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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第5部-Bluff and Brave-
134/259

4章『これまでの彼女、これからの彼ら』:4

 オーストラリア遠征は当初の予定通り、テスト休みから休日2日を含めた計5日間のみ行われた。

 といっても最終日は正午を迎えるまでもなく、往路に使用した船で全員が帰国したため、共同研究が行われた期間は実質的に4日間となる。

 かなりの短期間であったため、出来たことはさほど多くない。飛鳥達アークパイロットに分かるようなレベルでの実入りは無かったと言ってもいいだろう。

 そもそも共同研究期間の大部分が、機体損壊部の修復と、ついでにアストラルは火器管制システムの最適化に当てられたのだ。要するに全て星印学園地下研究所に居たまま出来たことである。

 この点は星印学園の研究者にも同じことが言えるだろう。

 逆にオーストラリア側の研究者や技術者にとっては、短期間ながらも得るものは多かったようだ。

 アストラルやホライゾンの修復や、システムの最適化の作業を共同で行うことにより、オーストラリアの人員に対していくらかの技術指導がなされていた。また、持ちこんだアークとオーストラリアの2機を比較して改良点の洗い出しやら、そのための設備環境の設計など、まぁいろいろと有意義な内容ではあったらしい。

 らしい、というのは、結局のところ飛鳥達にとって実感となるレベルでの変化は無かったからである。

 今回の研究はどうも、最初からオーストラリアの研究規模拡大への餞別のようなものだったらしく、その場で得られるものより、今後のための関係強化が目的だったようだ。東洞グループ側がオーストラリア側の要求をほぼ一方的に受け入れたのにも、同様の目的があったのだろう。

 飛鳥達もオーストラリアの研究者と交流する機会自体はあったのだが、そこでもこれといって身になるものが得られたわけではない。あらためて東洞グループの技術力の高さを感じた程度のものだ。

 ちなみにカミラとラクランは戻るなり、上司にあたる人から盛大にお叱りを受けていた。共同研究には早々に復帰したのだが、どうにも研究が終わってから何やらお仕置きがあるのだとラクランは嘆いていた。この時点でカミラは逃走計画を練り始めていたようで、それがバレた結果、最終日にカミラが見送りに来ることは無かった。

 そんなこんなで飛鳥達が日本に戻って来たのがちょうど今日、月曜日の早朝である。

 まだ朝日が地平から顔を出してそう経っていない時間に港についた後、テレポーターを使用してアークパイロットと遥、一葉のみ学校地下に帰還していた。

 その後に始業までまだまだ時間があるということで、一旦解散となったわけだ。

 飛鳥は解散するなり自宅へ帰り、遠出の荷物を片すなどもろもろの身支度を済ませてから、再び学校へと登校した。睡眠自体は船で十分に取れていたので、飛鳥にしては珍しく朝からすっきりした顔をしている。

 始業開始までかれこれ15分近くあるというのも、最近の彼にしてはかなり珍しいことだろう。

 事実、教室に入るなりそこにいたほとんどの生徒からおおっ、とどよめきが上がるほどだったのだ。

「よっこいせっと」

 クラスメイトの失礼なリアクションをしかめっ面になりながらも無視し、妙におっさんくさい事を言いつつ手に持っていた荷物を机に置いた飛鳥。

 そのタイミングで、部活の朝連が終わったらしき伊達が教室に入って来た。

「っ!? アスカだと!?」

「お前のそれはいくらなんでも驚きすぎだろ」

 まるで怪盗が仮面を外したら知り合いだったようなリアクションだな、と飛鳥はよく分からない感想を抱く。思わず無表情になる彼の態度など知ったことではないといった様子で、伊達は心配そうな表情を浮かべてかけよってきた。

「だ、大丈夫か? 熱でもあるのか?」

「お前への怒りで頭沸騰しそうだよ」

「いてててててててていてぇって!!」

 にこりと笑った飛鳥が伊達の足をかかとでぐりぐりし始めると、伊達は涙目で足をそこから引っこ抜いた。足を抱えて2,3度ピョンピョンと跳ねた伊達は、むすっと飛鳥を睨みつける。

「アスカお前マジで足はやめてくれ足は」

「悪かったよ」

 伊達は今しがた朝連を行っていた陸上部で活動しているため、足のコンディションというのは彼にとっても重要なことなのだ。

 その辺の事情を察して素直に謝った飛鳥は、一つため息をついて椅子にどかリと腰かけた。

「でもお前、ホントになんで今日はこんなに早いんだ? 入学の日から俺より先に教室に居たことってあったっけ?」

「いやないけど、だからって病気疑われるいわれもねぇよ」

 普通に遅刻しまくっていた頃には何も言われなかったにも関わらず、遅刻しなくなってから遅刻癖がやけにネタにされるようになったのだ。

 おおかた泉美の転入との時期から邪推した――あながち邪推でもないが――ゴシップ好きのクラスメイトが元凶なのだろうが、それはともかくとして流石にこれらのリアクションは飛鳥にとっても鬱陶しくなってきている。

「昨日早く寝たから、朝いつもより早く起きたってだけの話だよ。家でやることもなかったからそのまま来たらこの時間。なんで熱まで疑われなきゃならないんだ」

「そうだったのか、そりゃ済まなかった。だけどホント珍しかったからさ」

「わかるよ、正直俺もびっくりしてるもん」

「……やっぱり遅刻ネタにされる原因はお前にもあるんじゃねぇか?」

「はぁ? なんでだよ」

 伊達の言う意味が分からず、飛鳥はむくれた表情を浮かべる。それを見て、伊達は救いようがないとばかりにため息をついた。

 腰に手を当てた伊達が、大きく背中を反らして肩をひねってこう言った。

「しっかし、テスト休み明けだっつーのに疲れた顔してんな」

「……そうか?」

 自分の頬をむにむにと揉んで、飛鳥は訝しげにそう尋ねる。伊達はうんうんと頷いた。

「眠そうではないけどな。まぁなんつーか、1万メートル走り終わって15分休憩した辺りの大山みたいな顔してる」

「だれだよわかんねぇよ身内ネタ持ってくんじゃねぇよ」

 完全に聞いたことの無い名前に、飛鳥の返事も思わずおざなりになる。脱力した様子の飛鳥をにやにやと眺めながら、伊達はこう続けた。

「なんつーか、一仕事終えたーみたいな顔してる」

「…………」

 伊達の言葉は、なにげに今の飛鳥の状況に即している。

 なぜこうも自分の周りの人間は自分の内心を言い当ててくるのだろう、と飛鳥は唇を尖らせる。

「なんなんだ、俺ってそんなに顔に出るのか」

「滅茶苦茶でてる。お前は顔が既にうるさい」

「腹ならいいよな腹ならよぉ!」

「おぐふっ!」

 飛鳥はドスッとコークスクリュー・ブローを脇腹に打ちこんで、失礼なことを言う伊達を黙らせる。

 余計なことを言った自覚はあるのか、伊達は脇腹を押さえて顔をしかめながらも文句は言わなかった。

「ったく……」

 飛鳥は頬づえをついて、身体を変に曲げた伊達から視線を外す。

 そうして適当に顔を向けた先で、教室のドアをくぐる美倉を見つけた。同時にこちらに顔を向けたせいで目が合ってしまった美倉は、ばつが悪そうに会釈だけをして自分の席へ向かった。

「やっぱ元気ねぇよな、美倉」

「ま、テスト期間も泉美はいつも通り態度を改めなかったしな。それを美倉が気にしてんのもズレた話だけど」

「アスカ、ちょっとは言い方ってもんがあるだろ」

「ハッキリ言って美倉のせいで泉美が余計に浮いてる部分もあるしな、あんまり褒められたもんでもねぇよ。悪気が無いのは分かるけど、ちょっと周りが見えてなさすぎる。まぁつってもそれも今日まで……だとありがたいけどな」

 言って、飛鳥はニヤリと口の端を釣り上げる。

 企み事をしているような、どこか楽しげな彼の表情に、伊達は訝しげに尋ねる。

「お前、もしかして……」

「まだどうなるかはわからないかな。ただ、あいつなら大丈夫だと思うけど」

 尋ねているのが泉美についてだということぐらいは、わざわざ名前を出さずとも飛鳥には分かっている。

 そして伊達の質問に対して言ったことは、間違いなく飛鳥の本心だった。

 そこへ、今しがた教室に来たらしい一人の少年がやって来た。

「何の話してんだ?」

「篠原か」

 背中から声をかけれた飛鳥は、背もたれに腕を置いてそちらを振り返る。

 ひょいと片手を上げたのは、最近ちょくちょく話すようになったクラスメイトの篠原だった。

「いやまぁ、いろいろかな」

「何それてきとー。というか星野、お前早くね?」

「篠原まで同じリアクションかよ。もう飽きたっつーの。なんだよ、俺の遅刻は義務なのか」

「遅刻しない星野を星野と呼ぶかと言われると若干悩むカンジ」

「それがこのクラスの共通認識だとするなら俺は停学も辞さない構えなんだがっ!」

 ギリギリギリギリと奥歯を鳴らして握りこぶしを震わせる飛鳥。しかし篠原はへらへらしたまま、全く動じた様子を見せなかった。

 全くもって印象というのは恐ろしいものである。

 たかだが3ヶ月少々遅刻を繰り返していただけで、飛鳥という人間を語るのに欠かせない要素にまでなってしまっているようだ。自業自得とはいえ、彼としては釈然としないものがあった。

 ため息をついた飛鳥は、早々に話題を変えようとこう尋ねた。

「そういや今日ってテスト返却なんだっけ?」

「5日空いてるし、まぁ今日の授業は全部テスト返却だろうな」

 腕を組んだ伊達がそう答える。篠原がパンと手を叩いた。

「おぉラッキー、今日は全部寝て過ごそうっと」

「篠原もえらく余裕だな」

「星野だってテスト返却の時寝てんじゃん。あと俺は余裕なんじゃなくて諦めてるだけだから」

 篠原はそう言うと、腰に手を当ててふふんと鼻を鳴らした。

 伊達は笑って肩を震わせていたが、飛鳥は露骨に脱力していた。

「何を自慢げに言ってるのか知らないけどそれもうダメじゃん」

「不思議だよな、白で出したのに赤が返ってくるんだぜ。ははは」

「いや笑えないから」

 飛鳥は苦笑して顔の前でパタパタと手を振った。

 篠原が言っているのは白紙で提出したら赤点が帰って来るということなのだろうが、少なくとも冗談を言っていられる余裕はないはずだが。

 飛鳥も決して成績が良い方ではないが、少なくともこの場に居る3人の中では1番マシだ。ただし良い、ではなくマシ、というのがポイントである。

 続々と生徒が増えてにわかに活気づく教室をぐるりと見渡して、篠原が言う。

「今回平均どれぐらいなんだろ。40点ぐらいだといいなぁ」

「あるわけねぇだろそんなの。クラス全員伊達じゃねぇか」

「おいアスカそれどういう意味だ」

 食いついてくる伊達はさらっと無視して、飛鳥もクラスを見渡してみる。

「そんなに絶望した顔してる奴もいないし、篠原みたく開き直ってるのでなければそこそこの点数取れたんじゃないか? 教科によるのは当たり前として、まぁ60前半辺りだろう」

 至極妥当なラインを設定してくる飛鳥を横目で見て、篠原はしたり顔で呟いた。

「終わったな」

「白紙とか始まってすらいないけどな」

「何言ってんだよ星野。名前は書いたよ」

「おいマジで名前しか書いてないのか!?」

 流石に冗談だろうと飛鳥は慌てて訊き直すが、篠原は明後日の方向へ遠い目を向けてしまう。

 これには飛鳥も言葉を失って、茫然とした様子で額に手を当てた。隣で腕を組んでうんうんと頷いている伊達のことは見えていないことにした。

「そうだ……本郷さんってどれぐらい点数取れてんだろ」

 当人以上にショックを受けていた飛鳥をしり目に、篠原はけろっとした様子でそう言った。

 伊達が首を傾げながら、適当に答える。

「そこそこ頭良さそうに見えるし、隼斗ほどじゃないだろうけどそれなりに点は取れてんじゃないか?」

「でも転入して最初の試験だろ。微妙に範囲違ったりしてるんじゃ……」

「そんなに気になるんなら本人に聞けばどうだ?」

 現実に帰って来た飛鳥が、頭をガジガジと掻きつつ教室後ろの出入り口を指さした。

 そこではいつものように無表情気味な泉美が、やけに綺麗な歩き方で教室に入ってきていた。

「……いや無理だろ」

「どうだろーな?」

 情けないことを言う篠原に曖昧な答えを返しながら、飛鳥は片手をひょいと上げる。

 彼の居る席の後ろに向かおうとしていた泉美と目が合うと、彼女もまた、腰の高さで小さく片手を上げた。

「え……アスカ……?」

「ん、まぁ何も言うな」

 目を見開く伊達を制して、飛鳥も一旦口をつぐむ。

 細めた目で見据える先では、美倉が自分の席で小さく深呼吸をしていた。

 不安げな瞳を2,3度こちらへ向けると、きゅっと拳を握ってそこから立ち上がる。近くに居た女子が何事かを言うのに作り笑いを返した美倉は、躊躇いを感じさせるゆっくりとした足取りで、泉美の席の隣へとやって来た。

 まるで美倉の緊張が伝わるかのように、教室に響くがやがやとした音がふと温度を下げる。

 もはやいつものことだと意識の外に追いやっている生徒や、好奇をはらんだ視線を向ける生徒たちの中で、飛鳥は頬づえをついて目を閉じていた。

 意を決したように美倉がすっと息を吸い、

「おはよ」

 そう言ったのは、泉美の方だった。

 何かを言おうと口を半端に開いた状態で、言葉を失った美倉は顔を上げる。数瞬固まったところで、はっと我に返った美倉が慌てて言葉を続けた。

「えっ、あ……お、おはよ……本郷さん」

「う、うん」

 美倉の緊張にあてられたのか、目をつぶっていても顔が赤くなっているのが分かるような声で答えて泉美は頷く。

 一方は混乱で一方は強烈な照れという全く異なった理由ながら、双方言葉がでなくなってしまう。

 妙な沈黙が間に挟まった中で、泉美がなんとか口を開いた。

「あ、あの、美倉さん。……これ」

 泉美はか細い声で言いながら、ポケットから取り出したケータイを操作して美倉に見せた。

「あ、これって……」

「……うん。美倉さんが送ってくれた、テスト範囲のまとめのデータ。おかげでテストの準備しっかりできたから、その、ちゃんとお礼言っとかなきゃって思って……。えっと、あの……ありがとう」

 ガッチガチに固まって、それでもなんとか泉美は言いきった。

「…………本郷さん」

 全くもって彼女らしからぬ対応に、美倉は呆けたようにそう呟いた。

 脇が痒くなる感覚に、飛鳥は無言を貫きながらもだんだんにやにやと気持ち悪い表情になっていく。頬づえをついていた手で顔を覆い、必死にそれを隠そうとする飛鳥の後ろで、泉美達のやり取りは続く。

 茫然と動きを止めている美倉に真っ直ぐ向かい合った泉美。彼女は浮かべていた恥ずかしそうな表情を引っ込めて、真剣な目で美倉を見た。

「それと、ごめんなさい」

 そう言って、泉美は頭を下げた。

 ざわっ、とどよめきが走るのも気にせず、頭を上げた泉美は続ける。

「あたし、前の学校でいろいろあったから……だから、美倉さんが話しかけてくれるのは嬉しかったんだけど……その、どういう対応したらいいかわかんなくて……。だからごめんなさい」

「……あ」

 もう一度頭を下げた泉美を見て、美倉もいいかげん混乱が収まった様子だった。

「そっか……」

 泉美の言葉を理解して、美倉は小さく頷く。

「そうだったなら、仕方ない、よね。私も、そういうの気付けなかったから。……ごめんなさい」

「そんな、美倉さんは謝らなくても……。あたしがワガママしてただけなんだし」

「でもクラス委員なのに、私も気付いてあげられなかったから……。だけど、よかった」

 俯けていた顔を上げて、美倉は柔らかな笑みを浮かべた。

 笑顔を向けられた泉美は顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声で答える。

「あ、え、……うん。……あり、がと」

 もう限界だとばかりに目線を外す泉美。

 目で見ていなくても容易に想像できる泉美の態度に、飛鳥は口元を押さえて必死に笑いをこらえていた。

 その時、傍らの篠原が、茫然と飛鳥に呼びかけた。

「なあ、星野……」

「な、なん、だよ」

 口元を押さえてプルプルと震えていた飛鳥に、篠原の一言がとどめを刺した。

「――俺、恋したかもしれない」

「っ!? っ、くっ、ぅ、ぶっははははははっ!」

 想像の斜め上を突っ切る篠原の言葉に、ついに飛鳥は我慢の限界を迎えてしまう。

 変に我慢しようとして気持ち悪い感じになった笑い声を上げながら、膝をバシバシ叩いて目に涙を溜める。全身をけいれんさせながら、膝に痺れを感じるほど殴りつけたそのとき、後頭部に泉美が思いきり投げつけた消しゴムが直撃した。

「イテッ!?」

「わ、笑ってんじゃないわよ!!」

「ち、ちが、ぶふっ……お、お前じゃない、お前にじゃないからこれは!! こ、こいつがいきなり変なこと……うぐふ、く、~~~~~~っ」

 篠原を指さしながら弁明をしようとするも、途中で笑いに負けてしまいそれもグダグダになる。

 泉美は殊更顔を真っ赤にして、筆箱の中身を片端からポイポイと飛鳥に投げつけ始めた。

「うがーーーーーーーー!!」

「ちょ、痛!? あいてててて!? バカ、やめ、あぶねっ!? っていってぇ!?」

 両手で顔を覆う飛鳥の上半身に、シャーペンやらボールペンやら何やらが怒涛の勢いで直撃していく。たまらず悲鳴を上げるも、涙目になった泉美のボルテージは留まるところを知らない。

「何やってんだか……」

 唐突に繰り広げられたコントに教室中で困惑混じりの笑いが起こる中、伊達も苦笑いを浮かべてそう呟いた。

 十数秒にわたる銃撃の末残弾が尽きた泉美は、そこでやっと自分に集まる温い視線に気付く。

「はっ!? ~~~~~~~~ッッ!!」

 ババッと辺りを見渡して、すぐさま机に突っ伏した泉美。

 その前の席では、ノックダウンされた飛鳥が机に仰向けにもたれかかっていた。

 それを上から覗き込み、伊達がふっと口元を緩める。

「やるじゃん、アスカ」

「…………」

 グロッキー状態になった飛鳥が、無言でサムズアップした右手を掲げた。

 喧騒に包まれる朝の教室。

 HRのために担任である飛騨が教室に入ってくるまで、以前よりもずっとにぎやかであったように思われた。


 ただその中で、一人表情を曇らせる美倉に気付いていた者は、いなかった。

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