第1話
「まぁ、フェリシア様。今日のドレスの生地は個性がありますこと。今日のお茶会、とても目立っておりましてよ」
でたな、嫌味ばばぁ、どうせ婚活のためにとうとう気が狂ったかと言いたいのだろう。
私が着ている黄緑色のドレスは、この国ではあまり見ない光沢の糸が少し混ざった生地だ。
シルクではあるらしいのだが、このドレスの生地はまだこの国にはない布なのだ。
そして今、私は侯爵家のお茶会に参加している。
光沢だけの生地だとお茶会では派手過ぎるため、控えめな生地のドレスだけれど、太陽の光で光沢の糸の部分が反射しているから、喜んでばばぁは言いにきたのだろう。
私、フェリシア・ロックフェルトは侯爵家の次女だ。
赤毛に近いブラウンの髪で、美人な姉と妹と比べると平凡な女であるが、スタイルはいいほうだと思う。
仕方ないが、ばばぁを撃退しなくては!!
「さすが、ナターリア様ですわ。いまアッテン大帝国で流行しているこの生地をご存じなんて。わたしくしは妹に聞くまで知りませんでしたのよ」
「アッテン大帝国?」
ばばぁが呟きながらも、しまったというような顔をした。
ふん、気づいても遅いんだよ。
アッテン大帝国は我らの国ナッカリア王国の隣にあるこの大陸一番の国だ。
「アッテン帝国のサラディナーサ女王陛下が、とても好んでいる生地で作られたものですの。皆がこぞって取り入れているそうですわ」
ばばぁは、アッテン帝国の女王陛下の名前を聞いて、顔が引きつりかけている。
「おほほほ、わたしくしもそうだと思ったのだけれど、実際に見たことがない生地なので、確認してしまいましたわ」
「ご主人のランドール伯は外務大臣。アッテン大帝国にも仕事でよくいかれていますから、さすが情報通ですわ」
「そうね、わたくしも主人の足手まといにはなりたくないので、情報はしっかり集めていますのよ」
「内助の功、素敵ですわ」
ランドール伯は年中、国外を飛び回ってほとんど家にいない。
ばばぁが嫌いで自ら志願しているともっぱらの噂だ。
情勢が悪いと見たばばぁは退散していった。
「貿易業が盛んなロックフェルトですからできることですわね。国外の流行を我々に発信してくださるなんて、とても参考になりますわ」
今度は嫌味令嬢か。ため息をつきたくなる、今日はついていない日だ。
嫌味令嬢は、なぜか私を目の敵にして、会うと必ずからんでくる。
「お褒めに預かり光栄ですわ。この生地は今日のように少し暑くなった日でも、涼しく過ごせる特殊素材が織り込まれていて、快適に過ごせていますのよ」
おめーは、汗っかきで脇汗とかひどいからな。
化粧も落ちそうになると、お花摘みに頻繁にいくしな。
私の当て擦りに気づいたようで、扇子を持つ手をぎゅっと握りしめて耐えているようだ。
「そうなのですね。これから我が国でも流行しそうな生地ですこと。しかしあまりにも目立つことをされているのでてっきり婚約者探しをされているものとばかり・・・・」
私はおめーとは違うんだよ。一緒にすんな。
「まぁ、アリーサ様。ご心配頂いたようで申し訳ございません。お話はいただくのですが、家を継ぐ姉が先だと思っておりますので大丈夫ですわ」
私は嫌味令嬢に微笑み返す。
言葉に詰まった嫌味令嬢は、取り巻きが呼びに来たことを理由に去っていった。
結局おめぇーは取り巻きに助けられて、何してんだよ。
いい加減、私に突っかかってくるのをやめてくれないかなぁー。
「相変わらず見事な撃退ね」
クスクス笑いながら、親友のエリーザが私に近寄ってきた。
エリーザ・アルファード伯爵夫人だ。
同じ年なのだが、女の色気が漂う美人である。
男性に色目を使ってと一部の奥方たちが影で言っているが、本人は全然色目など使っていなくて、性格もさっぱりしているから、すごく付き合いやすい。
「エリーザ、見ていたのなら加勢しなさいよ」
「しなくてもあっさり撃退するのに?」
エリーザと一緒に空いているテーブル席に移動してお茶をしていると、もう一人の友人リリアンヌもやってきた。
リリアンヌはエリーザとは逆で、ふんわり系の美人で控えめだが、気弱な女性ではない。
リリアンヌは、マッコーリ侯爵家の嫡男に嫁いでいる。今日のお茶会の主催者家ある。
「今日の主催者が、抜けてきていいのかしら?」
お茶を飲みながら私はリリアンヌに尋ねる。
「お義母様が休憩していいと言ってくれたのでね」
「シュザンヌ様は本当に素敵な方よねぇー」
「えぇ、わたくしは旦那様も、旦那様の家族にも恵まれているわ」
「ご馳走様」
エリーザ、リリアンヌとは幼少時代から気が合う大親友だ。
2人はすでに結婚していて、エリーザは一児の母だ。
「リリアンヌ、もしかして・・・・」
エリーザがリリアンヌのお腹辺りに目線を落としている。
「えぇ、つい最近わかったの」
リリアンヌは嬉しそうにはにかんでいる。
「おめでとう。だから今日の衣装はゆったり目なのね」
私はリリアンヌにお祝いを言った。
しかしエリーザ、目ざとい。私は全然気づかなかった。
「フェリシア、わたくしは一児の母よ。経験者だからわかることよ」
エリーザは私が気づかなくて、落ち込んでいるのが解ったのかフォローしてきた。
「フェリシアが着ているドレスの生地、真夏でも涼しく過ごせるのでしょう。だからマタニティードレス作れるかしら」
「リリアンヌ、大丈夫よ。ジャックリーンがたくさん仕入れてきているから、侯爵家に持っていくように言っておくわ」
「ありがとう、これで真夏も乗り切れそうだわ」
「フェリシア、わたくしもよ」
「エリーザ、もちろんよ、安心してちょうだい」