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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第5部-Bluff and Brave-
129/259

3章『Bluff and Brave』:4

 海面近くを高速で移動していた2機の中間に、アマツバメの弾丸が正確に着弾した。

 分断されるナチュラルとクランブル。

「くるか!」

 高速で接近するアストラルを視認すると、ラクランは即座に機体を海中へと飛び込ませる。

 援護のために海上に上がってはいたが、ナチュラルはもとより水中戦に特化した機体。自分の有利な状況に持ちこんだのだ。

 だが飛鳥達の狙いはそちらではない。

『こっちも残弾に余裕は無い。無理してもらうわよ!』

「望むところ!」

 飛鳥は最初から機体の推力を全開にして、ナチュラルの援護に入ろうと加速していたクランブルへ真正面から突撃する。

「よそ見は無しだぜ!」

 直前で気付いたクランブルが突き出した回転ドリルを上半身を反らしてギリギリで回避し、すれ違いざまに頭部を正面から蹴り飛ばした。

 ガギャンッ! と派手な金属音を響かせて、クランブルの巨体が大きくのけぞった。

 即座に追撃をかけようと反転してビームブースターを後方へ向けるアストラルに、ホライゾンからの通信が届く。

『アスカ、遅らせて!』

「くっ――」

 泉美の声に機体の加速をとどめた瞬間、アストラルとクランブルの間を2条の閃光が突き抜けた。

「読まれてる……!?」

 ラクランが驚愕に呻いた直後、アストラルが大きく加速した。

 だが頭部を踏みつけようとする高速の一撃を、クランブルは頭を後ろに振り下ろすことで回避する。

「なにっ!?」

「そう何度もさ!」

 脚を突き出して真っ直ぐ加速するアストラルを、クランブルは振り上げた両足で蹴り飛ばす。

 アストラルは腹部に強烈な一撃を撃ちこまれ、猛烈な勢いで上空へと跳ねあげられた。

 そこにナチュラルが放った6発のミサイルが迫る。

(迎撃が間に合わない――!)

『させない!』

 その全てを、ホライゾンのサブマシンガンが撃ち落とした。

 両腕で機体を守る姿勢を取っていたアストラルはすぐさま攻勢に転じ、ホライゾンを狙い飛び上がっていたクランブルへと肉薄する。

 ドリルの使えないインファイト。肩を押しつけるようにしたアストラルは、右腕の機関砲が向けられる中強引にコアを狙ってフォトンライフルを一発撃ちこむと、素早く後方へと下がる。

 それとほぼ同タイミングで大量の重光子弾をバラ撒き始めた機関砲が、アストラルに向け振り回された。

 光弾の帯がアストラルを捉えようとしたところで、上方から腕を狙って放たれたホライゾンのサブマシンガンによる攻撃に、クランブルは慌てて腕を引っ込めた。

「さんきゅ、助かった」

 ホライゾンの高さまで飛び上がって再び背中合わせになりながら、飛鳥はそう言った。

『来るよ!』

 泉美の言葉と同時に、海面を突き破って緑の重光子ビームが撃ち込まれる。

 散開する2機。そのタイミングを狙い、ホライゾンの背後からクランブルが高速で接近する。

 巨体に見合わぬ凄まじい速度で襲いかかるクランブルに対し、ホライゾンは振り返ることすらしなかった。

「だらぁッ!!」

 クランブルの脇腹を、アストラルが亜音速で蹴り飛ばす。それを分かっていたからだ。

 だからホライゾンは一切注意を反らすことなく下方を鋭く見続けていた。

 クランブルの奇襲に合わせて追撃を目論んでいたナチュラルが再び海面から顔を出した瞬間、アマツバメの引き金を引いた。

『外さない!』

 放たれた超高速の狙撃弾は、上半身を海上にさらしたナチュラルの手からライフルをもぎ取った。

 強烈な衝撃を受けたライフルは海面に叩きつけられると共に、金属片を飛び散らせて爆散する。

 すぐさま武装ユニットの狙撃砲を発射するナチュラルだったが、ホライゾンはこれを軽々と回避すると、ナチュラルの頭部めがけてハヤブサを撃ちこんだ。

 回避のために海中へと潜るナチュラルは、上から襲いかかる重光子の爆圧をモロに受けてしまう。

「チッ、ラッキー!」

 蹴り飛ばされた姿勢を強引に戻したクランブルがそちらへ意識を向けたところへ、アストラルはプラズマバズーカを叩きこんだ。

「よそ見すんなっつってんだろ!」

 機体をひねって攻撃を回避しようとするクランブルの装甲を、掠めた雷弾が一瞬にして赤く融解させる。

 プラズマの残滓が大気を焼く中、両機は真正面からぶつかり合った。

 横薙ぎに振るわれるドリルをアストラルは身をかがめて回避し、肘から先だけで強引に銃口を向ける形でフォトンライフルを発射する。クランブルは発射の直前にひらりと身をかわし、右腕の機関砲から重光子弾を連射した。

 後退しつつ迎撃の射撃を放つアストラルに、最低限の動きで迎撃を回避しつつ機関砲を撃ちこみ接近を試みるクランブル。

 そのとき、飛鳥の脳内に泉美の声が響いた。

『……よし、出来た! アスカ、これを使って!』

 その言葉と共に、通常視界と同時認識していた情報視界に小さなウィンドウが現れた。

「『火器管制リンクシステム』……? なんだ、これ?」

『今作ったの! いいからそれをシステムに組み込んで!』

「っ、わかった! インストールだ、アストラル!!」

 迎撃の射撃を等間隔に撃ちこみながら、意識の中でホライゾンから送られてきたプログラムをインストールする。

 情報視界内のウィンドウ下部に現れたゲージが体感ゼロ秒で右端まで満たされる中、真正面のクランブルがドリルを盾に高速で接近してきた。

「くっ――」

 大気を巻き込んで突き出されたドリルを紙一重で回避し、フォトンライフルをコアへ向ける。だが直後に、突き出されていたドリルがアストラルの腕めがけ勢いよく振り下ろされた。

 アストラルが構えていたフォトンライフルをひっこめた瞬間、ドリルの勢いに機体を引きずられながらも、クランブルは右腕の装甲を展開して、回避の勢いで反転したアストラルへ機関砲の砲口を向けようとする。

 しかし、

「動きが、見えるッ!」

 アストラルが脇の下から左のフォトンライフルを構え、発射寸前の機関砲へと光弾を撃ち込んだ。

 真正面から重光子弾を撃ち込まれた機関砲は、青い煌めきに呑まれ内側から砕け散った。本来は機体装甲に覆われている部分を真正面から撃ち抜かれたのだ。無理もない。

 だがクランブルは被弾に構わず、煙を吐き出す右の巨腕を伸ばすとアストラルの右脚を引っ掴んだ。

「こいつ!?」

 ブースターを目一杯吹かしてもがくアストラルを片腕で完全に抑え込み、クランブルは回転ドリルの先をアストラルへ向け強く引き絞る。

『させるもんですか!』

 ドリルが超高速で突き出されるその刹那、アマツバメの弾丸がアストラルの肩部装甲ギリギリの位置を掠め、クランブルの左肘内側に直撃した。

 ドリルではない部位に命中した狙撃弾によって、クランブルの腕が大きく弾かれる。その隙にアストラルがなんとか拘束から逃れようと、脚を掴むクランブルのマニピュレータにフォトンライフルの銃口を向けた瞬間、海面を緑の閃光が付き破った。

(ぐっ、マズイ――――――!!)

 脚を掴まれ身動きの取れないアストラルがとっさに両腕で機体を庇おうと試みた時だった。

『行って、ヒスイ!』

 ホライゾンの背中から飛び出した6枚の黒い板状の装置が、高速でアストラルに接近する。内二機が重光子ビームの射線に割り込み、即座に展開すると半透明の膜をその場に形成した。

 その青い膜――高密度エアロゾル層――に命中した重光子ビームが、突如としてその進行方向を大きく屈折させられる。その現象にラクランは目を見開いた。

「ビームを曲げた!?」

『それだけじゃない!』

 ガガガガッ! という鈍い金属音と共に展開した残りのヒスイ。それらが一度屈折させられた片方の重光子ビームをさらに屈折させ、アストラルの脚を掴むクランブルの頭部に直撃させた。

「ぬぅあああああ!?!?」

 片目を貫く重光子ビームを受けて、カミラは獣のように呻く。

 クランブルが慌てて左腕のドリルを照射ビームへの盾にしようと掲げるのを狙い、アストラルは素早くフォトンライフルを足元に向ける。

 脚部を猛烈な力で握りしめるクランブルのマニピュレータに向け、フォトンライフルの弾丸を連続で叩きこんだ。

「ぅおらァ!」

 黒い指が砕けて脚が自由を取り戻した途端、アストラルはクランブルの頭部を全力で蹴り飛ばして大きく後退した。

 クランブルもドリルで頭部を守ったまま、アストラルから距離を離す。ナチュラルの屈折ビームが止むと、クランブルはかざしていたドリルを軽く下げた。

 右手は指先に火花が散り動きもぎこちなく、頭部は左のアイカメラが完全に破壊されている。損傷は決して小さくない。

 片目でアストラルを見据えたクランブルは、ドリルを振り下ろして一気に加速した。迎え撃つアストラルは両腰に手を添え、プラズマバズーカを発射する。

 高速で接近しながら身をひるがえしたクランブルへ、両手のフォトンライフルを素早く構える。

(っ! これが『火器管制リンク』の効果……、敵の動きが手に取るように――)

 ダンッ! プラズマバズーカを避けようと身をひるがえしていたクランブルの肩口へ、放たれた重光子弾が命中する。だがクランブルは多少姿勢を崩しても、そのまま強引に距離を詰めようとしてきた。

 連続でフォトンライフルを撃ちこまれながらも直進を続けるクランブルに、ホライゾンもすかさずデュアルサブマシンガンとリボルバーグレネードを構え、アストラルを援護しようとする。

 しかしホライゾンがその引き金を引こうとした瞬間、海上に顔を出したナチュラルの重光子ビームの一方がホライゾンのサブマシンガンを正確に貫いた。

『くっ、なめるな!』

 即座にサブマシンガンを投げ捨てハヤブサを手に取ると、ほとんど見もせずにグレネードとハヤブサをそれぞれクランブルとナチュラルに向けて発射した。

 重光子炸裂弾はそれを回避するナチュラルのすぐそばの海面を叩き、グレネード弾は防御に構えられたドリルへと着弾して爆風をまき散らす。

 クランブルがドリルを振るって視界を遮る爆煙を払うと、その目と鼻の先に、フォトンライフルを構えたアストラルがいた。

 両手のフォトンライフルが光を放ち、重光子弾がクランブルのコアへと正確に着弾する。

 クランブルが全身を回転させ勢いよくドリルを振り回すのを、アストラルは宙返りで回避しつつフォトンライフルを撃ちこんだ。一発は牽制、そしてクランブルの回避方向に放たれたもう一発が膝へと命中する。

 しかしそのタイミングで、ナチュラルが6発のミサイル群をホライゾンへ向け発射した。

 泉美がそれを素早く撃ち落とそうとしたところで、その手に迎撃手段が無いことに気付く。

(マシンガンの方を狙ったのはこれが狙い!? それでも!)

『アスカ、お願い!』

「わかった」

 言葉と共に、アストラルのフォトンライフルが構えられる。だが接近するクランブルによって、その射線が強引に遮られてしまった。

「させないさ!」

 しかし手はある。

『それを――』

「見えてる!」

 連続で突き出されるドリルを避けながら、アストラルは迫り来るミサイルとは見当違いの方向にフォトンライフルを乱射する。

 一見無意味に放たれたように見えた6発の光弾。だがその射線上には全てヒスイが待ち構えていた。

 直進していた全ての光弾がヒスイによって屈折させられ、ホライゾンへ接近するミサイルを一つ残らず撃ち落とした。

 お返しとばかりにナチュラルへグレネードを撃ちこむホライゾン。だがナチュラルは素早く重光子狙撃砲を構えると、高速で飛来するグレネード弾を巻き込んでホライゾンへ照射ビームを放った。

『コロイドフィールド、展開!』

 グレネードの発射反動に姿勢を崩したホライゾンに緑の閃光が直撃する寸前、その周囲を覆った青い球状のコロイド膜によってその軌道が大きく捻じ曲げられた。

「ビームの屈折、本体まで……!!」

『あんたはこっちと遊んでなさい!』

 歯噛みするラクランへ追撃とばかりに、ホライゾンは背中のユニットから8発のミサイルを打ちあげた。それらは上空で鋭く軌道を変えると、一直線にナチュラルへと突撃していく。

 ナチュラルはとっさにマシンガンで迎撃をしようとするが、襲い掛かかるミサイル群はまるで意思を持つかのようにその弾丸を小刻みに回避した。

『アスカ、そいつ押さえてて!』

「任せろ!」

 ナチュラルがクランブルへと援護を求める前に先手を打つ泉美。飛鳥はすぐさま通信をスピーカーモードにした。

 クランブルを蹴り飛ばして大きく距離を取ったアストラルがフォトンライフルを真上に投げ上げ、両腕で大きく手招きをしてみせながら、コックピットの飛鳥は思いついた言葉を適当に叫ぶ。

「オラオラビビってんじゃねーぞ! かかって来いよドンガメ!」

 一気にボルテージの上がったクランブルと、落ちてきたフォトンライフルをクロスした両手でキャッチしたアストラルが真正面からぶつかり合う。

 そしてクランブルが妨害をできなかった以上、ミサイルの制御補正は切れない。

「くそッ!」

 ラクランは毒づくと、機体を反転させて素早く海に飛び込んだ。だがホライゾンのミサイルは全て水中対応の対潜ミサイルである。それだけで潰せるものではないため、逃げ切るには時間が必要だ。

『アスカ、これであっちは押さえたわ!』

「オーライ、一気に押しこむぜ!」

 言うや否や、アストラルはクランブルへ、二つのフォトンライフルと両脚を組み合わせた凄まじい早さの連続攻撃を浴びせた。

 嵐のように放たれる蹴りと重光子弾が、ドリルのガードの隙間を抜け、回避方向を読み、全て正確にクランブルを捉えて行く。

「がっ、調子にィッ!!」

 防御を捨てたクランブルが胸に重光子弾を浴びながらも、左腕のドリルを引き絞った。それは相対するアストラルへと、音速をも超えて突き出される。

 真っ直ぐに、コアを貫く軌道。

(――――ビビんじゃねぇ! こいつはチャンスだ!!)

 破壊の刃が迫る中、アストラルは躊躇なく両手のフォトンライフルを投げ捨てた。

 ドリルの先端がアストラルのコアを捉えかけた瞬間、その下方に、眩い光を湛えるアストラルの両手のひらが叩きつけられる。

「スーパーノヴァ・バイナリー!」

 直後にその二つの手から想像を絶する閃光と爆圧が放たれ、超高速で回転する巨大なドリルを猛烈な勢いで真上に跳ね上げた。

「な……に……!?」

 そう、クランブルのドリルにできるのは粒子の集合体を粉砕することのみ。力学エネルギーそのものを叩きつけるハンドストライクの力を防ぐことはできないのだ。

 そしてこの瞬間こそが、飛鳥と泉美が共有するたった一度のチャンスだった。

 大質量のドリルを弾かれ大きく仰け反ったクランブルの前で、アストラルはひらりと宙返りをする。

「今だ、決めるぞ泉美! 最大火力だ!」

『了解アスカ、これを使って!』

「受け取った!」

 ホライゾンから投げ渡されたハヤブサとリボルバーグレネードを掴み取ると、さらに反転してクランブルへと向ける。機体の制御を失いながらもその場を逃れようとするクランブルだが、向けられた全ての砲口はその動きを完璧に捉えていた。

 ありったけの火力を、その一瞬に集中させる。

『火器管制リンク!』

「武器制御プログラム認証!」

『アマツバメリミッター解除三倍解放!』

「全武装オールグリーン!」

『ターゲットロックオン!』

「こいつでッ、終わりだああああああああああああああああああああああ!!!!」

 アストラルが持つ二つのビームバズーカにリボルバーグレネードとハヤブサ、そしてホライゾンが持つ三倍の出力のアマツバメ。その全てが、クランブルのコアへと正確に叩きこまれた。


 ――――――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!

 音も熱も光も大気もありとあらゆるものを呑み込み、あふれ出す圧倒的な力がそこにある全てを薙ぎ払った。


 過大なダメージにより機能を停止したクランブルの発光体が、その光を失う。

 そしてコアから飛び出したクランブルの持つコードが、アストラルとホライゾンのコアへと吸い込まれる。

【アーク・クランブル撃破

 コードC,N 取得を確認

 一部システム領域に対し、管理者権限を解放】

 決着がついたのだと、システムの無機質な音声が告げていた。



「ふぅ~、やれやれだね…………」

 遠方でなんとかミサイルを凌ぎきっていたナチュラルが、海面に顔を出してその両手を上げた。

2対2の戦闘は情報量が多くて書くのは大変ですが、なかなか楽しいですね。

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