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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第1部‐英雄の力‐
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1章『日常、激動の予感』:1

「という夢を見たんだ」

 最後の授業が終わって1時間ほど経った頃、人気のなくなった教室の中で星野飛鳥ホシノアスカはそんなことを言った。

 夕日が差すにはまだ少し早い時間。開いたままの窓から春の暖かい風が吹き込んで、雑に切られた彼の黒髪を小さく揺らす。

 机を挟んだ飛鳥の対面で椅子に座っていた少年が、ふと読んでいた雑誌から顔を上げた。

「……アスカ何歳だっけ?」

「おいどういう意味だ」

 キョトンと首をかしげたのは、飛鳥の友人である久坂隼斗クサカハヤトだった。

「いや、すまない。突拍子も無い話すぎて、一瞬本気で疑問に思ってしまった。大丈夫、同い年だね。忘れてないよ」

 なかなか酷いことを言いながら、隼斗は人の良さそうな笑みを浮かべる。飛鳥としては文句の一つも言いたいところだが、実際彼の話に突拍子が無いのは事実だろう。結局、飛鳥はため息を一つついただけだった。

「けど、夢の割にはやけに鮮明に覚えてたんだね。記憶力は悪いって、アスカ自分で言ってなかったっけ?」

「夢に記憶力って関係あるのか? どっちにしても内容が内容だったからな、それで覚えてたんだと思う」

 腕を組んで考えた振りをしながらも適当に答える飛鳥に対して、隼斗は少し真面目に考えてみる。

「ヒーロー番組の主人公になった夢、か。確かにインパクトでその上に行くものはそうないだろうね。というよりそんな夢を見ること自体が貴重な気がする」

「俺は普段から『アスター』はテレビで見てるし、なんでって言うほどのものでもないけどな。しかし良い夢を見た。たぶん今年に入ってから最高の奴だな」

 自慢げに語っているが、飛鳥は高校一年。そして『アスター』は特撮番組の流れをくむ作品、つまりは子供向けのヒーロー番組だ。

 満足げに腕を組む飛鳥に隼斗は苦笑して、やはりこう尋ねる。

「うん、やっぱりアスカは何歳だっけ?」

「だからそれはもういいっつの!」

 またも同じ質問をしてくる隼斗に、飛鳥はそっぽを向いてそう答える。

 余計な質問であったことは隼斗も理解しているからか「ごめんごめん」と軽い調子で謝ると、続けてこう言った。

「趣味に年齢は関係ないよね。でも悪気があるわけじゃないんだけど、やっぱり小さい子が見てるイメージはあるな」

「そりゃ子供向けなのは確かだけどさ、別に見たっていいだろ。好きなんだからさ」

「まぁね。ただ、夢にまで見るほど本気というのは……、これは飛鳥には今更だったか?」

「あーうっせーうっせー。どうせ俺は将来の夢でヒーローと答えるような奴ですよーだ。子供で悪かったな」

 拗ねたように言った飛鳥は、そこで隼斗が手に持っている雑誌に目を向けた。飛鳥が夢の話をしている間も、ずっと片手間に読んでいたものだ。

「それ、何読んでるんだ?」

「ん、これかい? 読んでみればいい。ただの都市伝説さ、気にするほどのものじゃないよ」

 そう言って差し出された雑誌を手に取ると、飛鳥はパラパラとその雑誌をめくる。本に癖でもついていたのか、めくっていたページがある一か所で引っかかった。

 そのまま無意識に視線を引っ張られた飛鳥が見つけたのは、写真の一つもないとあるコラムだった。ほとんど意識しないまま、飛鳥はそこに書かれた文章に目を通す。

「なになに…………2027年現在、我々人間は未だ人型ロボットとの共存の夢を果たせてはいない。絶え間ない技術の進歩はあれど、やはり人間社会で共に生きられるほどのロボットを作りだせるテクノロジーへと至ってはいないのだ。……って読み辛いな」

 ただでさえ小さな文字なのに、詩的なのかどうかも判別がつきにくい文章に飛鳥は思わず眉を寄せた。難しい顔になりながらも、とりあえず続きを読み進めてみる。

 書かれていたのは人型ロボットは思考などのソフト面だけでなく、歩行機能などのハード面にも未だ課題を抱えているだとかいう小難しい話だった。一見科学雑誌かと思わせるような文章は、しかしどういうわけかこんな話に発展してしまう。

「ところで、人型ロボットと言えば巨大ロボットを思い浮かべる人もいるだろう。多くはロマンで語られるこれらだが、実はその開発が既に行われているという話をご存知だろうか。確たる証拠があるわけではないが、曰くとある企業が秘密裏に人が乗って動かす巨大な人型機動兵器を独自に研究開発しているというものだ。これだけ聞けば眉唾ものの話だが、昨今の目覚ましい技術革新を考えれば、あり得ないと切り捨てることも出来ないのではないだろうか……」

 そうして話はもっともらしいことを述べながらつらつらと続き、最後は『信じるか信じないかはあなた次第です』という定番のオチへと繋がっていく。

「って思いっきりただの都市伝説じゃねぇか!」

「だからそう言ったじゃないか」

 飛鳥がツッコミながら反射的に机に叩きつけようとした雑誌を、とっさに手を伸ばした隼斗がうまくキャッチする。そのままもう一度雑誌を広げると、飛鳥がついさっきまで読んでいたそのページを開きなおした。

 再び雑誌に視線を落した隼斗に背中を向けた飛鳥は、そこで教室の前の扉からプリントやノートの山を抱えた二人の生徒が入ってくるのを見つけた。

 一方は活発そうな背の高い少年で、もう一方はおとなしそうな見た目の少女だ。どちらもクラスメイトだが、どうやら飛鳥と隼斗がこの教室にいることに気づいていないらしい。

 二人は何やらを話しながら並んで教卓の方に向かうと、抱えていた荷物をそこに置いた。

 飛鳥は軽く手を上げると、そちらへ向けてこう声をかける。

「うーっす二人とも、何やってんだ?」

 飛鳥の声が聞こえたのか、二人のうちの少年の方が飛鳥へと視線を向けた。そうして手を上げる飛鳥と椅子に座ったままの隼斗の姿をみとめると、少年も同じように片手を上げた。

「おぉ、アスカに隼斗、居たのか」

 そう言った少年、伊達蓮治ダテレンジは快活な笑みを浮かべると、そのまま飛鳥達の方へと近づいてくる。その後ろを追いかけるようにした少女が、近づきながらこう言った。

「先生に明日の授業に使うプリントを持ってくるようにって頼まれたの。あと、ノートも返却するからって」

 少女の名前は美倉由紀ミクラユキ、飛鳥や隼斗の所属するクラスのクラス委員だ。教師に仕事を頼まれたというのも、クラス委員に向けた頼み事ということだろう。

 そう飛鳥は理解しかけたところで、ふと頭をよぎった疑問に首をかしげた。

「じゃあ何で伊達までそれをやってるんだ? お前クラス委員じゃないだろ」

 その質問に伊達は露骨に目を逸らすと、しどろもどろになりながらこう答えた。

「あーその、な。たまたま職員室の前を寄った時に美倉が先生に頼みごとされてたからさ、一人でもつには荷物も多いし手伝うことにしただけだ」

「ふーん、たまたまねぇ……」

 意味深に口の端を釣り上げる飛鳥だったが、伊達はやはりかたくなに目を合わせようとはしない。なぜ伊達がこんな態度をとるのかを知っている飛鳥としては、会話が美倉にも筒抜けのこの状況は面白くて仕方がない。

 というわけで、もう少し遊んでみることにした。

「でもなんで陸上部員の伊達がこの時間に職員室の前に通りかかるんだろうなー」

「うっ」

 飛鳥がひとり言に見せかけわざと大きな声で言った内容に、伊達が思いきり顔をしかめる。ニヤニヤと笑みを深めながら、飛鳥はさらにこう続けた。

「今日陸上部活動あるはずなのになー、しかも制服でとかー、あれなんかこれおかしくねーかなー」

「ううっ!」

 目どころか首ごとねじきれそうな程に横に向けた伊達は、図らずも隣の美倉とバッチリと目が合ってしまった。ちょっとばかり顔の青い伊達を見て、美倉はキョトンと首をかしげる。

「そういえば、もう陸上部の活動始まってるよね。どうして伊達君は職員室の前にいたの?」

「えー、いやぁ、それは、その~……」

 これといった言い訳が思いつかないのだろう、美倉からも視線を逸らして天井を見つめてしまう伊達。典型的な真面目ちゃん体質の美倉は、その伊達の態度に訝しげな表情を浮かべてこう尋ねた。

「もしかして、部活サボったの?」

「い、いや、そうじゃない! その、あれだ、ちょっと腹痛だったんだよ、うん!」

 ちょっと腹痛だった人間が放課後にわざわざ職員室の前をうろついてるという状況も大概おかしいわけだが、伊達もテンパっているのか自分の発言をよく理解していないらしい。さすがにこの嘘はバレるだろう、と飛鳥は思っていたが、美倉は途端に心配そうな表情を浮かべた。

「え、そうなの? ごめんね、お腹痛いのに荷物運びなんて手伝わせちゃって。そうだ、一応保健室で診てもらった方がいいと思う。行こう?」

「い、いやいいって、そんなに酷くねえから」

「でも酷くなってからじゃ遅いしやっぱり言った方がいいんじゃ……」

「ほんと大丈夫だから! つか治った、もう治った!」

「う~ん、それならいいけど……」

 心配そうな目をしたまま渋々といった様子で引き下がった美倉。彼女の中では体調不良の人間に仕事を手伝わせたという認識になっているのだろう、申し訳なさそうに顔を俯けている。妙に責任感が強いせいか、いかにも落ち込んでいますという空気が漂ってきていた。

 伊達もなんとかフォローしようとしているのだろうが、嘘をついた罪悪感からかかける言葉が見つからないようだ。オタオタしている伊達の様子に飛鳥が肩を震わせて必死に笑いをこらえていると、伊達が恨めしそうな視線を飛鳥に向けた。当然、無視。

 飛鳥がニヤニヤと口の端を釣り上げながら二人を眺めていると、重苦しい空気に耐えかねた伊達が露骨に話題を逸らしにかかった。

「そ、そうだ、お前らは教室に残って何してたんだよ。もう授業終わってから1時間ぐらいたってるだろ」

 伊達がそう尋ねると、手に持っていた雑誌を閉じて机に置いた隼斗が、爽やかな笑みと共にこう答えた。

「なに、アスカが変わった夢を見たとかでね、少し話を聞いていたんだ。それだけだよ」

「夢? どんなだったんだ?」

「うん、なんだかヒーローになる夢を見たんだってさ。ほら、あの日曜の朝にやってる番組の……アスターだっけ?」

「ああ、まぁな」

 隼斗の質問に頷いて返す飛鳥。彼も自分で話している分には気にならないのだが、いざ他人の口から説明されているのを訊くとどうにも恥ずかしい。

「……ほう?」

 さっきの飛鳥の言動に恨みでもあるのだろう、伊達はニヤリと笑みを浮かべると何事かを言おうとして、

「ああ、別に何を思っても構わないけど言葉は選べよ。じゃないとここで全部バラしちま――――」

「あああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 飛鳥が無表情でぼそっと呟いた言葉を伊達は、弾かれたように彼の元へ突撃すると、その胸倉を引っ掴んで教室の端まで走って行った。

 ここはさすが陸上部というか、結構なスピードである。

 そのまま窓に背中を叩きつけられた飛鳥だったが、直前に手加減されたのかほとんど痛みは無い。伊達からすれば全力体当たりでもしたいところだろうが、それをすればどうなるかは明白だ。

 俯いたまま肩で息をしていた伊達だったが、ややあって歪んだ笑みを張り付けたまま顔を上げた。

「よぅしわかった俺が悪かった。だからそれは言うな」

「それって何のことか具体的に頼むわー」

「今度なんか奢るからそれでいいだろ、アスカ……」

「うんまぁよくわからんがそこまで言うなら黙っておいてやろう」

 適当に伊達を手玉にとりつつ、飛鳥はそんな約束を結ばせてしまう。彼の襟元から手を離すと、伊達は顔の筋肉が痙攣したような笑みを浮かべて飛鳥の肩に腕を回した。

「おーけーアスカありがとう……」

「いやいやどういたしましてー」

 言葉では表現しきれないえげつない表情を浮かべたまま至近距離で睨み合う二人を見ながら、隼斗と美倉は遠巻きにこんなことを言い合っていた。

「あの二人何話してるんだろう?」

「さあ、なんだろう。まぁろくな話ではないだろうね」

「やっぱりそうなのかな」

「あの顔で友好的な話はできないと思うよ……」

 状況を想像できていないらしい美倉は不思議そうな顔をするばかりだが、一応伊達が反応した理由も理解している隼斗にとっては苦笑するより他ない。

 そんな感じで適当に二人で眺めていると、話のオチがついたらしい伊達と飛鳥が並んで隼斗の机へと戻ってきた。飛鳥はこらえきれないといった様子で口の端から笑いが漏れているのに対し、伊達は疲れた様子で俯いている。

「アスカ、あんまり弄るのもやめてあげなよ」

「わかってるわかってる、戯れってヤツだよ」

 隼斗の忠告を軽い調子で受け流した飛鳥は、そのまま手近な机に腰掛けた。

 ああいう風に好き勝手言ってはいたが、何も飛鳥だって本気でいやがらせをしてやるつもりだったわけではない。状況的に面白かったのと、伊達の口を塞ぐために衝動的にやったにすぎない。

 奢りの話に関してもそもそも伊達が律義に覚えていることは無いはずだし、仮に覚えていたとしても飛鳥自身がうやむやにするつもりだった。つまり、正真正銘ただのお遊びだ。

 その辺りは伊達も理解しているのだろう。彼はさっきまでの中途半端に暗い表情を引っ込めて、椅子に座ったままの隼斗にこう言った。

「そういや隼斗は生徒会役員だったろ。人に言えたことじゃないが、こんなところで油売ってていいのか?」

「今日はこれといってすることが無いみたいでね、普通に休みなんだ。休日も活動してるし、暇なときは自由にした方がいいって会長の計らいさ」

「なるほど、そういうことか」

 納得したらしい伊達は頷いているが、どうにも何かを忘れているように見えてならない。まさかそんなことは無いだろうと思いながらも、飛鳥はとりあえずこう尋ねてみた。

「まさしく人に言えたことじゃないって話だけどさ、伊達お前陸上部は? もう活動始まってんぞ」

「あ……」

 案の定といった状況に思わず額を押さえた飛鳥の前で、伊達は口を半開きにしてみごとに固まっていた。ことさらバカっぽいそのリアクションに飛鳥がため息をついたところで、思考を停止させていた伊達が恐る恐る教室の時計を確認する。

 その針が示している時間は、やはり何の冗談でも無く本来の活動開始時間から軽く30分以上あとの時間だ。

「やっべ! 喋ってる間に遅れちまった!?」

「そもそもお前が教室に入った時点……というか美倉の手伝いを始めた時点で既に時間過ぎてたろうに」

「うおおおおおお、やばいやばい! ちょっと俺部活行ってくるわそれじゃあまた明日なバイバーイ!!」

 怒涛の勢いで言葉を発しながら、伊達は凄まじいスピードで教室を飛び出して行く。どのくらい早いかというと、後半の声にドップラー効果が掛かるレベルだ。

 一拍遅れて駆け抜けていった突風を受けてうざったそうに眼を細めながら、飛鳥はひとり言のように呟いた。

「相変わらずとんでもなく速いな。自称韋駄天だとかワケ分からんことを言うだけはあるか」

「伊達って1年だけど、この学校の陸上部の中で短距離の記録が一番早いんじゃなかったっけ?」

「ああ、そういやそうらしいな。つっても上は2年生しかいないけど」

「伊達君ってそんなにすごいんだ?」

「なんだ、美倉知らなかったのか? だったら暇な時にでも練習風景を覗いてみればいい、たぶん想像してるよりかなり速いぞ」

 飛鳥も陸上に詳しいわけではないが、それでも一度伊達が走っている様子を見て度肝を抜かれたことがある。とても同い年とは思えないほどの、とてつもないスピードだったことを覚えていた。

 飛鳥がその時の練習風景を回帰しかけたところで、ふと美倉が時計の方を振り返った。

「あ、私も部活行かなきゃ」

「美倉さんは確か文芸部だっけ?」

 隼斗の質問に、美倉は頷いて返す。

「実は人数も少ないし、名ばかりな部活なんだけどね。一応活動の曜日と時間は決まってるから、行かないといけないの」

「相変わらず律儀というか堅苦しいというか、だなぁ」

「そんなのじゃないよ。それに星野君は時間にルーズ過ぎます。遅刻はよくないよ? それじゃ、私はもう行くね。じゃあね、また明日」

 呆れた様子の飛鳥の言葉にそんな風に軽く返しながら、美倉も教室から去って行った。その背中を見送った飛鳥は、足音が聞こえなくなった辺りで小さくため息をついた。

「なんつー委員長体質だ……」

「これぞ委員長って感じだよね。もちろん良い意味でだけどさ」

「俺からすりゃ鬱陶しいレベルだぞ」

「それはアスカがサボりすぎなだけだよ」

 隼斗にもバッサリと言われてしまい、飛鳥は分かりやすく肩を落とした。

 始業のチャイムから5分過ぎたあたりで教室に入るのが常習化している飛鳥からすると、こう真面目な人間に囲まれると堅苦しくて仕方がない。自分の側が間違っているのはよく理解しているが、だからこそだ。

 というか寝坊の原因を春眠が暁を覚えないことになすりつけるような飛鳥にとって、こういったお説教で今更反省をするつもりなど毛頭無いのである。

 再び静かになった教室で、今度は続く話題も無い。

 飛鳥は腰かけていた机から飛びおりると、大きく伸びをする。座っていた机とはまた別の机に置いていた、薄っぺらい鞄を手にとった。

「さて、じゃあ俺たちも帰るか」

「そうだね」

 答えながら腰上げた隼斗は机の上に置いたままだった雑誌を手にとって、ふとこんなことを訪ねた。

「そうだ、アスカ。もし君がこれに書いてた人型機動兵器っていうものに乗れるとしたら、どうする?」

「は? 藪から棒にどうした?」

「いや…………なに、君ならどうするかって少し気になっただけさ、気にしないでくれ」

 自嘲気味な笑みを浮かべて、隼斗は話を終わらせようとする。その眼前で顎に手を当てて考え込んだ様子を見せていた飛鳥は、ややあってこう答えた。

「まぁ、場合によるかな」

「……場合って、例えば?」

「そりゃあ決まってる。……そいつに乗ることでヒーローに近付けるときなら、迷いなく乗ってやるぜってことさ。わかりやすいだろ?」

「はははっ、なるほど君らしい」

 冗談めかした飛鳥の答えに思わずといった様子で笑うと、隼斗は満足した様子で鞄を手に取った。

「それじゃあ行こうか」

「おう」

 そうして静かな教室に背を向けて、二人は並んで外へと歩いていく。


 当然この時の飛鳥はただの冗談だと思っていたし、深く考えていたわけではない。

 だからその言葉以上の意味など、今の飛鳥には知る由もなかったのだ。

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