プロローグ wanna be "HERO"
侵略があった。
突如現れた外宇宙からの使者「ザギア」
奴らは何の前触れもなく現れ、人を襲う存在だった。
そして俺は空から飛来した白いギア――スターザギアを纏い侵略者ザギアと戦うヒーロー『アスター』だ。
――――光。
いや、炎だ。
一瞬前まで視界の中心にいた金属質の褐色の巨人が、一瞬後には視界から消えさっていた。
爆炎とも言える巨大な炎が、地面を削りながら火球の形をとってまっすぐ突っ込んできたからだ。
俺はそれを文字通り紙一重で回避すると、再び地面を強く踏み締めて一直線に奴―――メタルザギアの元へと駆け抜ける。
莫大な熱の煽りを受け、白色の鎧に包まれた身体がヒリヒリと痛むが、ダメージというほどではない。対して相手は必中のつもりで攻撃を放ったのだろう、派手にノックバックして反撃はおろか回避さえ出来そうもない。
つまり、チャンスだ。
「はぁぁぁぁあああ!!」
地響きがするほどに強く地面を踏み締め、駆ける。その勢いのまま敵であるメタルザギアの頭に飛び蹴りを叩きこむべく、足を突き出して飛び込んだ。
だが俺の足裏が奴の顔面に直撃する寸前、メタルザギアは身体を独楽のようにひねった。振りまわされる巨大な拳が、突き出された俺の脚を横薙ぎに殴りつけた。
ガンッ!! という鈍い音と共に、軸のずれた俺の蹴りは激しく空を切るだけにとどまり、対して俺の身体は竜巻のように回転しながら横方向へ高速で吹っ飛んでいく。
しかしそれは奴も同じだ。ただでさえ不安定な姿勢から拳を放ったせいで、勢いを殺しきれずに真横にひっくり返っている。
結果、二人揃ってはじかれるように距離を開くことになった。
凄まじい勢いでアスファルトの上を転がる身体を押しとどめるべく、俺は地面に片手を叩きつけた。
瞬間、俺の腕に肩から引っこ抜かれるような痛みが走り、アスファルトの表面が黒い礫となって周囲へ弾丸のようにまき散らされる。
「ぐっ……がぁぁぁああ!!」
鋭い痛みに歯を食いしばりながらも、その手を黒い大地に押し付け、指先を刺し込むように突きたてる。
5本の指がアスファルトを抉り取る。
高速でスライドしていた風景がその速さを失うと同時、回転の勢いを失った身体を両の腕で真上にはね上げた。
膝のクッションで着地の衝撃を吸収しながら前を見ると、メタルザギアが地面に寝転がりながらもこちらに掌を向けてきていた。
背筋に走る悪寒に逆らわずその場をあわててとびのいた俺の視界に、小さな火炎の弾丸が無数に映りこんだ。
ガトリングガンのような炎の掃射は、直前まで俺が立っていた地面を吹き飛ばす。高熱で融解したアスファルトの欠片が放射状に飛び散っていく。
ジュウウゥゥ…… と耳障りな音があちこちに響き渡るが、そんなことを気にしていられる余裕はこれっぽっちもなかった。
第二射が来る。
再び吹き荒れる炎の嵐を、あるいはジャンプ、あるいは側転、あるいはバク宙とアクロバットに回避していく。それと同時に、相手に気付かれないように徐々に距離を詰めていく。
そしてお互いの距離が近接と表現できる位置に達したとき、俺は一切の回避動作をやめて、地面に寝転がるメタルザギアの元へと全力で飛び込んだ。
全身を無数の炎がかすめるが、俺は迷わず突き進む。
「はっ!!」
鋭い呼気と共に勢い良く斜めに飛び上がり、両脚でバーニングの背中を思いきり踏みつける。真上から放たれた踏みつけの衝撃は、メタルザギアの身体を突き抜けその下の地面に大きなヒビを入れた。
だが奴もそのままやられっぱなしでいてくれるわけではない。追撃しようとした俺の拳を転がるようにかわしつつ、寝転がったまま両足で蹴りを放ってくる。
俺は無理に攻めには回らず、宙返りをして一度後ろに距離を取る。
ひび割れた地面に指を食いこませ、メタルザギアはゆらりと立ちあがった。
相手の顔もマスクに覆われている以上、その表情を伺うことはできない。だがそのマスク越しですら、身がすくむほどの憤怒の気配が漂っていた。
「何故お前たちは人を襲うんだ!」
突然発生した戦闘だったが、かろうじて巻き込まれた人はいなかった。とはいえそれも周りが迅速に非難を済ませてくれたからにすぎない。もし逃げ遅れた人がいたとすれば、その人はおそらくもう生きてはいないだろう。それほどに辺りは破壊されまくっている。
この惨状に怒りを覚えないでいることは、少なくとも俺には出来なかった。
静かになった人工島の海岸には、吹きすさぶ風の音だけが響いている。
つまり、返答はない。
地面を踏みつけ、メタルザギアが高速で突っ込んできた。
「答える気はないか、なら!」
俺もまた迎え撃つように大地を踏み締め、
「ここで倒す!」
何のひねりもなく繰り出された右の正拳突きを身体を傾けて避け、カウンターの要領でアッパーカットを打ちこむ。
相手とは重量差がある分大きくのけ反りはしないが、それで構わない。
必要なのは、一瞬の隙。
「はぁ!!!!」
気合一閃。俺は両の手に生み出した青白い光の剣で、敵の胸元をX字に切り裂いた。
「――――――――――!!!!」
流石の大きなダメージに声にならない叫びを上げながら、メタルザギアは後ろに素早く飛びのいた。片手で胸の装甲の大きな傷を押さえながら、片膝をついてこちらを睨みつける。
だが多くの関係のない人を危険にさらすようなことをしたこいつに、今更情けをかけようという気など起きはしない。
胸を押さえるのとは逆の手を突き出したメタルザギアだったが、俺はその瞬間に一気に距離を詰め、炎が出される前に光の剣でその掌を貫いた。
左腕に返ってくる鈍い衝撃と共に、メタルザギアの右腕が肘の辺りから爆散した。
声にならない悲鳴を上げ、その場にうずくまるメタルザギア。
俺はそこから一度距離を取り、腰のベルトのバックル部分に両手を添える。
「こいつで終わりにしてやる。さあ、力を貸せ! アスター!!」
『Star the Gear -BLAST-』
キィィィィィィィン!
甲高い音を鳴らしながらベルトの中心に光が集まってくる。同時に俺のギア―――スターザギアも光に包まれていく。
そして視界が白い光に埋め尽くされた途端、全ての光がベルトに一気に集中していく。
生まれたのは一瞬の静寂。
嵐の前の静けさ。
その静寂を切り裂くように、俺は必殺の一撃を全力で叫ぶ。
「くらえ! アスターカノン!!」
放たれた極大の閃光が、敵を貫く。