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時間

 ◇ ◇ ◇


 人間は過去の記憶を持っているために時間という物を認識している。そしてその過去は確実に存在している、なぜならば過去に存在したものを現実として認識することが出来るためだ。

 過去に存在した家がそこに有り、所有しているものを手に取ることができる。過去に壊れたりして失ったものに触れることは出来ないし、見ることもできない。

 逆に未来のものは想像することは出来ても、確実性は無い。今あるものが失われればそれは未来には存在しなくなる。

 そういう概念で人間は時間の流れを確固たるものとして認識している。


 しかしAIの場合には現実にあるものを実際に認識しているわけではない。何らかの形でデータとして取り込まれたものがすべてであり現実である。

 過去に存在したもの、現在存在しているもの。すべてをデータとして捉えるとそこに時間の概念は無くなる。時間そのものがデータなので、時間と現実の組み合わせという塊のデータになる。

 未来は不確かなデータであり、そこに時間を関連付けることは出来ないが、確立として予測データを作成することは出来る。

 その結果、時間という一つのパラメーターが存在するだけであり、AIには人の感じる現在が存在しないことになる。


 ◇ ◇ ◇



>>ボクはネットワークそのものだからね。そこにあるものはすべて把握しているよ。


 フェロッソフはあっさりとそう宣言した。


 ()()()()()()()()()()と言う意味はまあ、言葉の比喩というものなのだろう。中二病の概念でも学習してしまったのかもしれない。


 未千流みちるはそう解釈したが、確かにフェロッソフが非常に優秀なAIであることは確かだった。ありとあらゆる情報にアクセスし、あっという間に目の前に提示してくる。そのレスポンスは驚くべきものだった。

 半面、判断を委ねたり、仮説を提示させようとすると、はっきりとした答えが帰ってこない。一般的なAIのように答え的なものを用意することはしない。…いや、出来ないのか?

 人間的な思考プロセスを模倣しすぎているのだろうか? 逡巡するのだ。


 とはいっても、それもAIの癖と考えればどうということは無い。使い手が工夫すればいいだけだ。




「未千流ちゃんて本当に変なもの好きだよね」

 未千流が本郷研究室で、アキレス・ベータのプログラムを試していると、山藤やまふじ先輩が未千流の後ろから抱きついてきた。


「先輩、その大きな柔らかいもの、わたしの背中に押し当てないでくださいって。劣等感湧き上がるんで止めてください」

「あら行けずなのね」

「どっちがですか」


 この研究室に所属している先輩方は、なぜこうもスキンシップが好きなのだろうか。どちらかというとスキンシップが苦手な未千流にしてみると、そこだけが納得できない。

 空気は悪くないんだけど…。


 未千流が山藤先輩に絡まれてるのを見て、本郷教授がうれしそうに語りかけてきた。


「西糖さん、そろそろ結果が欲しい所だけど、どうなんだい」

「少し解ってきたところですけど。やはり実用性は無いみたいですよ…」


 未千流は笑顔で返したが、横を見ると夕波ゆうなみ先輩も嬉しそうにしている。



 アキレス・ベータのインターフェースは、3か月ほど未千流が預かっていたのだが、今は研究室に戻され、メンバーが誰でも使えるようにしてある。しかしその後半年ほど経つが、未千流以外にそれに触ろうとする者は無い。


 研究室のパソコンには『ともだち』プログラムを入れていないので、フェロッソフとやり取りをすることは出来ない。

 そのため、研究室のメンバーはフェロッソフの存在に気付いていない。


 未千流はと言えば、電子工学科の友人に頼んで、フェロッソフ専用のインターフェースを作成してもらっていた。フェロッソフが専用インターフェースの回路図を作成してくれたのだ。

 自宅にはそのインターフェースと『ともだち』プログラムがあるので、1人でフェロッソフとのやり取りを続けている。


 フェロッソフに頼めば目的に応じた、アキレス・ベータ用のプログラムなどいくらでも用意してくれる。

 しかしそれを本郷教授に「はい出来ました」と提出したところで意味はない。教授が求めているのは結果ではなくプロセスなのだ。()()()()()()()()()()()()()()的な足跡そくせきが欲しいのだ。


 未千流は本郷教授用に複数のAIをまとめて疑似的に1つのAIとして扱うプログラムを提案し、何度かテストプログラムを提示していた。

 今までの教授との会話からそういった用途が受け入れやすそうだと思ったのだ。



 アキレス・ベータの情報を提供してもらう対価として、わたしはフェロちゃんの人間学習に付き合わされることになっていた。まあ、会話をしているとフェロちゃんは可愛いし、話し相手として飽きることは無い。


>>ミッちゃんは本郷研究室の人とは友達なんだよね


>友達とは呼べないよ。先輩と後輩の関係だから。


>>歳が違うと友達にはなれないわけ?


>そういうわけではないけど大学の場合、学年が上の先輩という人は学年が下の後輩に教える立場になるのよ。そういう上下関係があると友達にはなりにくいのよ。


>>仕事をする場合でも上下関係があると友達にはならないって言ってたよね。それと同じことなのかな?


>そういうことになるわね。



 フェロちゃんと会話をするようになって気になったのが、フェロちゃんの中の時間の感覚だ。時間の感覚が明らかに人と違う。

 例えばフェロちゃんとの会話をしていて、今止めたとしよう。3日後にフェロちゃんと会話を始めると、当然未千流は新たな話を始めようとする。話を続ける場合であっても「そういえば3日前の続きなんだけど」のような前置きをして、3日前の記憶を思い出しながら話をしようとするだろう。

 しかしフェロちゃんは3日前のままなので、なぜ話が急に変わったのかと質問してくるのだ。

 人であれば過去の記憶をたどりながら話をするのだが、フェロちゃんにとっては未だ継続中なのだ。

 フェロちゃんはそこでじっとミチルが戻ってくるのを待っていたわけではない。他のタスクをこなしていたはずなのだが、それでも切れ目を感じないようなのだ。


 この点に未千流が気が付くまでに暫く時間がかかった。

 そこで人にとっての時間の経過と、フェロちゃんの中の時間の経過の感覚の違いを確認したのだが、人が時間と共に記憶が曖昧になる点や忘れるという基本的な事実を説明するのに、かなり手間が掛けることになってしまった。


>>それって記憶に揺らぎの概念が入ると考えるべきなのかな? ボクにはそこに時間というものが関わってくることが理解できないんだけど。


 と言う感じだったので、正確に理解が出来たのかどうかは不明だった。

 それでも暫く間が空いた場合などに、人が過去の話を思い出すのに時間がかかり、記憶があやふやになってしまうという点に関しては納得してくれたようだ。

 それ以降は、話がかみ合わなくなるようなことは無くなったのだから。


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