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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第2部‐暴君、出現‐
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2章『交わる時』:2

「で、結局それって何なんですか?」

「少し待って、今起動の準備をするから」

 訝しげに飛鳥がそう尋ねると、遥は何やらカチャカチャとキーを叩きながらそう答えた。

 あのあと二人でシミュレーターのところまで来たのだが、そこまで来ても遥はもったいぶって詳細を教えていなかった。

「よし、できた。今回は私もVRシミュレーターを使って解説をするから、よろしくね。それじゃあダイブしてちょうだい」

「はぁ、わかりました……。それじゃ、ダイブ!」

 状況をよく理解できていない飛鳥は、とりあえず促されるままにVRシステムを起動する。

 ちなみに、ダイブというのはVR世界へ入るときの掛け声のようなもので、別に音声認識で起動しているのではない。ダイブとか宣言しながらちゃっかり手元の起動ボタンを押しているのは内緒だ。

 ヘルメット型の機械を被った飛鳥の視界が、バイザーの端から漏れる薄い光を失う。漆黒に染まる世界が、目障りなノイズを伴って本来の姿を映し出した。

 場所、というか空間はいつもの荒野ではなく、縁が青白く光る1辺4mほどの黒い立方体で構成された空間。空は青みがかった灰色で、時折ジグザグの青い光が駆け抜けていく。

 一目で現実味のない空間だとわかった。

「ここは、一体?」

 呟いた飛鳥の頭に、直接遥の声が聞こえた。

「アーク模擬戦闘用の仮想フィールドよ。リアリティのあるフィールドを作る前に簡易的に用いられていた空間データに、いろいろと遊び要素を追加して作られたフィールドなの。ここの黒いブロックは時間ごとにランダムで壁になったり、山になったり窪んだりするの。あるいはそれぞれのブロックが近付いたら起爆する強力な爆弾になったり、トラップに変化したりね。今回は地形が変化するだけだけど」

 ちなみに、今回は遥もVRシミュレーターを使用している。

 シミュレーター内の体感時間と現実での時間には実に6倍もの速度差があるのだ。もし外部からそのまま通信を送ると6倍早口になってしまうわけで、もはや自明だが聞きとれるわけがない。つまり、体感時間を合わせるために遥はVRシステムを使っているのだ。

 普段とは逆に遥がシミュレータを使用しているので、二人の脳波のモニタリングは隼斗が行っている。本来は研究職の人間が行うべきところなのだが、基本的に彼らは終了後のデータを調べられればいいので飛鳥達に対する管理は意外と適当だった。

 ともあれ根っこには隼斗や遥への信頼があるので、ほったらかしとは少々訳が違うのだが。

「それで、趣向を凝らすって具体的に何するんすか? 俺のモデル、アストラルじゃないみたいですけど……」

「あら、ごめんなさい。古いフィールドだから効率化パッチ当ててなかったみたいで、ちょっと読み込み悪いの。アークみたいなメカって構成情報多いから重くて、だから比較的軽めのモデルを仮配置してるってことよ。意識だけというのもありなのだけど、身体が無いって状況は経験してないでしょ? あれって結構気持ち悪いのよ」

「ああ、それでわざわざ……」

 特にすることもないので、飛鳥はぼんやりと思ったことを訪ねてみる。

「けど、人間ってメカよりも軽いんですね」

「スキンとボーンの情報だけよ。オブジェクト間の接触判定もないのだから軽いに決まってるわ。ともあれあと1分もしないうちに読み込みが終わるから、舞ってなさいな」

「な、何か違う字が見えた気がしたんですがこれいかに」

「踊ってみるとか?」

「やですよ……」

 どうにもこの1分の待ち時間が退屈なのか、ノリがおかしなことになっている遥の言葉を飛鳥はさらりとスルーした。相変わらずデータ世界らしい青い光の走る灰色の空を眺めること1分。

 ブゥン、というブラウン管テレビがつく時のような音を立てて目の前に二つの青い光が現れた。

 青白く光る半透明な直方体のブロックが2か所で大量に発生し、それらがひっつくような形で二つの人型のシルエットを構築していく。

 漠然と2脚2腕の物体であると認識できるようになった時、それらが内から弾けた。吹き飛ばされたブロックが青白い光となって消滅する中、二つの人型がその本来の姿を現した。

 約8m程度の物体、一方は言うまでもなくアストラルだが、もう一方は見たことのない機体だ。

 飛鳥は手前側にあるアストラルの機体を指さしながら、どこかで見ているらしい遥に尋ねる。

「こっちはアストラルですよね。向こうの灰色の奴は何なんすか?」

「あれは『アナザーアーク・プロトタイプ』って言うの。日米のアーク研究データを持ち寄って構成された、アークとカテゴリするための最低限の理論的要素を組み込んだもので、言わばアークの基本形よ」

 一息に長い説明をした遥。おそらくかいつまんで説明したのだろうが、飛鳥には今一つよく理解できなかった。

「えと、つまり、どういうことなんです?」

「う~ん……。端的に言えば、あの機体を元に発展させればそれはアークになるということ、かしら。つまり、その他の特殊な技術を一切排除した『もっとも簡単なアーク』と言ったところね。あ、武装は例外よ」

「じゃあ、アナザーアークってのは?」

「正規26体とは異なるアークってことよ。プロトタイプを基準にいくつか別のパターンも構築されていて、それはもう一つのシリーズと言えるレベルまでになってるわ。で、それがアナザーアークシリーズ」

 ちなみに、遥は構築済みのような言い方をしているが、それはデータだけでの話だ。ジェネレーター等アークの根幹を成す技術は軒並みロストテクノロジーであるため、実際に作れるかというと現状ではまだ難しいのだ。

 その辺りの細かいことはともかくとして、今の説明で大体理解ができたのか、飛鳥はコクコクと頷いた。

「なるほど……。ってーと、今回はあいつと戦うってことですか?」

 なかなかに喧嘩早い思想だと思うかもしれないが、これはアーク戦闘シミュレーション用のVRシミュレーターである。考え方が基本的に戦闘行為に帰結するのはある種当然と言えるだろう。

 遥も特に言及することなく肯定した。

「ええ、そうよ。アストラルへの搭乗は現実と同じ仕様になってるから、そのまま乗りこんでちょうだい」

 飛鳥は「わかりました」と頷くと、近くに立っているアストラルに駆けよって、右手の甲をかざした。

「よし。行くぜ、アストラル!」

 アストラルのコアと飛鳥の右手の甲が強く輝き、飛鳥の視界が白い光に包まれる。

 数瞬の後、飛鳥の視界はアストラルのそれになっていた。

 必要ないので当然ではあるのだが、コックピット内部の構造やライセンス認証等の起動準備は省略されている。要するに、ライセンスをかざすという行為によって飛鳥の意識を身体モデルからアストラルの機体モデルに移したというだけだ。

 視界に灰色のノイズが走り、ブレるようにして視界が入れ替わった。

 先ほどよりも高い、地上8m近くの視点。前方の灰色の機体、プロトタイプもさっきより近くに感じる。

『さて、それじゃあそろそろ始めましょうか』

 乗り込む前に感じていた頭に直接響くようなものとは異なり、明確な方向を伴って聞こえた言葉。声のした方に目を向けると、おそらく実際の人間サイズであろう遥の身体モデルがアストラルの目の近くを飛んでいた。

「あ、やっぱ遥さんそのモデルでも飛べるんですね」

『ええ。とは言っても、xz平面の移動を感覚で行なって、y軸の移動を数値的にイメージすることで飛行しているの。アークのものほど柔軟に動けないし、重力加速度を失くした仮想世界限定のやり方よ』

 現実のアークは重力や気流の影響を受けるため、ホバリングにしろ飛行にしろ簡単な技術ではない。大まかな姿勢制御や気流に対する制御値補正はアークのプログラムがやってくれるのだが、イメージ通り完璧に動かすにはやはりパイロットの技量が必要なのだ。

 その点VRならば面倒な要素はほとんど排除することもできる。重力の設定を解除しておけば物体の浮遊など放っておいてもできるのだから。

 そういう小細工もあって、遥の身体モデルはアストラルの視界を妖精のようにフワフワと漂っているのだった。

 遥は前方のプロトタイプを指さしながら、簡単な説明をする。

『プロトタイプは性能としては全体的にある程度の値を確保しつつ、多少機動性能にスペックが高めに振られているわ。武装の付け替えとチューニングでクセもかなり変わるように構築されているけれど、機体自体が得意なのは中距離での射撃戦ね』

 バーニングよりはアストラルに近い流線型で構築されたフォルムだが、アストラルのように細身な印象もない。かなりスタンダードな見た目で、表現するなら中肉中背といったところか。灰色を基調として、黒いラインが輪郭を強調しており、発光部の色は飾り気のない白だ。プロトタイプ、つまりは試験機と名乗るだけあって、その特徴のない姿からは逆にさらなる発展の余地が伺える。唯一特徴的なのは、コアに該当する部分がむき出しでないことか。

『搭載している銃火器は持ちかえ可能な手持ち武器として、アサルトライフルとサブマシンガンそれぞれ1挺が両腰にあるわ。両方とも実弾よ。同様の手持ち武器でプラズマキャノンが背中に1挺、こっちは言わずもがなエネルギー兵器ね。そして固定武装として左腕部にビームソード、右腕部にフォトンスプレッドガンがそれぞれ一つよ』

「武装の詳細もお願いできますか?」

『そっちはスペックデータを転送しておくからそれで確認しておいて』

 視界の遥がぐるりと大きく手を回すと、飛鳥の視界にいくつかの武装のデータが記されたウィンドウが現れた。

 アサルトライフルとサブマシンガンは飛鳥にも大体イメージができるのでそのままウィンドウを閉じる。残った4つの武装の詳細に目を通した。

(プラズマキャノンは名前の通りだな。アストラルのプラズマバズーカよりも威力が低い代わりに、発射反動が小さくて精度が高い圧縮プラズマ砲、と。ビームソードはエネルギー系刀剣武器で、フォトンブレードと違ってある程度の圧力と高熱による物体切断。フォトンスプレッドガンは圧縮重光子を散弾のようにしてばら撒く近距離迎撃用の武器か)

 武装としては距離や相手によって使用するものを入れ替えるスタイルなのだろう、取り回しの良さそうな武器でとにかく選択肢が多い。

 中遠距離でプラズマキャノンとアサルトライフル、中距離でアサルトライフルにサブマシンガン、近距離射撃戦はサブマシンガンとスプレッドガン、近接戦闘はビームソードとフォトンスプレッドガン、と順々に持ちかえていく形になっているのだろう。

 飛鳥、というかアストラルが頷いたのを読了の合図と取ったのか、遥が空中に浮かびながら飛鳥に尋ねた。

『それじゃあそろそろ始めるけど、準備はいい?』

「はい、大丈夫です!」

 飛鳥が肯定すると、遥はその場でパンと手を叩いた。その途端近くにいたプロトタイプが数百メートルも後ろの場所に転送された。

『プロトタイプはお世辞にも強い機体じゃないし、制御もAIだから勝つこと自体は簡単だと思うわ。だから今回はタイムアタック。戦闘開始からどの程度の時間で勝つことができるか、現状のアスカ君の戦闘スキルを数値化するというわけよ。向こうも特別逃げに徹するようなプログラムは組まれてないから、普通に戦えばオーケー。いいかしら?』

「わっかりました、パパッと片付けてやりますよ!」

 飛鳥がそう言って意気込むと、遥も楽しそうに肩を震わせていた。

『それじゃあ……』

 遥が右手を大きく振り上げて、一息に振り下ろす。

『スタート!』

 ビーッ! というブザー音と共に、飛鳥の視界端のタイマーが時間のカウントを始める。


 撃破への算段を練りながら、アストラルは武器を構えるプロトタイプに向けて最大速度で突撃した。

ミスがあったので修正しました。at1/19

なんかちょくちょく修正ミスが目立つ……

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