表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第4部‐彼方の瞳‐
109/259

エピローグ Ark-Memory_3

 地平に見えた四角い影に向けて、俺は歩を進めていた。

 砂に覆われた大地が茫漠と広がり、小さな人間の歩みさえ重い砂で邪魔をする。

 それでも頑なに歩き続ける俺をあざ笑うかのように、砂の大地はどこまでも続いていた。

 果ての見えない荒れた地面を踏みつける。

 砂に足をうずめる音はこれで何回目だろうか。

 俯けていた視線を上げた時、彼方にそびえる黒が少しだけ大きくなっていた。

 慣れた足取りでも、まとわりつく砂が重く感じる。

 だがまだ歩ける。

 幾度となく沈む足を持ち上げて、濃紺の空に浮かぶ黒を目指す。

 黒に浮かぶ黄色の光を目指す。

 口から洩れる吐息は既に枯れきって、乾いた空気が喉を撫でる度にひび割れた痛みを感じた。

 痛みをこらえ歯を食いしばり、濃紺に染まる空を見上げる。

 幾千の星が瞬く空を見上げる。

 赤い星があった。

 青い星があった。

 白い星があった。

 小さな星も、大きな星も、流れる星もあった。

 今なら分かる。

 歩き続ける理由も、見上げる世界を望んだからだった。

 満天の星空と言おう。

 俺はこの空をそう名付けた。

 踏み締める砂漠よりも果てないこの空には、きっとただの模様ではないものがある。

 ただ上を見上げ、曖昧になっていく意識を手繰り寄せながら歩き続ける。

 いつの間にか、足は勝手に動いていた。

 それからどれだけ経っただろう。

 ふと首を下ろした俺の前では、遠くにあったはずの黒がもう少しの距離にあった。

 黄色い光が少し眩しくさえ見えた。

 もう少しだと、俺は最後の気力を振り絞って歩いた。

 何度も。何度も。

 砂に足を埋めて、砂から足を抜いて、前に伸ばして、また砂に足を埋める。

 踏み締める足はもう鉛のようで、それでも勝手に動き続けて。

 そうして見上げたそこには、空ではないものが見えた。

 夜闇に浮かぶ建物の影と、その中を照らす黄色い光。

 土と砂の街並みだった。

「やっと、ついたか……」

 旅の終わりを、俺は感じた。



 方舟は、そうしてまた夢を見る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ