第3話
「まぁ、わたくしがもてないのご存じなのに。お姉様、冗談を言わないでください。ジャクリーンと勘違いしているのではないですか」
「いや、実際に釣り書きがあるから見るといいよ」
「侯爵家の後を継ぐのは、お姉様のお子でなければいけません。お姉様が産んだ甥っ子か姪っ子を、わたくしが可愛がって立派に育てますから早く婿を迎えてくださいませ」
今なら海軍を任せられる人もできたし、姉が数年海に出なくてもやっていけると思う。
この機会を逃したら我がロックフェルトの後継者ができない。
ここははやり、私がお茶会やパーティーに参加して、姉に相応しい伴侶を見つけてこなければいけない。
私たちの両親は8年前に事故で亡くなった。
その当時、姉は16歳で、私は14歳、妹のジャクリーンは12歳だ。
みな未成年のため、親交がなかったお父様の弟である叔父が、姉が成人する18歳まで代理侯爵になった。
しかしこの伯父が詐欺の事業に投資したり、エメラルド鉱山と言われ買った山は、すでに掘りつくされたあとの物だったりと、色々やらかしてトンズラしたのだった。
わたくしたち3姉妹は両親を急に失った悲しみで気づくのが遅れ、気づいたときには我が家は貧乏、一文無しに近い状態になってしまっていた。
今考えると、伯父が両親を事故にみせかけて殺したのではないかと思えてしまう。
後から知ったのだが、当時の伯父は借金を抱えて投資していたようだ。
その穴埋めに我が家の資金を使い、すべて失敗したとわかったから、侯爵家名義に変えて失踪したのではないかと弁護士に言われた。
それからは3姉妹で家の立て直しに奔走する日々だった。
姉は伯父がおろそかにして苦言を呈した者たちをクビにし、規律が乱れた海軍の建て直しに着手した。
私は優秀な侍従や侍女も、海軍と同じように伯父を諫めて辞めさせていたから、ろくな人材が残っていなかった家内の立て直しに奔走した。
姉とわたくしの婚約者は我が家が貧乏になったことを知った途端、両家から婚約破棄を言われたのだ。
誰も泥船には乗りたくないのはわかるが、私の婚約者の急な冷たい態度にはショックを受けた。
婚約者の実家の反対でならまだ許せるが、婚約者の変わり身の早さと、婚約破棄した途端に別の女性と婚約して、私が2人の邪魔をしていたように言いふらしたのには傷ついた。
元婚約者を好きだと思っていたが、奴は二股の浮気野郎だったのだ。
その後、元婚約者は結婚した令嬢の家に任された事業を破綻させて、今では婚家で肩身の狭い婿となっているらしい。
ざまぁーみろだ。
今となっては元婚約者を引き取ってくれた令嬢に感謝している。
姉と婚約破棄した婚約者の実家の伯爵家は、我が家と隣接している。
我が家が持ち直し貿易業で財をなしたが、その恩恵を受けられていない。
我が家と仲良くしたい家は、旨味のない平凡な伯爵家とは距離を置いていると噂だ。
我が家がなにがしかの圧力をかけていると思われているが、周りが忖度しているだけだ。
こちらから折れる必要はないからそのままにしている。
姉の元婚約者は外交官で、他国の令嬢と結婚して、今は他国で暮らしていると風の便りできいた。
姉とはそれなりに仲がよかったから、家を出たのかもしれない。
本人に聞いたわけではないからわからないけれど。
そして貿易業で財を成せたのは、当時15歳になった妹のジャクリーンが、どこで見つけてきたのかアレックスという男性とマストロ商会を立ち上げ、貿易に力を入れてくれたからだ。
もともとジャクリーンは、頭が良くて話上手な金髪美人だ。
本当ならワンランク上の高等学校に行きたかっただろうに、商売との両立は難しいと楽なお嬢様学校に入学し勉学の傍ら商会の仕事もしていたキャリアウーマンで、自慢の妹である。
そしてわたくしは優秀な姉と妹に挟まれ何も得意なものがなく、家内と社交を担当している。
姉と妹は死んだ母に似ていて金髪美人だが、私は父に似ていて赤毛に近いブラウンの髪で平凡な女なのだ。
だからといって2人に嫉妬とかはない。
あの苦しい時を3人で励まし合いながら家を建て直したのだ。
他所に比べたら結束力が高い家だと思う。