第4話
「アレックス、今日も悪いわね。わたくしというお邪魔虫がいて」
「フェリシア姉様、何度もいっていますが、わたくしとアレックスは恋人同士ではありません。共同経営者です」
「でもあなた達が結婚して、子供が生まれれば商会が分裂することもなく安心できるのだけれど」
「何度も言いますが、その心配はありません」
「将来はわからないものよ」
「フェリシア、本当に私たちは恋人関係に一度もなったことはない。単純にビジネスパートナーだ」
ジャクリーンとアレックスは、いつも関係を否定する。
5年前にジャクリーンから紹介されたアレックス・テラードは伯爵家の次男で、出会った5年前、当時20歳ですでに事業を成功させていた新鋭実業家として有名だった。
私たちと全く関係のないアレックスが、貧乏で家が傾きかけていた我が家と共同経営者になってくれた事を考えると、ジャクリーンに好意を持っていたと考えるのが、自然なのにいつも否定される。
かといってアレックスに女性の影も見えない。
あまりにも否定するので、もしかして異性に興味がないのかと疑ったこともあるが、それも違うようだ。
社交の時は相手のいない私のパートナーにいつもなってくれるし、今日みたいにジャクリーンも参加するときは2人をエスコートしてくれる、重宝している便利屋、おっと殿方だ。
ただ周囲からはどっちがアレックスと婚約するのかと言われることが多くなり、困ったことが増えたのも事実だから2人に確認したくもなる。
「ジャクリーンがウィンストン公爵家のパーティーに参加するなんて珍しいわね」
「今日はマサーヤ王国の貴族や商人が招かれているときいたから、縁を結んでおきたいのよ」
「マサーヤ王国って海を挟んだ向こう側の国で、珍しい品物でもあるのかしら?」
「マサーヤ王国の王女が、第2王子の婚約者に内定したらしいわ」
ジャクリーンの話には驚いた。
ウィンストン公爵家は第2王子の後見人。
現王妃の実家だ。現王妃。そう、第1王子の母親が前王妃で侯爵家の出身。
前王妃は第1王子、と第1王女の母親で、第1王女を産んだ後、体調を崩してそのまま亡くなられた。
だから力ある公爵家が後見人の第2王子を、後継にと望む声もあるが、表面上ウィンストン公爵は否定している。
第1王子が無能ならともかく優秀なので、第1王子が王位を継ぐべきだと表明している。
表明が嘘ではないと争いを避けるべく、第2王子の婚約は陸続きの周辺国の王女や、国内の有力貴族の令嬢との婚姻を避けたと見ても取れる。
しかし第1王子の婚約者はウィンストン公爵家の令嬢。
なぜか、第1王子の後見人の侯爵家が、相次ぐスキャンダルで後見をする力がなくなったのだ。
前王妃が亡くなったあと、前王妃は侯爵夫人の浮気相手との子供という噂が流れた。
違うと侯爵家は潔白を証明しようと魔道具で親子鑑定をして、前王妃は侯爵夫妻の子供と証明されたが、次男が侯爵の子供ではなかった。
それで侯爵夫妻は離婚した。
次は嫡男である長男が、あるパーティーで婚約破棄と子爵家の令嬢と結婚すると宣言。
しかしその愛しい子爵家の令嬢は本物ではなく、宣言後行方不明になった。
長男はハニートラップにかかっただけだった。
大勢の前で宣言されたため、婚約継続はできずに婚約破棄の賠償金を支払い、不祥事を起こした長男は廃嫡。
親戚から養子を迎えた。
養子を迎えた侯爵は度重なる不祥事で、心労が重なったためか倒れてしまったのだ。
そんな状況でも普通なら、第1王子の結婚相手に自分の娘をと手を挙げる有力な貴族がいるはずなのに、王家から打診があると、縁談がすでに決まっていると皆逃げたのだ。
侯爵家のスキャンダルも、第1王子の縁談を潰したのも、裏でウィンストン公爵家が暗躍したのではと囁かれている。
結局、第1王子の婚約者はウィンストン公爵家の令嬢に決まり、後見も公爵家がしている。
2代続けて同じ公爵家のものが王妃にという反対意見もあるにはあったが、他国の王女を迎える話は出なかった。
国内を固められていない王子が、王位を継ぐと国内が荒れて、他国に攻められることを懸念したのだ。
どっちの王子が王位を継いでもウィンストン公爵家は安泰だ。
今、公爵家に逆らおうとする国内の貴族はいないだろう。
「第2王子が婚約?」
「内定したとの噂よ」
ジャクリーンは私と問いに淡々と話すから、好きとか恋とかはしていないようだ。
第2王子のユリウス・アナトーラ・ナッカリアは、ジャクリーンに気がある一人だと私は内心思っていた。
ジャクリーンは有益だと思わないと出席しないのに、なぜか毎回、第2王子はジャクリーンが参加するパーティーで出会うのだ。
正直王子が出席するようなパーティーではないよねと思うようなパーティーにもいたのだ。
ジャクリーンと喋るときもあるけれど、1対1ではなかったので気にしている人はいないと思う。
誰にも話してはいないが、どうやらはずれたようだ。