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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第2部‐暴君、出現‐
25/259

1章『持つ者、持たざる者』:2

(届け、届け、届け!!!!)

 荒野の大地を全力で踏みつけ、一気に前へと突撃。同時に光刃を突き出す。

『うおおおおおおおおおおおおおお!!』

 光刃が装甲の合間を縫って腕の関節部に届こうかという時、思いきり振り上げられた足にアストラルの機体が弾き飛ばされた。

『雑だぞ、アスカ!』

 巨体とは思えない凄まじいスピードでアストラルを蹴り飛ばしたバーニングは、片足のクローラーで器用にバランスを取りながら高速で後退していく。

 吹き飛ばされたアストラルがなんとか地面に着地するころには、また500メートル以上も距離が離されていた。

『くっそ、でかいクセにふざけた挙動を!』

『足にも推進装置はついてるからな、うまく使えばこういうこともできる』

 得意げに語る久坂隼斗クサカハヤトに、星野飛鳥ホシノアスカは思わず舌打ちをした。

『ほらほら、棒立ちしてると撃ち抜くぞ!』

 右腕に装備したガトリング砲をアストラルに向け、躊躇なく発射してくるバーニング。以前のそれとは違い、見えやすく弾速の遅い火炎弾ではない。

 漆黒の弾丸が、群れをなして襲い掛かる。

 アストラルは再度地面を踏み締め、全速力でその場から駆けだす。当然のように振り回されるガトリングの砲口。背中から薙ぎ払うように迫りくる弾丸の帯が機体を掠めかけたその時、ありったけの力を込めて真上に飛び上がった。

 急な挙動の変化に対応できなかったガトリング弾の帯をしり目に、アストラルは空中で身体を縦に回転させる。

 お世辞にも速いとは言えないバーニングの動作では、これほどの急激な移動には追いつけない。

 両肩のビームブースターが、同時に光を放った。

 瞬間的な加速で撃ちだされたアストラルは、その右足をバーニングの胸元めがけ一気に突撃する。亜音速の飛び蹴りだ。

 だが命中の寸前、バーニングの機体が滑らかに『ズレ』た。

『うわっ!?』という悲鳴のような声を上げ、アストラルは勢い余って自らを地面にたたきつけてしまう。

 大地が裂け、砂埃と共に音の爆発が巻き起こる。

 アストラルはそのままの勢いで派手に吹っ飛び、さらに数百メートルもの距離を転がっていく。

 足が直撃する寸前、バーニングは両脚のキャタピラを高速で回転させドリフトのように機体を滑らせたのだ。直撃を信じて疑わなかったアストラルは、その鈍重らしからぬ挙動に虚をつかれる形となった。

『ああもう! 的はでかいのにこのザマかよ!』

 飛鳥は悔しそうに喚くが、対する隼斗は少々呆れ気味だ。

『あのさ、アスカ……。確かに機動力を生かした戦い方は悪くないんだけど、アスカ自身が追いついてないんじゃ何の意味もないぞ。あと動きが直線的過ぎるし、リズムも毎回同じだ』

『だぁぁ、上から目線でこなくそ……』

 飛鳥はまだ不満げだが、隼斗の言っていることは至極もっともだ。

 その辺りは自分で理解しているのか、飛鳥は舌打ち一つで一旦気持ちを落ち着ける。

 バーニングをまっすぐ視界に収め、深呼吸。

 はッ、という呼気と共に、一気に前へ飛び出した。

 当然のように反応し、バーニングはキャタピラとブースターで後退しながらガトリング弾をばら撒く。実弾である以上弾数に限界はあるが、ゆうに数千を超える弾数がある以上牽制に撃っても弾切れの心配はない。

 対してアストラルはブースターを噴射して地面を滑るように駆け抜ける。推力を細かく調節しながら、掃射されるガトリングの弾幕を右へ左へと次々に回避していく。

 弾数に心配はないとはいえ、バーニングのガトリングも無限に連射ができるわけではない。火薬を使って弾丸を発射する以上、発射時にどうしても熱が発生してしまう。それゆえ、最大連射速度での連射を続ければそう長く持たずに武装自体がオーバーヒートしてしまうからだ。

 単発の威力を求めた武器ではない以上、ある程度の連射速度は必須となる。となれば、その連射ごとには小さな隙間ができる。

(そこに機体を滑り込ませる―――!!)

 ジグザグの軌道を描くことで、結果的に回り込むよりも直線的に突き進むアストラル。数十発の連射ごとにできるほんの少しのディレイ、それが生み出す攻撃のないスペースに正確に機体を潜り込ませていく。

 一見高い技術が必要なように見えるが、単調なリズムで放たれる弾丸の隙間はタイミングを覚えてしまえば目をつぶっていても通り抜けられる。

 徐々に徐々に、互いの距離が縮まっていく。

 アスカの腕では、掠める弾丸にまで意識を割くことはできない。だが、それさえ無視できれば近づくことは難しくない。

 そもそも、アストラルとバーニングでは基本のスピードが違うのだから。

『もらったぁ!!』

 ビームブースターから光を放ち、アストラルは一気にバーニングの懐へ。

 互いの間にあった100メートル以上の距離を一歩で詰める超加速に、バーニングは火炎放射器の展開すら間に合わない様子だ。

 フォトンブレードによる一撃、それが通ることを飛鳥は確信した。

 しかし―――

 ゴッシャァァァァア!! と。

 凄まじい音を掻きならしながら、アストラルの機体が猛スピードで真横に吹っ飛んだ。

『ぐああああああああああああああ!!』

 必中を確信していただけに、受け身すらまともに取れずに荒野の大地を転がっていくアストラル。結果勢いを殺しきれずに、崖のようになった部分に機体をしたたかにぶつけた。

 爆発にも等しい衝撃が大地に伝わり、崖がえぐり取られたかのようにへこむ。

『こっちにリズムを合わせてどうする。スピードのある機体なんだから、自分のペースに巻き込んでいかないとそのまま力押しで押し切られるぞ』

 隼斗は呆れたようにそう言うが、それも無理はないだろう。

 突撃するアストラルを弾き飛ばしたのは、ラリアットばりに横薙ぎにふるわれたバーニングの拳だった。

 単調に見えていた射撃は、逆にアストラルに対しても単調な回避動作を強要していた。アストラルが機体を左右にずらすタイミングは、言わばバーニングのガトリングの連射ごとの間隔に依存していたというわけだ。

 となれば、実質的なタイミングは完全に掌握されていたと言っていい。あとは飛鳥のクセを考慮してどの程度の距離で踏み込んでくるかを踏まえれば、あらかじめカウンターのように攻撃を『置いておく』事ができる。

 そして放たれた、バーニングの左の拳。

 ただの拳とはいえ、いかんせん重量が大きい。

 吹っ飛んだアストラルは崖の下で、ダメージを負った機体をなんとか立たせているところだった。

『ダメージレベル62、か。まだもう少し戦えそうだな』

『ったりめーだろ。つーかここから一気に巻き返してやるよ』

 大口を叩く飛鳥だったが、隼斗のほうのダメージレベルはたったの15だ。実力差は歴然だろう。

 しかし、どうにも飛鳥はそういう負けの算段は一切していない様子だ。

 再度ブースターを吹かして突っ込んでいくアストラル。今度は自らリズムを作るつもりか、小刻みに左右に軌道をずらしている。無意識化で作られるクセを可能な限り取り払い、意識的にランダムなタイミングで動きを構成していく。

 ほう、とこの後に及んでなお動きのキレを増してくる飛鳥に、隼斗は思わず感嘆の声を上げた。

 再度後退を始め、距離を一定に保ちながらバーニングはガトリングの銃口をアストラルに合わせる。しかし、細かくずれるアストラルには正確に狙いを合わせることができない。

 なるほど、これでは雑なガトリングのばらまきでは当らない。

 試しに牽制程度にガトリングを撃ってみるが、案の定簡単に避けられてしまった。

『へぇ、やるじゃないか』

『当然! そう何度も同じようにさせるかっての』

 言うや否や、アストラルはビームブースターを噴射し距離を詰めにかかる。

 反応したバーニングがカウンター気味に小型のキャノン砲を発射するが、アストラルは即座に減速してこれを確実に回避する。

 動きのランダム性に、加減速が組み込まれだしたのだ。

 短時間の噴射ならば、ビームブースターのインターバルは非常に短い。今のように一瞬の加速や減速を生み出すだけならば、ほぼ間隔なく噴射を繰り返すことができる。

 先ほどより鋭角に、慣性を殺した軌道を描くアストラル。

 加速だけでなく減速もビームブースターが行う以上、移動慣性を利用した予測射撃はその精度を失う。

 バーニング側は有効な迎撃手段を講じられないまま、両者の距離はじりじりと近づいていく。

『どうした隼斗、このままほんとに巻き返しちまうぞ!』

 作戦が見事に成功した喜びからか、興奮した様子で話す飛鳥。だがそれによって動きが雑になることはなく、むしろよりキレのある動作に変わっていっていた。

 飛鳥の挑発に、隼斗も流石に火がついた。

『いいだろう、だったらこれならどうかな!』

 後退を続けるバーニングの両脚部外側の装甲が展開され、中からミサイルラックがスライドする。

 計8発の高誘導ミサイル群。

 それらが一斉に放たれた。

 一度斜め上に弧を描くようにして放たれたミサイルたちが、それぞれバラバラのタイミングで軌道を変えアストラルに襲い掛かる。

『そう来ると思ってたぜ。だけど俺にはこいつがあるんだ!』

 言葉と同時、アストラルの肩から後ろ向きに取り付けられていたビームブースターが、ぐるりと180度回転して肩を跨ぐ形で前に向いた。

 ビームブースターは単なる加速装置ではない。

 両腕の付け根あたりにあるアストラルの2基のサブジェネレータに直結され、高い出力を瞬時に供給できる構造。そして2つの関節を持ったアームによって支えられているため、広い射角を持ち柔軟な軌道を生み出すことができる。

 だが、それだけではない。

 大きな質量を持った特殊な光子―――重光子を推進剤に使用することで、瞬間的に高い加速性を生み出すことができるこのブースターは、同時に武器としても使用できるという特徴を持つ。

 そう、広い射角を持ち、高い精度の砲撃を可能とする重光子ビーム砲として扱うこともできるのだ。

【ビームブースター 砲撃モード】

 前方に構えられたビームブースターから、二条の光線が放たれた。

 推力に使用する際より重光子の質量を小さくすることで、ビームの弾速を速めるとともに発射時の反動を小さくした『砲撃モード』。

 放たれた閃光に、二つのミサイルが飲み込まれて爆散した。

 確かな手ごたえを感じた飛鳥は、次々に襲い掛かる残り6発のミサイルを片端から撃ち抜いていく。

 高い応用性と全てにおいて発揮される凄まじい性能。アストラルという機体のポテンシャルの大部分を担っている兵器が、その性能をいかんなく発揮した。

 一つ欠点を言うとすれば、普段後ろに向いている分砲撃の速射性が悪いということだが、それもあらかじめ来る攻撃が予測できていればさしたる問題にはならない。

『おぉっと……』

 放った攻撃がまともな影響を与える間もなく蹴散らされたことに、流石に驚きを隠せない様子の隼斗。そしていかに飛鳥がつけあがっていようが、これほどのチャンスを逃すものではない。

『感心するのはいいけど、隙だらけだぜ!』

 ミサイルを迎撃しながらも着実に距離を詰めていたアストラルは、バーニングがそれに気付くよりも前に大きく踏み込んだ。

 ビームブースターによる、再びの超加速。

 ビームブースターは推進よりも砲撃のほうがエネルギー消費が少ないという一風変わった特徴がある。つまり、砲撃連射によって発生する発射のインターバルは見た目以上に短いということ。

 フォトンブレードを構えながら、時速500㎞オーバーのスピードで一気に距離を詰めるアストラル。

『そうそう接近戦はさせないさ』

 踏み込むアストラルにカウンターの要領で炎の盾を展開するバーニング。だが、ここまで含めて飛鳥の計算通りだった。

 そもそも、最高時速800㎞を誇るビームブースターで何故時速500㎞のスピードだったのか。それは当然、それだけしか出さなかったのだ。

 つまり、リチャージの短縮。

 展開された炎の盾に対し、アストラルの機体はすぐさま直角に軌道を曲げた。目くらましの効果を持つが故にその動きに反応できないバーニングの横方向に、アストラルの機体が飛び出した。

『―――ッ!?』

『おせぇよッ!!』

 慌てて火炎放射器を向け直そうとするバーニングの懐に、今度こそ飛び込んだアストラル。構えられた右のフォトンブレードを、力いっぱい振り抜いた。

 だが、またしても「ズレ」る。

 キャタピラを回し、機体をアストラルから離れる方向に動かすことで、紙一重で攻撃を回避したバーニング。

 しかし、アストラルの攻撃もそれで終わりではなかった。

 フォトンブレードを振り抜くと同時、アストラルの機体がさながら竜巻の如くあり得ないスピードで高速回転した。左右のビームブースタを前後に噴射することで、アストラルの機体の中心を軸に回転のエネルギーを生み出したのだ。

 壮絶な勢いを蓄えられた左の踵が、バーニングの頭部を正確に撃ち抜いた。堅牢なバーニングに、決して少なくないダメージが通る。

 流石の衝撃にバーニングも耐えきれず、その巨体が真後ろにひっくり返った。

 チャンスとばかりにフォトンブレードを突きたてようとしたアストラルだったが、倒れたまま両腕の武器を向けてくるバーニングを見て一旦冷静に距離を取る。

『へへっ、どーだよ隼斗。わりぃけど、やっぱ今回こそは勝たせてもらうぜ』

 バーニングのダメージレベルが今の一撃で一気に30にまで跳ね上がったことを確認し、確かな自信を得る飛鳥。

 やはり重装甲とはいえ頭部はウィークポイントなのか、通常よりもダメージの通りが大きい。

 倒れていたバーニングが、その巨体をゆっくりと起こした。

『ああ、まだ大した回数の操縦経験があるわけじゃないのに驚いたよ。まさかここまで判断できるようになっているとは。しかしだからこそ、僕も負けるわけにはいかないと言わせてもらおうかな。これでも先輩だからね』

 隼斗の強がりを、しかし飛鳥は鼻で笑った。

 この状況、確かにダメージでは負けているが、パターンを掴んだ以上飛鳥の有利に進められると飛鳥自身が判断していたからだ。

 遠距離砲撃戦になれば辛いものがあるが、そもそも機動力的に一度近づいてしまえばアストラルが再度引き離される可能性はほぼ無い。つまり、この有利な状況は間違いなく維持し続けられるということだ。

(あの図体じゃアストラルはとらえられない。『近距離戦』なら間違いなくアストラルに分がある!)

 そう考えていたからこそ、飛鳥には理解できなかったのだ。

 身体を起こしたバーニングが、それと同時に突撃してきた理由が。

(どういうことだ……? 何か企んでいるのか、それともヤケクソか。いや……)

『どっちにしろ、願ったりかなったりだ!!』

 武器を構えず突っ込んでくるバーニングを一瞬訝しんだ飛鳥だったが、邪念を振り払うと自らも一気に前へと飛び出した。

 両者の距離が、瞬時に0になる。

 『近接』の距離。

 ドンッッッ!!!!

 強烈な衝撃が辺りを包み込んだ。

 それはバーニングの右の拳がアストラルを掠めて大気を叩いた音でもあったし、アストラルの左のフォトンブレードがバーニングの右胸を貫いた音でもあった。

 クロスカウンターの一撃だ、生半可な威力ではない。

 勝敗は歴然。

 バーニングのダメージレベルが、一気に80台後半まで引き上げられる。

『あと一撃だぜ、隼斗!!』

 勝利宣言と共に、ふるわれる右のフォトンブレード。

 その一撃が。それを放つ腕が。

 横から伸びたバーニングの左手によって掴み取られた。

『なに!?』

『相変わらず、すぐに油断するね。悪い癖だよ、アスカ』

 強烈な力で腕を握りこまれ、両腕ともども一切身動きの取れなくなるアストラル。その胸部に、バーニングの右腕が添えられた。

 より正確には。

 そこに装備された、爆薬によって撃ちだされる装甲貫徹用の杭。

 すなわち、パイルバンカー。

『終わりだ、バスター・スピア!!』

 けたたましい音を立てて、パイルバンカーから射出された一本の杭。

 貫くことに全てをかけたその一撃が、破壊の権化とも言えるその一撃が、アストラルのコックピットを正確に貫いた。


【アークアストラル、ダメージレベル限界を突破。戦闘を終了します】


 その戦いは、無慈悲なシステムメッセージによって終わりを告げた。

2部は視点のキャッチボール状態なので読みにくいかもです。

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