第6話
「えぇ、そうですわね。覚えるのに必死ですわ」
マリエッタ様は頬が引きつりながらも、知っていたという態度を保っている。
もうちょっと揺さぶってやるか。
「さすがですわ。同伴されたときに話せなければ、ご主人の仕事を壊しかねないですものね」
マリエッタ様は私の言葉で完全に顔が青ざめている。
あんたほんとうに結婚までに、アッテン帝国語をマスターしろよ。
あんたは取り巻きなんかしている暇はねーよ。
もう一人の取り巻きも片付けましょうか。
「あと今お話ししているお相手は、メッケル国の方たちとハインド子爵様ですわ。ヒルダ様のご婚約者様の家だと思いますが違いまして?」
「そうですわ。お義父様もいるから言っているのです」
ヒルダ様は口元を扇子で隠してはいるが、いかにも不愉快ですという表情が見え隠れしていた。
「実はマストロ商会が仲介で、ハインド子爵領のワインを、メッケル国へ輸入する話が進んでいますのよ。まさかご婚約者の家のことをご存じなかったとか?」
私の言葉にヒルダ様の顔が青ざめていた。
私はおめーがそいつの取り巻き続けるなら、この話無しにしてもいいんだぞと脅しているのだ。
ヒルダ様はバカではないようだ、こっちの意図を理解しているみたいだった。
私が取り巻きを引きはがしにかかっているのがわかったのか、やつ(アリーサ嬢)は扇子を持つ手が震えている。
反論できないんなら、絡んでこなければいいじゃんよ。
毎回負けているのだから、いい加減懲りよーよ。
こちらも毎回相手するの、面倒なんだよね。
「この国では見ないドレスだね」
声を掛けてきたのは第2王子のユリウス殿下で、同伴している女性は、第2王子と同じ背格好で第2王子と並んでも見劣りしない、銀髪で目が覚めるような美人な大女だった。
ユリウス王子は王妃様似の藍色の髪にブルーの瞳。
がっしりとした体格だから、騎士団を率いているように見えるが、実際は頭脳派で周辺国との外交にを担っている人だ。
「実はこっちがそのドレスが気になったようで紹介して欲しいと頼まれてね」
第2王子は隣にいる大女を指で指した。
「こっちって失礼な紹介の仕方だね。私、ドレスメーカーの店を経営しているの。そのドレス、アッテン帝国で流行しているものでしょ。しかも最高品!」
「まぁ、お店を経営されているだけにお目が高いですわ」
私はドレスを褒められたことで、大女との会話は弾んだ。
横目でチラッと見たが、奴と取り巻き令嬢は、矛先が変わりほっとしたようでそそくさといなくなった。
もう2度とくんな!!
私は心の中で奴らに言っていた。
奴らが完全にいなくなったところで、第2王子殿下が私に向かって口を開く。
「見事な撃退だ」
「殿下・・・・」
「独り言だよ」
気を取り直して、私は大女のドレスを見る。
彼女の服装は我が国の定番ドレスだが、針金をスカートに入れて、膨らませているものではないようなきがした。
「お名前は・・・・」
私から大女に声をかけた。
「あぁ、ごめんね。私のことはレイと呼んでくれたらいい」
女性にしては声が低い。
「レイ様のドレス、針金を使っていないか、ほとんど使っていないかですわね」
「わかる?」
レイ様が驚きの表情をする。
「はい、スカートに針金が入っていたら動きにくいはずなのに、動きやすく見えます」
「私の店で開発したものなの」
私たちの会話を聞いていたエリーゼも会話に入ってくる。
「レイ様、針金が入っていないのですか」
「そうよ」
レイ様はクルリと回ってくれた。
スカートの動きが滑らかだ。
我が国の針金が入ったドレスならこういった動きはできない。
「一度デザイン画を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
私は興味を持ったのでレイ様に伺う。
「いいよ、できたらアッテン帝国の生地が欲しいかな」
「生地は大量にマストロ商会が輸入していますので購入可能です。商会に話をしてもよろしいでしょうか?」
「お願いするよ」
私はレイ様とドレス談議に花を咲かせていた。
「フェリシア」
名前を呼ばれたので振り向くと、アレックスだった。
「踊らないか」
「アレックス、挨拶回りは終わったの?」
「あぁ、終わったから誘いに来た」
ユリウス王子とレイ様にまた今度と言って、アレックスの手を取りダンスの輪に加わる。
「アレックス、ユリウス殿下たちとお話ししていたのに」
「いいのだよ。それよりレイ様と楽しそうに話していたけれど何を話していた」
「レイ様の衣装に針金が入っていないのですって!だからドレスを作ってもらおうと思って」
「そうなのか?」
「えぇ、あとレイ様って有名な方なの?」
「知らないのか?」
逆にアレックスに驚かれてしまった。かなり有名な方のようだ。
まぁ、ユリウス殿下が同伴しているくらいだし。
でもあんなに目立つ方なのに、私知らなかったのだろう。
アレックスと踊りながら、会話を続ける。
「お店を経営していて、アッテン帝国の生地に興味あるらしくて、マストロ商会に話しておきますといっておいたわ。知っている方ならあとは任せるわね」
「あまりあの方には近づかないほうがいい」
「ドレスは作ってもらいたいから無理よ」
「フェリシア、最低限のつき合いにしてくれ!!」
「警戒するような人に見えないけれど・・・」
「頼むよ」
「わかったわ」
あまりにもアレックスが必死に頼んでくるから私は承諾した。