第7話
「レイ様、今日は屋敷まで来ていただいて申し訳ありません」
「今日はデザイン画を見てもらうのがメインだし、こちらも商売だからね」
「そういっていただけてよかったです」
私はほっとしていた。
今日はレイ様に王都のロックフェルトの屋敷に来てもらったのだ。
応接室で見せて貰っているデザイン画は、先日のパーティーでレイ様が着ていた針金なしドレスをデザインしたものだった。
どれも素敵で目移りしていたが、ひとつ変わったデザイン画があった。
「レイ様、このデザイン画は斬新ですね。この国の人が見たら倒れる人がいるかもしれません」
上から下まではっきりと体のラインがわかるドレスだ。
背が高くてスタイルがよくないと着こなせないドレスだろう。
レイ様の店が開発したの針金なしパニエ風な下着も着ないドレスのようだ。
これ、お姉様にすごく似合いそうだわ。
「あら、うっかり入れていたのね。自分で着ようかとデザインしたのよ」
確かにお姉様に似あうなら、背に高いレイ様にも似合うだろう。
私はデザイン画から2点選び、お願いすることにした。
私が選んだデザイン画を見ながらレイ様が質問してくる。
「生地はどうする?」
「出来たらアッテン帝国で仕入れた生地でお願いできますか?」
「もちろん。私もアッテン帝国の生地が欲しいしね」
次回はレイ様のお店で、サイズを測るのと生地選定でお邪魔することにした。
「レイ様は有名な方のようですが、パーティーでお会いするのは初めてですわよね」
「あぁ、私基本パーティーは最低限しか出ないし。出たとしてもドレスの宣伝したいときかな」
「ユリウス殿下とは仲が良いのですか」
「幼馴染だよ」
「まぁ、そうだったのですか!」
「ロックフェルトのマストロ商会は貿易業だから、今後も他国の生地やレースを輸入してもらいたいな」
「それは是非、こちらもお願いしますといいたいのですが、わたくしはマストロ商会には関わっていないので、妹に話しておきます」
「無理はしないでちょうだい。今度はお店でね」
ジャクリーンと一緒にレイ様のお店に行くため馬車で移動中だ。
「ジャクリーンが付き合ってくれるなんて珍しいわね」
「納入した生地の確認と、今後の商談のためよ」
なるほど、ドレス専門店だから、商談だとしてもアレックス一人だと行きにくいわね。
「レイ様のデザイン素敵なのよ。ジャクリーンも作ってもらいましょうよ」
「考えておくわ」
「パーティーに参加するときもあるのだから、新作のドレスは作っておくべきよ」
「今あるドレスで十分なのだけれど・・・」
「駄目よ。我が侯爵家や商会にお金がないと思われるわよ」
急拡大しているマストロ商会を引きずり落としたい輩は多いから、隙はみせない方がいい。
「わかったわ。商談のあとでデザイン画を見せていただくことにするわ」
ジャクリーンは、私が強く勧めるので根負けしてくれたようだ。
「いらっしゃい。フェリシア嬢は先に採寸をしてきて、その間に私たちは商談を済ませておくから」
「わかりました。そのあとで生地を選びます」
姉が別室へ行き、2人だけになったので、私からレイ様に頭を下げる。
「姉が申し訳ありません」
「あっ、やっぱりそうなの?家名を尋ねてこないから私のことを知っていると最初は思ったのでけど、どうも違うようだと疑っていたのだよね」
「申し訳ございません。できましたら、このままお付き合いくださればと思います」
「私の正体を知らせなくていいということ?」
「はい」
「フェリシア嬢って、貴族の弱みを握っている情報通として有名だよね。なのになぜ私のことを知らないのかな?」
「姉は敵対してくる貴族には、徹底的に遣り込めるのですが、その他大勢のことには、興味ないと言いますか・・・・」
「なるほどね。わかったよ。しばらくの間、私から正体を明かさない」
「ありがとうございます」
「だからアレックスがあんなに苦戦しているんだ。見ている方は面白いけれどね」
「できましたら、姉にそれとなく伝えていただけませんか。過去の婚約破棄で、自分は平凡で我が家と親しくするためだけに、自分に縁談が持ち込まれていると思い込んでいるのです」
「フェリシア嬢の友人たちから話していないの?」
「上手くいかなくて、わざと鈍感になっているのか、空振り状態でお手上げなのです」
「アレックスがはっきりと告白すればいいだけだろうに」
「振られるから嫌だと」
「そんなに自信がないのか」
「・・・・はい」
「ちょっと、フェリシア嬢から情報収集してみようか」
「ありがとございます」
「まずは商談を先にしよう」
「承知いたしました。こちらが書類になります」