3章『英雄の力』:2
「なんだと……?」
不穏な発言に、飛鳥は眉間にしわを寄せた。だが、それは不安からくるものではない。
(これまでは、本気じゃなかった……ってことかよ)
飛鳥はギリッ、と奥歯をかみしめ、
「はっ、負け惜しみかよ。一発も当てられなかった癖しやがって!!」
ドン! と空気を叩き、一気にバーニングとの距離を詰めるアストラル。両手には既に
フォトンブレードが構えられている。
武器を構えたまま、ピクリともしないバーニング。やはり口だけだ、とアストラルはさらにスピードを上げて、
『アスカ君、ダメよ!!』
聞こえた女性の声に、機体の前進を辛うじて止めた飛鳥の視界が、
ゴオゥ!
紅蓮の炎に埋め尽くされる。バーニングが右腕に装備した武器の三本のノズルから、摂氏数千度の炎が放たれたからだ。
放たれた炎はバーニングから10m程離れたところで傘のように大きく拡散して、アストラルの突進に対して盾のように展開された。
「か、火炎放射器だって!?」
飛鳥も全く知らないような特殊な技術で出来たアークでありながら、その旧時代的な兵器は逆に彼の恐怖感を煽る。
驚愕から一瞬動きを止めたアストラルに向けて、火炎の盾を内から突き破るようにして砲弾が飛び出してきた。一瞬の間炎の膜をとおっただけだというのに、その表面は莫大な熱量によって赤く溶解している。
「ちっ、目くらましも兼ねてるってか!」
機体を強引にひねるようにして赤熱した砲弾を避けるアストラル。外れた砲弾は海面に叩きつけられ、水柱と同時に水蒸気をも発生させる。
追撃を避けるため一度大きく距離を取り直すアストラル。それを確認したのか、バーニングは火炎の噴射を止めた。
蒸発した海水がつくる水蒸気のカーテン。揺らめく視界の中でも、バーニングの両腕は油断なくアストラルをとらえている。
『あの機体の火炎放射、絶対に当たっちゃダメよ』
女性のどことなく強張った声からは、先程まであった余裕のようなものが薄まっていた。
「わかるよ、一瞬で砲弾の表面を溶かしやがったんだ。まともな威力じゃないんだろ」
『ええ。……あの機体には、自身が放つ熱量や自身の攻撃がもつ熱量を増大させるという特性があるの。対象を任意に選択できることを考えれば、特性というより特殊能力の類かしらね。ともかく、その熱量増大を受けた物に触れてしまえば、アークといえども下手をすれば蒸発してしまうかもしれないわ』
「機体が、蒸発……!?」
壮絶極まりない言葉で、驚愕は恐怖にすり替わる。
飛鳥の記憶する限り、火炎放射器の攻撃に予備動作は一切無かった。熱量増大能力にどれほどの効果があるかは現状では想像もできないが、少なくとも火炎放射器から放たれた炎の膜を貫いた砲弾は表面が溶解していた。
「どう考えても、近距離は封じられたようなもんじゃねぇか……」
飛鳥は忌々しそうに呟く。
当然、アストラルの機動力での翻弄がもっとも有効に作用するのは至近距離だ。バーニングの巨体では旋回が遅いため、アストラルが近距離でビームブースター等の加速性を活かせば簡単に背後をとることができるからだ。
『実質的にはそうなるでしょうね。うまく隙を作れば、近接戦に持ち込むことも可能でしょうけど……。やはりリスクが大きいわ。全く、どうしてこんなことに……』
これまでの戦闘で、アストラルからの主なダメージ源はやはりフォトンブレードだろう。近距離戦が封じられたということは、結果的にフォトンブレードによる攻撃も封じられたということになる。
「となると、中距離とか遠距離からの射撃攻撃か……。フォトンライフルはまともにダメージ通った様子もないし、となるとプラズマバズーカ一択ってわけか。あの反動だし、さっきみたいに外してたら話にならないな」
『しっかり構えて撃つことができれば反動もかなり軽減できるわ。問題は、それをさせてくれる隙があるかというところだけど……』
ふむ、と飛鳥は考え込む。
見たところ、バーニングは武器を構えたまま微動だにしない。だが、機能を停止してるわけではないのは、常にアストラルをとらえるように小さく揺れる銃口を見ればわかる。あくまでも、アストラル側の行動待ちということらしい。
「だったら、ごちゃごちゃやる前に一発喰らえ!」
何の前触れもなくプラズマバズーカを持ち上げ、瞬時に発射態勢に入るアストラル。
だが、バーニングの反応は極端に早かった。
アストラルがプラズマバズーカの反動に備えようとした時には、既に大量のガトリング弾がばら撒かれていた。
「やっぱそう上手くはいかないか!」
慌ててプラズマバズーカから手を離し、横方向へ急加速したアストラル。だがその進行方向に、完璧なタイミングで放たれたキャノン砲の砲弾が向かう。
「くっ!?」
軌道をなんとか上方向にずらし、アストラルは砲弾をぎりぎりの位置で躱したが―――
その足元から、炎の嵐が迫りくる。
アストラルの回避軌道を読んでいたかのように、砲弾の通過位置よりも機体一機分ほど上のラインを薙ぎ払うように撃ちこまれる灼熱の弾丸。
その帯がアストラルを飲み込もうとした時、アストラルはビームブースターを全力で噴射して真上に凄まじい速度で飛び上がる。
だがそれさえも予測の範囲であるかのように、中ほどから切り落とされた迫撃砲から巨大な砲弾が射出される。
切り落とされた砲身での軌道修正により若干の放物線を描いて放たれた砲弾は、アストラルの移動先に直撃のタイミングで到達する。
(狙いが、正確過ぎる――――ッ!?)
迫りくる破壊の一撃。
時間の流れが遅くなるような感覚。
直撃のビジョン。
「当たる……っかよぉォオ!!!」
上半身を後ろに思いきり逸らし、胸に砲弾を掠らせながらもアストラルはなんとか迫撃砲の砲弾を回避する。
だが無理な回避にバランスを崩し、頭を下にして空中で機動の制御を失うアストラル。
その下方から、追い打ちとばかりに火炎の嵐が振り上げられる。
直撃の寸前で両手をクロスして頭部を守ったアストラルの全身に、灼熱の弾丸がくまなく撃ち込まれた。
「ぐああああああああああああ!!!!!!」
全身に加わる凄まじい衝撃に、飛鳥は思わず悲鳴を上げた。
途切れそうな意識をつなぎとめた飛鳥。辛うじて海面近くで制御を取り戻したアストラルは、着水の寸前にブースターを吹かし落下のスピードを殺すとともにバーニングの周りを高速で旋回し始める。
アストラルの超高速で、バーニングの予測射撃を振り切ろうという考えだ。
アストラルはフォトンライフルを構えると、高速旋回の最中360度から光弾を叩きこんでいく。大きくはないにしろ、先程は確実にダメージを与えていた射撃だ。ひるませて一瞬でも隙を作ることができれば、プラズマバズーカを打ちこむことができるかもしれない。
だが、しかし。
そんな風に考える飛鳥の想像をはるかに超えるスピードで、バーニングがその場で独楽のように旋回を始める。
「なっ―――――――!?」
鈍重な機体とは思えない凄まじい回転速度によって、ついにその周囲を旋回するアストラルをガトリング砲の銃口が捉えた。
「くそっ、くそっ!」
焦りが先走り、むやみやたらに光弾を撃ち込むアストラル。だが、バーニングには一瞬たりともひるむ様子はない。
そして、アストラルの挙動を先読みするように灼熱の弾丸が『配置』される。
「くぅ、あああああああああ!」
突如壁のように現われた炎の嵐に、アストラルはビームブースターを全力で噴射してバーニングに向け直角にカーブする。それは攻撃の回避と共に、反撃を目的としたもの。
一瞬で軌道を90度変化させたアストラルは、瞬時に換装したフォトンブレードを両手に構え、バーニングとの距離を一気に詰める。
対してバーニングは回転にブレーキをかけると、最初と同様に火炎放射器から放たれる炎を盾の様に展開した。流れるように、砲弾が内側から飛び出してくる。
そして、それは飛鳥の予想通りの行動だった。
「そこだ!!」
砲弾を炎の盾ごと前方への空中回転の要領で飛び越え、一気に懐へと潜り込む。弓のように引き絞った右のフォトンブレードを、バーニングの頭めがけて突き出した。
その手が、アストラルの右腕が。
巨体からは想像もできない、異様な俊敏さで伸ばされたバーニングの左手にガッシリと掴まれた。それにより、アストラルの突進はガクンと速度を失ってしまう。
「だあああああ!」
叫びと共に、掴まれた右腕の肘を曲げて左半身をバーニングの方に近付ける。威力のほとんどを失いながらもがむしゃらに左のフォトンブレードを突きたてようとして、
『甘いな』
嘲るような言葉と共に、バーニングがその左腕を大きく振り回した。
「なっ、うわあああああああああああ!?」
バーニングは全身を回転させると、その巨体から来るとてつもないパワーとスピードでアストラルを軽々と投げ飛ばした。
全長8mに達する機体が、ゆうに数百メートルもの距離を吹っ飛んで行く。
制御を失ったアストラルはいよいよをもって大きく吹き飛ばされ、落下の速度と投擲の勢いを蓄えたまま海面へとその身を叩きつけた。
巨大な水柱を上げ、海面に二度、三度と叩きつけられるアストラル。そのたびにパイロットである飛鳥の身体には、生身でコンクリートブロックに打ちつけられたかのような強烈な衝撃が返ってくる。
あまりの痛みに頭が飽和するときのように、飛鳥の意識が一瞬飛んだ。
システム上痛みのフィードバックは無いので、それは厳密には激痛などではない。だが、ただ漠然とした衝撃という感覚であっても、あまりにも過剰なその感覚はまっとうな神経をあまさず狂わせてしまう。
パイロットの制御を外れ、吹っ飛ぶ勢いさえも失った機体が海のなかへと吸い込まれていく。
響いていた轟音は消えさり、その残滓だけを飛鳥の鼓膜に擦りつけたまま、一転して静寂が彼の全身を包み込んだ。
「……っ、はぁ、はぁ」
意識を失っていたのは一瞬だった。そしてその一瞬で、彼の身体から衝撃の余韻は消え去っていた。
『アスカ君、大丈夫なの?』
「……ああ、ちょっと意識飛んでただけだ、ってあんまり大丈夫に聞こえないだろうけどさ」
『そうね、それだけ聞いたら相当酷いことになったのだと思うわ。とはいえとっさの判断か無意識か、機体のダメージは最小限に抑えられているみたいね。無傷とはいかないけれど、稼働にはほぼ問題の無いレベルよ。なかなかセンスあるじゃない』
褒めているのかけなしているのか微妙な言葉を、飛鳥は鼻で笑った。
「センスあるならここまでボコボコにされやしないっての。ちっ、さっきまでは完全に手を抜かれてたってことか……。ちくしょう、手も足も出ないなんてよ」
『やはり中距離以遠では向こうに分があるか。時間当たりの火力に差がありすぎるわね』
声の女性は苦々しそうにそう言うが、実際に戦っていた飛鳥もその辺りは理解している。
「バーニングの攻撃を確実に回避しつつアストラルの攻撃を当てていく……。ダメだな、フォトンライフルはともかくプラズマバズーカを流れの中で当てていくなんてまず無理だ。そもそも撃てるかどうかってレベルなんだし」
現状飛鳥の機体制御ではプラズマバズーカの反動を吸収しきれているとは言い難い。実際に使うとなれば、しっかり構えて撃っても多少仰け反ったりするのはほぼ確実だ。
『けれど、フォトンライフルでは埒が明かないわ。確かにダメージは通るけれど、本当に微々たるもののようだし……。中距離戦では勝ち目がないかもしれないわね』
「かといって自分の得意な領域にもっていこうにも、フォトンブレードひっさげて近距離に近寄れば火炎放射器で灰にされると。仮にそれを凌いだとしても目くらましから砲撃のパターンに持ち込まれるだけ…………あれ?」
『どうしたの、アスカ君?』
話の途中で首をかしげた飛鳥に、声の女性は不思議そうに尋ねる。飛鳥は頭に引っかかった内容を思い浮かべながら、
「なぁ、なんであいつは今攻撃してこないんだ? そりゃそう簡単に当らないけど、この状況って向こうからしたら一応チャンスだよな?」
『ああ、確かにそうね。だけど、センサーの類でこちらの位置ぐらいは検出しているでしょうけど、こちらが何をしようとしているのかまでは把握できていなはず。あるいは単に海中の敵を索敵する能力を持たないのかもしれないけれど……。もしかしたら警戒しているのかもしれないわ。敵の動作は基本的にカメラからの情報を視覚で認識して判断するものだから。それで、それがどうしたの?』
「いや、ちょっと気になったからさ……そうか、そういうことか」
声の女性から与えられた情報を整理していく。
自分が戦いの中で得た情報を加味していく。
アークにブーストされた計算能力の結果か、あるいは単なる閃きか。
「……見えたぜ、攻略の糸口」
『本当?』
ニヒルな笑いを浮かべながら自信たっぷりに呟く飛鳥に、声の女性は驚いた様子で尋ねる。
「ああ、たぶんな。……まず、こっちが近接戦を仕掛けようとしたら奴は間違いなく火炎放射器を使う。そして火炎放射器を盾として機能させつつ、さらに目くらましにも使って内側からキャノン砲を撃ってくるはずだ」
『確かに、バーニングの攻撃パターンを鑑みればそうする可能性が高いわね』
「そうだよな。そして、その目くらましは俺だけじゃなくあいつにも同じ効果を及ぼすはずだよな?」
『ええ、そうね。特殊な遮光フィールドでもないただの炎の壁なわけだし、そういう結果になるはずでしょうね。……ああ、なるほど』
理解に至ったらしい女性の言葉に、飛鳥は笑みを深める。
「そういうことだ。向こうはこっちの大体の位置までは把握できるけど、どういう行動をしているかはわからないはずだからな」
『つまり、敵の目くらましを利用するのね?』
声の女性の質問に、飛鳥は大きく頷いた。
「ああ、そういうこと。やりたいことは伝わったよな?」
『ええ、もちろんよ。……ただし、ビームブースターは連続で使用することはできないわよ。使用時の出力が高ければ高いほど、次の発動までのインターバルは長くなる』
「……了解。となると、ビームブースターで接近して、そのままビームブースターで離脱、は無理なわけか」
ふむ、と飛鳥は少し考え込む。
答えは、すぐに出た。
「だったらまぁ、奇襲といきますか」
『何か考えがあるの?』
「ああ。ま、ここは海の中だからな。……下からだって攻撃はできる」
『確かにそうだけど、気付かれたら即アウトよ? アスカ君、なかなか無茶するのね』
「まぁな。チャンスがあるならそいつを掴む、チャンスがないならそいつを作る! 今回は後者だな」
『ふふ、面白いわ、やってみましょう。……あ、そうそう、言い忘れていたのだけど、この機体は水深120m以下では稼働できないから気を付けてね?』
「それ先に言えっての!」
アストラルは慌てて身を起こし、海中を結構なスピードで移動し始める。
目的地は、バーニングの足元だ。
バーニングは、海上で波立つ海面を注視していた。
(撃墜したか? ……いや、それほどのダメージは与えていないはずだ。だとすれば、何故アストラルは浮上してこない……)
攻撃を加えた本人だからこそわかる手ごたえから、アストラルはまだ戦えると判断したバーニング。
ならば、アストラルがいつまで経っても海から顔を出さないのは何故か。
(何を企んでいる……?)
そう警戒するのが順当であり、この状況においてもそれは正しかった。
ただし、警戒していたとしても。
対策出来ていなければ、それは何の意味も成さない。
ドッバァッ!! と。
バーニングの足元から大量の海水を巻き上げ、アストラルが海中から飛び上がる。
『下だと!?』
予想外の攻撃を受け、迎撃の間に合わないバーニング。アストラルは浮上の勢いを利用し、身体を捻じるように回転させながら右のフォトンブレードでバーニングの胸を斬り上げた。
『くっ……!』
バーニングはとっさの判断で上半身を大きく反らし、そのブレードに深く切り込まれるのを何とか防ぐ。光刃がバーニングの装甲を走り、その表面に浅い傷を入れた。
「まだだ!」
フォトンブレードの刃が外れるのを認識した瞬間、アストラルは自らの機体の回転を利用し、体勢を崩しまともに迎撃も行えない様子のバーニングの腹部を左の踵で蹴り飛ばした。
鈍い音と共に、バーニングは後方に大きく吹き飛ぶ。その後を追うように、アストラルが通常のブースターを噴射してその懐へ突撃する。
『近接戦か、そうはさせない!』
後ろに流れる機体を押さえつけ、右腕を強引に前へと突き出すバーニング。間髪いれずに火炎放射器から炎が吐き出され、灼熱の盾を構成する。
壁のように広がる炎に対し、アストラルがとった行動は単純。
前方にビームブースターを噴射し、前進の勢いを殺して後方へ一気に距離をあける。炎の内側から迎撃として放たれた砲弾の軌道から機体をずらし、フォトンブレードを装備したままプラズマバズーカを瞬時に構えた。狙いは当然、バーニング。
「もらった!!」
炎の盾、その先にいるバーニングにまっすぐ向けられた二つの砲口が、爆炎と共に青い閃光を撃ち放った。放たれた雷弾は音速の5倍を軽く上回る速度で、炎の盾を食い破る。
外側から貫かれた炎の盾がまとめて霧散し、その先にいるバーニングに二つの青い雷弾が直撃した。
キュドォォォォォォン!!
壮絶な衝撃がバーニングの機体に襲い掛かり、凄まじい熱量と共に装甲の一部を吹き飛ばした。
「作戦成功、直撃だぜ!!」
『やったわね。これは確実に大きなダメージが通ったはずよ!』
ついにプラズマバズーカの直撃に成功し、興奮冷めやらぬ様子の飛鳥。声の女性もどこか高揚しているように感じられる。
と、バーニングを包み込むようにしていた爆炎が内側から薙ぎ払われた。
姿を見せたバーニングは左の肩と右足の一部の装甲が失われ、その内側の黒ずんだフレームが姿を現していた。
だが、それだけだ。
その見た目からダメージの大きさは伺えるが、しかし致命傷ではないこともわかる。
『なるほど、想像以上だ。だがこれで終わりではないぞ』
直撃を受けてなお、バーニングのパイロットからは焦りの色は伺えない。
「……あと、3、4発ってところか。くそ、今のでまだ動けるのかよ!」
歯噛みする飛鳥。
バーニングが、その両手をゆっくりとアストラルに向けた。
また連続攻撃か、と飛鳥が警戒を強める中、バーニングのパイロットは静かな声でこう呟く。
『少しは本気を出したつもりだったが、まさかここまで強力な一撃を浴びることになるとはな。……いいだろう』
言葉と共にバーニングの両脚外側の装甲が後ろ側に扉のように展開し、その中からある物がスライドしてくる。
それは片側4発ずつで、推進装置と羽のついた弾頭。
『―――こいつもプレゼントしてやる』
それが、両脚からまとめて発射された。
一度花の蕾のように拡散し、そこからアストラルに吸い寄せられるような軌道を描くその弾頭は、
「なっ、ミサイルだと!?」
『アスカ君、逃げて!』
驚愕の声を上げ、一気に上方へと飛び上がったアストラルを追うように、合計8発のミサイルが白い尾を伸ばしていく。それぞれがアストラルの凄まじい加速にピタリと喰い付き、寸分違わぬスピードで追跡してくる。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫びを上げながら、むちゃくちゃな軌道を描くアストラル。これが仮に飛行機ならば、自身の機動で機体が崩壊しているほどだ。
だが、ミサイルからすれば、それも悪あがきにすぎない。
大きく前に飛び出そうとも、張りつくようにミサイルは追いすがる。急旋回しようとも、あるいはそれ以上に鋭角な軌道を描いて喰らいつく。
超音速に到達した飛行の中、超絶軌道の9の兵器が空中を飛びまわる。3次元空間をフルに使用して縦横無尽に駆け回るアストラルを、ミサイルは正確に追尾していた。
(引き離せない――――――ッ!?)
上へ下へ、右へ左へと片っ端からランダムに加速するアストラルに、8方向からミサイルが突撃する。
「当たるかああああああああああ!!!!」
高速で降下するアストラルに併走するようにしていた左右二つのミサイルが、突如として軌道を曲げアストラルを両側から挟み込むように突っ込んでくる。アストラルは速度を維持したまま飛行の軌道を直角に切り替える。外れたミサイル同士が激突し、爆炎と共に粉々に砕け散る。
残る6発のミサイルが、アストラルに一斉に襲い掛かった。
上から向かってくるミサイルを横倒しにした身体をくの字に曲げることで躱し、すれ違いざまにミサイルを叩き切りつつバレルロールの要領で機体を大きく横に流し爆風を避ける。
一瞬機体を減速させ、後方のミサイル一つを目の前に引っ張り出す。そのまま急上昇し、飛び出したミサイルから大きく距離を離す。
超高速で雲の高さまで飛び上がったアストラルは再び機体を縦に半回転させ、その他のミサイルとすれ違いつつ一気に降下する。そして遅れて追いかけてきていた一発を正面から切り裂いた。
破壊されたミサイルの爆風を突き抜け、アストラルは後方に4発のミサイルを従えたまま一直線に海へと向かう。海面に激突する寸前に機体の軌道を直角に捻じ曲げたことで、追いかけるミサイルの一発が海面に叩きつけられ爆散した。
海上で振り返りながら機体を持ち上げ、下から潜り込んできたミサイルを踏みつけて飛び上がる。踏みつけられた弾頭の爆風を推進剤に、アストラルはそのまま空中へ急上昇する。
自身の速度を加速させ、すぐさま超音速へと復帰するアストラルとそれを追う2発のミサイル。
アストラルは大きく旋回しながらさらに機体速度を上げていく。螺旋軌道を描きながら上昇するアストラルをミサイルは正確に追尾してくる。
ある程度の高度に達すると同時、機体を一気に減速させる。前方に躍り出る2発のミサイルを視界に収め、それにアストラルは狙いを定める。
「こいつで最後だ!」
言葉と共に、2つのミサイルをアストラルの両手のフォトンライフルが正確に撃ち抜いた。
爆音と共に吹き飛ぶミサイル。その煙を振り払い、アストラルは上空から海上のバーニングを睨みつける。
「これで打ち止めか!?」
『いえ、まだあるわ!』
バーニングは視線をアストラルにロックしたまま、両腕を構えた。
『量子コンピューター起動。FCS演算補助を開始。反動制御アルゴリズム構築。全武装オールグリーン。スタンバイ完了。……バースト・ショット!』
バーニングは言葉と共に、両脚から再度8発のミサイルをばら撒きつつ、左腕のガトリング、右腕のキャノン砲からも掃射を始めた。
「こんどは全部か!」
大量の弾丸の両脇から、ミサイルが凄まじい弾速で突撃してくる。
ガトリングの掃射から逃れるように飛び上がったアストラルを全てのミサイルが渦巻くような軌道を描いて追いかけてくる。
「何度やっても!!」
急上昇から即座に急降下を繰り出し、すれ違いざまに2発のミサイルを叩き切る。アストラルは機体の慣性を残したまま高速で飛行を始める。
(さっきと同じように対処していけば、確実に全弾落とせる!)
そう考えた飛鳥だったが、先程までと同じとはいかない。
バーニング自身からも、アストラルに向けて攻撃が行われたからだ。
「くっ!」
進行方向に壁のように現われたガトリングの掃射を避け、下方向へ機体の軌道をずらす。一瞬速度を遅めたアストラルに、背後からミサイルが襲いかかる。アストラルは機体を大きく旋回させ、ミサイルを引き放そうとする。
その場所に、キャノン砲が放たれた。
直撃の寸前に機体を素早くひねり、紙一重で砲弾を躱す。その瞬間、後方のミサイルが一気に加速する。ビームブースターを最大噴射し、突撃してくるミサイルを一旦速度で振り切る。
ミサイルと距離の開いた瞬間を狙い、機体を前進させたままその場で後ろを振り返る。正面から迫りくるミサイルに攻撃を加えようとした瞬間、バーニングの方からガトリングの弾丸が高速で飛来する。
迎撃を諦め、再度振り向きながら加速するアストラル。ミサイル通過の瞬間にはガトリングの掃射は止められていたのか、やはり6発のミサイルはアストラルを正確に追い続ける。
ミサイルから逃げ続けるアストラルに向けて、バーニングからキャノン砲が連続して発射される。
バレルロールのように機体を回転させながら、水平方向を軸に螺旋軌道を描くアストラル。ミサイルを避けつつキャノン砲の狙いを逸らしているが、それ以上の行動は起こせない。つまり。依然としてミサイルの数は減らない。
「くっそ、迎撃ができない!!」
鋭角な軌道を描きミサイルを切り裂こうにも、行き先をふさぐようにガトリング砲が撃ちこまれる。下へ急降下し海面にミサイルを突っ込ませようにも、その瞬間を狙ったようにキャノン砲の砲弾が放たれる。
「だったらいっそのこと海に飛び込んで……」
『ダメよ! このスピードで海に飛び込んだら機体が壊れるわ!』
「ならどうすりゃ良いんだっ!?」
バーニング本体からの攻撃がミサイルの撃墜をことごとく妨害し、アストラルは迎撃のパターンに持ち込むことができない。
(まずい、このままじゃいつか追いつかれる……)
でたらめな軌跡を空中に残し、ミサイルの追跡を振り払いバーニングからの攻撃を回避するアストラル。しかし、その状態はいつまで経っても終わらない。
(なんとか、なんとかしないと……。考えろ、この状況を打開する方法を――――!!)
超音速で乱雑な飛行をしながら、飛鳥は意識の目を閉じる。迎撃の戦略を、空中に無茶苦茶な軌道を描きながら考える。脳が焼き切れそうなほどの高速演算。弾幕が依然としてアストラルを襲い続ける中、飛鳥は一つの可能性を見つける。
回避のイメージ、飛鳥のイメージ。それにアストラルの軌道が完全に重なった瞬間、飛鳥はその目を見開いた。
「こうなったら…………、やってやらぁぁぁぁぁぁあ!!」
機体をその場でぐるんと振り向かせ、最大速度で一気に飛び出した。
目標は下方、海上のバーニング。
上空から一気に下降し、バーニングの元へと突撃するアストラル。ガトリング砲から放たれる炎の嵐がアストラルにぶつかるが、アストラルは速度を緩めず一気に突撃していく。弾丸の嵐の中、連続で襲い掛かるキャノン砲を瞬間移動のように機体を横にずらすことで回避していく。
『またそれか、だが無意味だ!』
バーニングの右腕から、強烈な炎が放たれる。
(それを――――待ってたんだよ!!)
斜め下へと進ませていた軌道を捻じ曲げ、真下へ急降下するアストラル。炎の盾のあおりを受けるが、機体は構わず直進する。
アストラルでは炎の盾は突きぬけられない。だからこそ、それが無い場所を突き抜ける。
そう、それはバーニングの足元だ。
斜め上から迫りくるアストラルに対して展開された炎の盾は、だからこそ斜め上に向けられている。つまり、下側と海面の間には小さな隙間がある―――!
海面に激突する寸前、アストラルはビームブースターを噴射し直角に軌道を変化させる。向かうは、炎の盾と海面の隙間。だがそこには1メートルの隙間もない。だからこそ、アストラルはその海面に狙いを付ける。
「そこだ!!」
アストラルは両脚のフォトンライフルを抜き放ち、ヒートモードで海面に光弾を打ち出した。放たれた計6発の光弾は、海面に触れるとその強烈な熱をまき散らし、海面を数メートルもえぐり取った。
そして出来た、機体一機分ほどの隙間。
そこに、針を通すような正確さで機体を捻じ込む。アストラルと、飛鳥のリンクが大きく向上したからこその機動だ。
ズバァッ!! 風を切り裂く轟音と共に、ついにアストラルがバーニングの背後を取った。バーニングの背後にいるアストラルを狙うミサイルはその軌道上の、背後を取られた驚愕から炎の盾を解除してしまったバーニングに激突していく。
だが、それだけでは勝利ではない。
(プラズマバズーカじゃ駄目だ。もうこんなチャンスは2度と来ない! 全部まとめて吹き飛ばすような、そんな強力な一撃は無いのかっ!?)
後ろに流れる機体を踏みとどめながら必死に方法を探す飛鳥の頭に、またしてもシステムメッセージが現れる。
【パイロット適合レベル向上を確認。
適合レベル B
ジェネレーター出力 100%
システム解放 「アストラルチャージ」アンロック】
『アストラル、チャージ……? これは一体……』
突然現れた謎のシステムに、女性は困惑した声を上げる。だが、飛鳥に悩んでいる余裕などなかった。
「こうなりゃやけくそだ、使ってやる! アストラルチャージ、発動!」
言葉と共に、右腕を天に突き出す。同時に、ビームブースターとプラズマバズーカが、それぞれ斜めに広げられる。
その瞬間、機体が強烈な光と重圧に包まれた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
凄まじい光の中、浮かび上がるアストラルのシルエット。
飛鳥の情報視界の中で、アストラルのエネルギーゲージが横方向に大きく引き伸ばされていく。
【アーク・アストラル、内部エネルギー活性。
出力上限を800%に一時変更。
6連装荷電粒子砲 アンロック】
『荷電粒子砲!? それに、このエネルギーは……』
前方のバーニングは、アストラルを追いかけていたミサイルに直撃された衝撃で後ろを振り返ることができない。だから飛鳥は、迷わずその武器を発動する。
直後、腰に巻かれたベルトの様な武器の、その腹部の中心の位置から6方向に光が放たれる。膨大な光は機体のカメラ越しであってもその視界を埋め尽くすほどだ。
そして「*」の形に放射された光は銀河のように渦巻き始め、その回転を加速するとともに徐々に小さく収束していく。
『くっ、これは!?』
衝撃を凌ぎ切りなんとか振り返るバーニングの目の前で、放射されていた光が消えた。
だが、失敗ではない。
それは、嵐の前の静けさ。
放たれる武装の出力は、小さな島なら地図から消えるほどの威力。
『この出力、まずい――――!』
声の女性が、表示される武装の出力に驚愕し外部から無理矢理リミッターを掛けた瞬間。
「これでも喰らいやがれ!! アストラル・カノンッッッ!!!!!!!!」
叫びと共に放たれた極大の閃光が、バーニングを貫く。
真昼の海を焼き尽くす、太陽をも凌駕する光の奔流。
ドオォォオオォォォオォォォォンッッッ!!!!!!!!!!
勝敗など、もはや言うまでもないだろう。




