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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第1部‐英雄の力‐
12/259

2章『アーク・ライセンス』:5

「―――――っ、ここは!?」

 視界の光が消えたとき、飛鳥は灰色の狭い空間にいた。単純な光で視界を奪われていたのとは違うようで、視界に焼け付きのような跡は残っていない。

 ふと、後方から先ほどの女性の声が聞こえた。

『ここはこの機体のコックピットよ』

「コックピット?」

 飛鳥は驚いて周りをぐるり見渡してみる。

 正面には湾曲した大型モニター、その周囲にはそれ以外の小型モニターがありその隙間に複数のボタンが所狭しと並んでいる。後ろ方向にも目を向けてみたが、誰かがいるわけではない。おそらくコックピット内のスピーカーから出力されている音声なのだろう。

「コックピットって、さっきまで外にいたよな。……いつの間にここに?」

『短距離量子テレポートよ。ライセンスの認証を行った人間は、ある程度近くならコックピットの中までテレポートで飛ばしてくれるのよ』

「量子テレポート? そんな技術確立されてたのか……?」

 シートは直立型らしく、飛鳥の姿勢は立ったままになっている。

 シートには手を置くところもあるのだが、かといってそこにグリップなどがあるわけではない。この手を置くところに意味はあるのだろうか。

 そして前方の大型モニターの下辺りには複数のボタンが設置されていた。

「シートは椅子じゃないんだな……。つーか、もしかしてこの大量のボタン操作して機体動かすとか言わないよな? レバーとかペダルとか、そういうのが一つも無いんだけど……」

『ええ、それに関しては大丈夫よ。脳波制御が搭載されてるから、自分の身体を動かすのと同じようにできるはずよ』

「なるほど、それならまぁやれるか」

『……そろそろ、ね。ここから先は戦いになるわ。覚悟はいい?』

「当然だ。……できるさ、俺には」

『わかったわ、起動する!』

 ブゥン……

 女性の言葉と共に、小さなノイズと共に正面の大型モニターに光が灯った。

【Ark-System_Standby...

Please_Wait_Booting...

...

...

System_version.3.76_

Complete_】

 大量の文字が一気に流れていく。

『よし、よしよし、起動成功ね!』

「あーくしすてむってなんだ?」

『この機体の、まぁOSみたいなものよ』

「OSねぇ。確かにあって当然っちゃ当然か」

 そんな問答をしている間にも、文字は一気に流れていく。

【Load_Configuration_Program

Loading...

Complete_

Checking_Program...

...

Complete_

Testing_Program...

...

Error_

Diagnose_Error...

...

Initialize_System...

...

Complete_

System VerX.XX Reboot...

Please_wait...

...

...

Complete_】

「お、おいなんか一瞬エラーでなかったか?」

『出たけど問題ないわ。このシステムはこうなる物のようだから』

 断定より少し弱い言い方に疑問を感じる飛鳥だったが、そうこうしている間にもプログラムは進んでいく。

【Acquisition_of_Personal_Data...

Please_Touch_the_Panel_】

 その文字が表示されるとともに、ディスプレイ下の四角形のタッチパネルが明滅する青い光を放った。

『それディスプレイに右の掌を押し当てて頂戴。パイロットデータの取得と正規パイロットのライセンス認証を行うわ』

「ライセンス? どこにあるんだそんなの」

『君の右手の文字がそれよ。その文字は、「ライセンス」や「コード」と呼ばれるわ。さあ、認証を』

「わかった。……ライセンス、認証!」

 促されるままに、飛鳥は右の掌をパネルに叩きつける。すると、頭に走る電気のような痛みと共に手の甲の文字が青白く光り出した。

「―――――ッ!」

 直後に、目で追えないような速度でディスプレイを大量の文字が躍り出す。

 滝のように流れる緑の文字群は、背景の黒色を塗り替えるように全面を駆け抜けていく。その文字群が下から上へと流れきった時、新たな一文が現れた。

【Please_Select_Language_

English_or_日本語】

 その文が表示された時、下のタッチパネルに【English】と書かれたプレートと【日本語】と書かれたプレートが現れた。それを見たのか、飛鳥の後ろから素っ頓狂な声が聞こえた。

『あら、あなた英語話せるのね?』

「いろいろあって、日常会話程度ならな。っつか、この表示はどういうことだ?」

『システム内で使用する言語の選択ね。今のパイロットデータの取得の際に君の理解できる言語を解析したから、その中からどれで表示するかの選択ができるの。後で変更もできるけれど、英語が日常会話程度ならまぁ……』

「普通に日本語だよな」

 今度は指先でポンと触れる。【OK?】と再度確認してくるので【Yes】を選択する。すると、表示されている文章が変わった。同時に声の女性よりもさらに機械的な声が聞こえる。

【固有言語法則の解析、完了.

 システムメッセージ、言語の設定を受諾.

 基本設定に移ります.よろしいですか?】

「オッケーだぜ」

 タッチパネルに現れた【はい】の文字をポンとタッチ。プレートが上方向に流れていき、球状ディスプレイに現れると一瞬膨らんで消滅した。

 その後、複数の質問とプレートがディスプレイとタッチパネルに出現した。

【感覚共有設定.

視覚リンクを行いますか? はい/いいえ

 聴覚リンクを行いますか? はい/いいえ

 嗅覚リンクを行いますか? はい/いいえ

 触覚リンクを行いますか? はい/いいえ】

「なんかいっぱい出てきたぞ、どれ選べばいい?」

『これは機体につけられたセンサーの情報をあなたの感覚器官とリンクするかどうかの選択だから、嗅覚以外は全部【はい】にしておけばいいわ。嗅覚はまぁお好みで』

「リンクってことは、VR技術か? まぁ臭いはいらないから……これでいいか」

 はい、はい、いいえ、はい、と連続で選択していく。全てのプレートが消えると、また新たな質問とプレートが現れる。

【痛覚フィードバックレベルを設定してください。 Low-0/1/2/3/4/5-High】

「げっ、痛覚まで再現されんのかよ」

『それは設定の再現強度で調整できるわ。今は2ぐらいに設定しておきましょう。これなら被弾の衝撃が返ってくるだけで痛みにはならないわ』

「ほっ、それならよかった。……っつか、上げる利点ってあるのかよ」

「上げればそれだけアークに近い感覚を得ることができて、性能や反応性の向上につながるの。割とリスキーだからやらなくてもけれどね」

 痛みが返ってくることに一瞬冷や汗をかいたが、それを聞いて安心した様子で飛鳥は【2】というプレートをタッチした。

【基本設定完了.

詳細設定に移ります.

 詳細設定、参考データが存在します。適用しますか? はい/いいえ】

「参考データってなんだ、適用すんの?」

『気にしないで。【はい】でいいわ』

「お、おう」

【詳細設定データ読み込み完了、適用します.

 適用、完了.

 確認のため、シートに身体を固定してください.】

 その文字と共に、直立型シートに身体を添えている人の簡単な絵が表示された。その絵をまねるように、足のマークの位置に立ち、背もたれ横の手を置く部分に両腕の肘から先を乗せる。指示に従い、頭をシートの頭部分に持たれかける。

 ディスプレイの絵に丸が表示されるとともに、ガシャガシャとやかましい音を立てて飛鳥の腕や足のところがシートから出てきた輪っかのようなものに固定される。頭部も、横からせり出してきたヘッドギアのようなものに挟みこまれる。

 飛鳥の身体がシートに完全に固定されると同時に、シートがゆっくりと倒れていき、逆に背もたれの部分が持ちあがって行く。数秒の時間をかけて、直立型シートは座席型に変形していた。

「うぉわ!? な、なんだよこれ!?」

『VRシステム作動のための脳波接続に必要なものよ。大丈夫、害はないから』

「害はないったってこんな……」

 いきなり身体をしばりつけられ戸惑いを隠せない様子の飛鳥だったが、そんなもの知ったことかとばかりにディスプレイにはメッセージが表示されまくっている。

【各種情報取得.

 パーソナルデータと照合、完了.

 システム動作レベルを設定.

 パイロット 男性 16歳

 適合レベル D++

 ジェネレータ予測出力 84.27%

 アクチュエータ平均出力 83.40%

 エネルギー伝達効率 99.51%

 上記データより、武装設定変更.

 フォトンライフル 出力上限90% 「3点バースト」アンロック

 フォトンブレード 出力上限70%でアンロック

 プラズマバズーカ 出力上限55%でアンロック

 ビームブースター 出力上限を60%から90%へ変更

 戦闘システムレベル 保護モード

 上記で設定を決定します、よろしいですか?】

 今度は空間投射ディスプレイで右の手元に二つのプレートが表示された。

 飛鳥は一瞬迷いながらも【はい】を選択した。単なる確認のようなので【いいえ】にしても恐らく意味はないだろうと判断したからだ。

【設定を受諾.

 設定情報の検証、完了.

 正常動作を確認.

 アーク力場へ接続.

 周囲環境情報、及びプロジェクト進行状況を取得.

 同時に、設定を適用しシステムを構築.

起動準備中、しばらくお待ちください.】

 システムメッセージの更新はそれっきりでいったん止まってしまった。

 機械の起動音らしき高音が響く中、機械的ながらどこか憂いに満ちた声で女性が飛鳥に語りかけてきた。

『巻き込んでしまう形にはなったけど……よろしく、お願いね』

「ああ、そうだな。ところで、自己紹介まだだったよな。俺は星野飛鳥、アスカでいいぜ。そっちは?」

『私は…………ごめんなさい、今はまだ名乗れないわ。けど、あとで必ずこたえるから』

「そうかい、まぁよろしく頼むわ」

『ええ、もちろんよ。アスカ君』

「って君付けかよ……、まぁいいけどさ。ところで、こいつの名前はなんていうんだ? 型式番号みたいなのじゃなくて、なんかカッコいい名前とかないのか?」

『こいつって、この機体の事? アーク・アストラルっていうの、素敵でしょ?』

「アーク・アストラル、ね。……なんつーか、何から何までアスターみたいだぜ」

『アスター?』

「俺の好きなヒーローもののテレビ番組だよ。その主人公の変身後の名前がアスターってんだ。これでも夢はヒーローなんでね、毎回欠かさず見てるのさ。……この歳だけどな」

『ふふ、変わってるわね』

【情報取得、完了】

 彼女を逆に元気づけるように、明るく話す飛鳥に彼女も思わず笑みをこぼした。笑われたような気もしたので飛鳥は軽く肩をすくめるが、これでいいやと思うことにした。

 会話がそこで止まってしまった。ディスプレイの文字も変わっていたが、飛鳥は気にしていない。静寂の中、ポツリと呟く。

「……こいつの力があれば、皆を守れるんだよな?」

『……ええ、私もサポートする。必ず守り抜くわ』

「この戦いに勝てば、俺はほんの少しでも夢に近づくことができるのかな」

『きっと、できるわ』

「……なら大丈夫だ、俺にだってやれる」

 飛鳥は、手首から先だけが動く右手でグッと拳を握る。その手は、小さく震えていた。

『怖いの?』

「こんな状況で、怖くないっつったら嘘になるけどさ……。けど、逃げるつもりなんてないさ。俺にしかできないんだから、俺がやるに決まってる。俺の夢はヒーローだからな」

 湧き上がる恐怖を否定はしない。

 だがそれ以上に、彼の衝動は、彼を前へと突き動かす。

【システム構築、完了.

 火器管制プログラム構築、完了.

 機体制御アルゴリズム構築、完了.

 慣性制御システム、起動.

 アーク・アストラル起動準備、完了.】

 ディスプレイの文字が変化していく。それから視線を外し、俯いて目を閉じる。

『……ごめんなさい』

「そんな気にすんなよ。だってこいつは……」

 不敵に笑う。起動音が増していく。甲高い音が響く。コックピットに強い揺れが生まれる。身体を浮遊感が包む。何か別の感覚が流れ込んでくる。彼のものではない何かが彼を書き変えていく。―――それをすべて受け入れた。

 目を開ける。

 最後の言葉が現れる。

【プロジェクト・アーク、現行フェイズを3と判定。

 Ark-Astral_System_Ver4.00 ――――起動します―――― 】

 白き巨人が、光と共に、黒き大地に立ちあがる。


「こいつはピンチじゃない、チャンスだ――――行くぞ、アーク・アストラル!!!!」

 叫びが、木霊した。

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