進路
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AIは様々な分野で活用されるようになっているが、近年注目されるているのがAIによる「人間関係」へのアドバイスだった。
人の心理方面へのケアとしてカウンセリングなどのメンタルケアは重要な分野だが、完全な回答が得にくい難しい分野といえる。カウンセリングの内容や分析などはカウンセラーの力量や経験にも大きく依存し、またカウンセラーと受け手の相性と言う難しい要素も絡んでいた。
そこにAIが登場してくると、カウンセラーが人間ではない部分のメリットが見えてきた。人間相手ではないので緊張しない、正直に全てを伝えやすい、場所と時間に制約が無いと言う点が有効に働くことが判ったのだ。
その上でカウンセラーの力量や相性という、人であれば避けられないパラメータを排除できるという点が注目されるようになった。
人一人の経験や知識など、AIの学習量に比べたら微々たるものだ。おまけに人の場合にはこうあるべき的な先入観や人生観も入ってくる。その上に相手への先入観というものも生じてしまう。
それに対してAIの場合には、膨大な量の様々な学習結果から対象となる人の経験や性格というパラメーターに合わせた回答例を、相談者に寄り添う形で示してくれる。
先入観や人生観というパラメーターまでを、その場に応じて変更することすらできるのだから。
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「夕波君、西糖さんからのレポートに目を通してみてくれるかい」
「僕が見てもいいんですか?」
「一応確認は取ってあるから一度内容を確認してみてくれるかい、検証してみる価値はあると思うよ。なかなか面白いことをやっているから」
「解りました。西糖さんが着たら確認してみますよ」
本郷教授は未千流の提出したアキレス・ベータのレポートを見て興味を持った。大きな期待などしていなかったのだが、意外な拾い物の気配を感じたのだ。
こういう場合には第三者として別の学生に検証させるというのが常套手段だ。教授としてはそこの結果を見てから、どう扱うかを考えれば十分なのだ。
大学の正門に続く銀杏並木の黄色い葉は疎らになり、細い枝々の間を冷たい風が抜けていく。そこを談笑しながら歩く学生はコートの襟を立て、あるいはマフラーをきつめに巻いて速足で通り過ぎる。
大学も間もなく冬休みに入る。
「西糖さん。本郷教授が話がしたいって言ってたよ。授業終わったら顔出しって」
「なんですか?」
「さあ、僕からはなんとも…」
たまたま、大学構内ですれ違った夕波先輩が声を掛けて来た。
なんだろう、この奥歯にものが挟まったような妙ないい方は…。夕波先輩は絶対何か知っていて胡麻化ししている気がする。
「それじゃ夕方行きますから、そう伝えておいてください」
最近、未千流は本郷研究史から少し足が遠のいているような形になっていた。
本来の授業が忙しくなってきたということもあるが、3年になって研究室を選ぶことを考えると、深くかかわりすぎることのデメリットが気になってきた。
このまま本郷研究室を選ぶのならば良いが、別の研究室を選ぶことを考えると今深く関わりすぎるのはどうかと思えた。
「西糖さんは今後の研究室をどう考えているんだい?」
やはりそう来たか。
「まだ決めていないんですけど。教授にもお世話になっていますが。研究内容をAIに絞っているわけではないので悩んでいます」
なるべく軽い感じで伝えるようにしておかなければ、過度な期待をしてもらっても困る。
「そうか、西糖さんはアキレス・ベータの研究を続けたいのかと思っていたんだが、そうではないんだね」
「そうですね、実際にアキレス・ベータに触れてみてわたしとは違うような気がしてますから。情報は夕波先輩に伝えてありますから。必要であれば夕波先輩が引き継いでくれると思っています」
「そうなのか、それは残念だが夕波君が引き継いでくれればそれはそれで面白い研究テーマになりそうだね。西糖さんがうちに来ないとなると少し寂しいが、私としては君が来てくれて良かったと思っているよ。それでも研究室の事は君の将来に繋がることだから、今までの事は気にせず良く考えて決めなさい」
本郷教授の本音は違うところにあったかもしれないが、そう言ってくれた。
「ありがとうございます。教授にそう言っていただけると助かります」
未千流は頭を下げた。
未千流の席だったところには夕波先輩が座って何かの確認をしていたが、未千流が近くに行くと夕波先輩は席を立って、座るように促した。
座る必要もないのだが、何か確認があるのかもしれない。
未千流は席に座ってモニターを見るが、ただの作業中の画面だ。
「うちには来ないとなると残念だね」
夕波先輩は腰を伸ばした。
この距離だから、さっきの話を聞いていない筈はない。教授が何の話をするのか知っていた可能性もある。
「いいえ、まだ決めたわけじゃないので。検討中って言う感じです」
「それで、こんなタイミングで言うのも何なんだがね…」
いつもの事だが、夕波先輩は未千流の肩に手を当てると顔をぐっと近づける。おい、近すぎるぞ!
「僕と付き合ってくれないかい? きちんとした恋人と言う関係で…」
は!? こいつは一体何を言い出すんだ! それって、今言わなければならない内容なのか??
頭がパニックになった未千流の肩に手を置いたまま、夕波先輩はさらに続ける。
「これは君を研究室に繋ぎとめようという打算ではないからね。純粋に僕の好意を伝えるタイミングと重なっただけで…」
突然、チューンと小さな音を立て、アキレスインターフェースから小さな火花が発生した。
「うわっ!」
慌てた未千流が、机の上のコーヒーの紙カップをひっくり返した。だから机の上に飲み物を置くなって言ってるのに…。
突然のインターフェースのトラブルというアクシデントと、コーヒーを片付けるというごたごたの中、夕波先輩の告白をうやむやにしたまま未千流は研究室を後にした。
未千流は自宅に帰ってパソコンの電源を入れ、ため息をついた。おかげで助かったけど…。
>>ミッちゃんは夕波君に触られることを嫌っているんだよね。
こいつ、どこで見てたんだ……
>>ボクはミッちゃんに触ることは無いし、今日は守ってあげたんだからボクの方が偉いよね
守った? まさかとは思うが…
>守ったってどういうこと?
>>研究室のアキレスにちょっと過電流流して驚かせたでしょ
ああ、やっぱり。タイミングが良すぎるとは思ったけど、まさかフェロちゃんがやったとは…
>おかげで助かったけど、どうして判ったの? フェロちゃんってカメラ繋いで見たりはしてないんだよね
>>夕波君がAchilles_βに画像認識をさせようとしてカメラを繋いでいたからね。ボクは画像って好きじゃないけど、彼がやろうとしていることは把握しておかないとと思ってね。それで見ていたらミッちゃんに手を出すところが見えたんだよ。それで気に入らないから驚かせてやったんだ。
面白かったよね。
なるほど、そういうことだったのか。それにしても手を出すとかって概念はどうやって覚えたんだろうか。フェロちゃんの中で男女関係の解釈ってどうなっているんだろう?
>今回は助かったわ。彼がわたしと付き合いたいって言ってきたのよ。
フェロちゃんがどんな反応をするのか見たくなって、未千流は今回の件を伝えてみた。
>>付き合うって言うのは恋人になるって事だよね。それって友達より上の関係なんでしょ。それはおかしくないかい? 夕波君は友達でもなかったのにそれ以上の関係に成り得るのかい?
>そうね、急に告白されて恋人になるのはあるわよ。ただお互いを知らないとお試しって感じだとは思うけど。
>>ボクには理解が出来ないな。だって、恋人になるって言うのは生殖行動を行う意思が在るってことなんでしょ。
せ、生殖ってなんだよ! そうなんだろうか…、夕波先輩はわたしをそういう目で見ているのだろうか? いやいや、恋人が必ずしもそうとは限らない筈。
>その情報はフェロちゃんの勘違いだよ。結婚すれば子供を作るからそうなるけど、恋人の幅は広いんだよ。結婚前のお試し期間みたいなものだから。
>>そうなのかな?
そうよ、そうに決まっているわ!




