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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第6部‐彼と彼女の心の距離は‐
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3:『出し物の定番?』

 飛鳥は多目的室から出た後、すぐに教室には戻らずに、ちゃっかり食堂近くの自販機で飲み物を買って一服してから、わざとらしくのっそりと教室へ向かった。

 遥と少し話をするのが目的だったのは確かだが、面倒くさいと言ったのも事実ではあったのだ。

 いずれにせよ、遥からの実行委員の仕事の簡単な説明を受けて、クラスの出し物に関しては深く関われないことが既に分かっている。モチベーションなど上がりようもないのである。

「まぁ今日いきなりの話だったし、どのみち話し合いで終わるんだろう。さすがに2週間は短すぎるし、大したことはできなさそうだけど……」

 と、飛鳥がそんな風に思いながら遅れて教室に戻ったのだが、既に話し合いは終了してクラスの出し物は決定しており、

「ロ、ロミオとジュリエット……?」

 何に決まったのかを伊達に聞いてみた飛鳥は、一瞬硬直してから、ぱちぱちとまばたきしつつ訊き直した。

「なんか問題あるか?」

「いや……」

 伊達はキョトンとした表情で尋ね返す。飛鳥はやや迷いながらもこう言った。

「ようするに劇ってことだろ。ホントに2週間で仕上げられるのか? 正直セリフ覚えるぐらいで精一杯になると思うんだが」

「とは言うけどさ、まともな演技なんて要求されない気がするんだよな」

「篠原、いくらなんでもそれは適当すぎないか……?」

 飛鳥達が話すところにやってきたのは、クラスメイトの篠原佑介シノハラユウスケだ。夏休み明け辺りからよく話すようになった、飛鳥の友人でもある。

 軽薄そうな顔立ちに見た目通りおおざっぱな性格だが、不思議と友達が多いのが特徴と言えば特徴だろう。金に染められた髪が悪目立ちしている。

 篠原はいつも通りの軽い調子でこう語る。

「でも実際そうだろ? それに飲食系は運動部のほとんどが屋台やるっぽいし、何か展示物を作ったりするには期間が短すぎて大したものはできないだろうしなぁ」

「確かに食いもん系はそうだけど、作るっつっても、例えば迷路とかお化け屋敷みたいにすぐに作れるものもあるんじゃないか?」

「それ今星野がこの場で思い付くレベルだぜ? 絶対他のクラスと被るじゃん」

「それ言ったら劇も被るだろ」

「何の劇するかまでは被らないだろ」

「……それもそうだな」

 まったくもって篠原らしくない筋の通った論調に、釈然としない気持ちになるものの、おかしなことは言っていない。飛鳥には頷くより他なかった。

 篠原は笑顔で続ける。

「という久坂の受け売りでしたっと」

「やっぱお前じゃないじゃねぇか!」

 頭の後ろで手を組んで、殊更適当な態度で言う篠原。前のめり気味に噛みついて、ふと飛鳥は首を傾げた。

「……ってあれ、隼斗って俺達と一緒に教室出てなかったっけ?」

 はて、と飛鳥が尋ねると、伊達が呆れた様子で答えた。

「ああそうだよ。だから隼斗が言ってたのは先々週の話だぞ。試験直前の日に、先に文化祭のクラス展示について、生徒会の会議で準備期間が短くなるのが決まったって教えてくれたんだよ。んでそのついでにちょっと話し合いをして、みんな余裕があるときに考えておくようにってのと、さっき篠原が言ったことを隼斗がな」

「マジで? 俺全く記憶にないんだけど」

「お前寝てたじゃん」

「…………うん、まぁ、うん。……いや薄々気付いてたし言われなくてもわかってるし!」

「逆ギレするな」

 横からの伊達の冷静なツッコミはスルーして、頭を振って少し頭を落ち着けた飛鳥は改めて詳しく話を聞くことにする。

「しかしロミオとジュリエットねぇ……。結局どんな風にやるんだ? そのままだったら2、3時間で終わらないぐらい長かったような気がするんだが」

「そこは適当に台本書き換えるってさ。西野がなんかそういうの得意だとかで、委員長が文芸部だからそれ手伝うんだってさ。そういやエンディングもちょっと変えるとか言ってた気がするけど、なんだっけ。よく覚えてないや」

 篠原の説明に、飛鳥はひとり言のように呟く。

「あぁ、そういや美倉って文芸部だったな。……ってことは、あいつ文化部だし忙しいんじゃ?」

「だから台本の方は手伝いなんだろ?」

「そういうことか」

 伊達の補足を聞いて得心したと頷き、しかしふと引っかかったことを飛鳥は尋ね直す。

「台本の『方は』ってどういうことだ? あいつ他にもなんかやんの?」

「ヒロインのジュリエット役だよ。文芸部は今だけ忙しい状態なんだって」

「うそっ!? あいつがヒロインかぁ……、まぁわからんでも、ない……いや……え?」

 混乱した飛鳥が一単語ごとに表情をころころと変える様子に顔を引きつらせる伊達。

「お前の頭今どうなってんだ。……そりゃ他薦は他薦だけどさ、女子からの。でも無理矢理ってもんでもないし、単純にセリフ覚えるとかなら美倉は絶対早いからな」

「ああ、確かに。それならまぁ信頼できるか。じゃあ逆にロミオとか誰なんだ?」

「俺だ」

 ピッと自分を親指で指した伊達が、自信ありげに胸を張る。が、

「俺笑っていい?」

「オイ何が言いたいんだアスカコラ!」

 真顔で失礼なことを言った飛鳥は、直後に噴き出してゲラゲラ笑った後、さらにこう続けた。

「せ、セリフ覚えられるだろうってヒロインに美倉を選んでおいて、もっとセリフ多い主人公で伊達はねーだろ。それは流石に無理だって!」

「や、やってみなきゃわかんねぇだろ!」

「そりゃやってみなきゃわからないだろうけど、ぶっちゃけ出来んの?」

「出来るし! たぶん!」

「元気よく予防線張ってんじゃねーよ! ホント大丈夫か……」

 美倉がヒロインになった理由を聞いて多少は安心できた直後に、また多大な不安にかられてしまう飛鳥。

 伊達の態度も相まって思わず額を押さえてしまうが、深く関われない自分がごちゃごちゃ言うのもズレているかと割り切って伊達を信じることにした。

「ま、なった以上は頑張れよ、伊達。んで、他はどんな感じになってんの?」

「俺も一応出るぜ。主人公の友達のなんとかって奴。あとは悠乃がヒロインの乳母役だっけ、なんか無茶苦茶喋りまくるうるさい役なんだってな」

「あんまり分かってない癖によくそこまで悪い言い方できるな、篠原……」

 篠原の口ぶりに、飛鳥は思わず呆れ顔になる。

 しかし聞く限りでは配役もしっかり決まっているようで、実行委員の押し付け合いをしていたクラスが、この短時間に決定したとは思えないものだった。意外と皆クラスでの出し物には乗り気だったのかもしれない。だとすれば、全体のモチベーションも高いだろう。

「残りの配役も全部決まってるし、小道具とか大道具とかへのメンバーの割り振りも済んでる。小道具がそのままアクセサリとかを含めた小物で、大道具が背景だな。衣装は余裕があれば作る形で、無理ならマントとかの小物でキャラ付けするらしいな」

「ふぅん。そっか、じゃあもうほとんど決まってるんだな」

「そういうこと。だからこっちは心配しないでもいいから、自分の仕事をしっかりやれよな、アスカ」

 たしなめられて、飛鳥は下唇を突き出して不満そうにする。

「ヘイヘイ分かってますよーっと。どのみちクラスにはほとんど顔出せなさそうだし、なんでもいいんだけどさ」

「やっぱお前が一番適当なんじゃねぇかよ」

 伊達の指摘は笑って誤魔化して、そこでの話は一旦お開きとなった。

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