第2話
ナッカリア王国の社交シーズンは年2回、各領内の種まきなども落ち着いた5月と収穫後の11月だ。
今は5月である。
王都に集まってお茶会やパーティーで情報交換・情報収集をおこなうのだ。
そして私のように新商品をお披露目したりする場所でもある。
「楽しそうだけれど、フェリシアを借りて行っていいかしら」
「お義母様」
「「シュザンヌ様」」
私は慌てて立ち上がり、席を譲ろうとしたが、シュザンヌ様は首を振る。
「フェリシアのドレスが話題になっていてね。お友達が近くで見たいのですって」
「光栄ですわ。是非ご一緒させてくださいませ」
私はシュザンヌ様とシュザンヌ様のご友人にテーブルに移動した。
「本当にあの子の鈍感さには呆れるわ」
「エリーザ、ほんとうよね。毎回、絡まれているのは、フェリシアが殿方にモテているからなのに」
「ランドール伯爵のご令嬢、お見合いにまた失敗したらしいわよ。しかもお見合い相手が、フェリシアに釣り書きを送っていると言ったらしいわ」
「なるほどね、あとアリーサ様も19歳で、結婚相手が見つからないから焦っているのよ」
「あの方はプライドが高くて、高位貴族ばかり狙っていらっしゃるし、本命はおそらく・・・・」
シュザンヌ様のテーブルで、生地の売り込みをしている親友を見ながらリリアンヌと話を続ける。
「だけどフェリシアにも困ったものだわ。自分は平凡だと思い込んでいるから余計に厄介なのよ」
「ロックフェルト侯爵家の家内を取り仕切り、社交上手でおまけに美人、アプローチに気づかず振られた殿方は、数知れずなのにね」
親友たちがそんな話をしているとは知らない私は、シュザンヌ様たち社交界の重鎮に、せっせと新たらしい生地の売り込みをしていた。
皆様から色よいお返事をいただきホクホクで家路についた。
「おかえりなさいませ」
執事のセバスチャンが、私を出向かえてくれた。
「セバスチャン、留守中変わりはなかった」
「はい、つつがなく」
「お姉様はどちらにいらっしゃるのかしら?」
「書斎におられます」
「では、このままいくわ」
「お姉様、フェリシアです」
「お入りなさい」
「ありがとうございます」
ソファーに座ると、姉のシャルロッテも書斎机から移動して、わたくしの目の前に座った。
「今日のお茶会無事に終わったようね」
長女のシャルロッテ、24歳独身の女侯爵だ。
金髪を後ろで括り、女性の中では175センチと背が高めなので、軍服がとても似合う男装の麗人だ。
我がロックフェルト侯爵領は、海に面した土地柄を活かし貿易業で財を成している。
他国からの商船も入港するため、近海に海賊が出没しやすく、海軍で取り締まりを厳しくしている。
だから姉は海軍を率いて海賊を討伐していくため、姉に出会ったら必ず討伐されると海賊どもから「女死神」と呼ばれ恐れられている。
ただおめーたちが、弱いだけではないか!!
それなのに自慢の姉を女死神などどういう輩はほんとうに許せない。
姉は血が滲む努力を重ね、海軍からも信頼を得て今がある。
「えぇ、ジャクリーンが仕入れてきた、アッテン帝国の新たらしい生地はとても注目されました」
「くすっ、いい広告塔だ」
「お姉様、わたくしはジャクリーンと違って平凡ですから、広告塔にはなりません」
「私はお茶会とか苦手だから、フェリシアには本当に助けてもらっている」
「皆さま、お姉様に会えなくて残念がっていましたのよ」
姉はこの言葉には肩をすくめるだけだ。
姉には熱狂的なファンが多い。
紳士顔負けにスマートに女性をエスコートするし、腕っぷしも強いから、絡まれていた女性を助けたことも数知れず。
崇拝者からはシャル様と呼ばれているのだ。
だからといっていつも男装ばかりしていない。
王宮のパーティーでは、ドレスを着こなし、優雅にダンスもこなす女侯爵だ。
2年前の王宮パーティーではドレスで持っている鉄扇を使って、襲ってきた侵入者を撃退、捕獲しているからさらに人気がでたのだ。
ただ自分の婚約者や嫁が、姉をチヤホヤするのが気に入らない弱っちい男どもは、男女だから嫁の貰い手がないのだ、24歳にもなって結婚できないのは、何か本人に欠陥があるのだと陰で言っている。
あまりにもひどい噂を流す奴らには、私からこっそりと報復をしているが・・・。
ナッカリア王国の女性は、大体22歳までには結婚する。
貴族で20歳にもなって婚約者もいないとなると何か本人に欠陥があるか、家に問題があるとされるため、女性は良縁を求めて必死だ。
もちろん社交界で家に問題があると言われないために、家族も必死に探す。
そんな中、我が家3姉妹は誰にも婚約者がいないのだ。
しかも姉は24歳、私は22歳、妹のジャックリーンは20歳。
完全に行き遅れと言われる部類に入っている。
「お姉様、侯爵家が落ち着きましたから、そろそろ伴侶探しを真剣にしませんか?」
「後継者はフェリシアが産んでくれれば解決するけれどな。実際、お見合いの話はたくさんきているのだよ」