物体と同様に重力の影響を大きく受け、質量があるが故に接触点に圧力を生み出すことができる光のことだ。

 この状態になるとその光は波としての性質を失い、粒子としての性質のみを示すようになる。それと共に、質量をもった粒子は通常の物質と同じように扱うことができるようになるのだ。

 ではそれが何の役に立つか。

 結論から言えば、光で行うことはほぼ不可能な固着、滞留といったアクションが可能になる。これを刀剣状に固めてやることで、重光子ブレードなどを構成することができるようになるのだ。

 この利点についてだが、質量そのものを生み出す装置というのは一般には存在しない。しかし、発光ダイオードなどを考えればわかるとおり、光を生み出す装置などは数多くある。

 要は質量0から武器を生み出すことができるということであり、無尽蔵の弾丸や刃こぼれしない剣を作り出せるなどという圧倒的な利点を持つ。それは非使用時の重量が無いということでもあり、軽量かつ強力な武装となりえるのだ。

 また、展開状態では質量があると言ってもその質量自体は大きくない。アストラルのフォトンブレードを例に出すと、数メートルあるあの刀身の質量は1kgにも満たないのである。

 しかし、だからと言ってその威力が低いというわけではない。

 重光子の性質として、物体に衝突したとき質量と速度に関わる通常の力学的エネルギーだけでなく、同じ量の光が持つエネルギーも同時に力学ないし熱エネルギーとして放射される。

 この効果により、弾丸にしろ刀剣にしろ見た目以上の威力を発揮するようになるのだ。

 この際放たれる熱エネルギーと力学エネルギーの比は重光子の光子と重力子の比率によって変化する。フォトンライフルのノーマルモードとインパクトモードは、この性質を利用してモード分けされている。

 とまぁ重光子というものにはとくに兵器利用の面において多彩な優位性を持つのだが、果たして飛鳥という少年がそれを正確に把握しているかというと、やはりそんなことはない。

 彼の認識では「質量を持った光でいろいろ便利」というとてつもなくアバウトなもので、実際一般レベルではこの程度の認識でも何の問題もない。

 とはいえ遥のような研究にダイレクトに関わる人間にとってはその全容を把握しておく必要があるので、彼女は全てわかった上で飛鳥の質問にも答えていた。

「まぁそれ以前に、武器の形状的にアストラルに搭載するとフォトンブレードと干渉しちゃってダメなのだけどね。やっぱり機体特性を考えると、フォトンブレードの方が有用だもの」

「確かに自分から近づいていくアストラルにあの手の武器は合わないっちゃ合わないですよね……。けど、フォトンブレードってなんで腕に固定するんすか? 手持ちにして両方装備できたら便利そうなのに……」

「そう思うのも仕方ないけれど、アストラルのマニピュレータは繊細だから、刀剣系武器はちゃんと腕に固定しないと衝撃で手が壊れてしまうかもしれないのよ。その分フォトンライフルを手首を曲げて撃ったりといろいろできるのよ?」

 人の手の再現度の高いマニピュレータは総じて強度が低い。そして、わかりにくいがアストラルが複数の武装を持ちかえて操作できるのは、その繊細な動きを再現できるマニピュレータによるところが大きい。

 しかしフォトンブレードが腕に固定の武器である以上その繊細な制御が生きるのは射撃武器の方なのだが、やはりここでもネックになるのは飛鳥の射撃技術なわけで。

 そういうことから、せめてものフォローといった感じの遥の言葉も、飛鳥にとってはあんまり救いになっていないのだった。

「う~ん……納得できるような納得できないような……」

「今はまだ仕方ないわ。もう少しアスカ君がアストラルの機能を引き出せるようになったら、いろいろ新しい武器や装置を作ってあげる。だからあまり焦らないで、のんびり構えていなさいな」

 不満げな飛鳥に、苦笑いを浮かべてそう返した遥。この辺り、駄々をこねる子供をあやす大人のようなやり取りだった。

 そんな感じで駄弁っていると、休憩室の方から隼斗がやってきた。

「お疲れ様です、会長。あと、アスカも」

「ええ、ありがとう」

「おい、なんか俺オマケみたいな扱いされてねぇか?」

 してないしてない、とパタパタと手を振る隼斗をジト目でにらみながら、飛鳥は尋ねる。

「隼斗は今まで何してたんだ? なんか終わってからえらく時間かかってたようだが」

「僕はシミュレーション中の二人の脳波のモニタリングが終わったから、データをまとめて印刷しようと思ったらプリンターのインクが切れてたんだよ。探しまわってたら無駄に時間を食ったってわけ」

「それってケータイに転送とかの方が早かったんじゃないのか?」

「データが重かったから印刷の方が早いと思ってたんだ……。インクが見つからない時点でケータイにしとけばよかったよ」

 至極まっとうな飛鳥の指摘に、隼斗はがっくりと肩を落として答えた。

 飛鳥が呆れた様子で眺めていると、傍らの遥が隼斗の肩を叩きながら、

「まぁまぁ、そう落ち込まないで。それで、これが脳波グラフでいいのかしら?」

「ええ、はい。飛鳥のと、あとは一応会長の分も出力しておきました」

「ありがと、助かるわ」

 隼斗から5枚ほどの紙を束ねた資料を受け取って、遥はひらりと二人に背を向けつつそれを読み始める。

 飛鳥もチラリと横目に見てみたが、どうやらシミュレーション前に見せてもらったデータと違って情報量が多いらしい。複数の表とグラフはどうにも読めたものではなかった。

 仕方がないので飛鳥は目の前の隼斗に視線を戻す。

 すると、ほぼ同じタイミング隼斗も目線を飛鳥にくれていた。

「アスカもアークにはだいぶ慣れてきたみたいだね」

「そうか? 今回は必要以上に時間がかかったような気がするんだが……」

「まぁ操縦の方はね、そっちは経験を積んでいくしかいないよ。モニタリングしていて気付いたことなんだけどさ、以前に比べて全体的な出力が上がってきてるのが見て取れたよ。アクエルの時みたいに瞬間的な高い出力は出せないようだけど、やっぱり進歩してるんじゃないかな」

「ま、まぁそれならいいんだけどさ」

 飛鳥自身満足していなかったところに、特に皮肉もなく褒められた彼はなんとなくむずがゆい感覚がして隼斗から視線を外した。

「ジェネレーターの出力自体は上がってるけどさ、バーニングの方が最大出力はかなり低いのに俺のアストラルと大して出力変わらないだろ。どうにもまだ扱いきれてない感じもしてさ」

「やっぱり機体との親和性みたいなのも重要なんだと思うよ。バーニング自体通常動作にエネルギー消費が大きいとはいえ、僕だって最初は動くのもやっとなぐらい出力低かったんだから。2年もパイロット続けているうちに今みたいに安定して戦えるようにもなったけどさ」

 ふぅむ、と飛鳥は曖昧に頷く。

 年季がものを言うというのは、飛鳥にとってはいただけない理屈だった。

 あまりギスギスした関係にはしたくないし、表には向けていないがやはり飛鳥は隼斗に対してライバル意識を抱いていた。

 身近にいる相手に負けたくないという単純な理由から、遥に対する気持ちの関わったちょっと複雑な理由まで。今のところ、飛鳥は隼斗に勝つことを一つの目的としており、それがままならない今の自分に少なからずの焦りを感じているのだった。

「年季なぁ、それもう絶対一朝一夕にはどうにもならないよな……」

「そりゃね、期間イコールって訳でもないけど、やっぱり慣れがモノを言う部分はあるよ。特にアークはそういうのが大きいからね」

「そういうもんか……? あ、そうだ」

「ん? どうしたんだい?」

 ふと何かに気がついたように呟いた飛鳥に、隼斗は首をかしげながら尋ねる。

「いや、前にコードIのパイロットの如月愛って子に会ったんだけどさ……ってそりゃ知ってるか」

 1ヶ月前のアクエルでの事件はこの研究所が深く関わっていたので、隼斗もまず知っているだろう。

 飛鳥の言っているのはあの日の夜に会った時のことを指しているのだが、結局一緒なのでその辺りの補完は割愛しつつ、飛鳥は自分の疑問を口にする。

「あいつも俺よりは長くパイロットやってるよな。あいつは操縦うまいのか?」

「如月さんかい? う~ん、どうだろう。……コードIは鞍馬脳科学研究所が所持研究しているんだけど、あそこは基本的に戦闘関連に発展はほぼさせてないから。如月さん自身はもう2年以上パイロットを続けているんだけど、実際戦っているのは見たことないかな。僕が見たことがないってだけだけど」

 曖昧とだがそう答える隼斗に、飛鳥はつづけざまにこう尋ねた。

「なんでだ? アークのデータって、確か戦闘の時が一番いいデータが取れるって話じゃなかったっけ?」

「鞍馬は、国とのつながりが強い。表立って、アークを戦闘には使えない。めんどう」

 飛鳥の問いに、そんな覇気のない声で返事が返ってきた。飛鳥はうんうんと頷くと、

「へぇ、そうなのか。まぁウチもこれだけ秘密裏にやるぐらいだしな。やっぱこの国でアークを戦闘に使うのは………………へ?」

 そこで飛鳥は違和感に気付いた。というか遅すぎるぐらいなのだが、まぁ予期していなかった事態というか、想像の範疇を超えていたというか、理解が追いつかなかったというか。

 いや、まどろっこしいのは抜きにして結論から言おう。

 飛鳥が声のした方にゆっくりと視線を向けると、


「久しぶり、アスカ」


 そう言って手を上げたのは、無表情で小柄な女の子。ゆるい内巻きのおかっぱ頭の下から、眠たげな視線が飛鳥をとらえている。

 噂をすればなんとやら。

 飛鳥にとっては1ヶ月ぶりの再会となる彼女は、どこか独特の雰囲気を持った少女、如月愛キサラギアイだった。

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